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労福協 活動レポート

2019年9月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第113号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

アメリカ大企業のCEO、株主主権優先ではない企業統治を提案へ

いつも真っ先に読む日経紙の名物コラム「太機小機」だが、21日には「日本的企業統治の時代か」と題してペンネーム(鵠洋)氏が書かれた記事が目にとまった。そこには、コーポレートガバナンスについてアメリカの著名な経営者たちが最近「会社の目的とは何か」について提言し、5つの主要目的を上げている。その第一番目が「顧客への価値の配分」、2番目が「従業員への投資」で、「株主への長期的価値の創出」は何と最後の5番目だったという。

同じ事例を9月28日付「週刊東洋経済」最新号の「ニュースの核心」欄で、大崎明子記者が「株主第一主義からの脱却はなぜ必要か」と題して取り上げている。

ともに、日本のコーポレートガバナンスのあり方が、これまで株主第一主義に徹し、結果として富裕層の利益の拡大につながり格差拡大を齎しているわけで、日本の政治家はもちろん、経済界のリーダーたちに警鐘を乱打しているわけだ。

欧米経営者は、働き方改革や持続可能な開発目標達成に努力!!

アメリカの有名大企業のリーダーたちが、何故こうした声明を打ち出すに至ったのだろうか。鵠洋氏は欧米の経営者たちが、働き方改革や「持続可能な開発目標(SDGs)」のためには、取り引き先や従業員を重視する事の重要性に気が付いたのではないか、という指摘をしている。はたして、そうしたシェアホールダー重視から多様なステークホルダー重視へと経済界全体の価値観を変えて行けるかどうか、今後の大きな課題なのだろう。

日本のコーポレートガバナンスコード、株主第一主義が露骨だ

日本の場合、コーポレートガバナンスコードを策定したが、経産省の「実務指針」が前面に出ていて、実際には株主第一が前面に出ている事は間違いない。大崎記者の論文の中では、「伊藤レポート」で「8%を上回るROE」を企業は約束すべき、として企業コスト抑制に走らせている事を指摘している。国際社会におけるコーポレートガバナンス改革の流れに追いついていない事の是正が急がれる。(「伊藤レポート」とは、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトで、座長が一橋大学の伊藤邦雄教授が務め、平成26年公表されている)

もっとも、鵠洋氏の指摘するように、企業の獲得した成果をどのように評価し分配するか、なかなか難しい問題だと指摘する。そこでは本来であれば労働組合の存在が極めて重要になるわけだが、肝腎の労働組合の力が弱体化させられている事こそ大問題なのだと思う。その事をどう打開できるのか、先進資本主義国の労働組合の一つの大きな課題ではある。

株主第一主義からの脱却は、マクロ経済政策と整合的だ

大崎記者の記事では、アメリカのCEOたちにとっても、格差の拡大、中間層の消滅の問題は無視し得なくなっている、と推測するとともに、「株主第一主義からの脱却」はマクロ経済政策としても意味があることを指摘する。下請け、従業員、税に回る分を増やしていけば、消費や投資が活発化し結果的に経済全体の拡大が期待できるというわけだ。今進んでいる富裕層重視で分配されたとしても、その多くは消費よりも貯蓄に多く回るだけであり、今日の先進国が抱える需要不足に拍車をかけるだけなのだ。挙句の果ては、バブルとバーストの繰り返ししかもたらさない。現に、世界の市場ではバブルの崩壊が近いのではないか、と予測する記事が増え始めている。

最近の金融市場における常軌を逸した行動こそ、資本主義末期だ

更に大崎記者は、最近の金融市場での常識はずれの状況について厳しく批判を展開している。企業は低金利で社債を発行し、将来の成長ではなく自社株買いに充てて高い株価を維持し、機関投資家はマイナス金利の債券を更なる値上がり益を狙って買い、株式も配当利回り狙いで買うという金融市場本来の姿とは逆転した現象が起きていると厳しい。資本主義の末期的な姿が目の前に現れているわけだ。

日本のコーポレートガバナンスの改革は急務であり、日本の経済界の代表たちはアメリカの有力大企業のCEO達の声に耳を傾け、資本主義を救済するためにもマクロの立場にしっかりと立ってほしいものだ。

是枝裕和vsケン・ローチ対談「”家族”と”社会”を語る」に感動

9月17日放映のNHKのクローズアップ現代で映画監督是枝裕和さんとイギリスのケン・ローチ監督との対談、「”家族”と”社会”を語る」を見た。「誰も知らない」「万引き家族」など、多くの社会が抱える深刻な問題を、映画を通じて訴えてきた是枝監督が、今月開催されたベネチア映画祭で最新作「真実」がオープニング上映されるほど国際的に高く評価されてきている。その是枝監督が海外で制作していた「真実」の完成間際、「最も尊敬している」と語るイギリスの巨匠ケン・ローチ監督(83歳)を訪ね、二人の初めての対談が実現、武田真一キャスターの是枝監督とのイントロ対談も加わって30分間の番組は、あっという間に終わってしまった。もちろん、多くの考えさせられる社会問題が両監督によって語られており、非常に感動的で印象深い「クローズアップ現代」となっていると思う。

以下、引用が多くて恐縮だが、見逃した方もおられると思うので是非参考にしていただければ、と思う。

ケン・ローチ監督の最新作「家族を想うとき」にみる「働き方」

ケン・ローチ監督の作品で言えば、「わたしは、ダニエル・ブレイク」しか知らなかったのだが、最新作で今年12月に公開される「家族を想うとき」の一部が番組で描写されていて、今の日本でも問題になっている「働き方」が取り上げられ、ローチ監督は次のように述べておられる。

「多くの人々が今や不安定な雇用状態に置かれています。1週間先の労働時間も給料も分からないため、映画の主人公のように自転車操業を強いられているのです。この映画で描こうとしたのは、こうした『労働者が、本来持つべき力を失っている現実』と、それが『家族に与える壊滅的な影響』です」

是非とも見なければ、と思うと同時に、次のローチ監督の言葉を聞いて、私自身がネットショップから書籍などを購入してきた事の背景に、こうした労働力を低賃金で搾取している事や、ガソリンの浪費につながっていることを痛感させられた。

「ネットで買った商品をガソリンを浪費して配達してもらう生活は、永遠には続けられません。このままでは、労働者も壊れてしまいます。そもそもこうなったのは、大企業の間の激しい競争が原因です。少しでも儲けようとすれば、安い労働力が必要です。こうして労働者の立場がますます弱くなってしまったのです。」

両監督作品へ右側勢力からのバッシングが続くイギリスと日本

こうした両監督の作品に対して、イギリスでも日本でも右翼的勢力から激しいバッシングが繰り広げられている事も対談で語られている。イギリスでは保守系メディアから「国の助成金をもらいながら、反イギリスの映画を製作した」という批判であり、是枝監督の作品にも「日本の恥部をさらすな」「反日映画だ」という批判が繰り広げられているという。これらの点について、両監督の激しくも生々しい発言を引用しておこう。

ローチ監督「私も『お前は国の敵だ』とかいう批判を受けています。なぜなら、社会を支配している者たちにとって、自分たちの利益こそ国益だからです。実際は、人々の労働力を盗んで豊かになっているのにね」

是枝監督「今おっしゃられたように、実際に不正をして搾取をしている人は誰なのか、というところになかなか目が向かないように、イギリスもそうかもしれませんが、日本はなっています。それはメディアを巻き込んで、今の政府が非常に上手に自分たちに批判が向かないようにしているからだと思います」

今必要なことは「弱者が力を持つこと」、社会変革への第一歩だ

対談では、映画の作り方の工夫や二人の作品に対する感想などが熱っぽく語られ、最後に印象に残ったのはローチ監督の次の言葉である。

ローチ監督「私は、映画を通してごく普通の人達が持つ力を示すことに努めてきました。一方で、弱い立場にいる人を単なる被害者として描くことはしません。なぜなら、それこそ正に、特権階級が望む事だからです。彼らは貧しい人の物語が大好きで、チャリティーに寄付をし、涙を流したがります。でも、最も嫌うのは、弱者が力を持つことです。だからこそ、あなたが映画で示してきたことは、重要なのです。私たちには、人々に力を与える物語を伝えて行く使命があると思います。自分たちに力があると信じられれば、社会を変えるかもしれないのです。」

何とも言えない最後の言葉こそが、この両監督の思いを鋭く表現していたのではないか、今後とも、弱い者が力を持てるような今の社会を鋭く告発する映画を作り続けて欲しいと思いつつ、あっという間の30分間が過ぎ去って行った。12月に上映されるケン・ローチ監督の最新作「家族を想う時」を、是非とも見に行きたいと思う。(引用文は、NHKウェブから)


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