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労福協 活動レポート

2020年7月13日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第151号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

マイナンバー制度について、国民民主党で講演へ

先週9日、国民民主党から依頼され、マイナンバー制度についての話をする機会があった。夕方の4時から約2時間、マイナンバーを制度化することについての2009年頃からの民主党政権時代の経験を中心に問題提起をしてきた。国民民主党にいる古川元久衆議院議員がこの問題の座長を、矢田わか子参議院議員が事務局長を務めておられ、コロナの問題もあったのだろう、ZOOMでの参加をされた議員の方たちも多くおられたようだ。古川衆議院議員とは、民主党結党時の税制調査会の会長と事務局長という立場で議論をしてきたわけで、政権交代直後の「平成22年度税制改革大綱」作りでは一緒に鉛筆をなめなめしながら文章化したことを今でも記憶している。その中で、納税者番号制度の導入やそれを前提にした給付付き税額控除導入なども書き込み、その後、社会保障・税一体改革を進めていった経過などを含めて約1時間話をし、何人かの質疑応答で終わった。

1000兆円超の財政赤字をどう解消していくのか、難問提起される

会議そのものの中ではなく、その後食事をしながら昔話などを交えながら、話は今の財政や税制が抱える問題に移っていった。一番の問題は、グロスで1千兆円を超す財政赤字の累積をどうするのか、ということだった。実にGDPの240%を超すレベルに到達しており、今年の税収の落ち込みが確実であるだけに、さらなる赤字国債発行は避けられず、累積赤字の対GDP比はやがて250%を超えることは確実になりつつある。これを増税や歳出の削減などによる財政改革を通じてコツコツと削減していくことが可能かどうか、私にどう考えているのか、質問が投げかけられた。同じことは、親しくしているある大学の先生からも問題提起され、どう財政赤字を解消していくべきなのか、もはや尋常な手段では解決できないのではないか、という問題提起だった。

このままだと、相当ドラスティックな改革が不可避になると予測

国民民主党の中では100兆円の超長期国債を無利子で発行し、その国債で相続税非課税にすることが一つのアイディアとして考えられているとのことであった。おそらく、将来的な財政の持続可能性は維持できなくなり、ハイパーインフレに近い状態になって戦後の「新円切り替え」と同じようなことが想定されるとも述べていたのが印象的であった。また、新型コロナに伴う財政支出については、国際金融取引税などが考えられるとのことだったが、果たして世界の先進国が一致結束して課税に踏み切れるのかどうか、でもそうした方向に向けて努力していくことの重要性は間違いないのだろう。ぜひとも、超党派で一致できる課題として頑張ってほしい、と激励しておいた。ただ、やはりオーソドックスな財政再建を進めていくべきだし、やがて日本の財政が持続可能性を持てなくなる時には当然のことながらドラスティックな改革を余儀なくされるのだろう、と答えてきた。

『フォーリンアフェアーズ』7月号のセバスチャン・マラピー論文「『マジックマネー』の時代」を読んで

こうした日本の置かれている厳しい財政状況が、2%というインフレ目標に達することなく、案外うまく経済を回していることで世界的に注目されているようだ。最新の『フォーリンアフェアーズ(日本語版)』2020年7月号で、セバスチャン・マラピー米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)氏が「『マジックマネー』の時代-終わりなき歳出で経済崩壊を阻止できるのか」の中でも、この日本の経済・財政・金融の在り方と同じような方向がアメリカ・EU・イギリスといった先進諸国で展開され始めていることを指摘している。それがどんな問題を提起しているのか、特に2008年金融危機以降から今のコロナ禍に至るまでの主要先進国の経済政策と今後の展望なども含めてかなり長い論文が掲載されている。

「マジックマネー」とは何なのか、日本がその先端を走っている

先ず表題にある「マジックマネー」とは何なのか。危機が変化を定着化させるためには一つのショックだけでなく、双子のショックが必要であること、大恐慌と第二次世界大戦、ベトナム戦争とウオーターゲート事件などなど指摘し、今は2008年のグローバル金融危機と今進行中の2020年パンデミックが重なり、そのことで国の歳出能力そのものが塗り替えられつつあると指摘。政府は積極的で拡大主義的な経済介入策を取っており、それを「マジックマネー」の時代と呼んでいる。特に、非常に大きな公的債務を抱えながらも低インフレが続き、大きな権限を持つ中央銀行を持つ日本について言及し、「多くの人が考える以上に、資金を借り入れて経済に注入できること」を示しているとやや肯定的に分析している。

日銀のインフレターゲット政策・量的緩和政策に追随するFRBやECBなど先進国中央銀行

この点については、日本経済が90年のバブル崩壊以降陥った金融危機からの脱却に向けて、日銀のゼロ金利政策への転換、2013年黒田日銀による異次元の金融緩和政策によるインフレターゲット政策の展開などが、他の先進国にとって格好の前例となり踏襲されていることに注目している。マラピー氏はアメリカのリーマンショックからの金融危機を救済した際のバーナンキFRB議長が、AIG救済のため850億ドルの資金を注入した時「印刷機さえあれば、FEDは望む限り多くのドルをこの世に出現させることができる」と述べたことを引用し、以降FEDは破綻に直面していた金融機関救済に向けて資本注入したり、長期国債を購入することで長期金利を抑え込み、経済を刺激するための「量的緩和」策を採用していった。これは、すでに日銀によって採用済みのものであり、バーナンキ議長のオリジナルではない。アメリカだけでなくイギリスもECBも、もちろん日銀も、先進諸国の中央銀行は2008年以降10年間で実に約13兆ドルを経済に投入したことを指摘する。

ジャンク債購入にまで踏み込み、「大きな政府を支えるスーパー省庁」化したFRB、日銀も「日銀省」化していないか?!

そして、今回のパンデミックである。中央銀行をさらに大胆にさせ、パウエル議長は「対応には制約はつけない」と約束し、「債務危機を封じ込めるならなんでする」と2012年に発言したECBドラギ総裁の言葉を借用する。まず、流動性の危機には2兆ドルを投入、債務の購入額は5兆ドルを超すとみられ、さらにリスクの高いジャンク債を含む社債にまで踏み込み、「FEDはウォールストリートだけでなく、メインストリート(中小企業)への最後の貸し手としての機能を担いつつある」と指摘、「金融政策のプロと予算政治間の古い境界線は今や曖昧化し、FEDは『大きな政府を支えるスーパー省庁』」化しているとまで述べている。日本でも、日銀は政府から独立していなければならないのだが、黒田日銀はアベノミクスの政策実現に向けた「日銀省」化していると批判する人もいて、世界的に同じ流れができているようだ。

米ドルに対する「ネッワーク効果」による信認は揺るがない現実

これだけアメリカが通貨を膨張させているにもかかわらず、世界通貨としてのドルに対する需要は極めて旺盛で、そのためアメリカのドル債券の利率は極めて低く、実質的にコストを負担しないで金融政策が実施できている。まさに「棚ぼた式」に「フリーランチ」にありつけたわけだ。その他の先進国はまだ同じような状態にあるのだが、多くの発展途上国は「マジックマネーではなく、緊縮財政」しか選択肢が残されておらず、格差が広がっていることから目を閉じてはなるまい。中国の人民元も世界の中央銀行における外貨準備の2%を占めるにすぎず、ドル覇権を覆すにまでには到底至っていないわけで、いかにトランプがでたらめな政策を展開したとしても、「ネットワーク効果」によるドル優位は覆ることはないのが現実だ。

最後は「成長率と金利の関係」が今のまま制御できないと予想

ただ、マラピー氏は当然のこととして金利と成長率の関係について触れ、金利の伸びよりも経済の成長率の伸びの方が大きければ、財政赤字を発散させることなく制御可能であり、日本の30年近い実績などを例に挙げ「マジックマネー」がインフレを起こすことなくそれなりにうまく回転している現実がある。だがアメリカは、日本と同じようにインフレを制御できるのだろうか、とマラピー氏は疑問を上げる。アメリカは1990年代初頭に財政赤字に悩まされた際に、FEDのグリーンスパン議長に圧力をかけたが立場を曲げなかったことに触れ、もし将来財政赤字がインフレによって絶望的な状況に直面すれば、物価安定よりも公的債務の安定を優先する指導者が出てきたとき、「中央銀行には市民を緊縮財政から守る義務もある」と主張するFEDの総裁が出ないと言えない。なぜなら、企業救済まで手掛けたわけで、国民の救済にまで踏み込むことも十分に考えられるとみている。

不確実が支配する時代、中央銀行は真の独立性を維持できるのか

でも、何時までインフレが起きないでいることができるだろうか。その点について、だれも確信が持てないことを指摘すると同時に、パンデミック後の脱グローバル化が引き起こす供給の混乱が目詰まりを起こしたり、価格の急騰を引き起こす危険性や、不条理までに落ち込んでいるエネルギーコストの急騰がインフレの引き金を引くかもしれないわけで、不確実性の支配する世界を考えるべきだと主張している。さらに、マラピー氏は1950年代のトルーマン大統領時代のFEDの総裁との確執に言及し、自分が任命した総裁でも大統領の要請よりも、FEDの目的である物価の安定の方を採用したことを歴史の出来事として取り上げる。トルーマンは自分が任命した総裁に対して「裏切り者」と罵声を浴びせたという。「マジックマネーの時代が終わるまでに、アメリカはより多くのそうした裏切り者を必要とする事態に直面するかもしれない」という言葉でこの論文を閉じている。

果たして、日本銀行は政府からの独立した立場に立ち、時の総理から「裏切り者」とののしられても信念を貫くことができるだろうか、しばし考えてしまった。おそらく、国民の生活よりも、自分(達)を任命してくれた総理大臣のほうに顔を向けてしまうのではないか、と思われてならない。まことに残念なことではある。


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