2019年8月12日
独言居士の戯言(第107号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
れいわ新選組の政策を斬る、その1「税制改革について」
れいわ新撰組(以下、「れいわ」と略す)の動きが脚光を浴び始めており、私のところにも「れいわ」をどう考えたらよいのか、と言う質問(と言うより、何故「れいわ」を支持しないのか、と言う批判的な意見もある)なども出始めてきた。既に、参議院選挙前にも「れいわ」について、政治的にはポピュリズムであり特に経済・財政問題については無責任極まりないので、とても支持するわけにはいかないことをこの通信でも主張してきた。以下、主として今回は税制問題について述べてみたい。その際、大前提として、歳入だけで再分配のあり方を考えるのではなく、歳出も含めて総合的に考えて行くべきだという考えを持っていることに注意して欲しい。
選挙結果、政党要件と2人の重度障がい者当選獲得と言う大成果
確かに選挙結果は、228万票を獲得し2人の当選者を生み出したわけで、全く新しい政党から立ち上げて政党要件を獲得するにまで引き上げた山本太郎氏、元タレントの技を生かしたその政治的力量には、高く評価すべきである。とくに、参議院選挙で設定された『特定枠』2名を、重度身体障がい者の方に割り振り自分は当選ラインに到達できなかったわけで、この捨て身の作戦には普通の政治家にない大胆さが驚きを与えてくれたことも確かである。また、2人の重度障がい者の方が当選できたことによって、国会の場で重度障がい者の国会議員活動を保証できる体制づくりも進み始めたわけで、それだけでも大きな成果を上げたと言えよう。
選挙戦の戦い方、3万3千人から4億円のカンパ収入を基盤に
選挙戦では10名の候補者を擁立し、カンパ活動で4億円を上回る金額を確保し、なんと3万3千人近い方からの献金が寄せられたという。その運動スタイルも、街頭での訴えとともに、集まった方たちからの質問にも丁寧に答えるという姿勢を貫き、新聞やテレビといったマスメディアが取り上げることは少なかったものの、SNSなどを通じて多くの国民に支持が広がったようだ。8月1日に新宿駅前で実施された選挙後初めての街頭演説でも、1500人を超す市民の皆さん方が集まり、そのフィーバーぶりには更なる勢いがついているようだ。
マスメディアへの露出度向上へ、衆議院選挙の台風の目になるか
こうした動きと並行して、マスメディアへの露出度も増え始めており、私が購読している北海道新聞にも8月10日朝刊の2面に記事が、5面には山本代表のインタビュー(1問1答)が掲載されていた。北海道は、立憲民主党支持が根強い地域だが、「北海道の候補擁立も良い出会いがあれば可能性がある」と述べ、「れいわ」からの候補擁立に含みを持たせている。今後の野党側の衆議院選挙に向けた選挙態勢づくりがどのように進展していくのか、全く今のところ不明ではあるが、北海道においても「れいわ」の動きが台風の目となることは間違いなさそうである。
山本代表のBUSINESS INSIDERでのインタビュー記事を読んで
さて、山本代表が7月31日に取材を受けたBUSINESS INSIDER(8月9日付)と言うブログのインタビュー記事が一番多くの発言を体系的に掲載しており、その記事の経済・財政政策の内容を中心にしながら、私なりのコメントを加えてみたい。
先ず、野党共闘の今後について、山本代表は
「れいわ新選組が目指しているのは政権交代です。(中略) 野党と手をつなぐ、協力していく必要がある」
として、その時の野党共闘の条件は「消費税の5%減税」をあげ「5%減税に納得が出来ないんだったら、出来るところとやるしかない」とまで言い切っている。
政権交代に向け、野党共闘の条件=消費税の5%への引き下げ
「減税が必要ない」と言う判断については、人々の生活の地盤沈下や20年以上続いたデフレへの処方箋として間違っているとまで断定している。消費税と言う国民全体で負担をする税制は、可処分所得を減らし内需を減らすことによってデフレをもたらすという考え方を取っているのだろう。果たして、デフレが続いていたのか、日本経済の現状分析について、今では大いに疑問ではあるが、この点は別途検討していきたい。
高齢者からの資産課税の強化、マイナンバーを活用して把握を
次いで、若者の立場から所得税の累進性を強化しても、リタイアした高齢者は対象にならず世代間格差が広がるのではないか、と言う質問に対して、山本代表は、
「高齢者の方々から税を取る方法は、財政状況を細かく把握できる状況を確担保してから検討すればいい(中略)。それぞれがどういう資産状況にあるのか国が本気になれば調べられる。マイナンバーもあるわけですし」
と、「れいわ」支持者層にはあまり評判のよくないと思われる「マイナンバーの活用」にまで言及している。マイナンバー導入に努力してきた私にとっては、実にうれしい事ではある。
消費税廃止の財源問題、導入前の所得税や法人税の累進制導入を??
さらに、消費税廃止に関して財源をどうするのか、と言う点に次のように語っている。
「それは消費税の導入前に戻ればいいんじゃないかと。お金が無いところから取らず、あるところから取る。所得税の累進性を強化したり、分離課税をやめる。法人税は累進制を導入したり。(中略) 税に景気安定装置を埋め込むって話です。このような税制改革で29兆円の財源が担保されるという試算もあります。これによって一番救われるのは誰か?中小企業です。中小企業が息を吹き返す。消費税廃止と税制改革が日本経済復活の道です」と税制改革について述べている。
所得税の総合課税化に向けて、多くの難問が立ちはだかる
所得税の分離課税から総合課税にすることを提起されているわけだが、その際も必要になるのは勤労所得や金融所得などすべての所得の合算であり、預貯金や株式からの利益、地代収入や家賃所得などの正確な把握のためのマイナンバーの活用が不可欠となる。預金通帳だけでも12億冊とも13億冊とも言われていて、休眠預金もどれだけ存在しているのか、大変な作業になるわけだ。だがフローの金融所得と言うよりもストックとしての金融資産の把握と言う点で、是非とも進めて欲しいと心から願うものの一人である。
総合課税先進国は、富裕層の税逃れに対応できず、分離課税へ
もうひとつ、スウェーデンなど北欧の国々では総合課税による弊害として、富裕層の抱える収入については総合課税で良いとしても、支出面での経費の問題が出てくる。それは、株式譲渡益だけでなく譲渡損も合算されるし、別荘やヨットなど借入金による資産購入への支出は経費として算入されることになる。それゆえ、所得税については総合課税をしていた国も、今は金融所得とそれ以外の所得へと分離課税となっている事を知らなければなるまい。つまり、所得税の総合課税化は、必ずしも税収増となるよりも、課税ベースの縮小にむけて抜け道を作りだすインセンティブをもってしまい、今ではほとんどの先進国では分離課税となっている。日本でも、金融所得の分離課税は10%から20%へと3年前からようやく引き上げられているが、税率を30%に引き上げるか、勤労所得と合算した限界所得税率が30%以下の方には、申告によって総合課税化の選択性を付与すべきことで解決すべきだと思う。もっとも、スウェーデンなどでは、富裕税として資産保有額の一定率分が徴収されていることも考えておく必要があろう。
グローバル化した経済の下、タックスヘイブンへの預金流出が
もっともグローバル化した今日、所得が海外へと流出しているだけに、国際的な所得情報の把握ができるのかどうか、2~3年前から海外への預金の流出についての資料情報制度がようやく出来上がったわけで、どれだけ実効性が上がっているのか、点検が必要になっている。もちろん、タックスヘイブン対策も引き続きしっかりと強化していくべきことは言うまでもない。ただ、タックスヘイブンの存在は、ロンドンのシティやニューヨークのマンハッタンの金融関係者が実は一番必要としているわけで、アメリカやイギリスと言った先進国がきちんと本気になって対策を取らなければ、何の効果も挙げられなくなっている事を知る必要がある。
最高税率の引き上げだけでは、必要な税収は確保できない現実
もう一つは、消費税の引き上げ以前に戻せばよいではないか、と言う点である。累進性の強化については、確かに1987年の消費税引き上げ時前までは所得税の最高税率は60%であった。それが、89年には50%、99年には37%へと引き下げられたが、今では45%へと少し引き上げられている。問題は、消費税引き上げ前に戻せばどうなるのか、と言う点であるが、最高税率が適用される方たちの課税所得は、確かに富裕層なので1,800万円以上(課税前の所得では、2,000円を超す水準になる)だが、それを1%引き上げたとしても1%=450億円の税収増でしかない。45%を仮に60%へと引き上げたとして、450億円×15%=7,250億円の税収増で1兆円に達しない。
それでも所得税収による財源確保には、低中所得層からも増税が
それでも、格差是正と言う観点から富裕層から税収増をすることの意義があるわけで、それを否定することは出来ないが、今必要とされている国の財源の規模は10兆円単位なのであり、所得税の税収でそれを賄うとしたら最低税率5%や10%の税率となっている圧倒的多数の中低所得層だけでなく、課税最低限以下の中・低所得層からも新たに所得税を課税することになってしまう。つまり、消費税が1%で2兆5,000億円もの税収増となるのは、国民みんなが負担することに依るわけで、所得税でも課税最低限以下の方達まで所得税を課税すれば消費税に匹敵する税収が確保できる。だが、それは、いまの政党や政治家は誰も指摘することすら出来ない現実がある。つまり、お金がある人から取ればよい、という事だけではこの国の社会保障や教育などは賄えない規模に達しているわけだ。それと同時に税収の多い方たちからだけ増税することは、国民社会が大きく分断されるわけで、アメリカのようなゲーテッドタウン化してしまう可能性すら予測される。そうなれば、ますます格差社会の弊害が大きくなり、民主主義の基盤が崩壊する危険性が高まる。むしろ、皆で納めて皆に社会保障や教育が行き届く社会を創るべきだろう。まさに「All for All」という考え方の重要性を強調しておきたい。
どうにも解からないのが法人税の累進制導入、どんな仕組みなのか
もう一つ分からないのが、法人税への累進制の導入である。法人税率も消費税が導入する以前には、50%近くに達していた。それが、今では地方税の法人税と国税と合わせて30%を切るところまで下げてきている。ただし、これは法定税率であり、法人税においては課税ベースである法人の利益から租税特別措置を始め様々な税制上の優遇措置が実施され、実質的な利益に対する実効税率はこれよりもはるかに引き下がっている事は周知の事実であろう。
さらに、赤字決算となれば、その赤字額が10年にわたって翌年の利益から引き去ることが可能となり、バブルによる金融機関の赤字額は、バブルから立ち直って以降何年もの間、法人税を一銭も納めていなかったのだ。私自身が財務副大臣時代に担当した日本航空の破綻処理の際に、1兆円近い借金の棒引きと法人税の10年近い減免によって、大きく立ち直ったことを記憶されているだろうか。全日空との不公平さが残る解決処理だったと思うのは、私だけではあるまい。そういう仕組みの中で、どう累進課税を仕組むのだろうか。わからない。
今や問題はGAFAなど、グローバル企業や巨大宗教法人では
こうした法人税の抱えている問題は、国際的な活動を展開する企業にとって、本社をどこに置いたら一番税の支払いが軽くなるのか、お抱えの税の専門家がそれこそ血眼になって検討しているわけで、世界各国の協力によってGAFAと呼ばれるグローバル企業の課税問題が大きく取り上げざるを得なくなりつつある。法人税の累進制をどうやったらうまく機能させられるのか、具体案を見ていないので何とも評価しようがないが、景気変動への対応は赤字決算の翌年度以降の繰越制度の改革が必要かもしれない。それよりも、法人税の問題では巨大宗教法人や正体不明になりそうな公益社団法人等の方が大きいと思う。
中小企業にとって息を吹き返すと主張されているのだが、法人税率も大企業よりも低くなっているし、ほとんどの中小企業が赤字法人となっているだけに、どうすれば息を噴き返すことができるのか、これまたよく主張の中身を知る必要がありそうだ。
果たして、こうした税制改正が衆議院選挙の野党共闘条件なのか
こうして、「れいわ」の山本代表が唱えておられる税制改正の問題点を見てきたわけだが、今後消費税の5%への引き下げを衆議院選挙の争点にして野党共闘を進めて行くとのことだが、残念ながらそれには到底賛成することは出来ないし、野党共闘がそれですんなりとまとまるようであれば、野党が未来永劫政権を獲得することは不可能であろう。この間、この国において、国民全体が関わる消費増税ような大改革は、多大な政治的なダメージを受けながら実現してきたもので、インフレになったら増税して赤字を埋めればよい、などと能天気な事を言って済ませられるレベルの物ではない。
山本代表のインタビューは、消費税廃止の財源として新規国債の発行という劇薬の提起が続く。これは、次の機会に回していく事にしたい。