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労福協 活動レポート

2020年9月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第160号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

いよいよスタートした菅政権、出だしの評価は高いものがある

菅政権がスタートした。幹事長をはじめとした主要な党役員人事も、予想通り派閥均衡で出発し、国会での首班指名を受け既に前日までに内定済みの閣僚人事も確定した。さらに副大臣や政務官人事も決まったようで、連休中はそれぞれの省庁の中で大臣、副大臣、政務官が役所の皆さんと一緒になって課題の整理やこれからの分担などが話し合われているに違いない。11年前の2009年も、大型連休が入って藤井財務大臣の下で、のちの総理大臣となられた野田佳彦副大臣とともに酒を酌み交わしながら議論したことが思い出される。

東北の農家出身で「たたき上げの苦労人」、政権安定の要への評価か

いろいろな評価が飛び交っているが、大手新聞社などが実施した菅内閣の支持率は60%台から高いものでは日経新聞の74%にまで達しており、予想以上の高い支持率からスタートしたことは事実であろう。秋田の農家の生まれで、高校を卒業して上京し働きながら法政大学を卒業。政治家への道は、神奈川選出の小此木代議士の秘書からスタートし、横浜市議会議員2期で国会議員に転出した「苦労人」としての物語には、日本人の心の琴線に触れるものがあるのだろうか、高い支持率の背景にはそうしたことが感ぜられて仕方がない。

もっとも、安倍前総理が退陣を表明した時に、政権支持率が20%近く上昇したこともあり、その流れを受けつつようやく安倍長期政権が終わったことと、2世や3世でない「たたき上げの総裁」が実現したことへの、一時的に「軽いブームと思しきもの」が起きているのかもしれない。問題は、これからどんな政治が展開されていくのかが重要なのだが、国会での所信表明から予算委員会などでの与野党の論戦を経て菅政権は何を目指そうとするのか、安倍政権とは何が違うのか、何よりも安倍政権時代で信頼を失いつつあった憲法を土台にした日本の民主主義をどう高めて行くべきなのか、大いに語ってほしいものだ。

「自助・共助。公助」「絆」は新自由主義なのか、国会で論戦を

そうした中で、菅総理は「自助・共助・公助」と「絆」ということを国づくりの柱に据えていくことを強調している。最初に「自助」を強調しているから新自由主義ではないか、という批判が展開されているが、「公助・共助・自助」と言い換えても、問題はどういう分野は「公助」すなわち政府が責任をもって進めていくべきなのか、市場経済を基本に置いている中で、国民の社会保障や教育といった社会的共通資本と呼ばれる分野を、市場原理から外して国民誰でもが自由に利用できるようにすべきか、それともそれを今以上に市場原理にゆだねるべきなのか、大いに論戦して欲しい。

早期の解散・総選挙を望む声、国民の審判を受ける前に国家像を

ところが自民党内では、出だしの高い支持率を受けて解散・総選挙に打って出るべきではないか、という声が麻生財務大臣をはじめとしてかなり多くの議員から出ているようだ。コロナ禍が依然として続いているなかで、既にGOTOキャンペーンも始まり、19日からはイベント開催要件の緩和も進む中で、感染拡大が収まるようであれば解散・総選挙は十分にありうるとみるべきなのだろう。来年秋までの衆議院議員の任期まであと1年足らず、幻となりつつあるオリンピック・パラリンピックもありと考えれば、解散のチャンスとしてはそれほど時間的な余裕はないわけで、菅総理としても秘かに構想を練っているに違いない。個人的には、憲法の規定する解散権は、総理の専権事項とはどこにも書かれていないわけで、内閣不信任案が可決されたり信任案が否決された時の対抗要件としての69条解散だけにすべきことを今一度考えるべきだろう。とはいえ、既に憲法7条の天皇の国事行為を使って解散することが慣行となっているわけで、野党側としては解散・総選挙へと準備を進めていく必要があろう。

「縦割りを排した規制緩和」、でも弱者にとって必要な規制がある

菅総理が主張している中で警戒してみているのは「縦割りを排した規制緩和」であろう。「規制」の中には、国民の命や暮らしを守るために必要な「規制」があり、我々の住んでいる社会は富裕層や貧困層、大企業や中小企業、豊かな地域と貧しい地域など平板にとらえてはいけないだけに、絶えず「規制」を見直ししていく必要があるし、国民不在の不要な規制は廃止・改革していくべきだが、規制を撤廃すれば国民生活にとって不安定さを拡大するような「改悪」になってはならない。1990年代後半以降、雇用分野における規制緩和は非正規労働者の急増をもたらし、国民生活の悪化となって多くの働く国民に悪影響をもたらし続けている。

それだけに、菅政権の進めようとする「規制」緩和策がどのような中身になるのか、注意深く目を凝らして監視していく必要があろう。そのためには、菅総理の目指す日本社会の在り方について、新自由主義による資本サイドに立った「小さい政府」を目指そうとしているのか、それとも「大きな政府」に近い再分配政策重視の立場なのか、ここは実に重大な論点なのだ。総選挙において、国民の信を問うに足る重大な論点であることは間違いない。菅総理は、かつて総務副大臣時代には竹中平蔵総務大臣の下で仕事をしていたことがあり、その影響もうけておられるのかもしれないが、デビット・アトキンソン氏からも外国人観光客拡大や中小企業育成、全国的な最低賃金引上げなどの政策も学ばれており、背景としてどういう国家像・理念を持っておられるのか、国会論戦で明確にしてほしいところである。

「デジタル革命」実現のカギは「公平・透明・納得」にあるのでは

さらに、「デジタル庁」創設をはじめとするデジタル革命の推進をかなり重視されていることが挙げられる。だが、デジタル革命を進めるために必要なことは、何よりも民主主義の基盤となる「透明性」が求められるわけで、これまでのような隠ぺい体質を持った政府では国民の不信感が高まれば、デジタル革命を進めるうえで何よりも障害になることは間違いない。公平・透明・納得といった点での改革の大前提を内閣全体で確立してほしいと思う。単なる利便性の向上だけでは到底うまく行かないのだ。

小峰教授の「消費減税・廃止論への違和感」はその通りだと思う

最新の『週刊東洋経済』(9月26日号)コラム「経済を見る眼」で、小峰隆夫大正大学教授が実に鋭い指摘をされている。題して「消費税減税・廃止論への強い違和感」で、まったく同意見であり、立憲民主党を中心にした野党は選挙共闘に向けて消費税減税を軸に動き出していくのだろうが、とても支持できない。あの2009年の政権交代における「マニフェスト財源問題」を思い出してしまう。財源など政権を取ったらなんぼでも出てくる、と豪語された方(今度の合流にも参加されている)が主導したものだったことを忘れることはできない。

コロナ禍対策として間違っている消費税減税策・逆進性対策など

さて、小峰教授の指摘する問題点は次の3点である。

第一に、消費底上げの政策として不適切であること。コロナ禍の下で経済が落ち込んでいるのは教養娯楽サービスや外食、交通、交際費などが大部分で、消費減の主因は所得が減ったことではなく、新型コロナ感染症を恐れて外出やレジャー活動を控えたことにあるわけで、消費税を引き下げれば人々が外出するとは考えられないこと。

第二に、逆進性の問題があるので低所得者を助けることになると考える向きに対して、確かに所得に対する消費税額の比率は逆進的だが、廃止したら「所得の高い層では高所得者には49万円返します、低所得層の方には23万円還付します」ということになる。こんなことをやれるだろうか。全世帯一律30万円返します、の方がまだましなこと。

第三に、コロナ危機後には日本の財政を再建軌道に乗せる課題が待ち受けているが、これだけの大規模減税はそれを困難にする。減税を提案するには財政に及ぼすコストをどう処理するのか、考えるべきと指摘する。

枝野代表は所得1000万円以下の所得税減税も提起、所得税も実質上ゼロに近いものへ

私は、枝野代表が消費税の減税だけでなく、所得1000万円以下の所得税の廃止を提起していることにも気になって仕方がない。1000万円以上の高額所得を支払っている方にも1000万円までは税がかからなくなるし、日本の所得税収の大半が入ってこなくなるのだ。コロナ禍が終わって、消費税を元に戻すのにはどんなことが必要になるのだろうか。1989年から30年近くかかって引き上げられた消費税率を、簡単に引き上げられるほど甘くはない。所得税の引き上げも同じようにサラリーマン世帯を直撃するわけで、大変な思いをしなければならないだけに、到底日本財政の信認を勝ち取ることができないことは言うまでもない。それは、日本財政だけでなく、日本国に対する信認の欠如を意味するわけで、事実上のデフォルトまでもたらす暴挙になる。小峰教授も指摘されているように、国民に取って長期的にプラスになるのかどうか、単なる国民の人気取りになってはいけないのだ。

野田元総理、三党合意の消費税引き上げは何だったのでしょうか

社会保障・税一体改革に力を注がれた野田元総理は、一体どのようにこの問題を考えておられるのだろうか。ぜひとも、お聞きしてみたいと思うのは私だけではあるまい。


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