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労福協 活動レポート

2019年1月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第79号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

大きく変貌しつつある沖縄、基地経済依存からの脱却は進むのか

先週13日から16日まで、1年ぶりに沖縄に旅行した。札幌の気温は氷点下、那覇の気温は20度を超しており、同じ日本でありながら亜熱帯と亜寒帯の差を痛感させられた4日間だった。宿泊した那覇市内でも国際通りでは外国人観光客が多くみられ、北は北海道から南は沖縄まで、今や外国人観光客で以て地域経済がかなり潤っている事を痛感させてくれる。もっとも、沖縄は出生率が1.9前後と日本で一番高く、その分人口も増えており那覇市内で見る限り活気にあふれた賑わいをみせていた。札幌の狸小路の賑わいとは、比べ物にならない程だと感じた次第である。

基地経済からの脱却はかなり進んでいるようで、観光を中心にこれからの経済発展も期待できそうな雰囲気が漂っていた。辺野古の基地建設についての県民投票が大きな問題になっているが、宜野湾市や沖縄市など保守系の5つの市では県民投票に参加しない方針を打ち出している。その動きを裏で煽動してきた自民党衆議院議員がいたようだが、各自治体に対する様々な圧力が官邸や総務省あたりから加えられていなかったのかどうか、しっかりと調査していく必要がありそうだ。それにしても、地方自治に対する露骨な介入には激しい怒りを覚えたことは間違いない。

沖縄の地方自治への露骨な介入、「琉球独立」論の台頭が脳裏をかすめる

さらに、安倍総理は辺野古への土地の埋め立てに際して、埋め立て地となる海域からサンゴを土砂搬入前に保護していたという「ウソ」の発言をするなど、沖縄に対する自民党政権の強引な新基地建設のやり方には目に余るものがある。沖縄の歴史を振り返る時、第二次世界大戦末期には、沖縄を本土防衛の「盾」に犠牲を強いたことを絶対に忘れてはなるまい。首里城跡を見学する機会があったが、展示されていた資料によって琉球王朝の歴史を振り返る時、中国との関係の深さにも注目せざるを得なかった。今後の北東アジアの外交関係は、おそらく中国の存在がますます大きくなるだけに、沖縄に対する日本政府の対応も余程注意してかからなければ「琉球独立」論が出ないとも限らない。

今年の北東アジア情勢、朝鮮半島情勢が気になる昨今の動き

北東アジアの動きを考える時、朝鮮半島の動きにも注目せざるを得なくなりつつある。それは、米朝の2回目の首脳会談が来月末に開催される事だけではない。アメリカのトランプ大統領は、韓国から軍事基地を撤退する動きを示し始めていることも大変気になる点である。こうした北東アジアの最新の動きを絶えずフォローされている元外交官佐藤優氏は、『週刊東洋経済』1月26日号の「知の技法出世の作法」という第566回目のコラム「金正恩党委員長の『新年の辞』を読み解く」に於いて、金正恩氏が来月末に実施するトランプ大統領との会談では「いろいろ取り繕うであろうが、トランプ氏は金正恩氏の提示した条件を飲むことになる。これによって、朝鮮半島における戦争の可能性がなくなる。その結果、韓国からの米軍撤退というシナリオが現実的になる。現在、北緯38度の軍事境界線がなくなり、対馬海峡で日本と韓国・北朝鮮・中国の3国連合とが対峙するような勢力均衡図の変化が起きる」(70~71ページ)と、事態の推移を予測している。

「三一独立運動」から100年、半日ナショナリズム台頭の危険性

その際、北朝鮮と韓国は関係改善にも熱心に取り組もうとしている事を取り上げ、今年の3月1日に注目すべきだと指摘する。1919年3月1日の「三一独立運動」から100年という節目の年にあたり、昨年8月14日韓国の文在寅大統領は韓国/朝鮮ナショナリズムを最大限あおることで自らの権力基盤を強化しようとしていると見ている。今年の3月1日に韓国と北朝鮮が「三一独立運動を記念する共同行事」を行う可能性にも言及し「韓国人と朝鮮人の反日ナショナリズムが強まり、不測の事態に発展しかねない」と懸念している。

最近起こった日本と韓国の間の外交案件は、元徴用工をめぐる判決や自衛隊機へのレーダー照射事件が今も係争中であり、佐藤優氏が懸念する不測の事態が起きないとも限らないわけで、今から3月1日に向けてどれだけの対応ができるのか、政府にも機械的な反発ではなく、朝鮮半島の動きに十分配慮した積極外交を展開するよう求めていくべきだ。

デービット・アトキンソン著『日本人の勝算』を読んでの感想

さて、日本経済の問題に移りたい。今年になって東洋経済新報社から刊行された『日本人の勝算』をキンドル版で一読した。著者はデービッド・アトキンソン氏で、かつてはゴールドマン・サックスにいて日本のバブル崩壊後の金融危機の分析に辣腕を振るわれ、小生などは氏の日本の金融危機分析を大いに学ばせていただいたことを思い出す。いまは小西美術工芸社という日本の文化財関係会社の社長をされ、日本経済に対する執筆・提言活動を積極的に進められている。

今時点で詳しく書評を展開するだけの読み込みは出来ていないが、一読した限り大変興味深い結論になっていることだけは確かであり、多くの方に読んでほしい一冊である。ちょっと驚いたのは、この本で参考文献として引用されているのはすべて日本人以外の外国の文献であるという点である。つまり、海外エコノミストの知見をフル活用されているのだ。

日本経済の深刻な課題、「労働分配率」の低下克服へ永遠の賃上げを

この『日本人の勝算』発刊に関連して「東洋経済オンライン」誌上でアトキンソン氏の連載が始まっており、第1回は1月11日号で「『永遠の賃上げ』が最強の経済政策である理由」と題して、「毎年5%アップを強制する」政策の必要性を提起している。次いで第2回は18日号で「人手不足は『労働条件が酷い』会社の泣き言だ」と題して、移民受け入れの前に「賃上げ」を断行せよ、と強調している。

この2回の表題だけを読んでも、著者であるアトキンソン氏の主張は明確で、日本経済を成長させるためには「賃金を永遠に上げ続ける」しかない、ということに尽きている。それは、人口が減少し続け、高齢化が進展する日本にとって、その影響が深刻化するのは正にこれからであり、人口が増加を前提とする経済プログラムを人口減少社に適応させていく政策に転換させなければならない事を主張する。「人口が減るということは、消費者という需要者が減ることを意味し」「需要が減れば、物もサービスも需要と供給のバランスが崩れ、供給過多」になると主張。さらに、世界一のスピードで高齢化が進展するわけだが、高齢化は「需要」を削減することも指摘する。

ちなみに、日銀の量的緩和金融政策については、「人口が増加し、若い世代が多い経済でないと、量的緩和では需要が喚起されづらく、効果が出づらい」ことも指摘している。

「供給サイド」ではなく「需要サイド」からの分析に好感

かくして、経済を成長させるためにはGDPの半数以上を占めている個人消費を刺激する必要があり、今後数十年にわたって人口が減ることに対応して消費を刺激するには一人一人の賃金を引き上げるしかない事を主張する。アトキンソン氏は、「日本経済をデフレに陥れ、抜け出せなくしている最大の要因が、給料の低下であると分析」し「要するに、『労働分配率の低下』がもたらした不況」だったと見ている。経済を見る視点として、今まで主流派経済学のように「供給サイド」ではなく、「需要サイド」からの分析を進めている事には納得できる。

もちろん、経済の専門家であるアトキンソン氏は、経済成長にとって人口の伸びとともに資本の伸び、さらには全要素生産性の伸びが合計されたものであることは当然で、氏はそれを2つの要因に整理している。1つは人口増加要因であり、もう1つは生産性向上要因としている。おそらく、全要素生産性と資本の伸びを一体のものとして捉えているのだろう。現に、『週刊東洋経済』1月19日号でのインタビュー記事では「全要素生産性」の重要性について指摘されている(26頁)。そして、生産性の伸びは所得の伸びと強い相関関係にあり、「生産性が上がれば、給料も上がるのが道理」であり、逆に考えて「所得が増えなければ、生産性は継続的に上がらないはず」だと見ているわけだ。

賃上げは「法定最低賃金」を毎年4~6%継続して引上げを

では結論的にどうやって賃上げを実行すべきなのか、「最低賃金を上げ続けなければならない」と述べている。その引上げは毎年4~6%を継続して引上げ、目標としては時間当たり1,000円では低すぎることを主張している。それは、将来の社会保障財源を生み出すためにはもっと高くなければならない事を強く主張し、少子高齢社会の問題も解決されると見ている。

「セイの法則」「販路法則」ではなく「合成の誤謬」論を展開すべきでは

この間の提起について、ここで一つ問題点ではないかと思う点を指摘したい。

先ほどの、生産性と所得の関係について、「セイの法則」への批判が指摘される必要があるのではないか、と思うのだがどうだろう。「セイの法則」では「供給」サイドの強化があれば、「需要」サイドはついてくる(いわゆる「販路法則」)のではなく、労働者の賃金水準を下げ過ぎれば「合成の誤謬」によって需要が落ち込み、供給過多となって経済は停滞する事を指摘する必要があるように思われる。アトキンソン氏が「労働分配率」の低下が今の日本で景気の停滞をもたらしている事を指摘されているのは、そのことを意識されているのかもしれないが、私には、その点を補強しておく必要があると思えてならない。

最低賃金の引き上げは、雇用の削減にはならないと海外エコノミストの分析を紹介、
企業はその賃銀で経営できなければ退出を!!!

こうして、最低賃金の引き上げが日本経済を回復させていくための不可欠な政策だと主張され。もちろん、最低賃金を大きく引き上げる事への反論や抵抗が出ることは十分に予測される。経済学者のなかでは、最低賃金の引き上げは「雇用を減らす」というものや、中小企業にとっては、とても仕事を継続できない、という点を挙げて反論されている。雇用を減らすという点については、最近の研究では、むしろ失業率を改善させることに繋がっており、批判は当たらないこと。中小企業の批判に対しては、日本のような優秀な人材を低い賃金でしか雇えないような企業は撤退すべきであり、企業合併を促進していくことを主張している。つまり、法定最低賃金を上げることによって企業経営者に生産性の引き上げへの努力と工夫を求め、それに対応できない企業には退出を求めるという、実に厳しい政策を求めているのだ。

まだまだ論点は尽きないが、これからも引き続きアトキンソン氏の主張には注目していきたいと思う。


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