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労福協 活動レポート

2019年11月11日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第120号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

40年前の大平研究会、中長期の青写真作りは日本政治社会の財産だ

日本経済新聞11月4日のオピニオン欄には、2つの論者の寄稿が出ていて、いずれも興味深いものだった。1つは、「核心」で、論説フェロー芹川洋一氏の書いた「今再びの大平研究会」の記事、もう1つがFT(フィナンシャルタイムス)のUSポリティカル・コメンテーターであるジャン・ガネシュ氏の書いた「移民と福祉は二律背反か」という記事である。

最初の芹川氏の記事は、1970年代後半に故大平首相が作った9つの政策研究会について書かれたものである。大平内閣が発足した1978年の12月からすぐにスタートしたようで、9つの研究会が翌年の3月までに相次いで始まっている。最初に出来たのが「田園都市構想」(梅棹忠夫議長)、次いで「環太平洋連帯」(大来佐武郎議長)「家庭基盤充実」(伊籐善市議長)「総合安全保障」(猪木正道議長)「文化の時代」(山本七平議長)などがスタートする。それらを牽引したのは佐藤誠三郎、公文俊平、香山健一の3氏だったが、周知のように香山氏は60年安保闘争の全学連の闘士だったし、佐藤誠三郎氏も一時マルクス主義の影響を強く受けていたことはよく知られている。

戦後左翼知識人、転向による保守政治のブレーン化が進む

その後、こうしたマルクス主義の影響を受けていた多くの左翼知識人が、左翼陣営から離脱し右傾化・保守化が進展する。70年代は、保守の復権の時代であり、かつて石田博英氏が危惧した労働者の増大による社会党支持が自民党支持を上回るという見通し(1968年頃には逆転すると予想)が、見事に覆ってしまったわけだ。背景として、村上泰亮氏の指摘した『新中間大衆』論の存在がある。

私自身、1970年代後半から進むこうした保守陣営の知的作業を観ながら、革新と言われた社会党や共産党が太刀打ちできないのではないか、という思いを感じていた。そうした中で、前号でも述べたように1980年のポーランドの「連帯」の動きが出てソ連を中心にした社会主義陣営の行きづまりを痛感させられ、それまでのマルクス主義への疑問を持ち始める契機となった事を覚えている。左翼陣営の学者や専門家達の知的水準が、保守陣営に比較して劣化し始めていたのかもしれない。少なくとも、社会民主主義の潮流が余りにも日本では存在感が薄かったことだけは確かである。

APECや日本型福祉社会論の提起となって多くの政策が実現へ

話を元に戻そう。こうした大平総理を中心にした報告書は、後にAPECや日本的福祉社会論などへと連なったわけで、大きな政治的財産を残された優れた政治家だったと密かに尊敬していた。今の時代の日本の政治にとって、人口減少時代へと大転換し、米ソの冷戦から米中の新しい対立が生まれ始めているわけで、大平総理が求めたような新しい時代の「中・長期的なビジョン」が必要になっている事は確かだと思う。しかも、その作業こそは日本の将来を考えた時、緊急を要する最重要な課題であると言えよう。

野党側に求められる中長期的な政策ビジョンづくり

特に、野党側は、安全保障問題における「日米同盟」対「非武装中立」が、憲法改正と憲法擁護とあいまって、「保守」と「革新」の分水嶺だった時代から、どのように自民党・公明党連合政権に対峙していくべきなのか、その中長期的なビジョンが問われていると思うだけに、そうした作業をどこかで進めていくべきだと思えてならない。野党側の努力がないまま、安倍1強体制が続けば、与党側も安穏として知的努力を怠り、気が付けば日本の政治・経済・社会は世界で誰からも相手にされない「三流国家」に成り下がってしまいかねない。ここは、政治に従事する者は、与野党を問わず、かつての大平総理が目指した努力をもう一度実現するべく頑張って欲しい。

日本的資本主義から「公共選択学派」そして新自由主義路線へ

もっとも、佐藤誠三郎氏や公文俊平、香山健一氏らが目指そうとした「日本的」資本主義が、中曽根内閣による「第二臨調」によって「公共選択学派」の流れを汲む加藤寛氏らによって変質させられ、やがては小泉内閣の下での竹中平蔵流の新自由主義的な改革に投げ込まれ、いまや混迷の状況にあるわけだ。その立て直しに向けた知的ヘゲモニーを、誰がどのように創り上げて行けるのか、政治の大きな課題になっているように思われる。その意味でも、日本は課題先進国なのかもしれない。

MMT理論の「れいわ新選組」ポピュリズムとどう対処するのか

いま、参議院選挙の闘いを通じて、「れいわ新選組」が台頭し、山本太郎代表はMMT理論を背景に、反緊縮政策に転換するため、消費税の減税を旗印にして次の総選挙での野党結集を呼び掛けている。それに呼応する野党の一部政治家達の動きも出始めているようだ。こうした動きが出る時、是非とも大平総理が示した「知的な政策づくり」という手法を取る必要があるのではないか。きちんとした理論的なバックボーンと日本が直面している切実な課題とを如何に融合していけるのか、今野党陣営に問われているのはその事なのだろう。ポピュリズムとのしっかりとした対峙ができる政治勢力が必要なのだ。少なくとも、MMT理論なる物に対して、どのような立場を取るのか、様々な英知を結集して現代社会分析に必要な政策思想を確立して欲しい。

アメリカ社会の変化が生み出すコスモポリタン的な社会民主主義

第二番目に挙げたジャン・ガネシュの「移民と福祉は二律背反か」は、アメリカ社会の変化について書かれている。それは、サンダースやウォーレンという民主党の大統領候補が「移民を受けいれながら政府の役割を拡大させようとしている」事を重視している。背景には、民主党支持者の中でも労働組合の影響力が強かった時に比べ、移民に批判的ではなくなっているのだという。さらに、「経済についていえば、米国民は開拓者精神を持った個人主義者だと昔から言われてきたが、実は今や大半がもっと左派的な考え方をするようになった事がよく知られている。実際、左派の政策の多くが幅広い支持を集める。」という指摘には軽い衝撃を感じた件である。

一方、トランプが大統領になって以降、移民排斥の世論が幾分弱まっている事が余り報じられていないと述べている。ガネシュは、もしかすると福祉政策と移民受け入れに対する国民の考え方は「合流点が近い」のかもしれないと見ている。今、アメリカ経済が10年以上にわたって好況を持続させている事が、そうした移民排斥の世論が弱まっている要因なのかもしれない。案外、中国との貿易・経済対立によって、排外主義的な感情が一点集中し始めているのだろうか。今後のアメリカ政治の行方から目が離せない。

民主党ウォーレン候補の増税vsトランプは減税、日本では???!!!

それにしても、そういうコスモポリタン的な社会民主主義が広まる絶好の歴史的なチャンスを、アメリカは大統領選挙で勝ち取る可能性が高まっている事は確かなのだろうか。是非とも、民主党の大統領奪還に向けて頑張って欲しいものだ。そんなことを読んでいたら、同じ4日付の日経紙に民主党ウォーレン氏が皆保険構想を提起し、「米企業・富裕層6兆ドル増税」という見出しが飛び込んできた。一方のトランプは減税を検討する方向だという。さらに、名指しされた富豪からの反論も出始めており、これから1年間、アメリカ大統領選挙の中で繰り広げられる論戦がますます面白くなってきた。

それに引き換え、日本の政治の現実を顧みる時、全ての政党の政策が程度の差はあれ、「減税」の大合唱になることが多いだけに、アメリカの政治のダイナミックスな動きに驚きを感ずる今日この頃である。


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