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2019年3月18日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第87号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

FRBやECBは金融緩和へと舵を切る、さて日銀よどこへ行く

世界経済が暗転し始め、その影響は日本経済にも出始めたことにより、日銀の金融政策の行方についても色々な角度から問題が指摘され始めて来た。
先週末14~15日に開催された日銀の政策決定会合では、経済の現状について輸出は「足元では弱めの動きとなっている」、生産は「緩やかな増加基調にある」と輸出と生産については慎重な見方に変化したものの、経済全体の基調としては「所得と支出の好循環が続いて」おり「緩やかに回復している」という判断は変えていない。

ということで、引き続き金融緩和政策の維持を決めたわけだ。FRBやECBが金融正常化から緩和政策へと転換したなかで、日銀の動向が注目されたのだが、大きな政策転換には至らなかったようだ。だが、日本経済の取り巻く情勢は相当深刻であり、4月の会合でどのような追加方策を打ち出していくのか、注目が集まろうとしている。

もっとも、景気が落ち込む中で、日銀が更なる金融緩和策を打ち出そうにも、何をどのように打ち出すべきなのか、マイナス金利の深掘りなどが取りざたされているが、マイナス金利の弊害が指摘され始めているだけにどれだけの効果があるのか、それ自体が大きな問題になること必至だ。

黒田日銀6年の評価と今後、最新の河野龍太郎氏の分析を読む

黒田日銀総裁になり、異次元の金融緩和政策がとられて6年を経過しようとしている。そうした中で、黒田日銀の評価と今後のあるべき金融政策について、河野龍太郎BNPパリバ証券チーフエコノミストが、「Weekly Economic Report」(3月15日号)で論点を整理されている。

冒頭「黒田日銀の6年間の評価」について、「景気拡大の長期化に寄与した」という点では「ある程度評価」はしているものの、「完全雇用に到達した後も、極端な金融政策を長期化した結果、金融機関経営を相当困難にしただけでなく、資源配分や所得分配も歪め、むしろ潜在成長率や自然利子率を低下させた可能性がある」と厳しく批判している。

ある程度評価しているとされた「景気拡大の長期化」も、世界経済の拡大によるところが大きかったとも述べておられるわけで、率直に見て黒田日銀の金融政策に対しては、多くのエコノミストのなかでは一番厳しく見ておられる一人だろう。私自身、河野氏の指摘に納得的である。

円安と資産価格上昇、それで慢心し「完全雇用余剰」を放棄へ

特に、日銀のアグレッシブな金融緩和によって資産価格の上昇と円安をもたらしたものの、結果としてそれに「慢心」し「必要な構造改革の努力」が疎かになったこと。長期金利低下により、真の財政コストが見えなくなり、財政規律が弛緩した事。さらに、完全雇用の下で裁量的なマクロ安定化政策が繰り返された結果、潜在成長率や自然利子率の低下をもたらし、金融政策の有効性を低下させたこと。などなど、多くの本質的な問題点を鋭く指摘しておられる。特に、金融緩和政策自体が景気抑制的に作用し始めているのではないか、と緩和政策の長期化の弊害を厳しく指摘している。

何回金融緩和しても、輸出セクターの業績改善・設備投資増、
雇用者所得増・個人消費回復とならない現実を直視すべきだ

私自身がこの論文で痛感したことは、今進められている「低金利政策で円安誘導し、輸出セクターの業績改善や輸出数量の増加を促し、それを起点に、業績の改善した輸出セクターが設備投資を増やし、やがては雇用者所得の回復とともに個人消費が回復する」と政府当局側は主張して来たのだが、河野氏が指摘するように、何回同じことを進めても個人消費の回復につながっていないことだ。

本来、企業業績が回復すれば、市場金利が上昇し、円高が進み、それが家計の利子所得の増加につながり、輸入物価の下落を通じた実質購買力の改善をもたらすはずなのに、そうした流れを政策的に遮断する経済政策を取ったために個人消費が回復しないわけだ。

安倍政権の経済政策は、「企業ファースト」で「家計ファースト」になっていないのが現実だ

つまり、今の安倍政権の下で展開されている経済政策は、「企業ファースト」に基づくものでしかなく、「家計ファースト」になっていないということなのだ。需要サイドに問題があるのに、供給サイドばかり重視して問題の解決にはつながっていないのだ。

景気回復時こそ円高抑制ではなく円高メリットを還元できる社会へ

結論的に、完全雇用状態にある時、本来なら極端な金融政策などは手じまいを開始すべき時なのだと主張されている。ケインズ経済学からすれば、「完全雇用余剰」という考え方により、好況時には財政黒字を作り、不況期には財政支出をその黒字分を使ってでも、拡大すべきことは当然の事なのだ。さらに景気が回復している時こそ、円高を抑えるのではなく、円高のメリットを享受できる社会を創る必要があることも指摘されている。

白川元総裁『中央銀行』では、円安の「交易条件の悪化」の弊害を指摘されている

こうした指摘を考える時、白川元日銀総裁の指摘された日本経済の本当の問題を考えるべきだ、という問題指摘が頭に甦ってくる。それは、生産年齢人口が大きく減少していくことと、円安による「交易条件の悪化」が日本経済にもたらす影響の深刻さをどう回復していけるのか、という点であろう。白川元総裁は『中央銀行』の「第10章 日本経済の真の課題」のなかで次のように指摘されている。

「日本経済の直面する本質的な問題は、物価の緩やかな下落ではなく、当面労働人口が減少する中で、1人当たりの実質GDPが持続的に成長する経済をどのように実現するかということである」(333頁)

つまり、一番の課題は急速な高齢化と少子化という人口動態の変化であり、人口構成の変化が経済に与える影響が重要だと見ておられる。そうした変化と共に、「円安」がもたらす「交易条件の悪化」が、国際競争力の低下や物価高による家計支出の拡大を通じて徐々に日本経済を蝕んでいく事こそ本質的な問題だと指摘されている。

黒田総裁、そろそろ貨幣数量説やリフレ派の呪縛から脱却されては

デフレからの脱却を主張するのではなく、なぜ成長が低下しているのか、なぜ供給よりも需要が伸びて行かないのか、デフレは貨幣現象なのだからマネタリーベースを拡大すれば解決できるという貨幣数量説を適用すればよい、という「リフレ派」の主張の問題点を指摘されている。今こそ黒田日銀の進めてきた異次元の金融緩和を見直し、経済の動きには十分に注意しながら、転換していく時ではなかろうか。

マーチン・ウルフ氏「金融政策の限界 直視せよ」にも注目

こうした議論を考えている時、3月13日付フィナンシャル・タイムス紙にチーフ・エコノミクス・コメンテーターであるマーチン・ウルフ氏が「金融政策の限界 直視せよ」と題する論文を、14日付日本経済新聞に翻訳転載している。それ自身興味深い論点が多くあるのだが、結論としてサマーズ氏らが主張する「長期停滞論」が正しいとの見方と、これまでの金融政策では期待しただけの効果を上げられなかったという事実は、われわれが中央銀行に依存し過ぎるようになったことを裏付けており、それは長い目で見ると問題を悪化させるとして「必要なのは他の政策、今こそ財政政策から始めるべきだ」として、政府の公共投資と民間投資を組み合わせた「新たな発電システムへの大規模な投資」などを例に挙げている。直ちに日本に適用すべきかどうかは別にして、金融政策の限界は誰の目にも明らかになっている事は間違いない。6年前の異次元の金融緩和以降の日銀の金融政策の大転換を進めて行くべき時だ。

書評、明石順平著『データが語る日本財政の未来』(インターナショナル新書2月12日刊)

日本財政の過去・現在・未来の問題について、実に的確で分かりやすく分析した書を紹介したい。今年2月12日に発刊された『データが語る日本財政の未来』というインターナショナル新書である。著者は明石順平さんという1984年生まれの34歳、弁護士である。大学は都立大法学部、法政大学法科大学院を卒業して弁護士となり、主に労働事件や消費者被害事件を担当しておられる。経済学部ではなく、法律系の勉強をされていながら日本財政を分析されていることに興味が湧く。すでに同じインターナル新書として、『アベノミクスによろしく』を書いておられ、やはり経済・財政について客観的なデータを用いて問題を指摘している。

解りやすく、データも豊富で「流布する珍説」を撃破

この本の特徴は、第一に大変解りやすいという点である。何でも知ってるモノシリ生物モノシリンが、太郎君に解説するという対話形式を設定している。そして、世の中で流布している日本財政に関する「間違った説」、例えば「日本はたくさん資産があるから大丈夫」とか、「日本政府の借金の9割以上は日本人からのものだから大丈夫」「日本は世界最大の債権国だから大丈夫」さらには最近では「日本は財政破綻しない。日本財政が危機なんていうのはウソ。むしろ借金が足りない。どんどん借金して経済回復させろ」と言った主張を取り上げ、実に懇切丁寧なデータを駆使してそれらの間違いを指摘してくれているのだ。

第二に、使われているデータが実に解りやすく図表として掲載されており、日本財政がどんな理由で歴史的に悪化してきたのか、世界のなかではどんな位置を占めているのか、誰にでも理解できるように解説されている。それだけに、300ページ近い新書版ではあるが、経済や財政に関する専門的知識がなくても吸い込まれるように読み込むことができる解説書となっている。

アベノミクスの失敗を誤魔化す『ソノタノミクス』にも注目を

第三点目としては、アベノミクスの大失敗を指摘している(第4章)だけでなく、第5章で「アベノミクスの失敗をごまかす『ソノタノミクス』という項を設けて、GDP統計の計算方法の変更が2016年12月に実施され、その時以降、統計数値が「その他もろもろ」の項で嵩上げされている事を指摘する。「その他もろもろ」をもじって「ソノタノミクス」と称して分析する。ここだけは、解りやすいとは言えないが、GDPを大きく見せるための細工が施されているのではないか、と詳細な分析が実施されている。

今、国会で毎月勤労統計の問題が指摘されているのだが、このGDP統計の計算方法の変更についても同じ問題が潜んでいるのではないか、と明石氏は問題提起をしているのだ。この点は、内閣府の経済財政担当に対して国会の場で論戦をしてみるべき価値がある。野党側は、アベノミクスの数値のかさ上げ問題「第二弾」を打ち出していくべきだろう。

日本財政の絶望的な将来の見通し、事実を正しく直視しよう

こうした分析を進める中で、将来の日本の財政問題の展望を最終章で繰り広げている。日本の人口減少のすさまじさ、今までは世帯数の伸びが単身者の分だけ増加して辛うじてGDPを支えていたのだが、今後2023年をピークに世帯数は伸びなくなりグロスのGDPは落ち込むだけに、貯まりに貯まった累積赤字は増税や緊縮政策、経済成長、極端なインフレといった措置が必要になる。それらは遅れれば遅れるほど解決が難しくなるだけに、先送りすることなく財政再建を進める必要性を強調している。

とにかく、一読をしてみて欲しい。真正面から財政問題の過去・現在・未来の真実を語っている。


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