2019年9月16日
独言居士の戯言(第112号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
沖縄経済、観光業と情報通信産業の発展により、基地・開発予算依存体制から脱却へ、
躍動する沖縄の政治的自立の道
沖縄と北海道、かつてはともに国の出先機関として開発庁の下に在り、国直轄の開発予算がそれぞれ大きなウエイトを以て地域経済を支えていた。最近でも開発予算は、それぞれまだかなりの存在感を持っている事は言うまでもない。とりわけ北海道開発庁が廃止された今でも、北海道の国への依存はかなり高いものがある。
ところが、最近では沖縄県のめざましい動きが注目されるようになっている。それは、経済的には観光業と情報通信産業の活性化であり、沖縄経済において両産業は大きなウエイトを占め始めている。
観光業に関して言えば、海外からの観光客が300万人、国内からの観光客は700万人を突破し、併せて1,000万人を超す盛況ぶりである。今や、日本を代表する経済週刊誌『東洋経済』が特集として「沖縄とハワイ」を取り上げ、どちらが観光地として好感度を上げているのか、比較対称されるまでになっている。情報通信産業について、沖縄の科学技術大学の存在を見逃すことは出来ないのだろう。いずれにせよ、これからの経済発展を牽引する二つの産業が、沖縄経済を自立の道へともたらしている事は間違いない。
基地依存からの脱却へ、舵を切る沖縄政治の転換は揺るがない
かつては沖縄に米軍基地を押し付け、その代償として開発予算も付けてきたし、米軍基地の沖縄経済に与える影響もかなり大きかった時期があったことは間違いない。基地に対する批判的立場の首長に対して、露骨に金を使っての恫喝まがいの締め付けをしてきたわけだ。ところが、沖縄経済が自立的な発展を示し始めて来た今日、基地依存経済からの脱却、国の開発予算依存からの脱却は、沖縄経済界も含めて大きな流れとなりつつあるようだ。仲井真県政から翁長県政へと転換した頃からそうした動きが顕著になったようで、デニー県政誕生は当たり前の事なのだろう。さらに、沖縄県の国政選挙においては、今やどこの都道府県にも負けない野党優位の政治的な基盤を創りだしており、アメリカに追随する安倍政権にとってアキレス腱となって辺野古や米軍基地問題の解決を迫ってきている。
沖縄は、日本の衰退とは無縁の新しい「くに」へと変貌
何よりも私が注目したいのは、少子化とは無縁と言ってよい程、出生率が高い事だろう。合計特殊出生率は1,9台とほとんど2に近く、人口減少は全く問題ない。これからの日本で、唯一安定した定住人口が望まれる沖縄は、もしかすると本土の退職した高齢者の安住の地になる可能性すら秘めているのかもしれない。そのまえに、余りにも理不尽な本土の住人の基地問題に対する無理解から、独立論すら出てもおかしくない状況になる可能性すら否定できない。
北海道に住むわれわれには、なんとも気になる沖縄の状況ではある。
誰が社会保障改革の旗振り役になるのか注目した組閣人事だが、
やはり経産省主導の社会保障切り捨ての道だったのか
今度の改造内閣で私自身が一番注目したのは、誰が社会保障改革の旗振り役をするのか、という点であった。本来なら厚生労働大臣が担当大臣になるわけだが、今度の組閣ではあえて社会保障改革担当大臣を設置して担わせるという。私自身は、小泉進次郎氏がなるのではないかと想像した、というより、そうなって社会保障改革をやらせてみたかった。こども保険の導入など、社会部会長としての経験とセンスの良さもあり期待したのだが、結果として西村康稔氏が経済財政政策担当大臣と兼務で担う事となってしまった。
やはりこの人事には背後には、経済産業省主導で社会保障改革を推進していく、という決意が感ぜられ、社会保障が新自由主義の荒波にもまれ続けてしまうのではないか、とすら感ぜられて仕方がない。もちろん、安倍総理付きの経産省から出向中の今井尚哉主席秘書官等の存在があるのだろう。もっとも、西村大臣自身も経産省のキャリア官僚の出身なのだ。まさに、安倍政権の社会保障改革を象徴するような配役になっている。これからの日本の社会保障の行く末が案ぜられ、実に心配である、
肝腎の厚生労働大臣については加藤信勝氏が就任しており、今後西村氏が進める社会保障改革(悪)をどう厚労省内で後押ししていける状況を創りだしていけるのか、おそらくポスト安部を狙う加藤氏としてもここが正念場となるに違いない。社会保障の充実・強化を進めようとする厚労省(官僚)と、それを市場原理の基づいて縮小・弱体化させようとする官邸・経産省との闘いがこれから始まるのだろう。背後には、経団連をはじめとする経済界の存在があるだけに、本来であれば社会保障充実の先頭に立つべき労働界の、今後の闘いが気になるところではある。
社会保障改革の行方こそ、国民生活の根幹をなすだけに、これから始まる経産省主導の市場原理主義に基づいた医療・介護・子育てなど、格差社会をますます進展させることが予想されるだけに、社会民主主義の理念を持った政治勢力はしっかりと警戒をし、反対の狼煙を上げて行かなければなるまい。
台頭する菅官房長官の存在感、史上最長の官房長官の行方は
それにしても、今回の内閣改造と並行して自民党の役員人事の行方にも色々とあったようだ。それは、幹事長である二階氏を交代させるべきだとする声と、二階氏を交代させれば自民党内に波乱材料となって安倍政権にダメージを与えることになり、二階氏を留任させるべきだ、という意見とがぶつかり、結果として二階幹事長の留任となったとの朝日新聞報道(9月13日電子版石井潤一郎記者)がある。変えるべきだとする側に麻生財務大臣が、変えるべきではないとするのが菅官房長官と閣内の実力者の意見が分かれたようだ。もちろん、そこにはポスト安部を睨んだ暗闘が繰り広げられてい事は間違いあるまい。
そういえば、今回の入閣のなかには「無派閥」という実質的には「菅派」と目される方達が多かったわけで、菅官房長官の継続こそ今回の内閣改造・自民党人事の一番の肝腎なポイントなのかもしれない。内閣人事局によるキャリア官僚の人事を完全に掌握し、各省庁に関係する団体にも触手を伸ばしている事は間違いないわけで、ポスト安部を視野に入れたこれからの動きから目が離せなくなりつつある。菅官房長官とは政策的立ち位置が異なると思っていた小泉進次郎環境大臣も、菅官房長官に対して「絶えず闘っているイメージ」と、前向きな評価をする発言が報じられ、「あれ、小泉氏も隠れ菅派だったのか」と一瞬思ってしまった次第である。もっとも、政治の世界を生き抜いていく為には、表現はあまり適切ではないが「韓信の股くぐり」も、時には必要なのかもしれないのだが・・・・。
コープさっぽろ、キャッシュレスのポイント還元対象から除外は納得できない
消費税の引き上げに合わせて、キャッシュレスで購入すれば中小企業等ではポイント還元される糊塗になる。還元率は、2%と5%とに分かれるが、何れも中小企業が対象となる。何のためにこうしたことが行われるのか、消費税引き上げに伴う景気変動を和らげるため、と政府は主張しているが、本音はキャッシュレス経済を進めたいと考えているようだ。何よりも購入履歴というビックデータを収集できることの魅力を強く持っているようで、当初は今年10月から来年6月まで、としているが、果たしてそれで一件落着とはいかないといわれている。
経産省とは何度も適用になるとの確認を得ていたのに、何故だ?
そうした中で、コープさっぽろが対象企業から漏れてしまった、というニュースには驚かされた。中小企業という枠ではないものの、協同組合としてポイント還元の対象にはなると考えて経済産業省に申請したわけだが、コープさっぽろは規模が大きく、実質的には大企業と同視できる事業規模だとして対象外になったというわけだ。この間の経過について、日本経済新聞9月10日付電子版によれば、9日に札幌市のコープさっぽろの本部を訪れた経産省担当者からは「条件は満たしている」と説明を受けていたようで、コープさっぽろ側の不満は強かったようだ。特に、コープ側は適用になるのかどうか、再三確認してきて準備もしてきたようで、経産省側からの通知が遅すぎると指摘している。
問題は、こうした判断が主観的になされている事にあるわけで、前号でも触れた泉佐野市の「ふるさと納税の適用除外」と同じ問題を、今度は経産省が「コープさっぽろ」で仕出かしたとしか思えない。コープ側からの問題の提起が国に対して行われてしかるべきだと思うのだが、今のところそうした動きは出ていない。
租税の三原則、「公平・中立・簡素」はどこへ行ったのか
それにしても、今回の消費税引き上げに便乗したキャッシュレス化の動きには、あまりにも複雑すぎる対応となっている事は前号でも触れた。同じ指摘が、15日付けの日本経済新聞に大きく取り上げられている。「公平・中立・簡素」という原則は、租税について必ず触れられるわけだが、複数税率の導入は、今回は食料品と新聞代だけとなっているが、時間と共に必ず他の業界のロビイング活動が毎年の税制改正時期に繰り広げられ、次々に適用対象が拡大していくことは必至だろう。租税特別措置がいい例である。
軽減税率は「第二の租税特別措置」化して、ロビー活動が蔓延
キャッシュレス化の動きも、同じ道を辿るのでは?
キャッシュレスによるポイント還元についても、それが今年10月から来年6月末までの9か月間で終了するとは思えない。きっと、色々な口実をつけて延長されていくに違いない。そのことによる財政の支出が許されるほど日本の財政は余裕は全くない。だが、政治家の行動は、そんなことお構いなしに「無理が通って道理が引っ込む」世界が展開されていく事にある。後の時代の国民は、こうした平成から令和にかけての消費税率引き上げ劇のバカさ加減を、どう思うのだろうか。同世代に生きたものの一人として、その事を強く警告しておきたい。