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労福協 活動レポート

2020年4月20日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第140号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

安倍政権中枢で、一体何が起きてたのか、閣議決定やり直しとは!!!

与党の自民党・公明党と官邸との間には、一体何が起きたのであろうか。新型コロナウイルス対策による国民生活を維持防衛するための経済政策が、7日に閣議決定されていた。そこでは経済の急速な落ち込みに困窮している企業などへの支援とともに、世帯単位でコロナウイルスによる収入が激減した世帯に30万円の現金給付することが決められ、支給基準をどうするのか財務省や総務省など担当者レベルでいろいろと議論されていたに違いない。もともと支給基準を個人にすべきか世帯にすべきかをめぐって議論があったようだが、リーマンショック時の一律一人1万2千円支給を実施した麻生政権の教訓として、そのほとんど(約8割)が貯蓄に回ったことを取り上げ、支給対象を絞って1世帯30万円を一度は内閣として正式に決めたわけだ。この間の流れをリードしてきたのは、どう見ても麻生財務大臣や安倍総理の覚えめでたい岸田政調会長だったようで、安倍総理自身も一度はこのラインに乗っかって決着を図ったことは間違いない。

連立離脱ちらつかせた公明党山口代表、自民党二階幹事長の反乱へ

だが、その閣議決定に対して、与党側の内部でも問題視する意見が多く、すでに閣議決定していながら不満が充満していたし、一連の安倍総理のコロナ対策への国民的な批判・不満も加わっていたことは、最新の世論調査などを見ても明らかだろう。まず公明党は、一貫して国民一人当たり10万円の支給を所得に関係なく全員に支給するよう求め、しかも16日の安倍総理に対する山口代表の申し入れでは、補正予算の組み替えによって一刻も早く支給するよう求めていた。総理がもし公明党の方針転換要求を無視するようであれば、野党側の予算組み替えに与することまで言明して方針転換を迫ったと報じられている。つまり、政権からの離脱をかけた攻防が繰り広げられたわけだ。それだけ、公明党・創価学会の不満は強くなっていたし、ポスト安倍政権すら見据えていたのではないかとすら予測させてくれる。

これでは、何のために7日の補正予算の閣議決定だったのか、安倍政権の統治能力が疑われることになる。この公明党側の動きの前に、驚かされたのは自民党の二階幹事長の行動で、山口代表の申し入れの前日に10万円の支給を実施するよう総理に申し入れている。もっとも二階幹事長の方は、」所得制限を設けるとの条件を付けている点が公明党とは異なっているし、補正予算の組み替えにまで言及していない。補正予算を通したうえで、第二次の補正で実現することを求めようとしていたとも報じられている。

安倍政権の中枢部は一体どうなっているのか、ガバナンスの不在

いったい何がどう議論され、誰がどのように決定したのだろうか。与党内では、両党の政策調査会長同士の会合がもたれたようだが、自民党の岸田政調会長は公明党案には同調しなかったものの、安倍総理は山口代表に「提案の方向性にとって今後協議していきたい」と述べたとされ、16日の午後「補正予算の組み替えを指示」したわけだ。その日の午前中に行われた菅官房長官の記者会見内容とは異なるわけで、内閣の要となるべき官房長官にすら十分な理解を得ていたようには見えない。

安倍政権は事実上死に体か?!、言葉だけの「責任」の軽さが見える

安倍総理は17日夜の記者会見の場で、こうした方針転換について自らの責任を明らかにしているが、言葉だけの「責任」では収まるはずはない。今回の閣議決定を覆してまでの政策転換の与える政権内の影響は、相当深刻なものになるだろう。菅官房長官との関係だけでなく、所得制限して30万円支給案を主張した麻生副総理・財務大臣や岸田自民党政策調査会長らにも泥を塗ったことになるわけで、今回の安倍政権の演じた失態による政権中枢部の抱えた人間関係の相剋は、取り返しのつかない傷跡を残したといえよう。

野党側は、ほとんどすべての政党が一人10万円の支給で足並みが揃っていたわけで、補正予算案をめぐる攻防は予算委員会の場で安倍総理の政策転換をめぐって繰り広げられるに違いない。ただし、所得制限なしで一人10万円という給付内容には異存がないわけで、もっぱら安倍政権の統治能力の問題が問われるのだろう。できれば、生活破綻リスクを抱えた世帯が4分の1あることを、ゆうちょ財団の「第3回(2018)家計と貯蓄に関する調査」を使って分析されたJILPTの周燕飛主任研究員の調査(「緊急コラム 新型コロナで生活破綻のリスク群に支援を」4月17日)などを使って明らかにし、日本のセーフティネットの貧弱(とりわけ女性)さを明らかにしてほしいものだ。

安倍総理の新型コロナウイルスに対するこれまでの対応について、国民の支持率の低下が喧伝されている中での今回の失態がどのような受け止め方をされるのか、政局の流れは明らかに変調をきたし始めている。野党側がコロナ危機という国難の下でどのような安倍政権批判を展開していくのか、引き続き注目していきたい。

ますます肥大化する財政赤字の累積、どう財政をマネージできるか

さて、問題はこうした膨大な補正予算を賄う財源である。今回の補正予算案では総額108兆円だと報じられていたが、実際の財政支出額は39兆円である。その前提であった1世帯30万円から一人10万円へと変わることで約9兆円増えるわけで、約50兆円もの赤字国債の発行になる。もし、事態が長期化すれば1回だけの支給では済まないわけで、ただでさえ日本の財政赤字の累積額がGDPの230%に及んでいただけに、今後の財政に与える影響をどのように見ていけばよいのか、深刻に考えておく機会である。

河野龍太郎BNP PARIBASチーフエコノミストの分析を参考に

こうした膨張する公的債務をどのようにマネージしていけるのか、これからの日本経済が抱える最大の問題について、以下検討してみたい。今回参考にさせていただいたのは、おなじみのBNP PARIBASの河野竜太郎チーフエコノミストの書かれた『Weekly Economic Report』(4月17日号)であり、題して「統合政府のバランスシートをどうコントロールするか フィスカル・ドミナンスを超えて」である。

日銀のYCC(イールドカーブコントロール)政策の役割りが逆転へ

河野氏はこれだけの新たな財政支出の膨張によって2020年度のプライマリー収支はGDP比で10%程度まで悪化する(おそらく歳入不足も加わり、もっと悪くなることは確実)と見込む。コロナ危機がいつ終息するかによっては、もっと酷くなることもありうる。10%のプライマリー赤字は金額にして約50兆円まで拡大するわけで、日銀が2016年9月以来進めているYCC(イールドカーブコントロール)の性格が長期金利の過度な低下回避だったことから「今後は国債増発による長期金利の上昇を抑え込むことが主たる役割」に転換するとみる。つまり、これから増発される国債を、80兆円を超えてでもそれを買い支えざるをえないわけで、日銀の金融政策は財政ファイナンス化していく。

日銀はインフレターゲットではなく、長期金利の安定が至上命題に、
何と、あのFTPL(物価水準の財政理論)的な世界が起きるとは!!!

こうなれば、日銀の役割は2%のインフレ達成ではなく、「金融システムの安定の延長線上として、公的債務の発散を避けるための長期金利の安定にシフトせざるを得ない」わけだ。こうした「ヘリコプターマネー」の継続で社会の財政規律が弛緩し、もはや将来のPB黒字で公的債務を返済することができないと人々が広く認識し始めれば、FTPL(Fiscal Theory of Price Level)的なメカニズムによってインフレが上昇する可能性があることを指摘する。MMTの前に一時もてはやされたFTPLであったが、まさか財務省も日銀もそれぞれ無責任になれないだろうと思っていたあの理論が、コロナ危機を前にして現実化しうるかもしれないと河野氏は警告する。

インフレ目標からインフレ抑制へ、無理な抑制でインフレ加速、だれがこのインフレの被害者なのか

そうなると、インフレを抑制するために金利の引き上げが必要になるのだが、利払い費の急増で公的債務が急膨張するため日銀は利上げに踏み込めない。長期金利を日銀が抑え込まないと資産市場も大混乱となり、マクロ経済の安定を維持できなくなる。だが、コロナ危機の下で追加財政が繰り返されれば自然利子率が上昇するため、日銀が抑えなければ長期金利は上昇するはずで、それを無理に低く抑え込めばインフレ予想も上昇する。

この高率インフレをだれが負担するのか、FTPL理論によれば、「最終的には預金者や保険・年金の受益者の名目利回りはゼロ近傍に抑えられ、彼らの負担で、政府と日銀の負債の圧縮が図られる」ことになる。この点だけは、よくよく理解しておいた方がよい。第二次世界大戦後の高率インフレの際、預金封鎖などが思い出されるとともに戦時公債が紙切れ同然になったことも歴史の一コマとして学んだ方も多いだろう。それが、現実のものになる可能性も否定できなくなっているのだ。

誰がどんなスキームで国債や物価をコントロールできるのか

では、いったい誰が国債や物価をコントロールできるのだろうか。河野氏は政治的な財政膨張圧力を避けるための一つのアイディアとして、「マクロ安定化政策の新たなスキーム」をつくることを提唱している。それは「まず政治的に独立した中央銀行がマクロ安定化政策として、国債購入の総額を決定する。それによって政府の予算額が決定され、今度は政府が歳出の内訳を政治的に決定する」というもので、それができれば大幅なインフレを避けつつ公的債務の調整も可能となるとみておられる。けだし、国会という国権の最高機関と位置付けられている政治が、それを受け入れることができるかどうか、なかなか難問だろう。

河野氏は、為替レートの在り方にも言及されているが、今の「Gゼロ」といわれる今日の世界において、ブレトンウッズ体制に匹敵するような国際的な調整メカニズムができるのかどうか、これまた難問であり自ら「妄想」とまで述べておられる。

MMT理論の絵空事、この事態にMMT学派はどう対応できるの

ただ、この論文を読みながら、MMTなるものが、2%を超すインフレによって長期金利の上昇が起きるようなら、消費税の引き上げによって、あるいは歳出の削減によって需要を抑えていけばよい、ということが絵空事になったように思われる。MMT派の方たちからのこれからの財政・金融のマクロ政策についての政策提起はどのように考えておられるのか、一度聞いてみたいものだ。


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