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労福協 活動レポート

2019年8月26日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第109号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

世界史は激動の時代が幕開けか、日韓と米中関係を考える

日韓関係が暗雲立ち込めてきたことと並行して、米中の経済対立もそれ以上に世界経済に動揺を与え続けている。フランスで開催されているG7首脳会議も、合意できるような宣言は出ないようで、国連安全保障理事会も機能不全に陥ってしまったままに見える。これからの世界の政治・経済はどのように展開していくのか、誰しもが不安を強く感じ始めた「れいわ元年」の暑い夏が終わろうとしている。

日韓関係は、政治・経済・軍事にまで問題が悪化へ、どうする日本

日本と韓国の戦前の植民地支配の「歴史」を背景に、従軍慰安婦や徴用工問題から始まり、1965年の日韓条約で一応の区切りをつけたとする日本側の立場と、韓国側の文政権の目論みとが大きくかい離しはじめており、経済的な対立だけでなくGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の破棄を韓国政府は通告してきた。韓国文政権は、日米韓の結束よりも南北朝鮮の融和を図ることを優先し始めたようで、北東アジアの安全保障の枠組みが大きく転換することすら考えられる事態になりつつある。

もっとも文政権は、アメリカと韓国との関係を断ち切ってまで北朝鮮との関係を優先するとは考えていないようだが、今後の推移に注目していく必要がありそうだ。

トランプ大統領は、何を考えているのだろうか

日本政府はもちろんGSOMIA破棄に対して厳しい批判をしているが、それ以上にアメリカのポンペイオ国務長官らは、2度にわたって厳しい批判を展開している。未だトランプ大統領の発言(ツイッター)は表面化していないが、アメリカファーストと言う立場や来年の大統領選挙に向けた政治的立場から考えているようで、北朝鮮の度重なる短距離ミサイル発射にも「短距離なら問題ない」と高みの見物のありさまだ。トランプ政権にとって、今進められている日米の通商交渉の関係や、中国との経済対立とも絡むだけに、日韓の経済的・政治的・軍事的対立はそれほど深刻な問題とは考えていないのかもしれない。

日本の総合的な外交力が試されているのだ

事態を冷静に判断し、この地域の安全保障体制をどのように再構築していけるのか、機能不全に陥りつつあるとはいえ、国連をはじめとする集団的安全保障の枠組みを土台にしながら、日本外交のあり方・構想力を創り上げて行く以外にないだろう。難しいことだと思うが、様々なルートを通じた外交体制を構築するとともに、あらゆるレベルの個人的・組織的なネットワークと情報を駆使しながら、何よりも平和と民主主義・安全保障・自由貿易など、しっかりとした価値観に裏付けられた対韓外交を進めて行くよう努力して欲しい。

ますます対立が激化するアメリカと中国、その行方は誰も知らない

グローバルな問題としては、米中の経済対立の方も深刻である。昨年秋から始まった関税引き上げ措置が、一段と激しくなっている。アメリカは単なる経済覇権だけでなく軍事的な覇権争いも絡んで中国の動きを力づくで押さえつけようとしており、今後の米中経済対立(経済対立と言うより経済戦争と言った方が良い状態)の余波は、GDPの規模で世界一のアメリカと第2位の中国が激突している以上、世界各国に大きく波及してくることは間違いない。

それは、日本やEUさらには途上国だけでなく、アメリカや中国においてもブーメランのように大問題となって跳ね返ってきている事は確かだろう。今回の米中対立の激化は、誰の利益にもならないわけで、現に、アメリカニューヨークの株式市場では、トランプ大統領の追加関税措置の発言を受け、先週末も大きく株価が下落しており、今週に入った東京市場も円高と株価下落から始まるに違いない。中国と言えば、香港における市民の闘いだけでなく、経済的にも停滞を強め始めており、外からしか覗えないのだが、習近平体制にも亀裂が入ろうとしているのかもしれない。

役に立たなくなったのか、どうする国連や先進国首脳会議

事態は株価の下落だけでなく、実体経済においても世界経済は落ち込むと予想され始めており、米中経済対立のゆくえが全く不透明になっている。G7における先進国首脳だけの協議には、肝腎の中国が参加しておらず、アメリカのトランプ大統領も消極的だとのことだ。世界経済におけるG7のウエイトも、もはや世界全体のGDPの過半数を超えておらず、その存在感の弱さが今の時代を象徴しているようだ。どのように世界を安定化の道に導いていけるのか、河野ドクトリンは出て来そうにもない。期待する方が無駄と言うモノだろうか。

10月からの消費税10%への引き上げを考える

参議院選挙が終わり、秋の臨時国会の日程もまだ確定的でないが、10月1日から消費税率の10%への引き上げが、ほぼ間違いなく実施されるに違いない。経済の先行きが不透明な中で、参議院選挙戦では野党側は消費税の引き上げに反対したわけだが、国民的な広がりにまでは至らなかった。もっとも、「れいわ新選組」の登場によって消費税問題は大きな政治的な争点になる可能性があるだけに、その行方には十分に注目していかなければならない。

2兆円を超す経済対策の持つ問題、やり過ぎではないか!!??

特に、消費税の引き上げが経済に与える影響を和らげようとして、総額で2兆円を超す経済対策が打たれようとしている事に注目したい。具体的には、住宅や自動車の駆け込み需要を避けるための税制措置、ポイント還元、プレミアム付商品券等々、やり過ぎではないかと思われるほどの施策が打たれる事になっている。さらに、消費税率10%の単一税率ではなく、食料品や新聞代などは8%の軽減税率の適用と言う措置を取ることも合意されている。消費税の持つ逆進性対策と称しているが、富裕層にも適用されるためにその逆進性対策の効果はほとんど機能しないと言われており、何が食料品なのかをめぐる複雑極まりない対応策や複数税率仕様のレジへの交換など、多くの中小企業にとっては、次に述べるポイント還元策とともに、嬉しくない問題になりつつある。この軽減税率の問題は、10月からの実施は変えられないが、出来るだけ早く元の単一税率に戻すことを考えるべきである。

ポイント還元策は来年6月で辞められるのか、駆け込み需要は?

問題は、ポイント還元策である。中小小売店で10,000円の商品をキャッシュレスで購入すると、税込み価格では11,000円だが、5%のポイント還元分は550円となり、実質的負担額は11,000-550=10,450円で、増税前の10,800円より安くなる。もし食料品だと軽減税率が適用になり、税込みだと10,800円でポイント還元額は10,800×5%=540円、支払金額は10,800-540=10,260円となり更にお買い得となる。これだけ優遇されればポイント還元が終了するのが来年6月末、大きな駆け込み需要と反動減が発生するのではないか、と心配される。そうなると、ポイント還元は止められなくなってしまう事にならないか、そうなれば、何のために消費税率の引き上げだったのか、何のためのポイント還元だったのか、意味のないものになってしまう。

消費税率の引き上げがもたらす駆け込み需要とその反動、という経済変動を和らげるという目的で入れたポイント還元なのだが、全くの尻抜けどころか税収増を社会保障や教育に充てようとしても、肝腎の増収増ができなくなるわけだ。

消費税率は、毎年0,5~1%ずつ引き上げて行けば景気変動対策不要

ここで考えるべきは、5%引上げをする場合、消費税率を毎年1%づつ引き上げる方法が取れないのかどうか、2004年から2018年まで14年かけて年金保険料を厚生年金で13,58%から18,3%まで毎年0,354%引き上げ続けたことの経験から考えても、毎年1%ずつ、もしくは毎年0,5%ずつでも連続して引き上げることで、景気に対して影響を与えることなく、ポイント還元などすることなく消費税率の引き上げが円滑に進められるのだ。私が財務副大臣時代に、この提起をした際、毎年引き上げに企業が対応できない、と言う技術的な問題を主税局幹部から指摘されたことがある。今の時代、こうした実務的な問題が技術的に解決できないはずはないわけで、今後の消費税率の引き上げの際には是非とも検討して欲しいと思う。

ポイント還元は事業者間でも起きる!?、ポイント失効分の行方は??

ここまでは、今まで書いてきた事の再掲でしかないのだが、最新の河野龍太郎BNP PARIBAチーフエコノミストの書かれた最新の「Weekly Economic Report」(8月23日号)の次の指摘は、私自身初めて知ることとなった問題である。

「今回の対策は、税に対する信頼性を揺るがす問題も内包する。例えば、ポイント 還元は、本来、家計向けの負担軽減措置であるはずだが、識別できないため、事 業者間の取引であっても適用される。また、家計が貯めたままポイントが失効し た場合、政府からポイント代金を預かった事業者がそれを手にする可能性がある (即時還元はこの問題の解決につながるのだろうか)。金額が小さいとしても、 そうした事態が明らかになれば、税制への国民の信頼感が失われ、将来の消費増 税のハードルを高めることにもなりかねない。」

こうした細かい問題のようだが、実は税の公平性や透明性こそが一番の基礎になければならないわけで、今回のポイント還元策は大問題を抱えた施策であり、こうしたやり方を一刻も早く廃止すべきだろう。

27日にも公表される5年に一度の「公的年金の財政検証結果」

もう一つ大きな問題になることが予想されるのが、5年に1回の公的年金の財政検証が今週27日にも公表される事だろう。今年の参議院選挙の直前に、公的年金だけでは老後の生活には2,000万円不足する、と言う報告が金融庁の審議会から出され、一時は野党側が飛びつき「100年安心と言ったではないか」と年金制度不信を煽ろうとしたことがあった。

結果として、不信を煽ろうとした目論見はあえなく潰え去り、参議院選挙の大きな争点には至らなかった。その一つの要因として、年金問題に精通したマスコミ関係者が増えていることも見ておく必要がある。と同時に、そうした年金制度に対する誤解や間違いを正しく指摘つづけて来られた学者・専門家の方達が頑張って来られたことも指摘しておくべきだろう。

権丈善一教授の提起する「年金クイズ」の段級位テストに注目

今週中にも財政検証が公表される直前に、「人はなぜ年金に関して間違えた信念を持つのか ももうすぐ始まる年金報道合戦に要注意!」と題する論文を「東洋経済オンライン」(8月22日)書かれた権丈善一慶応義塾大学教授の指摘が重要だ。ご本人は、「正直なところ、やれやれ面倒だなと言う気がしないでもない」とのことだが、東洋経済オンライン紙上だけでも年金問題についての誤りに対して厳しく指摘され続けている。詳しくは、そちらを読んでほしいのだが、年金を報道する記者たちに対して「師範」資格は必須だと叱咤激励しておられる。

さて、「師範」資格とは何ぞや。それには権丈教授が作成された年金問題に関する初級から初段~9段、そして師範の段級位がある。以下、それぞれの段級位が理解していなければならない事も記載されている。

<初級>□公的年金は保険である。民間の貯蓄性商品とは根本的に異なる
<初段>□公的年金は65歳で受給しなければならないものではない。60~70歳の(受給開始年齢)自由選択制である
<二段>□支給開始年齢の引き上げと、受給開始時期(年齢)の自由選択の意味・違いがわかる
<三段>□マクロ経済スライドの意味・意義が何となくわかる
<四段>□将来の給付水準は絶対的なもの、固定的なものではなく、可変的なもの、経済環境などによっても変わっていくが、自分たちの選択や努力によっても変えていけるものだということがわかる
<五段>□対物価の実質価値と、対賃金の実質価値の違いがわかる
<六段>□5年に一度行われる財政検証で行っているのは現状の未来への投影(projection)であり、将来の予測(forecast)ではないことを理解している
<七段>□年金はPDCAサイクルで定期的に状況を確認しながら改革を行い続ける制度であり、100年間何もしなくてもよい(安心)ということでなく、100年くらいを見通して、持続可能性を保つためにシステムの再設計を繰り返していくことが組み込まれた制度だということがわかる
<八段>□積立金がおよそ100年先までの公的年金保険の給付総額に貢献する割合は1割程度であることを知っており、積立金運用に関するスプレッドの意味がわかり、名目運用利回りでの議論は間違いであることを理解して、人に説明できる
<九段>□「Output is central」の意味を知っており、積み立て方式も賦課方式も、少子高齢化の影響から独立ではいられないことを人に説明できる
<師範>□年金改革の方向性を知るためにはオプション試算に注目すべきことを知っており、オプション試算が行われるようになった歴史的経緯を人に説明できる
はてさて、皆様方はどんな段級位にまで達しておられるだろうか。記者の皆さん方は「師範」が必要だとのこと、これから始まる国会論戦などの場で、「師範」格に達した記者の方達から、高く評価されるような政治家の論戦が展開されるのかどうか、注目していきたいと思う。


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