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2019年5月27日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第97号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

果たして消費税の10%への引き上げは予定通りなのだろうか??

今月24日、月例経済報告で「景気は緩やかに回復」と言う認識を維持したものの、依然として輸出や生産の弱さが続いている。もっとも、雇用や所得のファンダメンタルズは安定しているようだ。

こうした景気判断について、今永田町界隈では大変神経質になっているようで、10月に控えている消費税率の10%への引き上げが予定通り進められるのかどうか、景気に関する情報に一喜一憂しながら固唾を飲んで見守っている人たちが多い。政府は今のところ予定通り消費税率の引き上げを進める、としてはいるものの、衆議院の解散と絡めて一度のみならず二度あることは三度ある、なかなか穿った見方が消えることなくさまよい続けているのが現実なのだ。

どうして立憲民主党などは、消費税率の引き上げに反対するのか?

そうした中で、立憲民主党を始めとする野党側は消費税率の引き上げに反対を唱えている。あの歴史的な「三党合意」による消費税率の10%への引き上げと年金・医療・介護に子育ても含めた社会保障の充実に引き当てる、とした民主党政権時代の約束は、一体どこの政党の約束だったのでしょうかね、と言わんばかりの無責任極まりない状況にある。消費税の増税と言う大変な努力によってなし遂げた歴史的な偉業も、今や形無しである。当時の関係者の一人として、憂うべき大問題だと指摘せざるを得ない。

リベラルや社会民主主義勢力は再分配による社会保障充実を目指す

もちろん、その後安倍政権によって社会保障だけでなく、幼児教育や高等教育等にも消費税引き上げ財源が充当される事になったわけで、2012~13年当時の三党合意時とは事情が異なる、と言う意見もあることは理解できる。だが、消費税率の引き上げによって国民生活を安定化させようとした姿勢そのものは、本来の社会民主主義やリベラル勢力を自認する政党にとって不可欠な事であり、残念ながら日本のリベラル勢力の政治的・知的レベル水準のお粗末さを示していると言えないだろうか。

『週刊金曜日』最新号で、高橋信彰教授は「消費税5%への引き下げ」に反対を表明

今の日本の定期刊行物の中で、リベラル派のなかでも最も「左」に位置する代表的な週刊誌に『週刊金曜日』がある。かつて、『朝日ジャーナル』の後継誌として筑紫哲也さん達が立ち上げたもので、私自身もインタビューを受けたり拙文を寄稿したこともある。もちろん定期購読者のひとりでもある。その『週刊金曜日』に最近毎週取り上げているのが「『消費税の5%以下への減税』を求めることに賛成?反対?」という見開き2ページの「専門家・識者登場欄」である。既に始まって何か月か経過しているので、5月24日号が何回目なのか定かにはなっていないが、「私は賛成しません」と明言している見解が初めて掲載されたように思う。左派のなかの左派と見て良い『週刊金曜日』にして(と言うより、だからと言うべきか!)こういう状態にあるのが、今の現実なのかもしれない。

初めて「反対」を主張されたのは、高橋信彰立命館大学教授であった。それだけでも、私は高橋教授に対して、よくぞ主張してくださいました、と評価したいと思う。もっとも、消費税率を10%へ引き上げる際の引き上げ分の捉え方に、やや誤解があることを是非とも変えて欲しいと思う。とはいえ、消費税率の引き上げの必要性を正しく主張されているわけで、『週刊金曜日』の読者の人達をはじめ、多くの「左派」「リベラル」と呼ばれる方達に良くよく読んで理解して欲しいと思う。

高橋教授、上げ潮派による不確実な成長への依存が財政赤字の元凶

高橋教授の述べておられる事を要約してみたい。

財政赤字が増え続けてきたことについて、「高齢化と言う人口動態よりも、高齢化で急増する社会保障給付の財源を、不確実(不可能?)な成長に依存し、抜本的な財源対策を怠ってきた歴代政権にこそ財政悪化の責任がある」(18頁)と断言され、小泉改革の司令塔役を務めた竹中平蔵氏に代表される「上げ潮派(=成長主義者)」の言う規制緩和や民営化など改革の遅れによる成長率の停滞こそが財政赤字の主犯、と強弁してきた勢力を厳しく批判する。

成熟した老先進国日本、成長は落ち込み自然増収は期待できない

もちろん、高橋教授は成長を否定しているわけではなく、成長があった方が望ましいと考えておられる。しかし、結果を見ても明らかなように、いくら成長を叫んで財政・金融政策を投入しても、既に成熟化した「老」先進国になっているわけで、成長力は落ち込み景気上昇による税収自然増はほとんど出ていないわけで、その結果が財政赤字となって累増する。

「左」からも「消費増税反対・景気優先」の声、違和感あり

それでもなお景気優先で、財政赤字は成長による税収の自然増と歳出削減で解決すべき、と「右」の主張だが、「左」の方からも「消費増税反対・景気優先」の声が上がり始めていると指摘される。なるほど、「右」も「左」も「景気優先」では「同床」だが、「右」は景気が「目的」でも「左」は「手段」でしかなく「政府の規模や役割、あるいは社会保障のあり方」については「異夢」であるはずだ。景気が良くなったからと言って、賃金が上がったり福祉が充実したりする保障はなく、労資の団体交渉で賃金を上げ、福祉は国会での予算や法案を通さねば上がらない。それゆえ、高橋教授は「景気優先を前面に立て、増税反対を唱える『左』に違和感がある」(19頁)と批判されている。

これからの将来予測、成長はゼロと言う前提で議論すべきと主張

さらに、将来の財政再建や年金制度など長期の政策立案に当たって、成熟化した「老先進国日本」の成長率は、ゼロを前提にして議論すべきことを主張される。もはや不確実な成長を前提にするより、ゼロ成長を前提に経済のパイを如何に切り分けるのか、分配を基軸に進めて行くべきとまで主張される。たしかに消費税10%の引き上げは、逆進性があり再分配前の低所得層ほど厳しい影響を与えることは確かだが、再分配後の予算配分や使途次第では、負担を超えて国民の生活を支える効果があることを強調。あの福祉先進諸国の北欧で、消費税率が20~25%にまで高くなっているのは、国民が負担に見合う給付や安心がえられるという確信と信頼があるからだと強調される。ここまでは、全く異存はないし大いに賛意を表したい。低所得層の再分配による消費性向の引き上げは、需要不足の日本経済の安定化につながる点を強調されても良いのでは、と思う。

消費税引き上げ5%分の捉え方の誤解、是非とも修正して欲しい

ところが、消費税率の引き上げ分の使い道についての指摘には誤解があると思う。それは、既に実施された5%から8%への引き上げ分8,2兆円について言及され、社会保障の充実分は1,35兆円、残りの引き上げ分3,4兆円は国債発行の減額、また基礎年金の国庫負担分3兆円補填もあり、実質的には8割が財政赤字の削減に回されたと理解されている。この点については、10%への引き上げが実現した際に、5%のうち、1%が社会保障の充実で、1%が基礎年金の税負担分の振り替え、1%が消費税の引き上げの予算項目への跳ね返り分、1%は高齢化等に伴う自然増分で、社会保障の必要分だけで4%を占めており、残りの1%がようやく財政赤字の補填として使われることになっていた。

基礎年金の財源に当たられる1%はもちろん、消費税分の予算への跳ね返り、さらには自然増分も財政赤字の支払い分に含めて考えることの方が問題なのであり、5%引き上げの内の1%、即ち純粋に過去の財政再建には2割しか回っていないのだ。

誤解を広めた直接の責任は、当時の岡田克也大臣にある

こうした誤解が広まった要因は、今では関係者の間では周知のこととなっている。それは、社会保障・税一体改革を担当した当時民主党の岡田克也大臣が、事務局が提示した数値を見て「社会保障の純増分は1%」だけを消費税引き上げ分の社会保障分野への適用とし、残る4%すなわち増税分の8割が「過去の赤字分の補填」と説明の仕方を変更したからに他ならない。この点の誤解をきちんと是正していく必要があることを痛感させられる。

誰が考えたって、基礎年金の国庫負担率を3分の1から2分の1へと増やした際、国債で賄っていた分を消費税率に引き上げるのは、社会保障の充実(持続可能性の強化)であり、高齢化に伴う社会保障の自然増分(毎年巨額の財源が俎上に上る)もカットすべきではなく維持するための財源だし、政府の様々な購入する物品費なども、消費税10%への引き上げによって増えて行く事も過去の赤字分とは言えまい。

消費税増税分を総て社会保障に充実することで良いのだろうか

こうした点とともに、高橋教授は消費税の「増税分の多くを過去の負債返済や将来の借金抑制に回し、国民の給付や支出に充てないから、経済全体の需要が減少して景気が悪化するのだ」「『左』は増税分を全額社会保障に充てるよう主張するのが筋である」(19頁)と主張され、井手英策慶応大教授の主張と重なり合う。はたして、プライマリーバランスで赤字が続いている今日、さらにまた完全雇用状態にある時、財政赤字を継続させることによる日本経済の将来はどのようになるのだろうか。それは、財政赤字をますます拡大させ続け、日本財政の持続可能性,ひいては日本経済の資源配分の混乱に伴うバブルへの転落への道を進めることにならないだろうか。

今、アメリカだけでなく日本においても拡大し始めた「MMT」理論なる物をどのように批判されていくのか、高橋教授の考え方を是非とも知りたいものである。


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