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労福協 活動レポート

2019年3月11日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第86号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

8年目の「3・11」東日本大震災、その後の日本列島は震災続きへ

今日3月11日は、あの東日本大震災から8年目、日本の経済・社会を激しく襲った大災害であり、東京電力福島第一原発の過酷事故の傷跡は依然として大きな爪痕を残し続けている。この震災以降、九州熊本や北海道胆振東部地震など日本列島は、災害列島と化して日本各地に大きな被害を拡げている。私の住む北海道では、全電力が停止するブラックアウトにまで至ってしまい、ただでさえ脆弱な経済が大きく傷ついてしまった。

日本政府が言う「30年以内に南海トラフ(海溝)で巨大地震が発生する確率が80%」について、地震学者ロバート・ゲラー東京大学名誉教授は今年2月13日日本外国特派員協において、「神話」だと批判されている。特に、NHKがその事を誇張してきたことを強く批判される。今は、何時、何処でも地震(だけでなく様々な災害)が発生してもおかしくないだけに、発生後の万全な対策に力を注ぐ時だと思う。とくに、人口減少が進む地域にとって、隣近所の付き合いを深めておくことの重要性を痛感する。

「災害は、忘れたころにやってくる」から「忘れる前にやってくる」へと変わったと思う今日この頃である。

米中経済摩擦の激化の下、日本経済は不況局面へと押しやられる

日本経済の動きが気になる。政府は1月の景気判断を行い、2012年12月から続いた74か月に及ぶ好況が持続したとして「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月の73か月)を超え、戦後最長を記録したと豪語していた。だが、こうした政府の発表に対して、景気が国民生活の向上には結びついておらず、一部輸出中心の大企業や、株価上昇の恩典に浴した富裕層だけの為のものになっている、という批判が根強くある。ましてや、経済統計に対する不信感が増大しているだけに、そうした経済に対する付加価値の分配面からする厳しい見方を取るエコノミストも増え始めてきている。「企業ファースト」から「家計ファースト」へ、「供給サイド」から「需要サイド」へ政策を転換していくべきだという主張である。

鉱工業生産指数の落ち込み、特に自動車、電機通信など急落へ

政府が戦後最長の好況持続と発言したものの、最近の経済の動きは明らかに落ち込みを示し始めてきており、日本経済は好況から不況へと転換したのではないか、と見る必要がありそうだ。1月の鉱工業生産指数は前月比マイナス3.7%低下で、これで3か月連続して前月比を下回ってしまった。マイナスの寄与度が大きいのは自動車、電機・情報通信機器、生産用機械など、日本のモノづくりの基幹産業ばかりが並んでいる。経産省は、2月はプラス5.0%で3月はマイナス1.6%と予測しており、この数値を機械的に計算しても足元の1~3月期の生産指数は前期比マイナス1.4%となる。経験的にGDPも同じくらいマイナスになる公算が大と見ていい。3月7日、内閣府の1月の景気動向指数は、景気の現状を示すCI一致指数が97.9と2013年6月以来の低水準となった。それを受けて内閣府は基調判断を「足踏み」から「下方への局面変化」に下方修正している。おそらく、景気は落ち込み始めたことは間違いないようだ。

生産の落ち込みの背景、中国向け輸出の大きな落ち込みが原因

この生産の落ち込みは、1月の輸出不振をそのまま反映していると見ていい。1月の輸出額は5.5兆円で前年同期比マイナス8.4%であった。特に中国向けの輸出額はマイナス17.4%、アジア全体でも13.1%のマイナスとなり、ハイテク関連を中心に総崩れとなっている。2018年の日本の輸出に占めるアメリカと中国の割合は、それぞれ19.0%,19.5%とほぼ同じだが、中国の影響を受けやすい香港、台湾、シンガポール、韓国を併せると20.7%で、実質的に中国の占める割合は40%近くにまで達している。その中国経済が、設備投資主導の高度成長から内需中心の安定した成長軌道にどのように転換していけるのか、不動産バブルの後遺症をどのように回復していけるのか、その行方は未だ定かではない。

輸出主導型の経済から、内需主導型の経済への転換が必要では

今回の日本の景気停滞は、中国の落ち込みの影響を強く受けているわけで、今全人代で論議されている今後の中国経済の動きと米中経済摩擦の動きがどう展開していくのか、日本経済の動向は米中経済大国の経済政策に大きく翻弄され始めていると言えよう。もっとも、これまで「企業ファースト」で、輸出主導型の経済政策に偏重してきた日本が、「家計ファースト」の内需中心へと大きく転換していけば、米中衝突の影響を比較的軽微なものに抑えることは可能なのであり、日本の経済政策の大転換を進めて行くべき時なのだろう。

弁護士団の変更が、早速成果を上げたカルロス・ゴーン氏の保釈

3月6日、カルロス・ゴーン氏が保釈された。昨年11月に勾留されてから108日ぶりの事だ。被告人が罪を認めない場合、多くは証拠隠滅の恐れがあるとして保釈請求を却下し続けてきたこれまでの刑事司法の下で、しかも公判前整理手続きが終わらない前に保釈が出たことは画期的である。国際社会からの「人質司法」という批判があったことも、そうした保釈が実現した背景にはあったのかもしれない。

しかし今回の保釈を勝ち取れた大きな力になったのは、今までゴーン氏の主任弁護士であった大鶴弁護士ら元東京地検特捜部の検事出身者主導から、「無罪請負人」と評価された弘中淳一郎弁護士らに変更したことによるものだと見て良いのだろう。

この点について、検事出身の郷原信郎氏は「…大鶴弁護士は、特捜部側で無罪を主張する被告人の保釈を阻止した経験は豊富でも、全面否認事件の弁護士として検察と戦い、被告人の身柄釈放を勝ち取った経験は乏しかったのだろう」(『郷原信郎が斬る』「ゴーン氏保釈が、検察、日産、マスコミに与える”重大な影響”」3月7日より)と、ミスキャストな弁護士人選だったと厳しい。と同時に、今回の保釈実現には弘中氏と一緒に弁護士として加わった高野隆弁護士の力が大きかったのではないか、と見ておられる。というのも、高野弁護士は日本の「人質司法」の根本的な問題を指摘し、実際の刑事事件でその打破を目指してきた弁護士だという。検察側の裁判所に提出した保釈を認めない理由が、全く根拠がないことを徹底的に論証したに違いない、と想定されている。

これから始まる裁判に向けて、ゴーン陣営反撃の狼煙が始まる

いずれにせよ、制限付きとはいえゴーン被告が「娑婆」に出られたことの意義は大きい。これから弁護士との間で裁判を進めていく為に必要な打ち合わせも、十分な時間的余裕の下で出来るとともに、対外的な記者会見などにより検察側からの一方的なリークに対する反論も可能であろう。さらに、4月に予定されている日産の株主総会にも、裁判所の許可を得て出席することは出来る可能性もあるわけで、今後の裁判に与える影響は実に大きいものがある。今回の事件の背後に何があったのか、歴史の真実を語って欲しいものだ。

日産・ゴーン事件の政治的背景に迫るフィナンシャル・タイムス

前号に於いて、この日産・ゴーン事件の背後にある政治的な背景について、是非とも明確にしていく必要があることを指摘しておいた。その点について、日本経済新聞電子版3月5日号に「フィナンシャルタイムス」の記事として「安倍政権に仏政府の抑え役を求めた日産」と題してBy Leo Lewis,Kana Inagaki,Victor Mallet and David Keohaneの名前で4日付フィナンシャルタイムス電子版が掲載されている。以下、その重要と思われる個所をピックアップしたい。

事の始まりは、昨年2月にゴーン氏が「日産と仏ルノーの日仏連合を『後戻りできないもの』にすると宣言し、日本の関係者を驚愕(きょうがく)させた」時以降、「両者統合に抵抗する日産の幹部」はゴーン氏に対して「安倍晋三首相が彼らの立場を支持している事を伝え」「関係者によると、ゴーン氏は日産が安倍首相と菅義偉官房長官の『確固たる支持』を得ていると告げられた」と述べている。日本政府の立場を伝えると共に、「日産幹部は後に同氏の失脚につながる社内調査を極秘裏に並行して進め」ていたことも指摘している。さらに、「4月上旬に経済産業省の幹部が仏政府の担当者に手紙を送り、ルノーと日産の経営統合に関する報道について懸念を表明したことで、この問題が表面化した」とも指摘している。

ゴーン氏は通産省の介入の狙いを知りたがったようで「政府との折衝を担当する日産の川口均専務執行役員は、日産が経産省に『仏政府にブレーキをかける』手助けをしてくれるよう頼んだことを明かした」とされ、その後経産省と仏政府との間での「覚書」を作成している。その「覚書」について経産省の担当者は「ノーコメント」としながら「日本政府が日産とルノーの協議に介入したり、日産から支援を求められたりしたことはない」と語り、「日産はこの件についてはコメントを控えているが、事情を知る関係者は、同社から政府に『公的な支援の依頼』はしていない」とのことだ。

さらに、今年3月7日号の『週刊文春』のインタビューで、日産の西川社長兼CEOは「ゴーン氏の経営統合案に繰り返し反対を表明していたこと、そして抵抗を続けるなら解任すると9月に警告された」ことを明かしている。また、東京地検特捜部と司法取引をしたのは「ゴーン氏に日本政府の立場を説明した幹部の一人で,CEOオフィス担当だったハリ・ナダ専務執行役員」と断定している。最後に、日産側は「西川氏、川口氏、ナダ氏へのインタビューの依頼に応じず、不正の内部調査はルノーとの経営統合協議とは関係ないと述べている」ようだ。

これだけの材料が出ているわけで、国会での追及が急務では

これだけの固有名詞を取り上げてゴーン事件の政治的な背景について述べているわけで、野党側は是非とも国会で取り上げ解明をしていくべきだろう。さまざまな「覚え書き」だとか「経営統合案」などの存在も明記されており、解明していく材料は豊富にあるようだ。是非とも、早急に解明して欲しい。


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