2020年1月6日
独言居士の戯言(第127号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
今年も、どうぞよろしくお願いします。
3冊の本を読み始めた新年、MMT入門書だが、500ページのボリュームに圧倒される
さて、この1週間の正月休み中の読書から始めたい。昨年末から読み始めたのが、L・ランダル・レイ著『MMT現代貨幣理論入門』(2019年9月、東洋経済新報社刊)、樋口陽一著『リベラルデモクラシーの現在』(2019年12月、岩波新書)、そして加賀乙彦著『永遠の都1~7』(新潮文庫電子版)である。ランダル・レイの『MMT』と樋口教授の『リベラルデモクラシーの現在』は、なんとか一通りは読んだのだが、まだまだ読み込み不足で十分に頭の整理は出来ていない。何とか書評や「読書ノート」が書けるまで持って行きたいと思う。とくに、『MMT』については、今後の政治の展開の中で必ず政策論として大きく取り上げられる論点を提供しているだけに、急いで整理したいと思いながらも、500ページに喃喃とする大著で、ややしんどくなっている。でも、何とかしてみたい。
樋口陽一教授の『リベラルデモクラシーの現在』は読みごたえあり
樋口教授の著書は、新書版で200ページに至らない低ボリュームなのだが、さすがに憲法学の重鎮、中身はなかなか濃いものだった。印象深い点として、自民党の2012年の憲法改正草案の時代錯誤さの指摘とともに、戦前1910年の日韓併合がアメリカのフィリピンの領有とともに1905年の桂首相とタフト(米)陸軍長官の間の密約によって実現した事実を知らないでいたことだった。私自身が経済学部時代、日本経済史を学んでいながら、なんという恥ずかしいことと思いつつ、加害者の側にいた者はそれだけ歴史の事実に鈍感になっていたのだと反省させられた次第である。
この事実を書いたのがジャーナリストの松尾文夫氏で、2019年2月26日にアメリカで亡くなられている。松尾さんの祖父が2・26事件で岡田首相と間違えられて殺害された松尾伝蔵大佐だったことも驚きではある。松尾さんは2017年に日本記者クラブ賞受賞され、その時にクラブの会報で書かれた内容を樋口教授が紹介され引用がされている。そこでは「日韓合意で決着したはずの従軍慰安婦問題の『再交渉』は避けられないと思う」と指摘され、今日問題になっている諸問題について「醒めた認識」を示していることを取り上げておられる。
偶然手にした加賀乙彦氏著『永遠の都』だが、思わず引き込まれる
最後の小説は1998年に出版されたもので、私自身加賀乙彦氏の小説として初めて読んだものである。戦前から戦中・戦後に至る激動の歴史の中で、愛憎渦巻く人間模様が見事に描かれている。おそらく、自分の家族を中心にした歴史的事実を背景に書かれたものなのだろうが、グイグイと物語の中へ引き込まれてしまっている。何故こうした素晴らしい小説を早く読んでいなかったのか、4巻目をようやく読み切るところまでは来ているのだが、7巻目に何時になったら辿りつけるやら、読書力の衰えを感ずる今日この頃である。
驚いたゴーン元日産会長の日本脱出劇、勝訴も見えていたのでは
元号が改正されて初めての正月を迎えたわけだが、はてさて今年はどんな年になるのか考えている矢先に、保釈中で厳しい条件が付けられていたはずの日産元会長カルロス・ゴーン氏が、東京ではなくレバノンに居ることが分かり唖然とさせられたのが大晦日の事だった。今年の4月頃から裁判が始まるとされていたわけで、名うての辣腕弁護士である弘中惇一郎氏がどんな裁判での闘いを展開するのか、検察側の無理筋を指摘する識者が多かっただけに、ちょっと残念な展開になってしまったようだ。
もっとも、日本の刑事司法については「人質司法」と称され、人権無視の実態が指摘され続けてきただけに、今後ゴーン氏がどのような発言を繰り広げていくのか、世界は注目していくのだろう。私自身、参議院議員時代の2008年、「証拠の標目及び特信情況に関する質問主意書」を提出し、戦時刑事特別法として多くの問題を抱えている事を問題視してきただけに、どのように受け止められていくのか、注目していきたい。
果たして、世界の司法関係者に日本の「人質司法」の正当性を納得させられるのか
ゴーン氏の問題について一貫して検察の無理筋の取り調べを問題視してこられた元検事の郷原信郎氏の最新のブログによれば、今年4月に京都で国連最大規模の「国連犯罪防止司法会議(コングレス)」が50年ぶりに日本で開催されるとのこと。郷原氏も指摘されているように、果たして、日本の法務・検察当局は、ゴーン氏事件を契機に日本の刑事司法に対する国際社会からの批判が高まる中、コングレスに集まる海外の刑事司法関係者に納得できる説明・反論が行えるのであろうか。これまた今年京都コングレスの展開を注目したい。
日本の政治家は、脱出についての背景や事実を説明すべきでは
それにしても日本の政治家の反応がないことを、レジス・アルノ―氏(『フランス・ジャポン・エコー』編集長 仏フィガロ東京特派員)が、1月5日付の東洋経済オンライン電子版で「ゴーン逃亡に沈黙し続ける日本政府の『無責任』 各国の政府関係者はコメントしているのに」と厳しく批判している。確かに、事件が発覚して1週間近く経過した5日午後、ようやく森法務大臣が記者会見をしたわけだが、ゴーン氏の出国が違法で日本の司法検察のあり方も全く問題ないと指摘するだけだった。既に海外のメディアで明らかになっている日本からの脱出についてのかなり詳しい事実についても、国民にはほとんど知らされていない事に唖然とさせられる。法務省にとっては、在ってはならない大失態であるだけに、たんなる出入国管理の強化策だけでなく、国民に対してその全貌を明らかにすべき時であろう。
ゴーン元会長は、世界に向かって日本の司法やコーポレートガバナンス問題など訴え続けるに違いない
今後、ゴーン氏は、世界のマスコミに対して如何に日本の刑事司法制度が非人間的であり、前近代的なものなのかを語っていくだろうし、日産の経営者と経産省、法務省との関係などについてのやり取りなど、詳細に問題を語っていくに違いない。どうやら今回の問題についての詳細な記録を出版することや映画を作成するのではないか、と言ったことも喧伝されつつある。世界の方達は、この問題をどのように受け止めて行くのだろうか。
弘中氏と一緒に弁護団に加わっている高野隆弁護士は、4日、自身のブログを更新し、ゴーン被告が保釈条件を無視して日本を密出国したことに対する心境を記している。ブログのタイトルは「彼が見たもの」。弁護団としてではなく、個人的な意見とした上で「ニュースで彼がレバノンに向けて密出国したことを知った。まず激しい怒りの感情がこみ上げた。裏切られたという思いである」と吐露している。その上で「実際のところ、私の中ではまだ何一つ整理できていない。が、一つだけ言えるのは、彼がこの1年あまりの間に見てきた日本の司法とそれを取り巻く環境を考えると、この密出国を『暴挙』『裏切り』『犯罪』と言って全否定することはできない」などと述べている。問われているのは、やはり日本の刑事司法のあり方なのだ。
戦争への脅威、イラン革命防衛組織の指導者を殺害したアメリカ
2020年の世界も、戦争の脅威に晒され始めているようだ。アメリカのトランプ政権は、中東イランとドイツなどEU3か国との核合意から一方的に離脱したうえ、今度はイラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官をイラクでドローンによる空爆に依って殺害した事が報道されている。ソレイマニ司令官は、イラン国内でホメネイ師に次ぐナンバー2に位置づけられるほどの実力者だっただけに、イランの最高指導者ホメネイ師は、米国への報復攻撃をツイッターで警告している。アメリカトランプ大統領もイラン側に米未来を標的にした攻撃の中止を促し、非核化等の交渉に応じるよう求めたとされている。米国防総省は声明でソレイマニ氏が中東地域で米外交官や米兵を標的に攻撃を企てたことへの「防衛的行動」だとも主張している。アメリカは、既に3,500名の部隊を増強すべく中東へ派遣する事を決定したようで、大規模な戦闘がいつ始まっても良いような戦闘態勢が小袿されるのだろうか。
緊迫化する中東情勢、石油価格上昇、自衛隊も参戦の危険高まるか
この攻撃を機に、中東の情勢は一気に悪化し、石油価格が高騰し始めたり、安全通貨としての円が買われ始めているようで、世界経済にも暗雲が漂い始めている。中東地域に自衛隊を派遣しているだけに、今後どのような展開になっていくのか、アメリカの有志連合には加わらないとは言うものの、中東地域での戦闘が激化し始めれば、日米同盟を盾に日本の参戦すら強引に求められることもないとは言えないのが今の日米関係の現実ではないか。大変危機的な状況すら予測されるなかでの自衛隊の海外派遣が、国会でのきちんとした論議もなく出動した事のツケを払わされてしまいそうな現実に直面させられている。もしかすると、こうした事態を十分に予想するのかで、自衛隊の海外派遣を常態化するべく意図的に派遣したのではないかとすら勘ぐってしまう。
これまた政治家の肉声が聞こえて来ない、安倍総理はゴルフ三昧
いずれにせよ、中東地域を中心にアメリカとイランの軍事的対立の激化は、今後の米中や米ソ、さらには北朝鮮も含めてかつての社会主義陣営の国々との対立へとエスカレートすることも予想されるだけに、EU諸国や日本が国連を中心にした国際的な安全保障の枠組みの下に結集できるよう最大限の努力を求めていくべきだろう。それにしても、日本の政治家の反応が伝わってきていないのだが、どんな対応を取ろうとしているのか、政府の責任者の肉声が伝わってきていない。
正月休みの間に4回もゴルフに興じた安倍総理、一体どうなっているのだ。