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労福協 活動レポート

2020年9月28日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第161号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

菅内閣がスタートして2週間目に入ろうとしている。様々な論評が繰り広げられている中で、興味深い論評だと感じたものについての私なりの感想を提起してみたい。

投稿コラム「投資する人々 沈黙の政権支持」は新鮮で興味深い

まず取り上げたいのは、9月23日付朝日新聞夕刊2面に「投資する人々 沈黙の政権支持」と題して、重田園江明治大学教授のコラムである。このコラムは「投稿記事」として掲載されていた。重田教授はまだ50代前半、専門は政治思想史・現代思想とのことだが、不勉強のせいか今まであまり著書など読む機会がなかった専門家だっただけに、それほど長い記事ではなかったものの読後感は実に新鮮だったし興味深いものだった。

スキャンダルまみれの安倍政権、なぜ支持を維持してきたのか

コロナで風向きが変わるまで、なぜ安倍政権は「弁明できないスキャンダに何度も見舞われても、強弁とはぐらかしで支持を回復してきた。なぜだろう」と読者に問う。
その理由を知るには「政治的立場からの支持者ではなく、もっと目立たない人たち、政治的には強い意見を持たないが、経済浮揚策に満足してきた人たちに注目することが重要である」と指摘する。しかも、安倍政権の進めてきた経済政策は、明らかに富裕層と企業向けの物だったわけで、日銀の異次元金融緩和の下で「投資」が奨励されたことに注目する。

株価指数に連動する商品への投資、NISAの拡大に注目

最近の株式では、個別企業の株式でも「ミニ株制度」や2年前に始まった「つみたてNISA」など、一定の範囲で課税が免除されていることもあるのだろう、株価指数に連動した運用がなされる小口投資が奨励され拡大している。こういう投資が増えると、全体としての株価維持、つまり「日経平均株価が高い状態」が歓迎されるわけで、株価の裏側で進む不安定労働者の増加や社会保障費の削減といった公共にかかわる問題などはやや他人事、さらには学校法人をめぐる不正や改ざん追及などは、むしろ株価下落に結び付くことを心配してしまう。そこには、「分散」による金儲けがかえって全体を見る眼や公正の感覚を失わせているとみている。この点は重要な指摘だと思いながら、読み進んでいく。

平均の株価維持を願う人たちは、スキャンダルには沈黙の支持

かくして、次のように今の現実をとらえている。

「経済と政治の話は別だなどというのは大間違いだ。平均的な株価水準維持を願う人々は、頼もしい異次元緩和を財政規律の観点から批判することはできず、また首相夫妻が誰と桜を見ようと、あるはずの名簿がないと言い張ろうと、興味がないふりをすることができる。そして政治的意見を表明することのないまま、アベノミクスありがとうと心で唱えて沈黙の支持を続けてきた」のではないかと。

資産保有では預金よりも株式投資にはなっていないが、NISAは急増して1000万口座を超す盛況、新しい保守層誕生か

なるほど、そういうこともありうるのかもしれない、と思いつつも、どれだけの日本国民がこうした小口の証券投資を増やしてきているのか、残念ながらこのコラムには数字の裏付けのある実態は書かれていない。そこで、日本証券業協会が2018年6-7月にかけて20歳以上の男女7000人に対して訪問留置法で調査した結果を見ると、金融商品保有率で預貯金が92,8%、株式は12,6%、投資信託9,2%という結果であり、同じ方法で調査した2015年の結果とあまり差がない。

ところが、国税庁の発表しているNISA口座開設数を見てみると、制度導入時点2014年1月は約475万口座だったが、最新のデータである2020年3月で一般NISAだけを比較してみると1185万口座にまで拡大している。それ以外に積み立てNISAが219万口座、ジュニアNISAは35万口座となっている。

日本証券業協会の調査の中身の詳細がよくわからないので、両者を比較しようがないのだが、NISA自体は大きく伸びてきていることは間違いなく、金額で見ても19兆円にまで達している。1口座=一人とすれば、今や1200万人近くにまでその存在感を増しており、重田教授の指摘も頷けるものがある。今後とも、株式所有の拡大についても十分に注目していく必要がありそうだ。

中島岳志東工大教授、菅内閣高支持率60%の背後に3000万人の不支持から支持へのスウィング=全体主義を支える層と断定

1000万人台の国民世論の動きの変動に注目した「コラム」にも注目させられた。それは、中島岳志東京工業大学教授が『週刊金融日』の巻頭コラム「風速計」に、「菅内閣の支持率」と題して国民の世論に対する危険性について警告している。安倍内閣から菅内閣へと変わったものの、安倍政権を官房長官として支え、ほぼその政策を踏襲してスタートしたばかりの支持率が、何と60%を超える水準に達したことの問題を厳しく指摘。安倍政権の末期に30%を切るような支持率だったわけで、それがなぜ2倍の支持率にまで高まったのか、実数にして約3000万人もの人が支持から不支持へと反転したわけだ。それについて中島教授は次のように断言する。

「私には確信がある。全体主義を支えるのはこの層である」

というのも、自分は安倍内閣も菅内閣にも批判的だが、しかし安倍政権を支持し、引き続き菅内閣を支持している人を敵視していない。それは一つのオピニオンであり、見解の相違が存在するのは自由主義社会では当然のことだからと言う。

「輿論」と「世論」は違う、3000万人を含む世論は3か月で支持率の低下を予測

一方菅内閣になった途端、不支持から支持へと反転した約3000万人は、センチメント(気分)によって動いているとみる。オピニオンに対して議論が成り立つが、センチメントには議論が成り立たない。日本人は「輿論」と「世論」を区別してきた。「輿論」はパブリックオピニオン、「世論」は「ポピュラーセンチメント」で、「輿論」が尊ばれ、「世論」が白眼視されていたとして、いま日本は「世論」に支配されているとみる。

次の指摘「菅内閣は3か月ほどで、一気に支持率を下げる可能性が高いが…」とある。

中島教授、「全体主義」とは直感的な判断とはいえ深刻な問題だ

それは何故なのか、具体的な説明はない。安倍政権の批判がそのまま菅政権にも妥当する、ということなのだろうか。いつも歯切れのよい中島教授にしては、このコラムは断言調の記述が多い。これからの菅政権の下で進む政治に対する直観なのかもしれないが、「全体主義」とは何とも深刻な問題であるだけにどんな展開を示すのか注目していきたい。

『週刊東洋経済』最新号、の「JAL・ANA統合説の真贋」と私

『週刊東洋経済』の最新号、「第1特集 激震!エアライン・鉄道」の中で「JAL・ANA統合説の真贋」という記事が掲載されていて、小生の発言も記事にされている。書いているのは東洋経済記者の方で、実は私も電話による取材を受けている。当時、財務副大臣だった私に藤井裕久財務大臣からJAL問題を担当するよう御下命があった。野党時代にJALへの公的支援問題などを国会で追及していたからなのだろう、本来であれば予算を担当の野田副大臣の出番だったと思ったが、なぜか税担当副大臣の私にお鉢が回ってきたわけだ。確か、その後事務次官となられ早逝された香川俊介氏が総括審議官でJAL担当だったと記憶する。

既にJALの再生策に目途をつけ、会社更生法適用後が問題に

この特集記事の中では、私が取材を受けた内容がほぼ正確に記事として書かれている。09年12月末、当時の菅直人副総理や前原国土交通大臣、辻本国交副大臣らに「JALの国際線をANAに集約する案」を示したことである。私の記憶では、09年12月ではなく10年1月初めだったように記憶しているが、そこは定かではない。場所は官邸の菅副総理大臣室だった。既にJALの破綻処理と同時に会社更生法に基づく再生を進め、飛行停止することなく企業再生する方向ができつつあった頃のことである。

国際線から撤退論、国際競争力とANAとの競争条件均等化で主張

私が国際線のANAへの統合を打ち出したのは、一つには世界的な航空自由化による競争が激化する中で、人口規模が1億人の日本において国内2社で競争すべきではなく、国際線は1社にしJALの国際線をANAに統合させるべきではないか、というものだった。もう一つは、JALがこれまでの負債を清算され、ピカピカの新しい企業としてスタートすることになれば、あまりにもANAとの競争において優位に立ってしまうのではないか、ということにあった。

結果として、私の考え方は採用されることはなかったのだが、その後JAL再建に乗り出された稲盛会長に、前原大臣がJALの国際線のANAとの統合を提起されたとの報道に接したことがあるが、私自身既にJAL問題から担当を外れていたわけで、何の連絡もない中での出来事であった。もっとも稲盛会長からは軽く一蹴されたようだったが、このあたりの事の真相は実はよくわからないままである。でも、今考えると10年前のJAL再建策は成功した物語として語られるのではないかと自負している。なぜ成功したのか、そのあたりは歴史の審判として後世の方たちの語るに任せたい。でも、その背後にはJALで働く方たちの大きな犠牲が伴っていたことを見失うわけにはいかない。

JAL再建問題は、民主党政権の成功物語、自民党時代と対比し歴然

コロナ禍の下、再びJALとANAの統合が云々されているようだが、これからの国際的なアライアンスの問題やLCCの問題など、当時よりも情勢が大きく変化しているだけに、今どうすべきなのか、判断できる情報を持ち合わせていない。ただ、当時の条件の中でJALとANAの国際線統合案は、それほど的を外した問題提起ではなかったと今でも思っている。もっとも、省庁の枠を超えた意思決定をする際、スピード感が必要と思いつつ十分な根回しをしないまま個人的な判断を優先していたことも事実であり、組織人としての在り方として反省すべきだったことは間違いない。

今は、10年前の民主党政権時代の苦い思い出の一つではある。


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