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労福協 活動レポート

2020年1月27日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第130号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

JAL破綻から再生へ、あれから10年経過、朝日新聞記事を読む

日本航空が破たんし、再生されてから今年1月で10年になる。民主党政権になって比較的上手く対処できた数少ない成功事例とされている。朝日新聞の電子版「有料会員限定記事」において、その実像に迫る記事が1月20日から3回にわたって掲載されている。1回目は「資金ショート寸前『飛行機が止まる』JAL破綻10年」、2回目は翌21日「極秘の『JAL倒産シナリオ』辻本氏が打ち明けた夜」、最後の3回目は「大晦日に解雇 V字回復で『JALもうけ過ぎ』批判」と題して、当時の前原国土交通大臣や辻本副大臣などの回想も含めて比較的よくまとまった記事になっている。この中には、私自身も財務副大臣として名前が出て来るが、電話では取材したいとのことだったが残念ながら直接のヒアリングは受けていない。

一度「JAL破綻から再生に向けた出来事」を整理すべき時だったが

おそらく、政権交代前からJALの粉飾決算を始めとする財務問題を中心に、参議院の財政金融委員会を中心にJALの経営のあり方を追求してきたのは、民主党では多分私一人だったと思う。JAL問題が政権交代以降問題になった時、財務省から前原大臣主導のタスクフォースだけでなく日本航空再建対策本部にもメンバーとなって、いろいろと議論に参加してきた。今でもファイル4冊分の資料を残しており、何時かは自分がどんな発言や行動をしてきたのか、明らかにしたいと考えてきた。それだけに、今回の特集でインタビューしたいとの申し出があった時、年末から年始だけども、もう一度資料を読み返してみたいと考えていた。残念ながら、インタビューは取りやめとなったため、今記憶している限りでこの朝日新聞電子版の有料会員限定記事に関係して2点について述べておきたい。10年経てば、守秘義務は時効だろう。

JAL中間決算にむけた政投銀の「つなぎ融資」をめぐる攻防

一つは、JALを法的整理にしながら再生させていくために、政府からの中間決算を乗り切るための資金的な支援をする必要があり、2009年11月8日首相公邸で関係閣僚を集めた会合があり、その場で辻本副大臣から「中間決算をしのぐためのつなぎ融資をするかどうか決めてほしい」と発言したとき、関係閣僚から合意が得られなかった。当然のことながら、日本航空をどうしたら良いのか、関係閣僚の間でもそれほど情報が共有できていなかったわけで、各閣僚の思いがまだしっかりと確定していたとは言えなかった。

そうした中で、「つなぎ融資」ができるのは民間金融機関では無理で、政府系の政策投資銀行に絞られていた。その時、藤井財務大臣は「融資はいいが、政府保障を付けて欲しい」と発言したものの、菅国家戦略担当大臣は「政投銀は政府の支配する銀行であり、政府が政府に補償するのはおかしいではないか」と反論した。それぞれの大臣が論議を重ねたわけだが、その場では埒があかなかった。私は、菅大臣のいう事はもっともだ、と思って聞いていたのだが、藤井財務大臣はあまり反論らしい反論もなされなかった。次の9日、記事にあるように辻本副大臣と松井官房副長官との会合で「日本航空を法的整理をしたうえで再生させる」という方針(私自身、早くからそれしかないと主張していた)が出され、その上で翌10日の関係閣僚会議で「政府が責任を以て日航を支える」という趣旨の合意文書を取りまとめることができたわけだ。

藤井大臣・香川総括審議官(当時)との大臣室でのやり取り

この10日の会議に向けて、財務大臣室で藤井大臣と私、それに香川総括審議官が加わり、どう臨んでいくべきかの議論をしたわけだが、藤井大臣と香川審議官は「政投銀融資に政府保証を付ける」という事に拘っていた。そこで、「8日の官邸の会合で、菅大臣から政投銀の融資に政府保証を付けることはおかしい」「財務省は、自分の省をきれいにすることだけを考えているのはけしからん」という理屈に反論できますか、と私の方から提起し、ここは政投銀のつなぎ融資にたいして、政府保証を付けることなく容認していくべきだ、と主張した。藤井大臣はあまり反論はされなかったが、香川総括審議官はそれでも何らかの「おとしまえ」を着けるべきだと主張していたと記憶する。残念ながら香川審議官は、その後事務次官となられたものの、他界されてしまったわけで今となっては確かめる術がない。

ただ、それ以降香川審議官は、日航問題について私と話し合うことは全くなくなってしまったことが強く印象に残っている。10年前の思い出の一コマである。香川氏なりのJAL再生策と、私の考え方の間のギャップが大きかったからかもしれない。一度、元藤井財務大臣にそのあたりを確かめてみたいと思う。

再生JAL、日本の航空政策の下でのあり方をめぐる攻防

もう一つは、ようやく会社更生法を適用して法的な整理とともに、運航を継続させながらJALを再生させる方向でまとまったわけだが、こんごのJALをどのような航空会社として再生させるのか、とくに全日空との関係をどうするのか、日本の航空行政にとって大きな問題と捉えていた。年が開けて2010年1月の会社更生法適用前だったと記憶するが、官邸内の菅副総理室で開催された会合の場で、私の方から法的整理後のJALは国内線だけとし国際線は1社体制で全日空を中心にしてはどうかと提案した。というのも、法的な整理によって1兆円近い借金を棒引きし、人件費を含めた大合理化によってJALは生まれ変わって優良企業として再スタートを切るわけで、全日空としてはイコールフッティングにならないではないか、という不満が出てくることは当然の事だった。特に、国際線は人口規模1億人で1社というのが国際航空会社の常識であり、日本でも国際線は1社体制で行くべきだ、と主張したわけだ。

国際線1社体制の提案、JALは国内線専用という提起に激怒する前原大臣

この提起に対して、前原国土交通大臣が大声で激怒し、私に対して聞くに堪えない罵詈雑言を投げかけて来て議論が成り立たなくなってしまったことを覚えている。その場には、菅大臣など関係者が多くいたので記憶されている方も多いはずである。確かに、航空行政のあり方という事については、国土交通省の所管であり、財務省の副大臣でしかない小生が提起すること自体に問題があったと言えばそうなのだが、その後「鶴の恩返し」という対応が問題になるなど、一つの問題提起としては十分議論すべき問題提起だったと思っている。

そのご、聞くところによれば前原大臣が稲盛会長に、同じ趣旨の問題を提起されたものの、軽く一蹴されたとの事だった。本人に確かめることはしていないものの、10年前の官邸内での記憶に残る出来事だっただけに、今でも思い出すことがしばしばである。なんとも、面はゆいJAL再生劇の一コマであった。とはいえ、このJALとANAとのイクオールフッティングの問題は、羽田の国際線の割り当てをはじめ、多くの分野で考慮されて来たようで、今考えると国際線1社体制はちょっと無茶な提案だったとはいえ、議論すべきポイントの一つだったのだろう。

中前忠「日米経済の現状と見通し」でバブル崩壊後を予想へ

昨年『メガトレンド 家計ファーストの経済学 消費する力が繁栄を左右する』(日本経済新聞社刊)を上梓された株式会社中前国際経済研究所の中前忠代表から、毎年1月に発刊されている「日米経済の現状と見通し」と題するパンフレットを今年も寄贈していただいた。このパンフレットは、中前代表が講演されたものをそのままパンフレットにされたもので、今年でなんと31回目となる。いつも、日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」に寄稿された10本余りの論稿も付録として掲載されている。議員時代も含めて、送って下さる資料を楽しみにしながら学ばせていただいている一人である。

今回送付していただいたパンフレットで、世界経済がバブル崩壊へと向かいつつあることを指摘、その上で今後5年程度の中期的予測を打ち出されている。特に、アメリカ、中国、そして日本の経済を中心に分析されている。

パンフレットの冒頭で、結論的に4点にまとめておられる。

一つは、世界経済は長期不況に入っており、アメリカは消費バブルが崩壊しゼロ成長へ。中国の工業化バブルもはじけ、世界的な製造業不況が基調となる。

次いで、この長期不況の中でインフレよりデフレになる可能性が大で、その方が消費者にとってはインフレよりも救いだと見る。

三点目として、超金融緩和を長く続けたため、債務・借金が溜まり過ぎ、その処理がデフレ下でデフォルトになりバブルは全面的に崩壊へ。

最後に、バブル崩壊後の経済政策は内需主導しかなく、日本は消費刺激で再生可能、先進国の中で一番先行き明るい展望を持ちうる。

安倍政権よりも民主党政権の経済が優れたパフォーマンスと評価

中前代表の分析は、昨年の「家計ファースト」の立場から分析されていて、アメリカ・中国そして日本の経済データを縦横に駆使され、政府の経済分析とは異次元の捉え方で、読む者に説得的である。特に、今回のパンフレットの中で、民主党政権の時代(2009~12年)と、第二次安倍政権時代(2013~18年)対比され、民主党政権の時代の方が経済は良好だったと評価されている。特に、一番注目すべき点として、ドル建てのGDPが、民主党政権時代にはプラス5,8%したのに、安倍政権時代にはマイナス3,8%も低下している事を指摘する。実際のドル建てGDP金額では、2009年5,2兆ドル、2012年6,2兆ドル、2018年4,97兆ドルであり、明らかに円安による日本経済の国際的ポジションは確実に低下し続けているわけだ。

はたして、民主党政権の時代の経済政策が、意識的にゼロ金利ではなく円高政策を執ろうとしたのかどうかについては議論の余地があるのだろうが、安倍政権によるリフレ派の主張による超金融緩和政策とゼロ金利が齎した現実は、余りにも国際社会の中での無残な姿を示していている事は間違いあるまい。未だにその路線を踏襲しているわけで、大問題だと言えよう。

金融緩和・円安による輸出企業重視、株価優先の経済政策は問題だ

中前代表はグローバル化している日本の自動車産業を例にして、さらに次のように問題を指摘される。

日本の自動車産業は、今日グローバル化し売り上げも利益も海外が圧倒的であり、円安政策によって自動車メーカーの海外での利益が円換算で増大し、株価に反映する。他方で、円安によって国内消費者から見ると、国内購買力が失われるマイナスが圧倒的に大きい。さらに、ゼロ金利が30年近く続いたことによる利子所得の喪失という異常な事態に直面する。一部の輸出業界だけがプラスで、株式保有者には有利な政策は、到底『家計ファースト』とは言えないわけで、安倍政権の下で通産官僚主導による歪んだマクロ経済政策を変えなければならない事を痛感させられる。

その他、アメリカにおける債券格付けのBBBからBBへと落ち込む事によって投資適格対象にならなくなった大企業(フォードやGEも対象?)が出てきており、それを投資会社が手放さざるを得なくなったときの金融のありかたが問われている。アメリカ以上に日本でも、中央銀行や公的年金基金の市場介入によって株価の維持政策が採られ、市場の機能は無視され続けている事は周知の事だろう。中国も、製造業バブルが崩壊し、資本流出による外貨流出の危機に見舞われているようで、香港統治が混乱している事が北京政府の頭の痛いところとなっているとみておられる。今後の中国経済について、第一次産業と二次産業のウエイトが高く、先進国へと転換するためにはサービス経済化や情報化のウエイトが高くならなければならないのだが、その展望はあまり明るくないと見ておられる。

色々な見方をどのように整理したら良いのか、今年も又多難な年になりそうだ。


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