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労福協 活動レポート

2020年2月10日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第132号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

香取照幸アゼルバイジャン大使の「2020年新年雑感(下)」を読む

社会保障研究所からWEB版で週1回発信されている『年金時代』という情報誌がある。年金を中心にしながら社会保障関係の動きを報じていて、社会保険労務士などの専門家が主たる読者対象になるのであろうか。登録すれば無料で見ることができ、時々関心の有る記事について閲覧させていただいている。

特に興味深く楽しみにしているのが、厚労省出身で退官後、アゼルバイジャン共和国大使に赴任された香取照幸氏が寄稿する「謎の新興国アゼルバイジャンから」であり、3年前の2017年2月に赴任されて第1号が出され、最新の1月27日号で既に第60回となる。第59回の「2020年新年雑感(上)」が「歴史を『複眼』で見るということ」と題してアゼルバイジャンを中心に、かの地域の歴史や文化の相貌について興味深く書かれている。

アメリカ空軍士官学校校長の的確な訓辞、対するBBC報道の伊籐詩織さん事件判決にみる日本の内実

今回取り上げたいのは第60回「2020年新年雑感(下)」で、一転してアメリカの空軍士官学校(予備校-prepschool)で起きた人種差別発言に関する出来事や、日本の伊籐詩織さんの強姦事件判決についての話題が書かれている。もちろん、論文の冒頭には、「本稿は外務省とも在アゼルバイジャン日本大使館とも一切関係ありません。全て筆者個人の意見を筆者個人の責任で書いているものです」と断りが入っている事は言うまでもない。

ちなみに、香取照幸大使とは、10年前の内閣官房参与時代に「社会保障・税一体改革」にご一緒したことがあり、その実力は省内外で高く評価され、いずれ次官として厚生労働省を背負って立つ人材だと思われていたのだが、官邸の意向なのだろうか、アゼルバイジャン大使として赴任されて今日に至っている。どんな相手であろうと、忖度することなく正論をぶつける香取さんが煙たい存在になっていたとみているが、今回の内容もそんな香取さんの人となりが良く表れているので是非とも紹介したいと思った次第である。

他者を尊敬、尊重出来ない、侮辱する者は立ち去れと空軍中将

最初の米空軍士官学校の話は、黒人学生を侮辱する人種差別的な罵倒が学生の部屋のドアに着いた伝言板に書かれたことをうけ、士官学校長ジェイ・シルベリア中将が2017年9月生徒全員と教職員を集めて行った実に的確かつ重要な訓示に言及している。かなり長い文章なので引用は省略するが、その訓示の最後に述べた言葉は「どんな性であれ、その性(gender)ゆえに相手を尊敬し尊重できない者、人種の違いや肌の色の違いゆえに他者を尊敬し尊重できない者、たとえどんな形であっても他者を侮辱するような者は、ここから立ち去れ」と述べている。

香取氏は「書き込みをした生徒や書き込みの内容そのものを問題にするのではなく、この事件をどう受け止め、どう行動すべきなのかを問うて」おり、日本でも学校のいじめ、会社でのセクハラ・パワハラ、ヘイトスピーチ、家庭内暴力、幼児虐待、性犯罪など基本的人権に関わる事案が多発している中で、「この校長のように、自らの言葉でこれだけのことを公に語れる管理者、自分自身の問題として考えてなすべきことをしろ、と言える管理者が日本にどれだけいるでしょうか」と問う。

BBC作成ドキュメンタリー『日本の秘められた恥』を観た日本の性犯罪の酷過ぎる現実、基本的人権はどこに

翻って日本、昨年12月に伊籐詩織さんの準強姦事件の民事訴訟判決が出され、原告の主張が認められ、被告に損害賠償の支払いが命じられた一件について述べている。それは、BBCが作成した”Japan’s Secret Shame”(『日本の秘められた恥』)というドキュメンタリー特集番組を通じて、加害者とされている人を含めた「彼を支援する側の人々」の発言内容に衝撃を受けたことを述べておられる。

この番組を通じて「日本の司法制度、警察の対応、政府の対応など、『この国、この社会で性犯罪がどのようなものとして理解されているか』『性犯罪被害者が声を上げることがいかに難しく、厳しいことか』を克明かつ詳細に取材し、描いて」おり、「日本の刑法が『合意の有無』を性犯罪の構成要件としていないこと(そしてそれがほとんど問題にされていないこと)、性的合意に関する教育・啓蒙がほとんど行われていないこと、であるがゆえに被害者側の落ち度が強調され、性犯罪被害者の人権が極めて軽視されていること、結果、容易にセカンドレイプが行われ、そのことが性犯罪被害者をさらに追い詰めることなど-が、これでもか、というくらいに描かれます。正直、この国は基本的人権を尊重する民主国家のはずではなかったのか、と日本人として暗澹とした気分になりました」と述べておられ、改めてこの問題の根が深いことを痛感したと書かれている。

アメリカ軍人の発言、日本の官僚の方達に是非とも聞いて欲しい

そして、一人一人の市民が、自分自身の問題として発言し、行動することの重要性に言及され、様々な差別や不寛容と同様、市民がこの問題に沈黙し見過ごすことは結果的に差別や不寛容を容認し、それに加担し、次の犯罪を誘発する事に他ならないとまで言い切っておられる。

そして、最後に再びアメリカ空軍士官学校のジェイ・シルベリア中将の言葉を引用している。

「この事件を他人事として考えてはいけない。諸君自身の価値観が問われているのだ。黙って何も言わないことは許されない。この事件の背景にある様々な問題をきちんと理解し、自分自身に問い、行動しなければならない」

この言葉を、今の日本の官僚の皆さんにも投げかけ、おい、しっかりと行動しなければだめだよ、と語りかけているような気がしてならない。そう受け止めたのは、私の思い過ごしだけだっただろうか。今や検事総長の人事にまで官邸の政治家の影響が及び始めてきていることは、この国離将来にとって大変な禍根を残すことになると思うだけに、余計にそう感じてしまう今日この頃である。

トランプ弾劾裁判終了、二人の大使らが更迭、
エスパー国防長官は「国防省は法律に基づき内部告発者を守る」と発言していたが!?

このような思いを感じていた時、9日付の朝日新聞国際欄で「弾劾で証言の2人 更迭」「米政府 民主、報復人事と批判」というワシントンからの染田屋竜太記者の記事が目に入ってきた。トランプの弾劾手続きで、トランプ氏に不利な証言をした大使ら2人が7日、更迭されたのだ。更迭されたのは、欧州駐在大使ゴードン・ソンドランド氏と、国家安全保障会議スタッフでウクライナ専門家のアレクサンダー・ビンドマン陸軍中佐である。

野党民主党のナンシーロペス下院議長は強く批判したことは言うまでもないが、注目したのはエスパー国防長官が2人の証言前に「国防省は法律に基づき内部告発者を守る」と発言していたことであり、香取氏が取り上げていたシルベリア中将の発言と言い、アメリカの軍人を含めた官僚の政権に対する実にしっかりとした姿勢の存在である。アメリカの民主主義の強さを見るにつけ、再び日本の現実と対比した時、何とかしないとこの国の民主主義の仕組みが音を立てて崩壊してしまうのではないか、再び思わざるを得なかった。

政局はコロナウイルス感染問題浮上で、安倍疑惑はかすみ始めたか

さて、国内の政局の方は、補正予算の可決に引き続いて来年度の予算案の審議が衆議院で始まっている。桜を見る会を始めとする一連のスキャンダル解明と共に、新型コロナウイルス問題の深刻な実態も審議され始めたようだ。安倍総理のスキャンダルが問題になっている時、別の大きな問題が出現することで自らの窮地を救われているのではないか、と思えてならない。

他方、弱体化している野党側に目を転じてみると、立憲民主党が提起してきた野党合流論が頓挫してしまったことに、多くの国民は愛想を尽かし始めているのではないかと思う。2月2日の京都市長選挙結果は、現職の門川市長が自民・公明に立憲・国民も推薦する中で4選されたわけだが、地元のKBS京都の出口調査によれば立憲民主党の支持者の多くは共産党・れいわ新選組推薦の福山和人氏に投票していたという。こうした結果を見るにつけ、党執行部と支持者の距離が出ている事は間違いない。

京都市長選出口調査、立憲支持者は離反、枝野代表は傲慢ではの声

この結果だけでうんぬんすることでは無いかもしれないが、立憲民主党の枝野代表の姿勢に対して、「少し傲慢ではないか」という批判の声が出始めているようだ。代表の選出のやり方すら決まっていない立憲民主党の未熟さが、こうした組織の脆弱さを齎しているのだろう。今の政治状況の中で、政権交代に向けた期待を抱かせるような戦線をどう組み立てて行けるのか、おおいに努力して欲しいと思う。

合流論が一頓挫した直後、国民民主党の玉木代表は、れいわ新選組との共闘を進めることを言及し始めている。果たして「5%への消費税の引き下げ」に合意していくのかどうか、財源論という大きな壁があるだけにその行方に注目していきたい。色々と考えてみると、立憲民主党が一番孤立し始めていて「危機」に陥り始めているのかもしれない。

サンダース候補の健闘、若者の支持、ニューハンプシャーに注目

それにしても、アメリカの大統領選挙でバーニー・サンダース上院議員の活躍に頭が下がる。78歳という高齢にもかかわらず、4年前にはあと一歩のところで大統領候補になることができなかったわけだが、アイオワ州の初戦でも首位争いを演じている。何よりもミレニアル世代と言われる若者の支持が圧倒的であることに注目したい。

朝日新聞2月9日付の一面トップの記事によれば、アイオワ州での今回の党員集会参加者の支持調査を年代別にみると、17~29歳層でサンダース氏は48%と過半数に迫る支持を集めている。特に、若者たちを苦しめている教育費・奨学金の返済問題が、支持を集める要因になっているようだ。貧富の格差の拡大が、ミレニアル世代を中心に生活を圧迫している事を示しているのだろう。

翻って日本の現実を見る時、10代後半から20代、30代とリベラル政党への支持よりも自民党への支持が高くなってきていて、アメリカとは好対照となっている。何故そうなのか、支持政党なし層が一番多くなっている事の背景に、しっかりとした野党が存在していないことが最大の問題なのだろう。何とかしていかなければ、日本の民主主義社会が崩壊してしまうのだ。

ちなみに、年金時代の該当記事のアドレスは以下のとおりである。
https://info.shaho.co.jp/nenkin/column/202001/6756?utm_source=newsletter&utm_medium=email&utm_campaign=article


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