2020年1月20日
独言居士の戯言(第129号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
今日から通常国会が始まる、質の高い論戦を期待したい
いよいよ今日20日から通常国会が始まる。会期は150日間で、延長がなければ6月17日までとなる。まず総理大臣の所信表明演説や財政や外交さらには経済と担当4大臣演説が続き、最初は補正予算案の審議から入ることになる。そこで、当然のこととして予算委員会の審議となり、衆参のNHKテレビ放映入りで桜を見る会やIR汚職、さらには河合法務大臣辞任となった公職選挙法や政治資金法違反に対する問題など、スキャンダルだけはテンコ盛りとなって安倍総理の政治責任を野党側は厳しく問う展開になるわけだ。ぜひとも、しっかりと調査活動に裏付けられた質の高い論戦を期待したいと思う。
アメリカ大統領選挙の年、サンダースとウォーレンの対立解消を
今年はアメリカ大統領選挙の年になって、各地で予備選挙に向けて激しい選挙戦が展開されている。再選を目指す共和党のトランプ大統領は、議会での弾劾裁判が始まり、舞台は下院から上院に移ろうとしている。上院では共和党が過半数を超す議席を確保しており、弾劾が可決して大統領の罷免にまでは至らないというのが一般的な見方である。そのトランプ大統領に対する支持は、40%台で一定の支持率を確保しており、米中経済対立なども11月の本選挙での再選を意識した政策を打ち出してきている。
一方の民主党は、バイデン元副大統領が支持率では一番安定しているものの、今一つ盛り上がりを欠いているようで、4年前に善戦したサンダース上院議員と同じく左派のウォーレン上院議員が有力候補として続いている。本来であれば、格差社会の解消など政策的に一致点が多く、私的にも良好な関係にあると見られていたサンダース、ウォーレン両氏なのだが、新聞報道によれば14日アイオワ州デモインで開催された公開討論会会場で、討論が終了後に、未だテレビ放映中二人が「うそつき」と批判の応酬があったという。二人のうちどちらかが候補になれば、ともに協力してトランプに対抗していかなければならないわけで、何ともはや何とかならない物かと思わず頭をひねってしまいたくなる。
日本の立憲民主党と国民民主党の合流頓挫、何を考えているのか?!
こちらは日本の野党陣営の方も、立憲民主党の提唱した野党の合流話が頓挫しかねない状況にある。党名や人事、それに基本政策の変更を求める国民民主党に対して、立憲民主党はあくまで否定的で、結局「合流」とは「吸収」の事なのか、と思ってしまう。こんな調子では、到底野党の結束にまで至らないのではないか、と思えてならない。立憲と国民が元の鞘である「民主党」に戻ろうと対立・混迷しているわけで、国民の側からは何の感動も期待も生まれそうにない。国民民主党内に、立憲民主党への合流を求める一定の勢力が存在しているようで、今後の事態がどのように展開していくのか、全く予想もつかなくなっている。
スキャンダルまみれの安倍政権、補正予算可決後、解散・総選挙も
こうした中で安倍政権は、20日から始まる通常国会で、補正予算を通過させた直後に衆議院を解散する事を目論んでいるのではないか、と予想する向きも出てきている。何を隠そう、そういう考え方をこの通信で述べたことも在り、桜を見る会からIR贈収賄事件、さらには河合元法務大臣夫妻の公職選挙法違反など、スキャンダルが続いているだけに、野党側がまとまっていない間隙をついて、解散・総選挙で一気に安倍政権への逆風を撥ね退けようとするのではないだろうか。もし、冒頭解散でなければ、常識的にはオリンピック後の解散となるわけで、どちらが有利に展開するのか、熟慮しているに違いない。
本来、衆議院の解散権は憲法第69条により、内閣不信任案が提出されそれが可決されるか、内閣信任案が提出されそれが否決された場合、対抗して解散権を行使するというのが正しい憲法解釈なのであり、天皇の国事行為を定めた憲法7条による解散は、違憲だとする考え方こそが当たり前の解釈であるべきだとされる。それが証拠に、新憲法による最初の解散・総選挙に打って出る際、野党側に内閣不信任案を提出させたという歴史がある。その点について、ことも在ろうに最高裁は判断を放棄して今日に至っている。この点について、きちんとした整理をしなければ、自らのご都合主義によって解散権が安易に行使されてしまうわけで、是非とも立法府として対処すべきであろう。
とはいえ、現状では総理大臣には解散権があるという前提で政治が進められているわけで、野党側も解散に対抗できるべく準備を進めて行かなければなるまい。
れいわ新撰組代表、山本太郎『文芸春秋』の巻頭論文を読む
そうした中で、「れいわ新選組」(以下、「れいわ」と略す)の山本太郎代表の動向が注目を浴び始めている。今年になって発売された『文芸春秋』2月号の巻頭論文「『消費税ゼロ』で日本は甦る」を取り上げられるほど注目されているのだろう。最新の情報では、韓国のハンギョレ新聞でも取り上げられているという。今回は、この山本太郎代表の論文を中心にMMTとの関係も含めて私なりのコメントを書いてみたい。
山本代表「今が最も勢いがあると思っています」の背景
今年7月の参議院議員選挙で2名の当選を勝ち取ったものの、上位2名の特定枠に重度の障がいを抱えた方を据えたことにより、100万票近い個人名の得票を勝ち取りながら山本太郎代表本人は落選してしまったわけだ。だが、そのことが逆に山本太郎という人物に対する評価を高めている事も指摘する必要があろう。今の政界の中で、自分の当選を2の次にして戦う政治家がいるという事実に、尊敬の念を込めた驚きの声が政治に関心を持つ多くの国民の中に広く拡大しつつあるようだ。山本代表本人はこの論文の中で「選挙中の熱狂は凄かったとよく言われますが、今が最も勢いがあると思っています」(95頁)と述べているが、私の身のまわりにも「れいわ」に対する支持を表明するインテリ層と思われる方たちが増えている。余りにも自分本位の政治家が多すぎるからなのだろうか。山本代表は選挙後、北海道から沖縄まで全国を飛び回って国民に対する街頭演説会などを開催してきており、多くの国民が駆けつけ熱心な論戦を繰り広げてきている。
何を隠そう私自身も札幌駅前の集会に参加したのだが、数百名の熱心な市民が駆けつけ、山本代表との一問一答形式の議論を熱く展開している姿を見る機会があった。そのスタイルは、もともと芸能界出身だけに今までの政治家のものとは異なり、人々の関心に対して真摯に受け答えを展開するなど、型破りの物と言える。人々の心をつかんで離さないすべを心得ている事は間違いない。
「れいわ」支持率は、落ち込んでいるが、注目は京都市長選だ
もっとも、選挙が終わって半年もたつと国民の関心は日常に戻るわけで、「れいわ」に対する支持率もやや落ち込みかけているようだ。NHKの最新(1月14日)の世論調査によれば、「れいわ」は0,2%と前回に比べてマイナス0,4%と落ち込んでいる。同じ調査では自民党が40%と伸ばし、支持政党なし38,5%と続き、後は立憲民主党の5,4%以下一けた台の支持でしかない。
私が注目したいのは今度の26日が投開票日の京都市長選である。共産党と「れいわ」が推薦する候補と自民・公明・立憲・国民などが推す現職との対決になっている。共産党と「れいわ」は政策面で一致し、こんごの国政レベルでの共闘が進むのだろうが、地方自治体の選挙とは言え政令指定都市であり、この選挙での結果いかんでは「れいわ」が「台風の目」的な存在にならないとも限らないわけで、政治的には重要なターニングポイントになりそうだ。
消費税廃止による国民一人当たり22万円増、生活が楽になる!!!
さて、山本論文の方に移りたい。山本代表は今日の格差社会を招き国民生活を破壊した原因は、国の政策が間違っていたからで、今必要なのは国民の生活を圧迫している消費税を廃止する事だ、と強調する。消費税10%の廃止により平均的国民の1か月分の給料に相当する約22万円が戻ってくるわけで、その分個人消費を増やす効果があり、中小企業も救われると述べている。
足りなくなる財源、「あるところから取れ」=法人税・所得税から
では、足りなくなる財源はどこから確保するのか、「あるところから取れ」という考えに基づき、法人税と所得税に焦点を当てている。特に、法人税については1989年の導入以来の消費税の徴収総額263兆円のうち73%にあたる192,5兆円が法人税減税に充てられており、国民から徴収した消費税分はあらかた法人税の減税に充てられたことと批判する。法人税の減税について、法人は税負担が高いからと言って海外に簡単には脱出しないし、法人が投資しないのは国内需要が落ち込んでいるからだ、と指摘。法人税率を5%から45%の5段階の累進税率にすることも提唱している。さらに、租税特別措置による法人税減税を指摘し、大企業優遇として問題視している。
MMT理論では法人税廃止論を唱える人たちもいることと矛盾
こうした指摘の一つ一つについて論評しないが、MMT理論では、なんと驚くことに法人税は取るべきではないという議論があることを指摘しておこう。また法人税については、私は財務副大臣時代の2010年G20釜山会議で、「G20に結集する先進国だけでも法人税の引き下げ競争を止め、あるゾーン範囲で規制をすべきでは」と提唱したことがある。今でも、そうすべきだと思っている。
法人の内部留保財源、「保育・介護・教育」へ投資を提唱に違和感
私がこの山本論文で一番問題視したいのは、法人が抱えている内部留保400兆円超について、その使い道として「保育・介護・教育」へと投資を呼びかけていることだ。社会保障や教育という市場原理ではなく公的な分野にしなければ国民生活が守れないわけで、その分野に民間企業が投資をしなさいという考え方には大変な違和感を感じてしまったのだ。もっとも、どんな投資内容になるのか、これだけでは良くわからないわけだが、税制や社会保障制度を通じた所得再分配政策を通じて国民生活を安定化させることの重要性を指摘しておきたい。
所得税の総合課税化に立ちはだかる難問、北欧の諸国に学べ
所得税に関しても、総合課税にすべきことを強調しているが、どうやって金融所得を正しく把握するのか、さらに、富裕層の経費として高額な別荘や高級車といった奢侈品を借入して購入することをどう制限できるのか、さらに、海外への所得移転をどこまで正確に把握できるのか、なかなか難問が多い。この点について、福祉先進国としてのスウェーデンを始めとする北欧の税制に学ぶ必要がありそうだ。
不足財源は国債発行で、自国の通貨発行する国はデフォルトしないは本当なのか、
r<gが成り立っているのは金利を抑圧しているから
やはり、足りない財源を国債発行で賄っていけば良い、という点に行きついてしまう。たしか、以前にも問題を指摘したが、国の借金の総額と国の国民総生産額の伸びで、前者は金利(r)の伸びで、後者は成長率(g)の伸びにより変化するわけだが、r>gになれば借金総額が増え続け財政破産への道、r<gなら財政は経済成長によって持続可能な範囲に収まることを指摘した。つまり、唯一の懸念はインフレにあることを指摘するわけだ。その際、トマ・ピケティの名著『21世紀の資本』にあるように、過去数百年間の資本主義の長期的な歴史を調査・分析した結果はr>gであり、結果として資産を持つ者と持たないものの貧富の格差が拡大する事を指摘している。
つまり、MMTは、このピケティの指摘には何も触れず、ここ数年の中央銀行のゼロ金利政策によって人為的に低金利を創りだしている事を見て、インフレが起きていないではないか、日本が良い証拠だ、と指摘しているわけだ。いつまでも、インフレが起きないから大丈夫だ、という保証はどこにあるのだろうか。また、2%を超すようなインフレが起きれば直ちに増税や支出削減によってインフレを退治すればよいではないか、とMMT派や山本氏らは主張する。それが如何に政治的に困難であるのか、政治の現実を知る者には大変な難問として迫ってくるのだ。だが、それだけに今の政界では「今だけ、自分だけ。お金だけ」が支配しているわけで、こうしたMMT理論や山本太郎氏らのポピュリスト的主張が広がらないか、問題視し続けなければならないのだ。
(もっとも、MMT派の言う金利rは国債金利で、ピケティのrは総資産の生み出す金利という違いがあることに注意)