2019年1月13日
独言居士の戯言(第78号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
新しい「元号」へ代替わり、主体的な改革に向けた取り組みを
新しい年を迎え、新年会や旗開きなど恒例の行事が続く今日この頃である。
今年は平成天皇が退位され、5月1日からは新天皇の下で新元号へと移行する代替わりの年である。新元号は4月1日には明らかにするとの事だが、右寄りの政治勢力のなかには、新元号を1カ月前に明らかにすることへの抵抗があったようだ。だが、1か月前でも新元号の切り替えに伴う公的な作業はなかなか大変なようで、どこかの新聞の記事にあったが硬貨の改鋳も、新元号に間に合わせるには1か月を超えてしまうとのことだ。
改元に伴う事務的な作業とは別に、新しい元号に切り替わることによる時代の雰囲気が大きく転換するのではないか、と思ったりする。もっとも、それは個人的な願望に過ぎないのかもしれない。これから先の日本の政治・経済・社会が抱える課題は、新元号になったからと言って大きく変わるものではないわけで、主体的に改革に向けて取り組む以外には時代の流れは変えることは出来ないのは当り前であろう。
厚生労働省の「毎月勤労統計」の不適切調査問題をどう見るか
さて、厚生労働省の所管する「毎月勤労統計」の不適切調査問題が、大きな政治的問題として浮上してきた。事の発端は昨年12月に内閣府の関係者から「不適切な調査だった可能性がある」との連絡が厚労省にあり、調査した結果が11日に記者会見で明らかにされた。
その内容は、「毎月勤労統計」は本来従業員500人以上の事業所は全数調査する事になっていたのに、許可を売ることなく勝手に2004年から東京都事業所分は3分の1抽出調査に切り替え、それが昨年1月から抽出分を3倍にして補正したというもののようだ。誰が、どんな理由で「抽出」したり「補正」し始めたのかについては「調査中」を繰り返すばかりだったようだ。
この「毎月勤労統計」は、雇用や賃金の実態を示す極めて重要な調査であり、今から50年前に私が最初に就職した鉄鋼労連の調査部に勤務していた当時、速報値を求めて当時は今の気象庁にあった労働省の事務所に出向いて転記したことを懐かしく思い出す。
この統計データ「補正」も労働省官僚による「忖度」があったのか
問題は、安倍政権が賃上げを経済界に要請して来たわけで、賃上げの成果があったように見せる為、昨年1月から「補正」し始めたのではないか、という疑いが持たれてくる。まさに高級官僚による「忖度」が、統計データの「修正」にまで持ち込まれてきたと野党側は強く疑いを持つわけで、当然のことながら通常国会が始まれば、この問題についての厳しい追及が待ち受ける事は必至だ。誰が、何故、何時から「補正」し始めたのか、ことは重大な問題になることは間違いない。ましてや、過去の「抽出」調査による低いデータで雇用保険や労災保険などの支給金額の基礎となっているわけで、過少給付だった人は延べ約1973万人、過少給付額は約567億5千万円にも達するという。しかも、これらの給付を受けた人にどのように過少給付額を補填していくのか、気の遠くなるような作業が待ち受けている。
甦る2007年参議院選挙の惨敗、「年金記録問題」の忌まわしい記憶
この問題の全貌はまだ不確定だが、今から12年前の参議院選挙を前にした2007年、「年金記録問題」が記憶によみがえってくる。持ち主不明の記録が5千万件超に上り、解明されたのは3212万件、年金額増額につながったのは少なくとも383万人、増加額は約2.7兆円と推計されている。第一次安倍政権を直撃し、09年の政権交代のきっかけにもなったとも指摘されている。野党側は、もちろん安倍政権を攻撃すべく待ち構えているし、与党側も統一自治体選挙と参議院選挙を控えているだけに、厚生労働省の杜撰さに対する厳しい姿勢に転じ始めている。
もう一つの視点、「総定員法」による厚労省の深刻な労働力不足
今後どのように展開していくのか、予断を許さないわけだが、それにしても、最近の厚生労働省がらみの統計だけでなく、国会に提出する資料に関する間違ったデータが実に多く出ている事に注目する必要があると思う。それは、国家公務員の定員が「総定員法」に縛られ、時代と共に仕事が増大する省庁と減少していく省庁が出てきているわけで、「不足」する省庁の典型が厚生労働省で「過剰」なのが経済産業省だと言われている。もちろん、総務省による定員管理も進められているわけだが、どうしてもこうした過不足は完全には埋めることなく行政は進められるわけだ。
公務の非正規労働者には適用されない「パート労働法」の諸権利
厚労省のハローワークなどでは、職員全体の6割が非正規労働者によって担われていると今から10年近く前に聞いたことがある。しかも、この非正規労働者に対しては「パート労働法」の適用外なのであり、労働者としての権利が著しく弱いのだ。おそらく、統計事務に従事している労働者の多くも、こうした非正規労働者によって多くの仕事が担われつつあると思われるだけに、「総定員法」のあり方にまで突っ込んだ問題の究明・指摘を強く求めたいものだ。その際、定員が余り始めたために、他の省庁の領域にまで新自由主義路線に基づいて越境する経済産業省の様々な弊害にも是非とも触れて行くべきだ。
今年の参議院選挙の行方は野党共闘の成否にかかっているのだが
次は、何度も触れたように今年はいのしし年であり、統一自治体選挙(4月)と参議院選挙(7月)が行われるわけで、自民党が参議院選挙で苦戦することが予想されている。ただ、今の野党の状況からすれば、今度の参議院選挙で野党側が勝利する事はなかなか難しいと見ている。というのも、野党第1党であった民進党が大きく分裂し、立憲民主党、国民民主党、無所属の会と3つに分かれてきた。同じ民進党から分かれたわけで、やがて共通の敵である自民党安倍政権に対峙していくためには統一して闘うのではないか、と思う国民は多い。だが、やはり党が分裂してみると、共同して闘う態勢にはなかなか辿りつき難いようだ。それでも、参議院選挙区のうち全国32ある1人区で野党側の統一候補の擁立に向けた動きは進められているようで、立憲民主党の方もこの点では歩み寄りが見られるようだ。なんとか、参議院選挙での野党側の善戦を期待したいものだ。
『文芸春秋』『週刊エコノミスト』にも小沢一郎氏が登場へ??!!
そうしたなかで、再び野党の結束の論陣を張っているのが小沢一郎自由党共同代表である。『文芸春秋』新年号の特集「平成30年史 全証言」の冒頭で「『政権交代』をもう一度実現するために」と題してインタビューに応じている。さらに、『週刊エコノミスト』の1月15日号の特集「平成経済30年史」のインタビューにも、「議会制民主主義の『過渡期』再び野党結集、政権交代目指す」と題して発言している。この二つのインタビューの中で、平成という時代について「戦後から次の時代への転換期であり、揺籃期」(『文芸春秋』249p)「・・自民党中心の政権から、真に日本に議会制民主主義が定着していくまでの大きな過渡期・・」(『エコノミスト』80p)とかなり長期のスパンで政治の流れを捉えている。政権交代ができたのは、小選挙区制のお蔭であり、今でも野党が結集すれば安倍政権を倒すことは可能だと、相変わらず強調している。
民主党政権が短命だったのは「素人」政権だったとは????
問題は、2009年の民主党政権が短命に終わったことについて、「素人が政権に就いたのだから仕方がない。・・・マニフェスト(政権公約)を作るまでの僕の主張と、その中身が実行されていれば、今でも民主党政権は継続していたはずだ」と主張。マニフェストが実行できなかった理由もまた「ずぶの素人だから、役人に『そんなお金はない』とか『そんなことをしたら大変な事になる』と言われ、それに従ってしまった」からだと、相変わらず人を馬鹿にした主張を展開している。
マニフェスト財源、16.8兆円をどう捻出できたのか、無責任だ
果たして、財務大臣をされた藤井裕久氏は、大蔵官僚出身で細川政権の時にも大蔵大臣を経験されたわけで、その藤井さんですら「ずぶの素人」で「役人から騙されていた」という事になるわけだ。マニフェスト作成時において、16.8兆円もの財源を、無駄を省いて作り上げるという小沢氏の考え方があり、政権交代直後から「事業仕訳け」に取組んで無駄を省く作業を強力に展開したのだが、結果として1兆円にも及ばない額しか捻出できなかった。そうした努力をしている時、自分なら捻出できるという秘(政)策があるのであれば、民主党の幹事長としての的確なアドバイスをしてもらえれば、政権運営に困ることは無く、消費税の引き上げに着手することもなかったことは言うまでもない。
当時の民主党幹事長だった小沢一郎氏は、実質的には総理大臣以上の力を発揮し、飛ぶ鳥を落とす勢いであったことは言うまでもない。現に、民主党が最初の予算編成の財源問題に困っていた時、官邸に乗り込み揮発油税2.7兆円分の減税という公約を破棄されたではないか。16.8兆円の財源の在り処も示していただければ問題はなかったのだ。実に、無責任極まりないわけで、これでは再び政権交代を目指して小沢氏を信頼して行動を共にすべき者は出ないだろう。
消費税の引上げは「直間比率」是正のためというお粗末な理解
さらに『エコノミスト』誌では、細川政権時代の「国民福祉税」構想、民主党政権時代の「社会保障・税一体改革」による消費税の10%への引き上げについて問われ、直間比率の是正として消費税の引き上げと直接税(所得税・法人税など)減税を主張している。今思えば、小沢氏の言う消費税の引き上げは、直間比率の是正のためだったわけで、深刻な財源難に直面している社会保障などの維持・充実の為ではなく、税制構成のあり方という全く的外れの論議を展開している。最近よく消費税の引き上げ分が、法人税や所得税の軽減にまわっている、と批判されているが、まさに小沢氏はそのことを進めようとしてきたわけだ。社会的な貧困や格差の問題を重視するかのような姿勢を示しているが、実はそのことをどれだけ本気になって進めようとしたのか、この点だけ見ても怪しいのだ。
小沢氏は、自分の行動・言動の一貫性の無さを先ず反省すべきでは
さらに、小沢氏が社会保障・税一体改革関連法に反対し民主党から除名されたことに関して、菅直人総理が「役人に騙され」、野田佳彦総理は「自民党に騙され」墓穴を掘ってしまったと批判しているだけで、政権政党である民主党がまとまらなければならない時に分裂して出ていった事には、何も触れていない。こうして過去の自分の取ってきた政治行動に対する反省がない中で、今の時点で「野党が一致団結すれば政権交代ができる」と訴えられても、「そうですね」といって簡単に同意するわけにはいかない。
さらに、1999年自由党時代に自民党との連立に参加した事の反省(典型的な騙された事例では?)を『文芸春秋』誌上では述べているが、2007年の福田内閣の時代に自民党との大連立に参加しようとして、民主党内の大反対に遭ったこと等は全く触れていない。自民党に騙されたとか役人に騙されたと口汚く罵るが、自分の犯した政治判断の誤りにはまったく口を閉ざしている姿を見るにつけ、これでは誰もまともに相手にしないのではないか、と思えてならない。
無所属の会、立憲民主党会派への合流、野田元総理は独自の道
最後に政局の展開に関連して、無所属の会から岡田克也元外務大臣らが立憲民主党の会派に参加することを決めたと報ぜられている。かつて、この動きが出始めた時、野田元総理も参加されるのではないか、と噂されていたが、どうやら野田元総理は会派への参加はしないとのことだ。この「通信」で、もし野田元総理が参加されるのであれば、立憲民主党が今年10月に予定されている消費税の10%への引き上げに反対しているわけで、果たして整合性が採れるのだろうか、と問題視していた。やはり、野田元総理は筋を通されたわけで、正直ほっとしたというのが私の感想である。野田元総理には、引き続き筋を通して頑張って欲しいと思う。