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労福協 活動レポート

2020年10月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第163号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

枝野代表、「私たちは勘違いをしていた」『週刊金曜日』インタビュー記事に注目

『週刊金曜日』最新号(10月9日号)で、新しい立憲民主党代表に選出された枝野幸男氏の単独ロングインタビューが掲載されている。インタビューアーはジャーナリストの尾中香尚里元毎日新聞記者である。表題は「私たちは勘違いをしていた」とある。「私」ではなく「私たち」とあり、少なくとも民主党政権時代も含めての「勘違いなのだろうか」、そうだとすれば、私自身にとっても見逃すことのできないインタビュー内容となる。

「互いに支えあう共生社会」の中身は「ベーシックサービス」充実

この中で、自民党の「自己責任者会」に対する対抗軸として、新しい「立憲民主党」は「互いに支えあう共生社会」を提起したことを明言する。「互いに支えあう共生社会」とは、「公助」で支える行政には、一定の機能を発揮できる強さと規模が必要で、ある程度の規制は必要だと述べているが、「一定の機能」「ある程度の規制」と抽象化されていて、中身が今一つ伝わらない。そこで尾中氏は「支えあう共生社会」はどんなイメージなのか、と切り込む。

枝野氏は「病院や介護施設、保育所や公立学校、放課後児童クラブや障害福祉施設に『余裕』がある社会。生きるために必要なサービスを、必要があればだれでも、欲しいときに確実に受けられる社会です」

尾中氏の「ベーシックサービス」ですね」という問いかけに、「そうです」と答え、「ベーシックインカム」については「まったくリアリティの無い話です」と否定している。

社会保障や教育の重視・充実、財源は消費増税ではなく、
所得税や法人税など間接税から直接税へ回帰を目指す

要は、自民党が進める「新自由主義的な政治」に対抗して、社会保障をはじめとする社会的共通資本を重視し充実させていくことを宣言しているわけだ。問題は財源だが、コロナ禍が終息した「その先」に国民の負担をお願いするとしている。その際、消費税の引き上げについては「少なくとも私が現役の政治家である限りはありません」と断言し、安倍政権と同じ考え方に立脚しているようだ。

興味深いのは、税制の論議についてかなり突っ込んでいることだ。1989年の消費税の導入以来30年が経ち、その間消費税による累積税収分と同じくらいの所得税と法人税が減収になっていることに触れ、これからは「直間比率の是正」を逆回転させながら財政を健全化する方向を打ち出している。所得税や法人税の課税強化で、所得税については累進課税の最高税率の見直しには慎重だが、「金融所得課税には圧倒的に逆進性が高く、ここは手を付けるべきです」と累進性を持つ所得税の対象となる課税ベースを金融所得にまで拡大しようとしている。そのこと自体まさに正論であり、問題はそれをどう実現していけるのか、それが問われている。金融資産税にも検討課題として触れているが、目の付け所として間違ってはいない。法人税について、内部留保がため込んでいて使わないでいることに着目している。

経済のグローバル化、富裕層や企業の海外移転をどうするのか

グローバル化した経済の中で、主として富裕層や法人といった国境を軽々と飛び越える層に課税の焦点を当てていることは正しいことなのだが、その難しさと裏腹だということをどの程度考慮しているのか、疑問に思える。何よりも、一番の焦点である所得の正確な捕捉ができていない現実をどの程度認識できているのか、という点である。

所得税改革、マイナンバー制度による金融所得の捕捉が不可欠だ

枝野氏が最初の所得税において改革すべき逆進性の解消とは、金融所得の課税が一律20%の分離課税になっていることの是正であろう。そのためにはマイナンバーの銀行口座や証券口座の紐づけが不可欠であり、それなくして所得の正確な捕捉はあり得ないわけで、逆進性対策の改革は不可能である。さらに言えば、社会保障の公平な実施のためにも、国民の所得や資産の正しい捕捉が不可欠である。それができていないのは、先進国では日本だけといっても過言ではない。

40年前のグリーカード(納税者番号制度)潰しの苦い経験をどう克服できるのか、
試金石は銀行のすべての預金口座との紐づけ

かつて大平内閣の時代に、納税者の正確な所得捕捉を導入するための番号制度「グリーンカード」法案が国会を通過したことがある。それから導入までの間、自民党内のグリーンカード潰しの画策が進められ、一度法案が通ったにもかかわらず、凄まじいロビー活動によって結局実施できないまま廃案となってしまったことを忘れることはできない。今、マイナンバーと銀行預金の紐づけが論議され始めているが、一人当たり1口座の紐付けでは正確な所得捕捉にはならない。すべての預貯金口座や証券取引口座と結び付けなければならない。資産性所得の正確な捕捉が必要になっているからだ。

共生社会をつくるには、国民の所得を正確に捕捉する必要が不可欠

今、菅政権の下でマイナンバーと銀行口座との紐づけが目標とされているが、それは一人1口座でしか考えていない。というのも、今年の特別定額給付金10万円の支給が遅れたことの原因に、マイナンバーと紐づけされた銀行口座がなかったことを挙げ、効率的な行政を進めるためには1口座あれば事足りると考えているからなのだ。
問題は、効率性の解決だけではなく、公平性の改革につなげなければならない点である。つまり、世界の先進国の常識として、だれが富裕層で誰が貧困層なのかを掴んでいないため、余裕のある富裕層の方たちにまで一人10万円が支給されたことの是正が必要なのだ。マイナンバーによるすべての金融所得を捕捉し、公平な所得税の支払いを求めていく必要があるからだ。そのためには、すべての金融所得の源泉とマイナンバーと結び付けていかなければならないわけで、銀行口座もすべてマイナンバーをつけることに着手すべきである。プライバシーの問題も重要であるが、それ以上に公正な税制にしていく必要が優先される必要がある。プライバシーを理由に正確な所得捕捉を進めないことは、結果として富裕層の方たちの税を軽減することに通ずるわけで、立憲民主党としては決断してほしい点である。

民主党政権の反省、出来もしないことを発言、
ではベーシックサービスの財源は所得税や法人税で賄えるのか、財政の再建は

ちょっと税の細かい問題に入り込みすぎてしまったが、先に進みたい。

それは、かつての民主党政権時代の反省点として次のように述べている。
「できないことを言わないことです。民主党政権の反省点はやりたいことを全部口に出してしまったことだと思う」(19ページ)。「やれないことは言わない」ことを徹底したいと述べておられる。フィージビリティに欠けた政策についての反省なのだろうが、かつて民主党政権獲得前後の時期に、年金問題について全額税方式による7万円の最低保障年金という実現不可能な政策を主張していたことの反省も含まれているのだろうか。

だとすれば、ベーシックサービスに必要な財源を消費税ではなく所得税や法人税などに財源を求めるというアイディアには、フィージピリティがあるのかどうか、もう一度しっかりとした論議の積み重ねが必要だと思うのだが、どうなのだろうか。

野党時代の民主党、「新自由主義に色目を使った」と反省、
旧立憲時代の「まっとうな保守」発言との関係は?

もう一つ、枝野氏は正直に反省の弁を述べておられる。それは、1990年代から2000年代前半、野党時代の民主党の際、枝野氏自身も「新自由主義」に色目を使ったことがあり、東日本大震災や安倍政権時代に吹っ切れたと述べておられる。なぜ自民党と同じ方向を目指すことになったのか、一つは、自民党内には保守とリベラルの理念を包摂していた事、二つには多くの野党議員が自民党の理念政策に近づかないと小選挙区で勝てない、政権が取れない、と勘違いしていたことを挙げる。そこから脱却したのは、自民党が理念として新自由主義に純化したことや、3年前の総選挙で立憲民主党が「支えあい」に舵を切り自民支持層からも票を得ていたこと、自民党支持層はイデオロギーではなく「生活保守」の皆さんが圧倒的多数派なのだということが理解できたことを挙げておられる。新自由主義に色目を使ったことへの反省の弁は、人は間違いを犯すことは誰でもありうるわけで、なかなか正直なのだと思う。

ただ、枝野氏が希望の党騒動のなかから立憲民主党を立ち上げた際、党の理念として「まっとうな保守」とか「自民党宏池会」の流れに言及されたわけで、今ではそうした発言をどのように考えておられるのか、聞いてみたい気がする。

いずれにせよ、これから本当に「新自由主義」との対決が実践されていくのかどうか、引き続き注目していく以外にない。


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