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労福協 活動レポート

2019年9月2日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第110号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

1930年代に舞い戻ろうとしているのか、世界経済は混迷へ

8月の世界経済は、トランプの仕掛けた中国との貿易戦争の激化により、世界的な株価の動揺をもたらし、経済成長が落ち込み始めたようだ。なんとアメリカ大統領トランプ氏が、最近中国と並んでFRBのパウエル議長を「敵」と表現するほど金融政策への介入を強めている。もっと利下げをするようにとの恫喝であるが、自分が任命したFRB長官であるのに、中央銀行の独立性などどこ吹く風なのだろう。利下げによるドル安=貿易収支の改善による経済の立て直しを目論んでいるようだが、基軸通貨として使われているドル価値の下落は、依然として世界経済に対する影響は大きく、世界的な為替切り下げ競争を惹起させかねない危険性を持つだけに、本来であればG7やG20の場での合意が必要となる課題だろう。とは言え、今のG7にはトランプ大統領を制御できるだけの力はないわけで、何とも歯がゆい展開になりつつある。再び、戦前のブロック経済から第二次世界大戦へと向かった時代へと転がり続けるのかどうか、世界の英知が求められているようだ。

いつまで「円安」にこだわり続けているのか、中前忠さんの批判

そうした中、8月30日付日本経済新聞の夕刊に掲載された「十字路」欄で、中前国際経済研究所代表の中前忠氏が「通貨戦争の本質」というコラムを投稿されていた。中前代表のコラムは、おそらく1カ月に1回程度の割合で掲載されており、夕刊の無い北海道だが電子版で毎回興味深く読ませていただいている。今回のテーマは、丁度アメリカのトランプ政権と中国との間に展開されている貿易戦争とも関係しているし、何よりも日本の経済政策が、いつも「円安」をめざして経済・金融政策が打ち出している事への厳しい批判だと見ていい。

冒頭で、「通貨の切り下げが輸出を増やし、生産を拡大し、雇用を伸ばす時代は終わっている」と「円安」政策を批判され、具体的に日本の自動車メーカーの国内生産が2018年に970万台、うち輸出は480万台だが、海外生産は2000万台に増えている現実を指摘される。円安によって国内からの輸出を増やし、生産と雇用を延ばす効果はほとんどなく、アベノミクスが声高に主張したほど消費も設備投資も伸びない、と安倍政権の経済政策に対して厳しい。

中国の人民元安は、中国経済に破局的な危機をもたらす危険あり

特に、コラムでは中国についても言及され、既に中国も工業化の過程にある新興国の域から脱却しており、むしろ今進んでいる人民元安は「2兆ドルを超える外貨建て債務の返済が一段と困難になってくる」事を指摘され、中国企業が耐えられるかどうか、難局にあることも指摘される。最近中国の円安が、人民元の崩落へとつながるのではないかと危惧する向きがあるが、中国企業の海外からの借金体質の抱える問題指摘なのだろう。その行方には、要警戒であることは間違いない。

利益を得る多国籍企業、困る輸入コスト増の高国内企業や消費者

要は、通貨戦争は実体的な国家間の争いではなく、政治がそれを仕掛けるわけで、通貨安で輸出と生産と雇用が増えるという幻想を振りまくポピュリズムと政治家に厳しい批判を向けられる。この問題の本質について、「利益を得る多国籍企業と、輸入コストの上昇によって困る国内企業や消費者との目に見えない争いと、不効率と格差への対応が全く進行しないところにある」と断言されている。1,000字足らずの短いコラムではあるが、今の現実を見事に一刀両断されていて思わず納得した次第である。

課題は、グローバルな政治の問題であり、中国も含めた問題の解決を図るための仕組みが必要になっているのではなかろうか。国連が十分に機能しない中で、世界の経済をどのように大国の合意を取り付けて行けるのか、日本もEUと並んで大きな役割を果たすべき時だと思えてならない。安倍総理も、トランプ大統領と習近平主席との良い関係を生かすチャンスだと思うのだが、どう考えているのだろうか。

厚労省若手官僚の緊急提言と2年前の経産省若手の提言の余りにも酷い落差に注目すべきだ

先週8月26日、厚生労働省の若手官僚の方達が「厚生労働省の業務・組織改革のための緊急提言」をまとめ、根本厚労大臣に提出した事が大きく取り上げられていた。問題はその内容であり、次のような実態を引用するだけでもその深刻さが浮かび上がってくる。

「毎日いつ辞めようかと考えている」「毎日終電を超えていた日は、毎日死にたいと思った」「家族を犠牲にすれば、仕事は出来る」「入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」

問題の根源には、圧倒的な人員不足があり、霞が関の省庁の中で一番大変な業務量を、少ない人員で人間の極限まで酷使している現実が浮かび上がってくる。本来、厚生労働省は「働き方改革」を主導していかなければならない責任省であるのに、その厚生労働省のなかの働き方の実態が、一番深刻である事は、まさに笑えない「ジョーク」でしかない。

国会議員の質問のあり方、国会改革も必要になっているのでは

その業務量のなかの一つの分野として国会対応が挙げられていた。主として野党議員から国会での答弁資料の作成に追われ、2日前までに質問通告を受けることになっているものの、実際には前日の深夜から、時には1時間前に通告してくるものもあるという実態も指摘されていた。国会で質問をしてきたものの一人として、身につまされながら「提言」を読んだ次第である。

元厚労大臣経験者だった舛添要一氏は、あるブログの中で「一番ひどかったのが年金問題をやっていた頃の長妻議員で、1日に160問持ってきて、最高記録を作った」とまで暴露されている。私自身も、財政金融委員会で質問が多かっただけに、あまり人の事は言えないのだが、国会改革の課題として深刻に受け止めるべきだろう。その他、審議会対応や司法事件への対応など、多くの仕事に追われている事が提言の中に資料として図示され、他の省庁との対比で突出しており極めて危機的な状況にあることが良く解かる。

経産省若手官僚の提言、羨ましい環境の下での知的訓練の場

他方、2年前に経済産業省の若手官僚の提言があったことを記憶されているだろうか。2017年5月「不安な個人、立ちすくむ国家」(モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか)と題した次官・若手プロジェクトの「提言」である。この提言は、その前年8月にプロジェクトに参画したいものの公募で、20代30代の若手官僚30名を人選し、仕事をしながら本プロジェクトに参加したとのことだ。この中では、国内外の社会構造の変化を把握するとともに、中長期的な政策の軸となる考え方を検討し、世の中に広く問いかけることを目指すものとのことだ。具体的には、国内外の有識者ヒアリングや文献調査に加え、2つの定期的な意見交換の場を設定、
一つは、東京大学との意見交換会
二つは、松岡正剛氏ほか有識者との意見交換会
と経過や目的などが記載されている。

総定員法の下で、仕事の増えた省庁と減った省庁の落差に注目を

さて、この二つの提言を比較してみて、何か感ずる事がないだろうか。圧倒的な労働力不足の下で、地獄の底で這いつくばるようにこき使われて働かされている厚労省と、他方で日常業務をこなしながら、気持ちよく知的好奇心を刺激するプロジェクトに参加し、天下国家のあり方を提言する若手経産省官僚という、このあまりにも酷い格差を痛感させられる。背景には、総定員法の下で公務員の定数が抑制され続ける中で、増え続ける社会保障の課題や働き方改革による政策課題など、圧倒的な人手不足が構造的に蓄積され続けている厚労省の存在。

存在意義の少ない経産省、覚え目出度い総理秘書官でわが世の春

他方で、先進国に追い付き追い越せと高度成長を提唱し続け、「ジャパンアズナンバーワン」に到達したものの、バブル以降、今後の産業政策の行方が見えなくなってしまった経産省、もはや民間企業に任せるほかないにもかかわらず、通商産業省から念願の「経済」産業省へと変わったことを受け、経済に関わる問題ならどこにでも口を出せる経産省へと変わってきたわけだ。本来なら、経産省には資源エネ庁と中小企業庁以外は要らないのではないか、と思われるのだが、橋本行革の下で見事に生き延びるどころか、いまや総理官邸内で絶大な権勢をふるっているのは周知の事だろう。

考えてみれば、総理の秘書官には厚生労働省からは必ず1人は出ていたし、時には筆頭の総理秘書官や内閣官房副長官(事務)にも厚労省出身者が出ていたのだが、今では総理秘書官には厚労省出身者は誰もいない。総理の下で、国民生活の実態を一番熟知している厚労省の情報がなかなか届かないのは、こうした背景があることも知らなければならない。

これが、今の霞が関の実態なのだろう。どこか狂っているように思えてならない今日この頃である。

政府が社会保障改革の司令塔づくりへ、これまた内閣主導なのか

そうしたことを思いつつ、今日の北海道新聞を見ると、共同通信の配信記事ではあるが、政府が社会保障改革の司令塔として、9月中下旬にも有識者を加えた新たな会議を創設する方向のようだ。団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始めて公費支出が急増する2022年を控え、医療などの負担増を含む見直しが焦点となる。安倍晋三首相が掲げる「全世代型社会保障」を柱に、パート労働者への厚生年金適用拡大や柔軟な働き方など、現役世代の所得安定を通じた経済活性化も打ち出す。首相は9月の内閣改造で担当閣僚ポストを置き、注力する姿勢を示す方向とのことだ。

この記事から、二つの事が頭を去来する。1つは、有識者には誰が選ばれるのだろうか、二つには、担当の閣僚を選任するようだが、誰がその任に当たるのだろうか、という点である。私自身の勝手で一方的な思い込みではあるが、担当大臣は厚労部会長を経験し、子ども保険などを提言してきた小泉進次郎議員になるのではないか、と予想する。その下での有識者の一人として、是非とも慶應義塾大学の権丈善一教授になって欲しいものだ。はたして任命権者がどう判断しているのだろうか。それにしても、厚労省の危機的な現状を放置して、内閣の一部だけで問題が進められようとしているとすれば、事態は何も変わらないのかもしれない。日本の官僚制度の危機的状況は総定員法という壁もあり、内閣人事局の政治家によるコントロールという問題だけではなさそうだ。


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