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2019年4月15日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第91号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

最近の世界経済は、どうやら先行きは危うくなってきたようだ

世界経済はリーマン・ショックから立ち直って以降やや10年、比較的安定的で順調な経済成長をしていた段階から、大きな転換期を迎え始めたようだ。やはり、その動きの中心は世界一の経済大国アメリカであり、第2位に躍り出た中国であることは間違いない。アメリカの経済をけん引するのが、第4次産業革命をリードしてきたGAFAといわれる巨大情報通信産業なのだが、注目すべきなのはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の進めた金融政策の動きである。昨年の秋ごろまでは、好調なアメリカ経済の下、雇用拡大も進む中でFRBは金利の引き上げを進めていたのだが、今年1月に入って景気判断を弱めてきた。

FRBが景気判断を弱めた背景、中国経済の悪化だけなのか

年度が代わって装いも新たになった『週刊エコノミスト』4月16日号の名物コラム「Global Money」において、「FRBが『景気判断を弱めた』ナゾを解く」と題してその背景を探っている。コラムを書くのは(南北)というペンネーム氏であり、おそらくは金融の専門家が、比較的制約なく自由な気持ちで書いているのだろう。南北氏は、FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)の議論を読んでFRBの景気認識が急速に悪化している事を指摘する。さらに、今年に入って3月22日には、長期国債と短期国債(3カ月)の金利が11年半ぶりに逆転した事を受け、景気判断が悪化し来年は金融緩和へと転換するのではないか、と市場関係者は見始めたという。

「南北」氏は、なぜ急に景気判断を弱めたのかについて、「FRBだけが知りうる景気に関する何らかの情報を得たのではないか」と述べ、疑心暗鬼に近い話として「中国の国有企業が抱えるドル建ての債務の多くが不良化している可能性」をあげている。貸し手の多くは米国の銀行であるわけで、そのせいか、銀行株が急落している事も指摘している。あるいは、「中国経済の実態が公表値より悪いことをFRBが知っている可能性」にも触れている。

「FRBが世界の中央銀行になつた」と捉える河野龍太郎氏

こうした中国経済の落ち込みを受け、FRBの政策スタンスを変更したことが世界経済にどのような影響を与えたのか、同じ『週刊エコノミスト』誌の特集「世界経済入門」で、著名な民間エコノミスト河野龍太郎氏は「Q FRBは世界経済を救うか」「A 『世界中央銀行』になったが利上げ停止では力不足」という「Q&A」形式の論文の中で、FRBが実施した金融緩和の効果について中国経済の減速が続く中では、少なくとも今年前半はグローバル経済の減速は続くと見ている。

ただ、FRBの利上げ中断によってグローバル経済に大量の資金が流入し、ドル建ての借り入れが増えている新興国を中心に、金融緩和の効果は広がっているようだ。こうした新興国は、17年末からFRBが利上げのペースを加速させるや経済が落ち込み、昨年末にはグローバル金融市場の大混乱を巻き起こし、FRBの金融政策が新興国の総需要を直接左右するようになった事を指摘し、「FRBは、文字通り『世界中央銀行』になった」とまで言い切っている。

FRBの金融緩和への転換は、グローバル金融市場のバブル化へ

しかしながら、FRBの金利水準はアメリカにとって適切ではあっても新興国にとっては高過ぎ、逆に新興国にとって適切な金利がアメリカにとっては低すぎる、という問題を持っていると指摘し、今進められている利上げの中断や金利引き下げが進めば、アメリカ経済の過熱化さえ心配されると見ている。その事が、結果として再び利上げとなってグローバルな金融市場に、昨年12月以上の大きな調整となって押し寄せるかもしれないと予想する。

あるいは、緩和された資金が資産市場に流れ込み、グローバル・バブルを引き起こす可能性にも言及する。また、アメリカ経済の成長が落ち込んでいき、雇用リストラにまで波及するケースも想定し、結果としてグローバル経済も景気後退を余儀なくされる事もあり得ると見ている。総じて、今回のFRBの金融引き締めのストップ政策は、世界経済の停滞からの脱却には「力不足」というのが河野氏の結論となっている。

FRB金融政策転換の背景、米中の社債市場の悪化とみる中前忠氏

こうした世界経済の動きについて、『家計ファーストの経済学』を今年になって発刊された民間エコノミスト中前忠氏から、最新の経済レポート『企業債務危機の時代』(3月28日実施された「研究会報告」)を送っていただいた。中身の開示は許されていないため、結論的な要旨だけを紹介したい。要旨は5点に要約されているが、今回のFRBの金融政策の転換の背景についての明快な説明が、以下のように為されている。

「一、2019年のリスクで最大のものは企業債務である。今回のバブルの正体といってよい。リーマン・ショック以降の超金融緩和政策の下で、債務が最も増えたのは企業部門である。先進国でも新興国でも違いはない。とりわけ、米国と中国で大きく増えた。

二、企業債務のなかでも、特に社債市場が危ない。社債の質の劣化と償還期限の短期化が極端に進んだからである。経済の不況化は、社債の格付けを引き下げ、ジャンク債に落ち込めば、主要な投資家は、保有する社債を売却しなくてはいけない。社債市場でデフォルトが増えるだけでなく、資金調達が止まってしまう。金融市場の大混乱と不況の一段の深刻化が進むだろう。

三、昨年の10月から12月にかけてのジャンク債利回りの急上昇は、この先駆けである。株価も大きく下がった。これが米国連銀の金融正常化(引締め)路線を転換させた背景である。この小さな危機は取り敢えず収まったが、大きなトレンドが消えたわけではない。」

先ほどの「南北」氏は、「中国の国有企業が抱えるドル建ての債務の多くが不良化している可能性」を指摘していたのだが、その企業の「社債」の問題点にまでは言及できていない。私が購読している経済関係の専門誌などを読んでも、社債についての問題があることを指摘している専門家はそれほど多くないだけに、アメリカを中心にした資金市場総体をしっかりとチェックしていなければ見落としてしまいがちである。今後、株価の動向だけでなく、国際的な社債市場の動きもきちんとチェックしていく必要がありそうだ。

今度の不況は、リーマン・ショック以上のバブル崩壊と予測へ

中前氏は、今後の日本を含む世界経済の動きについて、引き続く「要旨」の中で次のように展望されている。

「四、中国、欧州、日本の不況化は目立って進行しているが、米国でも、経済の減速は着実に進んでいる。自社株買いや公的資金での株式市場への介入で、株価からくる楽観論は依然として強いが、多くのセクターで息切れが目立っている。今度の不況化は、社債市場を含めて、バブルの崩壊を意味するわけで、不況の度合いは、前回の1.5倍から2倍の大きさになるだろう。

五、これに対して、米国では、MMT(Modern Monetary Theory)、財政支出を拡大、財政赤字は中央銀行に買わせる、というものだが、これは日銀の後追い政策である。多くの論者は、この結果としてのインフレとドル安を見込んでいるが、実際には、デフレとドル高で、世界にドル不足が定着することになるだろう。これは、中国や欧州にとって、大きなショックとなる。」

今後の世界経済は、不況が進めば社債市場を中心にしたバブルが崩壊すると見ておられ、そのインパクトは前回(リーマンショック)の1.5~2.0倍になると予測されている。リーマン・ショックですら「100年に一度」と言われたわけで、次のバブルの破裂のマグニチュードは恐るべき強度になるのだろうか。バブルははじけて見なければ、バブルとは認識できない物だと言われるだけに、不気味ではある。世界経済が、バブルとバーストの繰り返しによる循環が続くことに対して、どのような経済政策が打ち出せるのか、考えるべき時が来ているように思われる。

アメリカでのMMT理論、日本の後追いだが、民主党大統領候補選挙で広がり始めそうだ

中前氏が最後に触れているMMT(現代金融理論)が、アメリカの民主党関係者の間で広まりつつあることは、日本でも最近よく報道されている。財政赤字を出しても、中央銀行がファイナンスすれば統合政府のバランスシートで見れば問題はない、という謬論は日本では既におなじみのものとなっている。今後、アメリカ大統領選挙において、民主党の次の大統領候補者にも名乗りを上げているバーニー・サンダース上院議員の考え方とされ、昨年の連邦下院議員選挙で史上最年少で当選した民主党のアレキサンダー・オカシオ・コルテス議員も、自分の政策の裏付けとなる財源論としてMMTに依拠している。日本の立憲民主党など野党側はまだ賛否を明らかにしていないようだが、自らが与党時代に提起しまとめ上げた『社会保障・税一体改革』による消費税引き上げを、政局の材料としていとも簡単に放棄するなど、財源問題についての定見を著しく欠いているだけに、MMT理論へ傾斜していく危険性を痛感する。それだけに、このMMT理論に対するしっかりとした反論を、次回の通信で明確にしていきたいと思っている。

自民党小泉進次郎氏らのまとめた「令和の時代の社会保障政策」、
今後の党内論議にも注目、健全な対抗政党の対案は???

そうした動きとは対照的に、自由民主党の鴨下一郎元環境相が座長で小泉進次郎が事務局長をしているプロジェクトチーム(名称は不明)は、「令和の時代の社会保障改革」と題する提言を取りまとめ、厚労部会で決め来年度の予算要求に取り入れるべく「骨太の方針」へ反映させるとの報道ら接した。小泉事務局長は、かねてより財源の問題として「こども保険」を提起し、そのごその内容をより充実させて「勤労者皆社会保険」を提唱し、人生100年型の年金制度や医療・介護の改革はもちろん雇用制度や子育て健康づくりなど7つの社会保障改革を提起しているようだ。フィージビリティとサステナビリティに裏付けられた政策が提起されているようで、日本における健全な対抗政党はどこにあるのか、情けなさを痛感する今日この頃である。


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