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労福協 活動レポート

2020年11月9日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第167号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

バイデン氏の大統領当選確実へ、トランプ氏の健闘も注目すべきだ

アメリカ大統領選挙は、投票日から5日を経過してようやくバイデン氏の当選が確実になったとアメリカの主要メディアは報じている。投票日直前までバイデン氏がかなり優勢で、今回は民主党がかなり大差で政権を奪還するのではないか、と各種世論調査や専門家は予測していた。同時に行われた上下両院の連邦議会選挙でも民主党がこれまで多数を占めていた下院はもちろん、上院でも過半数を奪うのではないかと予想されていた。ふたを開けてみると、トランプ氏の善戦が報じられ激戦区といわれてきた中で、フロリダ、テキサス、オハイオで勝利するなど、当初の世論調査ではバイデン氏と競り合っているとされた州での健闘が目立つ。その後、郵便投票などの開票が進むとともに、どうやらペンシルバニアでもバイデン氏が当選確実を決めたようで、バイデン氏は勝利宣言を発することとなった。

トランプ氏は敗北を認めず法廷闘争へ、2つの国へ分断された米国

ただ、トランプ氏の方は投票無効を主張し続けており、敗北宣言することなく法廷での選挙無効の戦いへと展開していくことになるのだろう。トランプの熱狂的な支持者が背後に控えており、どんな事態が起きてもおかしくない雰囲気が漂いつつあると言われており、アメリカは完全に2つの国に分断されてしまったのかもしれない。バイデン氏の勝利宣言の演説の中でもその克服を訴えているのだが、その道は大変に険しいものになるのだろう。

いずれにせよ、12月8日に開票結果が確定し、各州から選出された代議員が確定すれば12月14日に選挙人投票が行われ、1月6日に上下両院での正式に大統領選出に至るわけで、各州選挙人の確定ができなければ事態は大きく変わり、1月6日各州一名の下院議員が大統領を選出することになる。そうなると、トランプ氏の大逆転がありうるとみる専門家の指摘が気になるところではある。建国以来築き上げてきた選挙制度で、各州が一つの国として考えられた選挙制度であるため、われわれ日本人にはまことに分かりにくい仕組みとなっていることは確かだろう。アメリカン・デモクラシーの国として世界をけん引してきたわけだが、今度の選挙だけでなく今後の大統領選出の在り方について、なぜ直接国民の投票で決着がつけられないのか不思議に思うのだが、それは余計なお世話(内政干渉)なのだろう。

上下両院の連邦議会議員選挙、上下両院の民主党支配は微妙

もう一つの注目点として、上下両院の連邦議会議員選挙の結果が挙げられる。先に触れたように当初下院はもちろん上院でも民主党が勝利し、大統領と上下両院のすべてが勝利するという事態が予想されていただけに、上下両院での共和党の善戦が目立つ。もっとも、下院は依然として民主党優位だし、上院も今のところ過半数に民主共和両党ともに届いておらず、来年1月5日に実施されるジョージア州上院再選挙での2名がどちらになるのかによって上院の多数派が決まることになっている。依然として、上院も民主党が優位に立てる可能性はあるわけで、来年1月5日のジョージア州選出上院議員の再選挙結果は誠に重要な選挙となることは間違いない。

それにしても、トランプ氏がここまで善戦するとはやや驚きであり、それだけアメリカ国内の民意の分断が深く固定化していることを認識させられた。それと同時に、上下両院議員選挙での善戦はトランプ氏流の路線に共和党が乗っ取られたのではないか、とみる専門家もいて、今後のアメリカの議会政治にトランプ氏の影響力が残り続けていくのではないかと思われる。

注目したいカマラ・ハリス副大統領候補、初の女性副大統領誕生へ

新大統領になるバイデン氏は、選挙結果をどう受け止めこの分断をどう回復させていけるのか、簡単な問題ではあるまい。もう一つ注目していきたいのは、黒人出身で初めての女性副大統領になるカマラ・ハリス氏の誕生である。バイデン氏が80歳近い高齢であるだけに、ハリス副大統領の存在がアメリカ政界のこれからの時代に輝いていくことに期待したい。トランプ大統領が再選されていれば、国際社会におけるアメリカの存在感は大きく低下し、中国やロシアなどの権威主義的国家が、今まで以上に国際社会において存在感を高めてくることが予想されていただけに、EUをはじめとする民主主義国家とともに、日本は世界の平和と安定に向けてバイデン政権としっかりと協力していくリーダーシップが求められているように思えてならない。

トランプ健闘の要因、出口調査は経済重視の多くの有権者の存在

さて、今回の大統領選挙の結果について、当初はフロリダやテキサスでもバイデン候補の方が強いのではないか、と世論調査の結果が報じられていた。ふたを開けてみれば、トランプの勝利となったわけで、前回の大統領選挙と同じように世論調査は本当のところが掴めていないではないか、と厳しい批判が浴びせられている。その点について、アメリカの政治経済に詳しい双日総研の吉崎達彦氏はニューヨークタイムスの実施した出口調査の結果に注目する。その結果は次の通りであった。(東洋経済オンライン11月7日記事より)

5つの政策項目中大統領選挙投票で最も重視したのはどれか?

①人種問題  比率20%  トランプ 8%  バイデン 91%
②コロナ     17%      14%      82%
③経済      35%      82%      17%
④犯罪と治安   11%      71%      28%
⑤ヘルスケア   11%      36%      63%

(このデータは、「人種問題が一番大事だと答えたのは20%、そのうちトランプ投票者は8%、バイデン投票者は91%」と読む)

「コロナ禍=命の保障」が「経済・雇用=生活の保障」を僅かに上回った選挙結果

今回の選挙で有権者が最も重視した政策は経済(35%)であり、コロナ(17%)や人種問題(20%)よりも関心が高かったのである。吉崎さんは、リモートワークと縁のないエッセンシャルワーカーの人々にとって、一番大切だったのは経済であったから、当初予想した「ブルー津波」が起きなかったので、大接戦になったのだとみておられるわけだ。トランプ政権になって進められた金融緩和を含む経済政策は、低金利とともに株価の上昇をもたらし、雇用についてもコロナ禍が起きる前までは順調に雇用拡大が進んでいたことを見ておく必要がある。どんな国においても、先ずは国民の生活を安定化させていくことが第一であり、格差が拡大し、コロナ禍の下での苦しい生活を強いられていればいるほど切実なのだと思う。

とはいえ、今回の選挙においては、「コロナ禍=命の保障」の方が「経済・雇用=生活の保障」よりも僅かではあるが上回ったとみていいのだろう。コロナ禍という大きな津波にトランプ氏は流されてしまったと言えよう。

アメリカの巨大テック企業GAFAによる弊害をどう克服すべきか

さて、そのアメリカ経済なのだが、世界にとって一番大きな問題はGAFAとよばれる巨大デジタル企業のもたらす弊害の大きさである。コロナ禍の下で、巨大な企業はますます強大になり、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン4社だけで株価の時価総額は5兆ドル(約520兆円)と日本のGDP総額に迫るほどの巨額に喃々としている。当然のことながら、創業者たちは巨額の資産を増やしていることは言うまでもない。貧富の格差の拡大、とりわけ中間層の凋落が進み、社会の分断化が進展し始めているわけだ。

国際的な規制強化、公平な競争環境、社会分断対抗策の重要性

こうした巨大テック企業は緩い規制に付け込んで租税や社会保障負担を回避してきており、データや知的財産などの無形資産を収益源としているわけで、これまで主として有形資産に合わせた世界の統治体系が時代遅れになっていると指摘されることが多い。さらに、こうした巨大テック企業は、各国政府の手足を縛るような存在にまでなったとみて、早く対策に乗り出すよう指摘するのが、オスカー・ジョンソン氏(IE大学・スペイン)とオイラー・オーウエン(マギル大学准教授カナダ)である。課題として、次の3つ提起する。(以下『週刊東洋経済』「GLOBAL EYE」2020/11/14より要約)

①デジタル経済を統治する新たな枠組みで、営利を優先し、公共の利益に反して誤情報を拡散させているプラットフォーマーを国際的に規制していくこと。

②経済モデルの変革で、公平な競争環境を整えると同時に、テクノロジーがもたらす破壊的な影響力を和らげる策を早く機動的に講じていくこと。

③社会の分断への対応策が必要で、課税逃れに対抗する新たな国際ルールが必要性や、排他的雇用慣行の是正、都市と地方の格差是正に必要な教育重視が必要。

こうした政策が必要になっていながら、多くの課題を巨大テック企業に委ね、放任し続けてきたと指摘し、これ以上の傍観は許されないと述べている。この点は、先週日本の政府税制調査会が重要な問題に対応しようとしていないと批判したことに通ずるものであり、けだしその通りだと思う。なんとか国際社会がこうした巨大テック企業を正しく制御していく必要性を強調しておきたい。

アメリカ経済は株価の上昇が続く、金融緩和によるバブル経済化へ

それにしても、これだけコロナ禍の下で経済活動が低下しているにもかかわらず、株式市場は活況を示しているようだ。アメリカ大統領選挙の結果がまだ最終確定していない先週において、上院での民主党多数が獲得できないのではないか、という「ねじれ議会」という予想についても、株式市場は好感を示していたようで、株価の上昇が続いていた。そんな理由付けはいくらでもできるわけだが、肝心なことは金融が緩和され続けていることによる金余りが進展し、企業の設備投資に回る比率よりも、自社株買いや配当、さらには別の金融分野への投資に回る方がはるかに多くなっているのが現実だ。そうした結果として株価が上昇しているにすぎないわけで、バブル的状況が続いているとみていいだろう。

日本でも深刻な経済状態なのに、株価はバブル崩壊後の最高値へ

同じことは、日本の場合も同じで、先週末の株価はバブル崩壊後の最高値である24.325円を記録している。時はコロナ禍の下にあり、日本経済も内需が落ち込み停滞しているわけで、こうした中で株価が上昇していること自体がバブルが起きているものと考えた方がよいだろう。もちろん、日銀やGPIFによる株式購入に大きく支えられ続けていることも間違いない。

こうした異次元の金融緩和の継続による株式市場を支え続けることが何時までできるのか、暗澹たる気持ちにならざるを得ないわけだが、日本経済もぬるま湯につかってしまい、どうやら何時まで経っても金融飽和経済から脱却できなくなってしまっているようだ。実に由々しいことだが、永遠に続けていくことはできないだけに、どこかで再びバブルの崩壊=財政金融経済危機に陥ることが待ち受けていることは間違いない。


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