2020年4月6日
独言居士の戯言(第139号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
世の中は、新型コロナウイルス感染問題一色となってしまい、とにかく感染が終息しない限り何事も始められなくなってしまっている。前号に引き続いて、この問題に触れていきたい。
新型コロナウイルスのパンデミック化した現実、一体どうなるのか
オリンピックの延期に引き続いて、多くの国民が楽しみにしていた国民的スポーツである大相撲やプロ野球、サッカーのJリーグなどは、いずれも開催時期をゴールデンウイーク明けまで再延期する報道が相次いでいる。また、劇場での観劇や映画鑑賞など文化芸術活動の多くも「三蜜」対象施設となるだけに、ほとんど開催されていないようだ。東京都で新たに感染者が急増している中、感染経路が不明となっているのは、クラブやカラオケバーといった夜の街での遊興が大きく作用しているとのことだ。小池都知事が、声を大にして特定の場所に出向くことを遠慮してほしいと再三再四要請しているのも、こうした背景があるのだろう。
さらに、この新型コロナウイルスの感染初期のころ、若者はあまり影響を受けない、などといったことがメディアの解説者などからまことしやかに述べられていたわけで、若者たちの奔放な振る舞いが、新たなクラスターづくりにつながったことも見逃せない。何はともあれ、東京をはじめとする人が密集する大都市地域を中心に、ロックダウン(都市封鎖)すら叫ばれる状況に至っているわけで、日本列島全体がコロナウイルスによるオーバーシュート(感染爆発)寸前の危機的状況にあることは間違いない。
日本経済は、製造業もサービス産業も壊滅的な落ち込みへ
こうした現実を前にして感染を防ぐためには、必然的に人の移動が止められるわけで、日本経済の雇用で7割近くを占めるサービス産業に壊滅的な打撃を与え続けている。製造業でもサプライチェーンが寸断され、日本を代表する自動車産業においても、多くの国内の工場での製造中止に追い込まれ始めており、日本経済の被害はリーマンショックなどの比ではなく、相当深刻な現実に直面している。おそらく、戦後最大の経済危機となることは間違いない。
パンデミック化した世界も深刻な経済状況、国際社会の連帯こそ
アメリカは、コロナウイルスショックによって深刻な影響を受けていることもあり、多くの企業での急速に雇用削減が進んでおり、最新の失業者数が急増している。これから4~6月にかけてウイルス感染が継続する中では、さらなる経済の落ち込みや雇用削減が見込まれるわけで、G7やG20といつた国際社会の連携を強化していくときだろう。アメリカに対してロシアからの医療援助が進められているという報道に接するとき、国際社会の連帯という言葉がよみがえりつつあることを感ずる。また、日本の企業が開発したアビガンが新型コロナウイルスに効果があるとされ、ドイツなどから問い合わせがあったやに聞く。菅官房長官は、どこの国でも要請があれば無償で提供したいと述べており、これまた厳しい状況下でのうれしい出来事の一つである。ぜひとも、こうした国際社会の「連帯」した取り組みを強化してほしい。
安倍政権の緊急経済対策は4月7日、1世帯30万円給付など決める
安倍総理は、4月3日に岸田自民党政調会長と官邸で会談し、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済対策についておおむね合意したようだ。最終的には7日に閣議決定するとされているが、一番の焦点となっていた個人に対する現金給付問題は「減収世帯に現金30万円給付」で、以下のような内容で支給する方向のようだ。
①個人ではなく世帯に支給。支給額は1世帯当たり30万円」
②新型コロナウイルスの感染拡大で収入が減っていることが条件、証明する書類提出が必要
③対象は全5800万世帯のうち約1000万世帯の見通し
④年収による所得制限は設けないが、減った後の月収が一定水準を上回る世帯は除外する
⑤給付による所得は非課税とする
⑥申請は市区町村が窓口
世帯別現金給付は公平なのか、フリーランスや外国人労働者は?
なぜ一人当たりでなく世帯単位なのか、どの程度の減収になれば支給されるのか、減った後の月収で支給されない所得基準はどうなるのか、給付は非課税としているようだが、それでよいのか、など実に疑問点の多い内容となっており、細かい支給基準がどうなるのか、担当する市区町村現場における混乱が出ないよう明確化する必要があろう。とくに、個人支給でなく世帯単位にしたことの是非は、「公平性」という観点から論議を呼ぶことは間違いない。国民一人当たりで支給し、課税対象として確定申告時に高額所得層からは納税してもらう方が、迅速に進むのではないかと思われて仕方がない。その場合も、原則として申請主義を取るべきだろうし、一番困窮しているフリーランスの方たちや外国人労働者などにも適用をしていくべきだと思うのだが、どうであろうか。
いずれにせよ、7日には個人の現金給付以外の政策についても明確になるわけだし、国会での予算委員会審議も連休前までには結論を出すことになるわけで、今後の与野党の論戦を見守っていきたい。
河野龍太郎チーフエコノミストの提起する歴史的な問題、
「新型ウイルスは所得分配を変えるか」に同感、「連帯」する世界を目指そう
新型コロナウイルス危機からの脱却に向けた経済政策として、歴史的・構造的にどのようにとらえていくべきなのか、いろいろな論議が展開されている。そうした中で河野竜太郎BNP PARIBASのチーフエコノミストによる「新型ウイルス危機は所得分配を変えるか 国境の内側では求心力、外側では遠心力」という「Weekly Economic Report」(4月3日号)に注目した。この論文の冒頭で今回の新型ウイルス危機は、格差が拡大する中であらゆる階層に多大なダメージを与えたわけで、それは1930年代の大恐慌と同じであり、「人々が共同体的な紐帯に強く目覚め、所得再分配を見直したニューディール的な政策が選択される可能性はないのだろうか」と問うている。もし、所得再分配が大きく見直されると、自然利子率が上昇する可能性があり、先進国が陥っている経済停滞からの脱却にもつながることを指摘する。
グローバル化の下「貧富の格差」拡大が長期経済停滞の要因だ
というのも、グローバル化の下での「勝ち組=富裕層」は、アイディアの出し手と資本の出し手で、彼らは所得水準が高く、支出性向が低いため彼らの下に所得が高まると貯蓄ばかりが増え、貯蓄と投資を均衡させる自然利子率がマイナスの領域にまで低下するわけだ。経済成長の王道と思われたグローバリゼーションとイノベーションの推進が、分配問題を通じて自然利子率を低下させ、長期停滞をもたらす要因になっていたのだ、と河野氏は主張する。
完全雇用に向け、異常な財政赤字・経常黒字・金融緩和の展開へ
こうした状況の下で完全雇用を達成するためには大規模な財政赤字や大規模な経常黒字、あるいは金融膨張で総需要をかさ上げすることでしか完全雇用に到達できない。アメリカは金融膨張で、ドイツは大幅な経常黒字で、日本は大規模な経常黒字と財政赤字の組み合わせで完全雇用に達するという状況が続いてきたのだ。つまり問題の本質は所得の分配構造にあり、所得水準の高い支出性向の低い経済主体から、所得水準の低い支出性向の高い経済主体に所得移転がなされるのなら、総需要が拡大し経済の好循環が回り始め、自然利子率も上昇し、金融膨張や経常黒字や財政赤字を出さなくても完全雇用に達することは可能なのだ。日本経済のデフレ要因となっている賃金上昇の鈍化は、分配構造からきているわけで、金融緩和では解決はできない。
今度の新型ウイルス危機を機に、
ルーズベルト大統領のニューディール政策に倣って経済政策の大転換を進めるべきだ
そこで、今回の新型ウイルス危機を機に、政策の大転換を進めるチャンスなのではないか、と河野氏は主張する。あの大恐慌の時すべての階層がダメージを受け、危機意識が強まり、「人々は共同体的紐帯の意識に強く目覚め、所得再分配が見直された」のがルーズベルト大統領のニューディール政策だったわけで、「人々は社会の分断ではなく、社会の連帯を選択した」ことを強調する。
社会的な連帯の精神を取り戻し、所得再分配政策の全面展開へ
もう一度、1930年代に続く可能性はないのだろうか。経済の停滞期には排外的、孤立主義的な動きが強まると一般的には言われているが、危機があまりにも深刻だった1930年代の大恐慌は例外的に社会のモラルが正常化したわけで、今回のコロナウイルス危機はそれに次ぐ二度目の例外になり「人々が再び社会的紐帯に強く目覚めるなら、所得再分配が見直されるのかもしれない」と希望的な主張を展開されている。日本ではまだ見られていないが、ロックダウンが取られた多くの国では「連帯」がキーワードになり、定刻になると市民が一斉に拍手をして医療関係者に御礼の激励が始まったことなどが報ぜられている。
私自身も、再分配政策の強化による日本経済の立て直しを強く主張してきただけに、この河野氏の問題提起には大賛成であり、日本だけでなく国際社会の経済政策の流れを大きく大転換することこそ、これからの危機からの脱出策の基本的方向なのだと主張したい。
国内だけでなく、国際社会の分断を防ぐ取り組みの必要も強調へ
もちろん、河野氏が指摘しておられる国境の内側だけでなく、国境の外側に向けた「分断の力」が米中対立やユーロ解体といった問題にみられるような形で展開されることもあるわけで、世界の国々の相互の連帯した取り組みが、今こそ求められることはない時代といえよう。危機における政策の大転換を、日本の政治家に強く期待したい。