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労福協 活動レポート

2020年11月2日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第166号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

世界が注目するアメリカ大統領選挙の帰趨、民主主義の行方や如何

アメリカ大統領選挙投票日11月3日が近づきどちらが勝利するのか、アメリカ国民だけでなく全世界が固唾をのんで見守っている。バイデン氏が優勢だとはいえ、結果は開けてみなければわからないだけでなく、郵便投票も増えているだけに投票日当日だけでは当確が出ないことも予想される。さらに、トランプ氏はいろいろと物議をかもす発言を続けており、仮に敗北したとしても「敗北」を素直に認めるとは限らないとも言われている。そういう報道に接するたびに、民主主義国家アメリカの行く末が案じられてしかたがない。事実上一国だけとなった覇権国家アメリカの政治が動揺し始めれば、世界の政治がどのように展開していくのか、激動の世界史の幕開けが待ち受けているのかもしれない。まさに、暗澹たる思いが募る。

バイデン勝利なら大規模な財政支出、議会での予算論議は白熱へ

そうした国際的な動きは別にして、今週もまた経済の分野での気になる動きに注目してみたい。

アメリカ大統領の選挙戦結果にもよるのだろうが、バイデン氏が当選すれば、コロナ禍対策だけでなく経済を立て直したり社会保障を充実させたりすることを公約しており、その必要とされる財源の規模も極めて大きくなるものとみられている。具体的には、気候変動対策投資額2兆ドル、製造業・研究開発支援額7000億ドル、教育・福祉関係支出7500億ドルなどを打ち出しているようで、伝統的に小さい政府を標榜する共和党からは、間違いなく激しい議論が議会で戦わされることになると予測されるのだろう。

MMT派ケルトン教授の新著『財政赤字の神話』がアメリカでベストセラーに、
東洋経済オンラインのインタビュー記事に注目

こうした中で、MMT(現代貨幣理論)の提唱者の一人であるニューヨーク州立大学ステファニー・ケルトン教授が書いた『財政赤字の神話』が、アメリカにおいてベストセラーとなっているようで、10月30日の「東洋経済オンライン」及び「東洋経済プラス」において、教授とのロングインタビューが掲載されている。なお、このインタビューは10月19日、野村明広コラムニストがオンラインによって実施されている。ちなみに、ケルトン教授は民主党左派のサンダース上院議員の研究所顧問をされているとのことだ。もっとも、バイデン候補はMMTについては何も触れていないが、最近になって政治家の支持者が増えているとのことだ。

コロナ禍による巨額の財政支出容認、MMT派にとって追い風

ケルトン教授は、冒頭コロナ危機対策として財源のことを気にすることなく莫大な財政支出がなされたことに触れ、これからは財源問題をあまり気にすることなく必要な政策を進めることができるようになったと述べておられる。つまり、MMTが主張するように主権国家で独自に通貨を発出できる国は、インフレが高進しない限り国債発行が自由にできるわけで、財源を心配する必要がないことを特に強調される。今までであれば、例えば医療制度を改革しようとすれば、議会の場では財源問題が必ず問題視され、改革を実現できない最大の要因になっていたことを指摘する。

日本こそMMTの先進事例ではないか、ケルトン教授は強調へ

同じことは、日本において既に実行されているではないか、とケルトン教授は指摘する。既にGDPの2倍を超える財政赤字を抱えている中で、日本においてもコロナ危機に対する財政支出は第一次第二次合わせた補正予算で57兆円にも及ぶ巨額な赤字国債発行に踏み切り、さらに菅内閣の下では第3次補正予算の編成まで公言している。経済が危機的な状況にある中では、国民生活防衛のためには赤字の拡大を非難する声は上がっているわけではない。これからコロナ禍による経済的なダメージは長引く危険性が大いにあることが予想されるだけに、その回復に向けた国の果たさなければならない重大な役割は誰しも認めるところだろう。

ただ、コロナ禍が終焉して以降の財政をどうするのか、それが一番の問題になることは間違いない。このコロナ禍を奇貨として、財政支出の拡大はインフレをもたらさない限り大丈夫なのだ、とMMTの主張をそのまま認めるわけにはいかないことは言うまでもない。なぜMMTを認めることができないのか、それは経済成長と金利の関係についてのMMTの主張は実に楽観的過ぎて、将来世代に対する無責任極まりないことを指摘するほかない。

MMTの最大の問題点は、成長率がインフレ率を上回り続ける前提

要は、財政赤字が経済の枠の中で維持可能かどうか、という点にかかってくる。財政赤字額を決める要因は、インフレ率=国債の利率(r)とGDPの伸び=経済成長率(g)との関係で、g>rなら財政赤字を発散することなく経済の中で取り込むことは可能だが、r>gであれば財政赤字が無限大に発散し財政破綻となってしまうわけだ。この点に関してケルトン教授は、金利(r)>(g)だったのは1980年代のレーガン政権時代の短い期間だけだったと述べている。ところが、この点について過去200年余の資本主義の歴史を克明に調べたトマ・ケティ教授は、古典的な名著『21世紀の資本』のなかで、中長期的にみて(r)>(g)であったことをデータでもって指摘している。ケルトン教授は、まさかピケティ教授のこの指摘を知らないわけではないと思うのだが、何故かこのインタビューでは触れていない。また野村記者もあえて聞きただしておられない。要は、資本主義が未来永劫(g>r)、即ち経済成長率が金利(インフレ率)を上回り続けるという確実な保証がないわけで、実に無責任な前提を置いていることの危険性を指摘せざるを得ない。

ケルトン教授は「金利は政策変数で選択可能」の指摘、大いに疑問

ケルトン教授は、金利(r)については「政策変数」であり、選択可能なものであるという説明をしておられる。はたして、金利が実体経済との関係で政策担当者の自由に決められるものかどうか、大いに疑問である。金利と密接に関係しているインフレ率について、2%のインフレ目標を設定していながら日銀券を増刷し続けてもいまだに実現できていないことをよく考えるべきだろう。

今制御できても、何時でも市場は制御できない、不確実な世界だ

確かに日本の金融政策において、ここ10年近くの政策金利は長期国債の金利ゼロまでコントロールできているのは確かであるが、それは実体経済における民間投資需要の落ち込みが進み、民間経済主体の金余りの存在から目を逸らすわけにはいくまい。いつ何時、経済が反転して資金需要が拡大し、リスクをかけて投資を拡大していくとも限らないわけで、中長期的なスパンで経済を見ていく必要性を強調しておきたい。

現に、1930年代後半において、今日と同様民間経済の停滞がデフレ的状況に至ったことがあり、第二次世界大戦後の高度成長などは到底想定できなかったこともあったことを忘れてはなるまい。

インタビューされた野村記者が、MMTが属するポストケインズ学派にもMMT批判があると指摘したことに対して、「私はMMTに批判的な本は読まないのでわからない…」という発言には正直驚いてしまった。

また、いま世界的に話題となっている中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)について、ケルトン教授は批判的で、MMTが提唱する国家がなすべきこととして,①自国が発行する通貨で課税すること、②他国の通貨で借金しないこと、③変動相場制、という3つを挙げていて、国内雇用を重視した自国通貨への指向が強いようだ。

MMTとBI(ベーシックインカム)を結び付ける危険性、警戒すべき時だ

いずれにせよ、MMTの主張する財政赤字容認論は、国民に負担を求めることを嫌がる政治家にとって実に都合がよい主張であり、ケルトン教授が国会議員の方たちからの勉強会のお誘いなども増えているとのことだ。日本においても、財政赤字の規模がGDPの250%を超す水準になっていることをみて、財政規律の回復ではなく放漫財政を容認する雰囲気が広がりつつあるのではないかと危険視している。それに加えて、もう一つの「ベーシックインカム」論議と合わさって、財源は「MMT(現代貨幣理論)」、財政支出は「BI(ベーシックインカム)」という議論が、日本の政治の世界で広がらないよう最大限の注意を払う必要がありそうだ。

コロナ禍の下で、消費税の引き下げや廃止、所得税の1000万円以下所得層の減税などと聞けば、無責任さがどこかに存在しているのではなく今現実に日本において存在していることに警鐘乱打し続けるほかない。


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