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労福協 活動レポート

2020年8月3日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第154号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

再び感染増加に転じた新型コロナウイルス、日本経済・社会を直撃

新型コロナウイルスによる感染者数が、このところ再び拡大し続けている。東京都では400人を軽く突破し、このままいけば500人はおろか1000人の大台に突入することも十分ありうる事態になろうとしている。さらに、注目すべきは大阪府に次いで愛知県、さらには福岡県などにも感染拡大が広がりつつあり、太平洋ベルト地帯の大都市部を中心にした人口密集地帯での感染の広がりが顕著に進んでいる。その結果、全国で1日当たりの感染者数が1000人を超し1500人になろうとしている。余談ではあるが、全国47都道府県で唯一感染者ゼロだった岩手県でも感染者が出るに及んだことが、感染状況の拡大・深化を象徴しているようだ。

こうした状況の下で、「GOTOトラベル」キャンペーンをわざわざ前倒しで7月22日から進めたことが果たしてよかったことなのかどうか、しかも東京都発着だけ除外するなどあまりにも「露骨で意味のない恣意的な運用」がなされていることには、国(安倍政権中枢)と東京都(小池都知事)の間のえも言われない軋轢があるのだろう、と想像をたくましくさせてくれる。今は国難ともいうべき時だけに、コロナ対策に全力を傾けてほしいものだ。口の悪いご仁は「GoToトラベル」キャンペーンではなく「GoToトラブル」キャンペーンではないか、と揶揄しているが、「アベノミクス」ではなく「アベノマスク」以上のパンチの効いたギャグには違いない。

精彩を欠く安倍総理の存在、秋には解散・総選挙はあるのか???

それにしても、国会でのテレビ中継入りの閉会中審査に出席をしなくなったこともあるのだろうか、最近の安倍総理の存在感の薄さとともに、時々テレビに映るぶら下がり記者会見での生気の無さが目について仕方がない。一説には「もう嫌になっていて政権を投げ出そうとしているのではないか」とみる向きもあるようだが、そのあたりは知る人ぞ知る問題なのかもしれない。その他、健康の問題などもあるのではないか、と勝手に思ったりする。

ただ、ご本人にとっては、長期政権のレガシーづくりである憲法改正にも何ら手がついておらないわけで、秋から冬にかけて解散・総選挙をひそかに狙っているのかもしれず、案外「生気を養っている」のかもしれない。選挙に勝つためには何でもありの政治の世界だけに、対抗する野党側の準備も怠りなきよう進めていくことになるのだろう。立憲民主党と国民民主党の新党への合流話も、党名にこだわる立憲民主党の枝野代表の「傲慢さ?!」だけが目立っているようで、なんとも大局観の無さが気になるところである。

日本経済の落ち込みは深刻だ、V字型回復とはならない現実

こうした厳しい状況の下で、コロナ禍の下での4-6月の新年度第一四半期についての経済指標が相次いで明らかになりつつある。

なにせ、コロナ禍の下で生産・消費ともに大きな打撃をまともに受けてきたわけで、日本経済全体にわたって大きな落ち込みを記録している。近く(8月17日予定)公表される4-6月のGDPの伸びは1-3月に比較してマイナス7.5%、年率換算26.8%という大幅なマイナスになるとBNPパリバのチーフエコノミスト河野龍太郎氏は「Economic Spotlight」(7月31日)で予想している。緊急事態宣言が4月に発せられ、個人消費の落ち込みや海外への輸出も大幅に落ち込んだことなどが挙げられている。

もっとも、月次ベースでは内需、外需ともに6月に底入れしており、次の7-9月にはプラス成長になるとみられている。ただし、今後のコロナ感染危機拡大いかんによっては内需・外需ともに楽観できないとのことだ。とくに、家計の雇用・所得環境は大きく悪化しているうえ、再び感染の拡大がみられ、個人消費の回復は、1人10万円の特別定額給付金の支給による消費のリバウンドはみられるものの、全体として6月下旬以降頭打ちのようだ。なにせ、10万円が支給されてもそのすべてが消費に振り向けられることはないわけで、内需の拡大にはコロナ禍で困窮している人たちには不十分な金額とはいえ「干天の慈雨」だったとしても、それ以外の多くの方たちにとっては、とりあえず貯蓄に回ったとみられている。10万円一律支給の効果は、所得階層別や地域別など、今後丁寧に分析されてしかるべきだろう。ベーシックインカム論議などへの重要な資料となることは間違いない。

これから深刻化する雇用、非正規雇用から正規雇用にまで波及へ

問題は、雇用である。6月に発表された労働力調査によれば、休業者は5月に423万人へと膨れ上がっていたが236万人とかなり低下してはいるものの、1年前の6月に比べてまだ90万人も上回っている。業種としては飲食宿泊サービス業、卸売・小売業、製造業が中心に業績悪化に耐え、雇用調整助成金などにも頼りながら仕事がない人の雇用を維持したわけだ。だが、新型コロナウイルス感染拡大が再燃し、6月下旬から景気回復が滞っているわけで、7月に入ってのさらなる感染拡大やGoToトラベルキャンペーンによって勢いづくどころか、再び減少傾向に入る危険性が指摘され始めている。

これから先の展望なのだが、需要の回復が見通せなければ人員整理が始まることも十分に予想されるだけに、失業率も4%台に達するのではないかと専門家は予想している。既に非正規雇用は6月にはマイナス3.7%と減少しているが、正規雇用はまだそれほど削減されてはいない。しかしながら、これから先の日本経済の需要の落ち込みいかんでは、正社員にまで雇用調整が進むことも十分見ておくべきだろう。さらに、来年度以降の新規採用見通しも大変厳しいものとなりそうだ。かつて新卒の方たちの人気のまとだった全日空やJAL、さらにはJR本州3社など、1年前には想像もつかなかったほどの落ち込みで、航空各社の中には企業存続の瀬戸際まで来ているところもあるようだ。日本経済の前途は明るくなる条件があまりにも欠けている。もちろん、グローバルなパンデミックによる世界的な経済の落ち込みは、日本以上に深刻さを増しつつあることは言うまでもない。まさに、世界大恐慌の再来とまで見る向きもある。

内閣府専門家の景気判断は2018年10月が「景気の山」、戦後最長とはならず

こうした経済の現実が進展する中で、内閣府が開催している景気動向指数研究会が30日に開催され、直近の「景気の山」が何時なのか議題となり、約2年前の2018年10月との見方でまとまったと報道されている。第2次安倍内閣からスタートした景気の上昇が、戦後最長を記録するのではないかと言われていたのだが、結果として最長とはならなかったわけだ。そもそも「戦後最長」の好景気といわれても、過去の好景気に比べ国内総生産(GDP)や家計への波及は鈍く、株価の上昇や円安による企業部門の好調さが指摘されるものの、労働分配率が大きく低下したことによる内需の落ち込みによって景気が好循環を記録するには至っていなかったわけだ。

なぜ2年近く景気判断を間違い続けてきたのか、その意図は何か

消費税率の引き上げが景気の停滞を招いたと安倍政権の側から良く指摘されるわけだが、2014年4月の5%から8%への引き上げが確かに一時的には景気の停滞を招いたわけだが、中期的にみれば景気の後退を記録したわけではなかったわけで、むしろ消費税率の引き上げ分を賃金でもって取り返せていないため、内需の拡大には結びついていないことを指摘しなければなるまい。さらに、消費税率の引き上げを2度にわたって延期したわけだが、昨年10月に10%への引き上げが実施された以前に景気が落ち込み始めていたわけで、政府の景気認識の甘さこそ指摘されてしかるべきなのだろう。2018年10月から2年近くにわたって景気判断を誤り続けてきたことの背景には何があったのか、厳しく検証すべきだと思う。2019年1月には既に景気後退に入っていたにもかかわらず、当時の茂木経済財政担当大臣は、『政権復帰した時に始まった景気回復期間は戦後最長になったとみられる』と胸を張ったことを忘れてはなるまい。消費税率引き上げ問題を選挙の手段として最大限活用(悪用)したことこそ、糾弾されてしかるべきであろう。

これからのマクロ経済政策の課題、財政と金融一体の対処を

問題は、これからのマクロ経済政策の行方である。コロナ禍による経済の落ち込みに対して赤字国債を大量に発行していくことはやむを得ないわけだが、一段落した後ではどんな財政・金融政策を展開していくべきなのだろうか。GDPの200%をはるかに超す財政赤字の累積は、当然のことながら成長率を上回る金利の上昇が命取りになることは言うまでもない。政府の発行する国債を日銀が大量に購入していく財政ファイナンスによってなんとか金利の上昇を抑制できているわけだが、金利上昇を抑制できなくなる事がありうることを踏まえた財政・金融政策の在り方が求められているのだろう。

2013年1月締結の「アコード」の見直しからスタートすべき、BNPパリバ河野龍太郎チーフエコノミストの提起に納得

先ほど引用させていただいた河野龍太郎BNPパリバチーフエコノミストは7月31日発行の『Weekly Economic Report』のなかで、新しい政府と日銀のアコードを締結していく必要性に言及されている。2013年に安倍政権と日銀の間で結ばれたアコードは、成長時代にインフレを抑制するために提唱されていた「インフレターゲット」政策を、デフレからの脱却を目指して2%のインフレを達成するまで異次元の金融緩和を進めたわけだが、デフレではなくなった今でも2%のインフレは実現できていないわけで、それに固執する日銀の政策は今や政府の進める放漫財政のファイナンスでしかなく、2013年のアコードにある財政規律や成長政策の実現には程遠い現実を厳しく指摘する。いまや、財政規律と金融システムの安定が不可欠になっており、意味を失っている「2%のインフレターゲット政策」を柱に据えた2013年のアコード見直しから論議を進めていくべきことを提唱されている。

もちろん、ETFやREITなどから手を引くべきことと日銀保有のこれら資産は、ソブリンウェルスファンドを設置してそちらに移管すべきことも合わせて提唱されている。けだし、その通りだと思う。この河野龍太郎チーフエコノミストの論文は、長文ではあるがなかなか読み応えのある論文であり、関心のある向きには是非とも直接読んでほしい。


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