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労福協 活動レポート

2020年7月6日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第150号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

コロナ禍による経済の落ち込みは本当に底をついたのだろうか?

日本経済の動向を示す6月の「日銀短観」が7月1日発表された。大企業の製造業は3月に比較してマイナスが8から更に34と大きく落ち込んでいるし、同じく大企業の非製造業もプラス8からマイナス17とこれまた二けたの落ち込みとなっている。ただ、今後の先行きについてはいずれもマイナス幅が減少しており、政府の緊急事態宣言の終焉発言以降、多くの大企業経営者は「最悪期は過ぎた」とみているようだ。この点では、内閣府が実施している景気ウォッチャー指数をみると、3~4月が底で5月は改善しているとみており、どうやらコロナショックによる経済の落ち込みは峠を越したと受け止められているようだ。もっとも、東京都を中心に都知事選挙に入るとともに、再び新規感染者数が増え始めており、第2波が襲来し再び経済封鎖に近い状態を余儀なくされる恐れもあり、安易な予断は許されない。

観光に依存してきた北海道・沖縄は厳しい現実、外需も落ち込む

地域的には、沖縄と北海道の落ち込みが顕著に出てきており、今回のコロナ危機が観光業に大きな影響を与えたことを教えてくれている。日銀短観で「宿泊・飲食サービス業」がマイナス59から91へと大きく落ち込んでいることを見ても明らかであろう。これから徐々に回復へと向かうのだろうが、その回復はとてもV字型の回復ではなく、徐々に進むと診る専門家が多い。とりわけ、国際経済の動向をみると、前号でもふれたようにIMFは世界経済が前回予想よりも落ち込むことを予想しており、アメリカの感染状況だけでなくブラジルをはじめとする新興国の影響は深刻であり、日本経済の屋台骨を支えているとされる自動車産業をはじめとする輸出の落ち込みはかなり深刻で、外需による景気回復の道はなかなか険しそうである。

外需も内需も、企業部門も家計部門も総崩れへ、コロナ禍の特徴

リーマンショックと比較されることが多いのだが、リーマンの時は金融危機型の経済ショックだったが、今回のコロナ危機は「スピードが速く、運輸や観光、外食産業は瞬時に悪化」、「外出自粛で消費が落ち込み、海外経済の悪化によって輸出も直撃」したわけで、外需も内需も、企業部門も家計部門も総崩れになったことに特徴があると、熊谷亮丸大和総研調査部長は「東洋経済オンライン」(7月3日)で指摘している。

熊谷亮丸大和総研調査部長、「国民所得をリアルタイムで把握し、
社会保障と税が情報連動し、一体的政策可能なインフラ整備を」主張

さらに熊谷氏は国民1人10万円の給付金支給について、所得制限をかけるべきだったと主張されるのだが、今回は緊急避難的にスピードを重視したわけで仕方がなかったと述べておられる。関連して、「国民の所得をリアルタイムで把握し、社会保障と税が情報として連動し、一体的な政策が行えるようなインフラをきちんと整備すべきだった」ことを指摘されている。けだし、そのことを実現するためにも、マイナンバー制度が金融所得も含めて全ての所得情報と結び付けられなければならないわけで、その点の指摘がないのが残念ではある。

財政破綻のリスクに対する備えを、金利が上昇する危険性を指摘

この熊谷氏の論文を取り上げたのは、財政・金融問題に対する指摘が的を得ていると思ったからである。このインタビュー記事の中で、東洋経済の記者の質問「ITバブルの崩壊、リーマンショック、そしてコロナ危機と、ほぼ10年ごとに大きな危機が発生しています。本来あるべき金融政策、財政政策の姿に本当に戻れるのでしょうか」という問いに対して、熊谷氏は
「確かに、今の時点では財政再建は望みがたい。いつ財政破綻するかという議論はある種の神学論争だ。社会科学は実験ができず、これは一種の悪魔の証明になる。しかし、証明できないからと言って、財政破綻のリスクを冒していいということにはならない」とされる。

ただし、今は国債を日銀がほとんど買っているため、長短スプレッド(長期金利と短期金利の差)と国債残高対GDP比が、他のOECD諸国の傾向線から大きく外れて異常値を記録しているからで、「経常収支が黒字であり日本人が日本政府を信頼する限り直ぐには国債暴落にはならない」と主張されている。ということは、将来貯蓄が取り崩されて資金不足になり、経常収支の黒字が減少し、円安やインフレが起き、長期金利が上昇し、財政赤字が拡大する可能性がある、事を指摘しておられるわけだ。

「マーケットの信頼は一瞬にして崩壊する」ことに警鐘乱打

経常収支が悪化すれば、長短スプレッドが大きく開いて国債が売り込まれる危険性があるだけに、先手を打って財政規律を守っておかなければならないと警鐘乱打されている。「マーケットの信頼は一瞬で崩れる」わけだが、それがいつ崩れるのかわからない、未来永劫今の状態が続くものでもないことは確かである。日本政府が信頼できない、という状態に陥る前に、財政・金融政策を正常化させていく努力を取り続けていくべきだ、と提起される熊谷氏の問題提起に賛意を示しておきたい。

RIETIの上席研究員、MMT理論で介護労働者の賃上げを寄稿?!

一方、経済産業省所管のRIETI(独立行政法人経済産業研究所)の上席研究員藤和彦氏は、「財政『反緊縮』、世界の潮流に・・・・MMT理論で介護分野の人材の処遇改善を優先すべき」と題するコラムを7月2日のRIETIホームページに寄稿している。そこでは、財政規律よりもMMT理論にのっとって経済の成長を重視していくべきことを主張されている。いうまでもなく、自国通貨建ての国債を発行できる政府の場合は、無制限に国債を発行したとしてもデフォルトに陥ることは理論上ないと主張する。

日本のハイパーインフレ、米中激突・日本のシーレーンの危機から

もっとも、ハイパーインフレになる恐れはないのか、第一次世界大戦後のドイツや直近の事例としてジンバブエの例を取り上げ、単に通貨の発行量が肥大化しただけではハイパーインフレになっておらず、ドイツのハイパーインフレはフランスがルール地方を占領するや否や燎原の火のように広がったことを指摘。ジンバブエの場合も、白人が所有していた農地などを強制的に収容したことによってハイパーインフレは起きていると述べ、日本で起きるとすれば、「米中が台湾や東シナ海などで軍事衝突し日本のシーレーンが脅かされる」ような事態が起きればハイパーインフレになるリスクがあると述べている。なんとも、物騒な話ではある。ちなみに藤研究員は、通産省出身だが、米中政治経済や石油や天然ガス分野と高齢化社会問題などを専門としておられるとのことだ。

人手不足の介護分野への支出なら、MMT理論の実践も納得とは?!

問題にしたいのは、MMT理論の目標は「完全雇用の達成」であり、日本経済の見かけの失業率は低いものの、賃金があまり上昇しない現状はいまだに完全雇用の状態から脱していないと主張される。だから、国債を発行して「賢い使い方」、すなわち将来的に必要と見込まれる分野に対して選択的に財政支出することを求めている。藤上席研究員は「終末期医療や介護分野の人材の処遇改善がまず第一である」と考えている。コロナウイルスの影響で介護施設などの業務が増大し、人手不足がさらに深刻化していることを問題視する。そのうえで「終末期医療や介護の充実であれば、財政赤字拡大によるインフレを恐れる高齢者も納得するだろう」と、MMT理論による将来の日本の在り方を提起しておられる。

税・社会保険料負担の引き上げで、社会保障充実と財政規律確保へ

はたして、日本の低賃金が上がらないのは、完全雇用が達成されていないからなのだろうか。労使の力関係をはじめ、なぜ賃金が上がらなくなっているのか、グローバリゼーションやITC化による中産階級の落ち込みなど、複雑な問題があることはあまり触れていない。さらに、介護保険制度が抱えている財源問題が、そこで働く労働者の賃金水準を抑制せざるを得なくなっていることから目を逸らしてはなるまい。必要なことは、税や社会保険料の引き上げが不十分なことであり、それはMMTによる公債発行に頼り続けることではなく、堂々と消費税の引き上げや介護保険料の充実に向け、今は40歳から徴収している保険料を20歳からに引き上げたり、保険料の引き上げとともに、消費税の引き上げを進めながら、再分配政策として財政再建と同時並行的に進めていくべきではないか。経済産業省が安易にMMT支持に走ることのないよう、しっかりと監視していく必要がありそうだ。


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