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労福協 活動レポート

2020年5月25日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第145号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

水野和夫教授の提言、総理は経済界に内部留保の拠出を迫れ

水野和夫法政大学教授が投稿された毎日新聞18日朝刊「シリーズ疫病と人間」の第5回目は、いろいろと話題を呼んでいるようだ。見出しとして「経団連に減資132兆円、首相は職を賭し迫れ」とあり、なかなか刺激的な問題提起となっている。内容はかなりの長文で水野教授お得意の資本主義の歴史的な分析とともに、シェイクスピアの引用なども含めて読み応えのある興味深いものとなっている。

誤解を恐れずに水野教授の言わんとされることを要約すれば、21世紀に入って日本の富は企業の内部留保に集中し始め、2019年3月末時点で463兆円に達していると指摘。この内部留保は「まさかの時に備えて増やす」と説明してきたわけで、今がまさにその時ではないか、と説く。内部留保の内263兆円は将来の生産力増につながらないため生活水準の向上にならない。(ちなみに463兆円のうちの200兆円分は、1989年までの内部留保分を今日まで延長したものの推計値)

儲けても賃金を下げ、ゼロ金利の下で株主にだけ還元、
残った内部留保は「いざというときに使う」ためと言っていたではないか

そこで安倍総理は、経団連の中西会長に首相の職を賭して132兆円の減資を要請せよ、と主張しておられる。その金額は従業員と預金者に支払うべき賃金と利息を不当に値切った金額が累計で132兆円(この辺りについては、本文を参照してほしい)になると計算する。ゼロ金利の下で8%のROEを株主に還元し、労働生産性が上昇しながら賃金を減少させているではないかと厳しく糾弾。日本人全員の危機なのだから、全就業者と全預金者を含めた1億2596万人に還元すべきだと主張する。さらに、残りの131兆円は、休業補償に応じた企業に対する補償に使うべきことを主張する。

もちろん、この263兆円は直ちにすべて使うのではなく20年かけて蓄積したのだから20年かけて支出していくべきで、263兆円の新型コロナ国債として発行し、新たな「入り口戦略」へと突入して行けば良いと提案されている。その入り口戦略とは、生活様式では「より遠く、より速く、もっと多く」から「より近く、よりゆっくり」することに転換すべきと主張する。また新たな入り口には、ケインズの言う原則「貪欲は悪徳であり、高利の強要は不品行であり、貨幣愛は忌み嫌うべきものであり、そして明日のことなど少しも気にかけないような人こそが徳をもった人である」を掲げるべきである。この原則は、資本を過剰に保有するゼロ金利社会でないと実現できないわけで、今の日本こそがその実現できる条件を持っているし、近隣外交にも「より近い」ものが問われていると指摘する。

コロナ危機の下、国民の危機的な現実に経済界は答えていくべきだ

それにしても、安倍総理に対して経済界に財源の拠出を迫るだけの発想はもとより、胆力があるとも思えないわけで、私自身この水野提言についての感想を求めて何人の方たちにメールを送ったにもかかわらず、今のところコメントが返ってきたのは一人だけだった。おそらく、どう判断していけばよいのか、いろいろと迷われている人が多いのだと思う。生産性が上昇しているのに賃金水準は低下させたり、利益が上がっているのに日銀のゼロ金利政策によって支払利息を払わないでいることなど、資本主義社会で当然のことが実現できていないことへの痛烈な批判なのだ。水野教授は、それこそ怒りに燃えてこうした提言を提案されたわけで、われわれ一人一人が真剣に考えていくべき問題提起だろう。

黒川検事長の賭けマージャンによる辞任、法治国家の中枢が腐食

黒川東京高検検事長のかけマージャンによる辞任騒動は、結果として官邸側が望んだ検事総長人事とはならなかったわけで、今の日本のガバナンスを象徴するような何とも締まりのない結末を迎えてしまった。人を裁判に有罪として訴える権限(もちろん訴えない権限も)を持った検察のナンバー2がこの体たらくでは、法治国家としてのメンツもあったものではない。

黒川検事長の辞任問題を記者会見していた森雅子法務大臣が、マスク姿でしか窺えなかったのだが、定年延長決定以降の悩みが吹き飛んで何ともすっきりしていたように感じられた。おそらく黒川検事総長実現に至るまで、これからもいろいろと悩み続けるのではないかと思ったのに、こうして目の前から、あっという間に問題が消え去ったことで内心はほっとしたのかもしれない。もちろん、この間の法務大臣自らの責任について免罪されないことは言うまでもない。この問題の責任は、あげて安倍政権中枢にあるわけで、これだけガバナンスの弱体化が続けば、あとは政権の崩壊に向けて一直線に転げ落ちて行くだけなのかもしれない。あまりにも傲岸不遜な政治への天罰が下りつつあるのだろう。

熊谷俊人千葉市長のツイートの指摘に注目したい

こうしたなかで、注目させられたのは熊谷俊人千葉市長の5月21日に発せられた次のツイートだった。

「黒川氏の件、私が強調したいのは『報道機関は番記者制度を見直さないのですか?』という点。(中略)、取材先と個人的関係を作り情報を引き出す報道機関、恣意的にリーク等することで報道をコントロールする政治・行政の不適切な慣行をいい加減見直しましょう」

やはり、ここがポイントの一つだと思う。公開の場による記者会見や新聞社による独自調査力の充実こそ、今求められているのではないだろうか。これは何も検察と新聞記者だけの問題ではない。官邸の記者会見を頂点にした番記者と、政治家・行政との健全な関係の確立こそが求められているのだ。例の冤罪の温床になりやすい「人質司法」からの解放とともに、ぜひとも大胆な改革を強く求めたいものだ。

国家公務員の定年延長改正案まで廃案にすべきではない

もう一つ指摘しなければならないことは、安倍政権は今回の国家公務員全体の定年延長を含めた法案まで廃案にしようとしていることだ。今回の法改正において、検察庁法の改正を抱き合わせにして内閣が検事総長や検事長の定年を恣意的に延長できることが問題だったわけで、他の国家公務員の定年延長について野党側は問題視していなかったし、必要な改革だったといえよう。検察庁法の該当箇所だけを取り下げるべきなのに、全体を取り下げることには唖然とせざるを得ない。一説には、国家公務員や地方公務員の労働組合が野党側の支持することが背景にあるといわれているが、こんな党派的な考え方で公務員人事制度を考えているとすれば、そのこと自体大問題だと言えよう。

考えるべきは、世界一公務員比率が少ない総定員法改正と配分是正

もし、労働力不足の時代において、経験豊かな公務員の活用を考えるのであれば、定年延長は当然のことではないだろうか。むしろ、本当に考えてほしいのは、総定員法の見直しである。社会保障や教育関係の分野での仕事は確実に増加の一途をたどっており、現場の過密労働は限界に達しているし、非正規労働者がそうした過密労働をかなりの程度支えているのが現実である。また、やるべき仕事が少なくなった省庁も存在しており、省庁間の再配分も必ず実施すべきことも当然だ。定年延長と定数の見直し、セットで考えてほしいものだ。というのも、総定員法がそのままで、定年延長だけが法定化すれば、定年延長される分若い人たちが少なくなるわけで、意外に大きい問題ではないだろうか。日本の公務員の数は、人口比で見て世界で最も少ないわけで、人手不足の現場では「過労死」寸前にまで働かされている実態がある。なんとか、改革に着手してほしいものだ。

ポストコロナで予測される「財政規律と市場機能の喪失」

ポストコロナについていろいろなことが予測されている中で、なるほどそうだろうなと思われる指摘をされているのが森田長太郎SMBC日興証券チーフ金利ストラテジストである。森田氏は、『週刊東洋経済』の最新号(5月30日号)のコラム「マネー潮流」のなかで「ポストコロナの財政規律と市場機能」と題して「2つの問題点」を挙げておられる。一つは、財政規律であり、もう一つは市場機能である。

財政規律喪失の一番いい例が日本の財政赤字の現実だ

財政規律については、コロナ危機が終息すればこんな大規模な財政支出を行う必要はなくなると多くの人は考えるだろう。しかし、次に何かが起きた時には「コロナの時にも使ったではないか」という主張が免罪符のようになされ、だんだんと歯止めが利かなくなるとみておられる。景気が悪くなると財政赤字を支出し、よくなっても財政規模を縮小しないで赤字財政を続けているわけで、この予測は日本財政の今日に至ったことについて正鵠を得ていると思う。まさに「財政規律」が緩み、国家財政は赤字まみれになっている日本の財政の現状を見れば政治家は反論できないだろう。今回のコロナ危機に際して、あのドイツですら財政赤字に踏み込んだわけだが、回復すれば再び財政赤字から回復させていくに違いない。かの国においては、ナチス時代の反省から憲法において、財政赤字を厳しく制限しているのだ。

FRBまで無制限の国債購入へ、市場ではなく中央銀行が価格決定へ

もう一つの問題は「市場機能」である。日本の場合、日銀はコロナ危機以前から国債の約半分を保有し年間6兆円も株式を購入していたわけで、「市場機能」にゆがみが生じていた。今度は、アメリカのFRB(米連邦準備制度理事会)が無制限に国債を購入する量的緩和に移行した。アメリカ政府が発行する財政赤字を無制限に発行して長期金利を1%程度にまで抑制しようとするのだろうが、自由な市場による価格決定から中央銀行が価格水準を決める世界に入ってしまったわけだ。

果たして、コロナ危機が終息した後FRBは速やかに国債市場を元の自由市場に戻すことができるだろうか。1%前後にまで下げていた金利が突然自由に動き出せば株価や為替に大きな影響を及ぼすことは必至だ。さらに、政治的圧力も加わればなかなかこの政策からの撤収は困難になるのではないか。市場機能の喪失がじわじわと進んでいくに違いない。世界の金融市場にとって大変な損失だとみておられる。

中央銀行の金融緩和政策は、貧富の格差を拡大させ続けている現実

更に付け加えるとすれば、金融緩和によって円安と株価の上昇が所得・資産の格差拡大につながっているわけで、富裕層に有利になる「逆所得再分配政策」と化している事実を指摘せざるを得ない。日銀の金融政策によって、貧富の格差の拡大は続くのだ。

ここまで今の資本主義は落ち込んでしまっているのだ。


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