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労福協 活動レポート

2020年3月9日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第136号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

何時になったら終息宣言が出せるのか、新型コロナウイルス蔓延

新型コロナウイルスの蔓延が止まらない。日本で一番早く緊急事態宣言を出した北海道だが、依然として感染患者が増え続け、もう少しで100人の大台突破寸前となっている。国際的にみても、震源地の中国だけでなく、日本や韓国さらにはイランやイタリアなどにも広がり、事態はパンデミックといって良いほどの拡大を見せている。対中国人・韓国人の入国でも制限をしたり、なかなか厳しい局面になりつつある。そうした中で、中国大陸との距離の近さもある台湾での取り組みが、高く評価されているようだ。日本国内はもちろん、世界全体としても、一刻も早い収束を強く望みたいものである。

こうした緊急事態の進展する中で、政治の世界では緊急事態に対応するための特別措置法が国会で論議され始めており、条件を付けて可決される方向で立憲民主党・国民民主党ともに応じたようだ。安倍政権の責任はともかく、国民にとっては一刻も早い収束に向けて頑張って欲しいものだ。

年金制度改革法案提出へ、中小企業労働者への厚生年金適用拡大問題に注目を

国会では、見逃すことのできない法案が提出されている。3月3日「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、衆議院に提案されている。この法案の趣旨には「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直しなどの措置を講じる」と書かれている。いろいろと改革の中身は多様であるが、一番重要な論点として、中小企業に働く労働者に対する被用者年金(以下、厚生年金とする)への適用拡大問題が改正されようとしているわけだ。

50人超の中小企業ではなく、すべての中小企業労働者への適用を

この改正は、2004年の年金制度の抜本改革によって、5年に1度の年金財政が検証作業に付され、様々な前提条件の下で中長期的に持続可能なものになるのかどうか、特に所得代替率で50%を確保できるのかどうか、等さまざまな角度からの検討が行われ、社会保障審議会の年金制度分科会の審議を経て法案化されたものである。審議会では、当然のこととして年金制度の改正による利害が絡んでくるわけで、この法案提出に向けた最終的な論議において、中小企業に働く労働者すべてに厚生年金を適用すべきだという労働側や多くの専門家の主張に対して、中小企業関係の業界団体は強く反対し、最終的には現在適用されている企業規模500人超から、先ずは100人超へ令和4年4月から、そして令和6年10月から50人超にまで拡大することとなったわけだ。

いうまでもなく与党側と業界とのやり取りが背後にあり、様々な調整がなされたことは言うまでもあるまい。族議員と業界とのつながりは、どこの国の議会においても無くなることはないのだろうが、こうした目先の利害に基づいた業界の動きは彼らなりに「合理的」なのだろう。

国民年金保険だけの老後生活は、あまりにも低い水準でしかない

だがそれでは困るのが該当する中小企業労働者であり、今回のこの問題は、しっかりと議論をしていくべき論点だと思う。それは、少子高齢社会に突入し、世界最速で高齢化が進んでいる日本において、こうしたやり方で持続可能な社会ができるのだろうか、という根本的な疑問が出てくるからだ。それと同時に、日本の経済構造を大きく転換させていくためにも、こんな中途半端な改革ではダメになってしまうことも強調しておきたい。

国民年金保険制度は、本来自営業や農業者向けの制度だったはず

もちろん今回の制度改正によって、若干なりとも国民年金から厚生年金へと転換できる労働者は増えてくるだろうが、規模が50人以上と限られてくれば多くの企業経営者は工夫を凝らして50人以下に押しとどめ、厚生年金の事業主負担を支払わないような工作を繰り広げるに違いない。現在の国民年金保険で雇用している労働者であれば、月額16,410円の保険料を労働者側が全て自分で支払っているわけで、企業側の負担は免れているわけだ。本来、自営業者や農業に従事していて、定年がない人たちに対する年金制度としてスタートした国民年金保険制度だが、今では非正規労働者や規模500人以下の中小企業労働者の老後生活に対する年金保険制度として存在している。もちろん、この中には方働きで専業主婦(夫)がパートで働き、収入金額が130万円を越さないよう働く時間を調整している3号被保険者もいる。3号被保険者は直接保険料を支払う必要はなく、働く女性からは問題視され続けてきたものの、いまだに制度的には残存している。労働力不足の日本で、こうした働き方の改革が求められている。

国民年金保険から厚生年金保険へ移ることで、増える給付水準

実は、今度の年金改正にあたって5年に1度実施された年金制度の財政検証が昨年実施され、将来的に年金制度が維持できるのかどうか、様々な観点から検証が行われ、そうした中で、国民年金だけを受給している労働者にとって、マクロ経済スライドが適用されると現在支給されている月額約65,000円の国民年金が一番影響を受け、約3割も下げられる水準に落ち込んでしまうことが明確になってきた。そこで、これでは老後の生活の「基礎」としてはあまりにも貧弱すぎて年金としての価値が大きくそがれてしまうこととになる。ということは、国民年金だけ受給する方たちの老後生活を、何とかする必要があることが明らかになったわけだ。国民年金保険から厚生年金保険に移れば保険料率は18,3%となるが、事業主が半分の9,15%負担しなければならず、基礎(国民)年金部分の上に報酬比例部分が上乗せされることで国民年金よりも有利な制度となるわけだ。

厚生年金保険へ移行者が増えれば国民年金保険の給付水準は安定へ

さらに、もう一つ加入者にとって良くなることは、国民年金保険積立金が厚生年金保険積立金に比べて少なかったわけで、国民年金保険から厚生年金保険に移ることによって国民年金加入者一人当たりの積立金が増えて安定することになる。まさに、加入者にとってこんなに良いことはないわけで、働く人たちにとってぜひとも実現させたい改革なのだ。そこで、繰り返しになるが、中小企業に働く労働者を、企業規模に関係なく国民年金保険から厚生年金保険へと適用拡大していくべきだ、と労働側の委員や年金制度の専門家たちは強く主張してきたわけだ。結果として、業界側とのせめぎあいで50人未満には適用しないという妥協が成立したのだろう。なんともやりきれない思いが募る。ぜひともこの点の改革をしてほしい。

人口減少社会は労働力が貴重な資源へ、もっと大切にされるべきだ

はたして、労働力不足が深刻になりつつある日本において、労働力は極めて貴重な資源であり、貴重な資源を粗末に扱ってよいものなのだろうか。公的年金という老後生活を支えていくための重要なインフラを、企業規模が少ないからと言って弱体化させていくことを到底許してはいけないわけで、そのことの追及をしっかりと国会での審議で明らかにしてほしい。高度に発達した資本主義国家のもとで、最低限の生活が可能となるような日本社会にしていかなければなるまい。

成長率を高めるためには、企業が生産性を高める努力をするインセンティブを持ち続けさせるべきだ

もう一つの観点から今度の適用拡大の問題について指摘をしたいことがある。それは、日本経済の成長を高めることとの関係である。

日本経済の成長はバブル崩壊以降名目成長率ではどんどん落ち込み、今では0~1%程度の成長率となっている。この成長率を高める必要がある、と安倍政権の下でも異次元の金融緩和や放漫な財政支出が繰り広げられ続け、構造的な成長戦略と称して企業がやり易くなるような法人税減税や規制緩和が続けられてきた。残念ながら、安倍政権の目指す目標である3~4%の成長率は実現できず、2%のインフレ目標も依然として達成できていない。人口減、とりわけ生産年齢人口が大きく低下し始めたため労働力不足が進展してはいるものの、低賃金で働く女性と高齢者の労働力だけが増えている。

日本経済の人口一人当たり、就業人口一人当たり成長率は健全だ

だが、こうした成長率の低さを指摘する場合、いずれも名目値で人口一人当たりや生産年齢人口一人当たりで国際比較したものではない。慶應義塾大学の権丈教授がダイヤモンドオンライン紙上(https://toyokeizai.net/articles/-/311074)で明らかにした資料よれば、人口一人当たりや生産年齢人口一人当たりの実質的な経済成長率を日米比較すると、なんと名目成長率では日本よりも高いアメリカだが人口一人当たりでは日本は健闘しているし、生産年齢人口一人当たりではアメリカよりも優れた実績を残しているのだ。その意味で、日本の成長率の低下を問題視する議論が多く出回っているわけだが、日本経済はそれほど病んでいるわけではない。

問題は格差の拡大にあり。「分配」こそ改革していくべき課題だ

もちろん、成長率が高まることは良いことだが、それによって労働者の取り分である労働分配率が下がり続けていることこそ、経済が需要不足でデフレ基調になっている大きな要因となっている。それだけに、労働者の賃金・労働条件の引き上げることこそが経済を安定的に成長させていくことになるわけだ。

成長という問題でいえば、日本経済の大きなウエイトを占めているのが中小企業である。企業数の99%を占めているし、従業員数でも70%を占めている。問題は、中小企業の生産性が上がらなくなっていることに目を向けるべきだと思う。中小企業に対して、様々な優遇措置が打ち出されているものの、なかなか生産性を高められないでいるのが現実である。そうした生産性を向上させていかなければ、日本経済の発展はないとまで断言する専門家が多い。そこで、今回の年金の適用拡大において、企業規模を廃止してすべての働く人たちへの厚生年金適用に適用させていくことによって、新しいイノベーションを起こしながら生産性を高めていくべきだという主張である。日本という高度に発達した資本主義国において、減り続けている貴重な人的資源を、あまりにも低すぎる賃金・労働条件で雇い入れる余裕はないのではないか、ということなのだ。人手不足には、外国人を雇い入れればよいと考える向きもあるようだが、日本の労働条件は残念ながら韓国や中国から追い上げられ、今ではその優位性はなくなりつつあるのだ。必要な外国人を雇用できるためにも、しっかりとした賃金・労働条件を確保していくべき時なのだ。

最低賃金の引き上げと厚生年金適用拡大は、成長戦略でもある

こうした論議は、実はデビッド・アトキンソン氏の提唱している最低賃金の引き上げによる日本経済の成長を高める、という政策と同じ問題を提起させてもらっている。もっと言えば、「同一労働・同一賃金」論においても、本来はどこで働いていても、同一職務に対しては、同一の賃金・労働条件でなければならないというもので、スウェーデンの「レーン・メイドナー」モデルに依拠しているといってもよい。今、日本の春闘では、経団連を中心にジョブ型の雇用制度による年功賃金からの転換を提起しているようだが、こうした転換を本気で進めるためには、日本経済の下での企業側に対する「甘えの構造」を大きく変えていくための、最低賃金の引き上げやすべての企業での厚生年金適用拡大といった制度改革を、本気になって推進していく側に立ってもらう必要があるのではないだろうか。日本の労働者の賃金や労働条件を、本格的に引き上げる「分配」構造にこそ目を向けてほしいし、労働側も、それに対してきちんと理論武装しながら取り組んでほしいものだ。また、政府も政労使三者構成の場で、こうした論議を堂々と進めていくべきだと強調しておきたい。


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