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2019年10月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第117号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

先進国がジャパニフィケーション化し始めた今、日本経済を診る

日本経済は、バブル崩壊後の1990年代末から金融危機を契機とする経済的停滞と物価上昇が停滞するデフレ状況に陥り、先進国の指導者や専門家からは問題児扱いされ続けてきた。ところが最近では日本経済と同様に経済成長率が低迷し、常識では考えられない程の金融緩和を進めたりマイナス金利政策を採ったりしても、2%のインフレ目標を達成することができなくなってきており、世界の先進国(特にEU)が「ジャパニフィケーション(日本)化」したとさえ言われ始めている。アメリカにおいても同じく、長期的な経済停滞が問題視され始めている。今回は、こうした経済・財政・金融の現状について、何が問題になっているのか、日本の直面する経済的な問題について検討してみたい。

財政の持続可能性を失う危機に直面、だが安倍政権は危機感ゼロ

確かに日本は少子化と共に高齢化も世界の最先端で進み始めており、財政赤字の累積額はグロスで見て1,000兆円を突破し、GDP比で約240%に達するにまで至っている。とりわけ日本の財政は、毎年の税収の範囲内で一般歳出を賄うことができず(基礎的財政収支=プライマリーバランスが赤字)、毎年支出超過する財政赤字を新規国債で以て賄い続けており、このままいけば持続可能性がなくなるところにまで至っている。いや、すでに日本の財政は、持続可能性を喪失していると見る専門家さえいるのが現実だ。

「アベノミクス」の金融政策破綻、誰も責任を問わない現実

安倍第2期政権は、「アベノミクス」と称する経済政策を打ち出し、2%のインフレ目標を実現するべく日銀に超金融緩和策を執らせてきた。当初2年で実現すると息巻いていたはずが、6年半を過ぎようとしているにもかかわらず、一向に2%の目標は達成できていない。効果がないとわかりつつ、変わり映えのしない金融緩和政策を日銀は継続してきている。この目標達成できなかった事に対して、黒田総裁以下だれも責任を取っていないし、安倍総理を始め与党内でデフレ脱却に向けて金融緩和を強調していた政治家達も、黙して語らなくなっているのが現状だ。ましてやリフレ派と称する専門家達は、この事態についてどのように考えているのだろうか。

財政と金融を担当している麻生財務・金融担当大臣に至っては、「そろそろ2%のインフレ目標にはこだわらないで良いのではないか」等と嘯いている始末である。総じて、与党だけでなく野党側も、こうした点についての追求力が乏しいと感ずるのは小生の思い過ごしだろうか。経済界にとっては、金融緩和による円安、株高によって輸出中心の製造業大手企業には心地よい環境にあるのだろう、材界主流の方達の声は大きな批判となって政権側にクレームをつけるには至っていない。

日本の財政、ゼロ金利政策によって財政赤字対GDP比率安定へ

もう一つの柱であった効果的な財政政策についても、大きな成果を上げることなく、プライマリーバランスの黒字化目標を、当初の2020年から2025年へと先延ばしをするなど、国の財政は赤字まみれの酷い状態にある。2013年に民主・自民・公明の三党合意で約束した消費税率10%への引き上げも、2014年10月の5%から8%への引き上げまでは何とか進めたものの、2015年4月に予定した8%から10%への引き上げは2度にわたって延期され、ようやく今年10月から10%への引き上げにたどり着いたことは、前号でも指摘したとおりである。当初の予定では、2015年4月に実現していなければならなかったわけで、政権維持のための選挙対策として消費税引き上げ延期を二度にわたって利用し尽くしたのだ。

消費税10%へ引き上げ、やりきれない気持ちで10月1日を迎える

先週末、当時社会保障・税一体改革を担当していた厚労省OBの方と久方ぶりに札幌で懇談し、10%に引き上げられたことの感想を求められた際、おもわずそうした思いが爆発してしまった。すなわち、三党合意になかった食料品・新聞についての軽減税率の適用や幼児教育無償化という変更を経ながらの10%への引き上げであり、安倍政権によって三党合意の精神は大きく傷つけられながらの二けた税率への到着である。1989年4月に消費税率3%導入から30年、ようやく10%への到達だったことを、自社さ政権時代や民主党政権の時代に税制を担当してきたものの一人として、何ともやりきれない気持ちで受け止めざるを得なかった。

財源の展望なき「全世代型社会保障」を語る事の無責任さ、空しさ

しかも安倍総理は、10%から先の引き上げは「当分必要ない」という態度であり、ただでさえプライマリーバランスの赤字が続いており、さらにこれからの少子・高齢化の進展を考えただけでも、社会保障に係る財源はますます必要となることは間違いないわけで、財源の展望なき「全世代型社会保障」のための委員会を設置して今後の社会保障のあり方を打ち出そうとしている事に、腹立たしさを覚える毎日である。

経済成長率(g)が国債金利(r)を上回る時代は何時まで続くのか

こうした安倍政権の出鱈目な姿勢が罷り通っている背景に、国の財政赤字が意外に悪化していないという指標が指摘されている。それは、累積債務総額の対GDP比率が2013年以降、横ばいないしは微増で留まっている事にある。その背景には、経済成長率(g)と金利(r)の関係についてそれまではg<rだったものが、2013年以降はr<gへと逆転しているのだ。下記の図表を参照して欲しい。(この図表は、日本経済新聞10月7日「経済教室」において、ブランシャール氏と田代毅両氏作成の物である)

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つまり、財政赤字の累積額の伸びよりも日本経済のGDPの伸びの方が大きいために、GDP比でみた累積赤字の比率が横ばいないしは微増にとどまっているのだ。かくして、安倍政権はGDP比の財政赤字を増加させていない事を強調し始め、プライマリーバランスの黒字化をあまり取り上げなくなっているわけだ。

黒田日銀の超金融緩和政策による金利ゼロ(マイナス)も影響か

考えなければならないのは、これまでは経済成長率よりも利回りの方が高かったという事実であり、上の図においても2013年以前においてはそれが示されている。2013年の黒田日銀による異次元の金融緩和政策によって長期国債金利がゼロに抑え込まれている事を無視するわけにはいくまい。

さらに、こうした「経済成長率(g)>金利水準(r)」という姿が、未来永劫続くという保証があるのかどうか、という点である。もし一転して「g<r」になった場合、日本の財政は今のままでは持続可能性を喪失する事は確実であろう。それを阻止するためには、増税と歳出削減する以外にない。第2次世界大戦の敗北直後の日本財政が陥った難局が、われわれ国民生活を破壊していったことを思い出して欲しい。そうした危険性を孕んだまま、「今さえよければ、自分さえよければ」という考え方が広がり、危機感を持たないまま進んでいる現実に恐ろしさを強く感ずる今日この頃である。

広がり始めたMMT理論、これからどう拡がりを見せるのか???

こうした中で、MMTなる経済理論が日本だけでなく国際的にも議論され始めている。MMTとはModern Money Theoryの事で、現代貨幣理論とでも訳することができるのだろう。あまり、この分野に通じていないのでまだ十分に咀嚼できていないのだが、アメリカ政界ではサンダース上院議員やオカシオ・コルテス下院議員などがMMT理論を武器として政策形成をしてきたことが注目されてきた。日本においても、反緊縮政策を唱える方たちによって問題提起され、前回も問題にした「れいわ新選組」の山本太郎代表が消費税反対の論拠として取り上げてきている。それ以外にも、自民党内にまでMMT支持者が広がりつつあるようだ。

消費税反対、財源不足は国債発行で、インフレ起きれば増税へ、
では、ストックのインフレ(バブル)にどう対処するのか

詳しく検討するのは次回以降に譲りたいが、消費税の引き上げに対して全面的に反対の立場であり、財源が不足したとしても国債発行で賄えるし、日本政府の発行する国債は、日本円をいくらでも発行できるのでデフォルトを起こさないと断言される。一番の問題はインフレで、インフレが起きれば増税してインフレを鎮静化させればよい、という主張などが目に入ってくる。

はたして、インフレが高まってきたから直ぐに増税に切り替えます、と言って直ちに引き上げられる政治的環境にあるのだろうか。それと同時に、インフレと言っても、フローのインフレは鎮静化していても、ストックのインフレ、例えば株式や土地、さらには様々な金融商品(例えばサブプライムローン証券)の価格が上昇する事への対応が一番の問題なのだが、このMMTを支持する方たちの発言には、こうした問題は除外されたままである。

権利としての社会保障は、国民全体で支えあう事により実現へ

財政の持続可能性(サステナビリティ)だけでなく、実現可能性(フィージビリテイ)においても、信頼できる理論とは言えないと思う。「左派」と称する方たちがMMTを取り上げられ、社会保障の財源を充実させると主張されているわけだが、社会保障は国民全体が「連帯」して支えていくべきものであり、その際、社会保険料であれ税であれ、国民全体が負担をすることによって「権利としての社会保障」が実現する事を見失ってはならないと思う。

消費税は社会保障財源として適切ではないのでは、という質問

最近、私の友人たちから「消費税について貧困層からも税を取るのはやはり問題ではないか、税金は富裕層から多くとるべきで、累進所得税や資産税などをもっと強化すべきではないか」という主張を聞くことが多い。たしかに、累進所得税によって多くの所得を得る人達から多くの税を取ることも必要であることは確かで、民主党政権以降には最高税率を引き上げてきたこともある。最高税率40%から45%へと引き上げたわけだ。

この5%の税率アップで税収増は350億円×5%=1750億円でしかない。最高税率を払う人たちが少ないことを反映しているわけだ。さらに、最高税率を引き上げたとしても、1兆円税収増にするには30%アップして70%にまで高める必要がある。それでも、1兆円で社会保障に係る税負担支出額30兆円には程遠い。さらに、資産税の強化も賛成ではあるが、固定資産税でも約10兆円でこれは地方税である。相続税の強化も少し進んだのだが、それでも税収額は単年度で2兆円足らずでしかない。

国民みんなの税負担で社会を支えていくのが近代租税国家では

こうして、富裕層にだけ大きく税負担を負わせていくとどのようになっていくのだろうか。国民の中で「連帯」ではなく、「分断」が進展し始め、社会保障という国民全体で支えていくべき課題が、うまく機能しなくなる危険性を孕んでくる。やはり、税として納めるべき時は応分に皆で納め、予算の面で社会保障や教育の充実でもって貧富の格差解消につなげていくという視点が重要になってくると考えるべきだろう。法人税はどうなのか、これまた大問題なので、次回以降に回していきたい。


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