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2019年5月20日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第96号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

マイナンバー制度の変質か、導入時の原点からの逸脱が目立つ

かつて財務副大臣から内閣官房参与の時代、すなわち民主党政権時代に力を入れてきた「マイナンバー」制度が、大きく動きそうだ。民主党政権が終わって安倍政権になっても、マイナンバー制度の導入が進められ、2016年から12ケタの番号が日本国民(定住外国人も含む)に付番され、ほぼ全国民への番号付けは完了し、税や社会保障、そして災害対策と言う3分野に適用され今日に至っている。

基本は所得把握の公平性であり、社会保障・税一体改革のツールだ

このマイナンバー制度の導入を考えたのは、税制や社会保障制度の公平性と言う問題を考えた時、所得が正確に捕捉されていないのではないか、と考えたからである。とりわけ、シャウプ税制以来、税制の中核をなす所得税において総合課税を建前にしていながら、実際には勤労性所得と、資産性所得が分離課税されていて、所得が基本となっている社会保障・福祉制度にまで大きな影響を及ぼしているのではないか、という事にあった。それ故、マイナンバーを導入して所得情報を正確に把握する事の必要性とともに、年金・医療・介護・雇用といった社会保険制度が中心になった社会保障にまで連結する事を目指そうとしたわけである。歳入庁構想も、その一環として考えていたことも指摘しておこう。

さらに言えば、アメリカやイギリスで導入されていた「給付つき税額控除制度」を日本でも導入する事によって、低所得層の方たちに対する支援措置を拡充することも考えていた。その際、低所得層の方達を行政側はきちんと把握できるのだろうか、国家戦略担当の古川元久副大臣が中心になって関係省庁の副大臣が集まって議論をしたのだが、財務省も約500万円以下の所得の方達の個人情報は把握できなかったし、結果として住民税非課税所得と言う範疇(2人世帯で約90万円)でしか把握できない事となった。これは、いまでも低所得者に対する一律給付する際に適用されている。

本当の低所得層把握のため、金融所得についての所得情報収集を

では、本当に住民税非課税の世帯・個人が低所得層なのかといえば、遺族年金受給者については非課税となっているが、必ずしも低所得だとは限らない。かくして、番号制度による所得情報の持つ重要性に着目して導入したわけだが、肝腎の所得情報の把握が十分に出来ていない。何よりも、預貯金の把握のためには10億冊を超える預金通帳の存在があり、それらに付番することができていないのだ。さらに、今後の付番に向けた取り組み予定が、預金者本人の自主性に依存する極めて不十分なものになりそうなのだ。

預金のペイオフに備えて銀行の名寄せは出来ているはず、あとはそれを番号で集約すれば完了するはず

本来、銀行の預貯金はペイオフと言う仕組みがあり、預金保険機構を通じて破綻した際に1人1,000万円までは保証される事になっていて、各銀行では名寄せが進められていなければならない。とすれば、その名寄せされた通帳に付番をして、どの銀行であれ、預貯金がいくらあり、利息(今ではほとんど意味を持たなくなっているが)が、いくらあったのか、把握は可能だと思えるのだが、何とも歯がゆい取り組みでしかない。あの1997年頃の金融危機の時代に強制的に進めておけば実現可能だったのだろうが、今ではそうした名寄せが出来ているのかどうか、十分に点検すら出来ていないのだろう。

そうした肝腎の作業が進まない中で、マイナンバーカードの国民定着率が12%台そこそこでしかなく、住基カード並みとなっている。そこで、政府はマイナンバーカードの普及拡大に向けて、なんと健康保険証として使用できるようにしようとしている。かつて、番号制度を議論した際に、医療情報の番号付けには慎重にするべきだ、という事だったわけだが、健康保険証からカルテ情報にまでマイナンバーによる管理が及ぶ危険性がないのか、気になってしょうがない。

マイナンバーカードの普及・拡大を中心にしているのは経産省か?

どうやら、マイナンバーカードを拡大・普及させようとしているのは菅官房長官ではないか、といった情報が流布されたりしているが、案外、経済産業省あたりが「予防医療」や医療保険と様々な情報のAI化に向けて、マイナンバーを本格的に活用しようとしているのかもしれない。安倍政権は「経済産業省」内閣としての本質を様々な面で露わにし始めているわけで、「マイナンバー」の悪用についても、国会での厳しいチェックを進めるべきだろう。

『週刊東洋経済』最新号の3つのコラムがMMTという偶然

最新の『週刊東洋経済』(5月25日号)の特集は「5G革命」であるが、興味深いことに私が読んだ3つのコラム「経済を見る眼」(佐藤主光一橋大教授)は「MMTと大きな政府」、「ニュースの核心」(東洋経済誌コラムニスト野村明弘)も「身内からも噴き出すMMT批判」、そして「経済学者が読み解く現代社会のリアル」(田代毅ピーターソン国際経済研究所客員研究員)は「低金利時代における新しいマクロ経済政策」のなかでMMTに関連して主流派経済学からの新しい財政赤字の再解釈が提起されている。日本を代表する週刊経済誌のコラム欄で、MMT論が一挙に3論文が掲載されるというところに、今の時代を象徴する一つの問題点が凝縮されているのかもしれない。

佐藤主光教授、「財政政策に奇策はない」の立場から鋭く批判へ

最初の佐藤教授の提起は、「財政政策には奇策はない」と言う立場から、「ヘリコプターマネー論」や「シムズ理論(財政の物価理論)」を批判、今回の「MMT」についても、同じ延長線上でとらえ批判されている。経済が不況で総需要が不足ならいざ知らず、平時において財政再建をせずに社会保障や公共投資を拡充させることができ、国民は自らの懐を痛めないで「フリーランチ」が食えるというわけだ。政治家が飛びつきそうになる理論だと見る。

佐藤教授は、この前提には「人々が将来の税支払いに備えるなどして貨幣を退蔵し消費・投資に充てない事が前提」(9頁)になっているわけで、それが崩れればインフレへと転換する。佐藤教授は、MMT論者は政府が市場に変わる「大きな政府」になることで課題を解決できると考えている事にも批判の矛先を当て、大きな政府を目指すかどうかは国民の選択の問題なのに、人々の選択を誘導しかねない事に問題があると見ている。

野村明弘氏は、国際金融市場自由化を見落としている点を紹介

野村明弘氏は、アメリカの経済学会でのMMTに関する論点整理をされていて、興味深い。佐藤教授と同様、MMTは政府の力を過信しており、とくに「資金が自由に移動する国際金融市場の存在」が抜け落ちている、と批判する。そのことは、ひとたび自国通貨安やインフレ懸念が生じれば、人々は価値の安定性が崩れたと判断し、実物資産や他国通貨建て資産等に逃れて行く。慌てて中央銀行が金融引き締めに転換すれば、財政赤字や公的債務の規模が問題にならないというMMTの主張は脆くも崩れると主張。さらに、MMTが実践されれば、低コストのドルが大量に流出、世界の資産バブルや金融不安すら予測されるし、何よりも国内的には軍事費の拡大や政治家の利益誘導に悪用されかねない、とポストケインジャン側からの批判を紹介している。

田代研究員は、ブランシャール氏の低金利時代の財政政策を積極的に活用すべきことを主張

最後の田代毅研究員は、オリヴィエ・ブランシャール元IMFチーフエコノミスト(現ピーターソン国際研究所上級研究員)が今年1月全米経済学会で波紋を呼ぶ講演をした内容を取り上げる。ブランシャール氏は、アメリカを例にとって、成長率(g)と金利(r)の関係を取り上げ、アメリカはg>rが1950年代から続き、しかも当面継続すると予想されているので「低金利の時代には財政赤字や債務蓄積のコストが小さい」と結論付けている。その際、トマ・ピケティの有名なggとなっているのは、政府債務の拡大が民間資本の活動を制約するクラウディングアウトを起こす可能性として問題視する。ただ、アメリカ国債は、基軸通貨国であることから金利水準が他の国と同様に捉えられないのではないか、と言う点についての疑問は残る。

ここでも、先に見た野村氏の指摘したように問題が出てくる。それはクラウディングアウトに伴う金利上昇や投資家が財政の持続可能性に不安を覚えれば、金利が経済成長を上回る水準にまで上昇する事はあり得るわけで、債務水準の重要性を指摘していることだ。ただし、EUの債務残高GDP比60%には根拠がないとも指摘する。

日本でも2006年『成長率・金利論争』が展開され、
プライマリーバランス黒字化目標設定へ、目標は2度にわたって延期へ

こうした論議は、実は日本でも過去起きていたことを知る。2006年の経済財政諮問会議において当時の竹中平蔵総務大臣と吉川洋東大教授の「成長率・金利論争」である。論争の決着は、2011年度のプライマリーバランスの黒字化の目標を掲げたわけだが、未だにそれが実現されていない。

田代氏は金利が歴史的な低水準にとどまり、それが当分続くと予想されている事を述べ、ピケティの主張するgrが続くわけで、財政赤字による財政面のコストは小さいと主張する。さらに、クラウディングアウトを起していないだけに、民間の成長を阻害するというコストも同じく小さいと見る。

かくして、日本の経済政策として、債務削減ではなく「財政赤字・債務拡大」が必要だと主張する。そのさい、但し書きとして財政赤字は生産性を高める分野に投資されるべきで、特に人口減の続く中では人的資本の蓄積が効果的と出生率の向上に結び付く施策を求めている。金利上昇のリスクに向けて、プライマリーバランス改善に対応した財政ルールを設定し、税や社会保障歳出改革と結びつけ、いざとなればそれを出動させればよいと述べている。又、量的緩和は縮小すべきことも主張している。

なぜ異常な低金利が続くのか、資本主義の構造的変化があるのか

この3人のコラムを読んで、なぜ低金利が続きクラウディングアウトは起きていないのだろうか? ゼロ(時にマイナス)金利と言う異常な状態は、何も日本だけに限られた事ではない。こうした先進国を襲う低金利の罠の背景にある問題は何なのか、資本主義はどんな構造的な問題を持ち始めたのか、それこそがしっかりと解明されなければ、国民の生活を安定化させることは出来なくなっているように思われてならない。さらに、田代研究員の説明の中で、民間が設備投資が弱く、それでいて民間企業部門での内部留保が拡大している事へのメスを入れる事こそが今必要になっていると言えないだろうか。労働分配率を高めることの重要性であり、その上での再分配政策の充実・強化策の必要になっていると思う。


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