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労福協 活動レポート

2021年1月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第175号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

アメリカ大統領選出確定日が「暗黒の日」に、トランプ扇動の大罪

アメリカの政治の動きに一喜一憂させられる今日この頃だが、さすがにトランプ氏が支持者を集め連邦議会に向けて、バイデン当選に異議申し立てのために議会に乱入させたことには慄然とさせられた。死者が警察官も含めて5人も出ており、暗黒の上下両院による大統領確定日となってしまった。アメリカ政治史上特筆されるべき卑劣な行為であり、なんともあきれ果てて物も言えない心境だ。

ペンス副大統領の毅然とした態度でなんとか救われた思いだが、果たしてペロシ下院議長から要請のあったトランプ罷免へと進むかどうか、1月20日の就任式まで残された期間は短いが、議会の弾劾の手続きも開始されたとのことだ。肝心のトランプ氏の宣伝武器となっていたツイッターは永久に使用停止に追い込まれたわけだが、新しい宣伝媒体をつくるのではないかと噂されているようで、今後4年間バイデン政権は上下両院の民主党多数派を辛うじて勝ち取ったものの、常に大統領候補(?)気取りのトランプとの戦いが待ち受けることになるのだろうか。それとも、トランプ氏の過去の悪行が訴追され始めるのだろうか。厳しい船出になりそうだ。

アメリカ社会の分断の背後にある「自由」と「平等」のせめぎ合い

こうしたアメリカの政治を考えたとき、あまりアメリカ社会の歴史に詳しくないものにとって、興味深いインタビュー記事が、「ニュースソクラ」という有料記事サイト1月4日付で掲載されていた。題して「トランプが炙り出した米国の建国以来の矛盾」で、内田樹神戸女学院大学名誉教授にジャーナリスト角田裕育氏がインタビューしたものである。

何よりもこの中で内田氏が強調しているのが、アメリカの建国理念で最も重く見ているのは市民の「自由」であり、市民の「平等」ではないという点である。独立宣言を読むとそのことが良く示されており、人間を平等に創造したのは創造主である神で、創造された市民は自由に競争して、その結果格差が生じたとしてもそれは悪しきものではない。つまり、「アメリカでは『社会的フェアネス』とは、あくまで市民的自由を妨げないという事であって、平等の実現のことを意味しない」ことを理解しないと今の国民的な分断の理由がわからないのだそうだ。

所得・資産の再分配政策は「市民的自由の侵害」とみる層の存在

内田氏は、社会的公平を実現するためには公権力が富裕層や権力者に対して強権的に介入して財産や権力の一部を取り上げてそれを貧者・弱者に再分配することでしか実現しないと述べ、それに対して自由を最優先する人たちは「市民的自由の侵害」だとしてどうしても許せないのだ。と同時に、そうした再分配政策はよく「社会主義」だという言い方をするわけだが、ソ連や中国が嫌いだからではなく、「そもそも平等の実現ということに全く政治的意味を見出せないという人たちがアメリカには伝統的に存在している」のだという。

アメリカは第一インターの中心地だったが、
アメリカンドリームによって社会主義運動は衰退した歴史がある

実は、もう一つ興味深い指摘は、アメリカは19世紀末までは世界の社会主義運動の中心地だったことであり、何と1873年には第一インターナショナルの本部がロンドンからニューヨークに移転し、南北戦争の終結後はアメリカこそが世界の社会主義運動の中心地だったことを指摘する。その理由として1848年革命の挫折・失敗があり、アメリカに逃れてきた主義者たちの存在がある。

ところがそのアメリカにおいて、1862年のホームステッド法により、5年間定住して農業を営むと160エーカー(東京ドーム14個分に相当)の土地が無償で与えられることになり、ヨーロッパで小作農や賃金労働者だった人たちがアメリカに殺到し、産業革命期にはゴールドラッシュや石油の自噴などによってチャンスに恵まれれば極貧の労働者が一夜にして富豪になる「金ぴか時代」へと突入する。まさに「アメリカンドリーム」の実現であり、社会主義労働運動が空洞化させられていくのだ。かくして「市民的自由」と「アメリカンドリーム」に依拠する人たちの存在が、社会民主主義的な勢力がアメリカ政治・社会を支配することのむつかしさを指摘されている。もし、サンダースのような政策が全面展開されれば、今は、民主党の支持勢力となっているウォール街やワシントンDCの「エリート」たちが離反してしまうとのことだ。

バイデン政権が大胆な再分配政策を取り入れれば平等社会も可能か、
1930年代から70年代まで、ニューディールだったのは何故

もっとも、内田氏はバイデン新大統領が大胆にワクチンを全国民に無償で提供することやコロナ患者の治療費は無償化する政策に転換したり、失業者の生活支援や授業料の無償化とか国民皆保険などを大胆に取り入れたらアメリカを変わるだろうと述べている。だが、建国以来ずっと抱え込んできた統治理念上の根本的な矛盾が露呈してきたわけで、話は簡単には収まらないと述べている。

冒頭述べたように、私自身アメリカの歴史には疎いわけで、内田氏の指摘に対して反論できる材料をそれほど持っているわけではないのだが、1930年代からのニューディール政策が1970年頃まで40年近く続いたのは何故なのか、累進性を持った所得税や遺産税の最高税率が90%を超すところにまで引き上げられたのは何故なのか、戦時経済だけなら理解し得ても、1970年代まで続いていたことをどのように理解したらよいのだろうか、疑問が湧き上がってきた。ニューディール政策の遺産として、日本においてシャウプ勧告が出され、公平な社会を実現しようとした背景にこそ私自身の一番の関心事項でもあるのだ。

新春テレビ番組「逃げるは恥だが役に立つ 頑張れ人類新春スペシャル」に注目

コロナ禍での年末年始は、結局どこに出かけることもなく巣ごもり生活と相成ったわけで、ほとんどはテレビ番組表とのにらめっことなり、これまであまり見たこともない番組などにも目を通し、これを見られたことは実にラッキーと思う番組にも遭遇することがある。そのうちでも出色だったのが1月2日に放映された『逃げるは恥だが役に立つ 頑張れ人類!新春スペシャル!!』だった。夜9時から11時過ぎまで2時間を超すドラマだっただけに、少しアルコールが入り風呂上がりの頭に十分その内容が咀嚼できたかと言えばやや朦朧としていたことは確かである。それでも、これは現代社会が抱えている様々な問題を具体的なドラマを通して問題提起しているのではないか、とうすうす感じながら見終わりそのまま眠りについたわけだ。

「日本の抱える課題」がてんこ盛りになって迫ってくるドラマ

ところが、私がいつも目を通している『東洋経済オンライン』1月5日号の中で、コラムニストの佐藤友美さんが「『逃げ恥SP』詰め込まれた”30の名言”が凄すぎた」「あれから4年『日本の課題』がてんこ盛り」を読んで,あらためてこのドラマで提起している「日本の課題」の解決こそが、21世紀日本の課題になるのではないか、ということを痛感させられた。

この正月に放映された新春スペシャルの原作は、2012年に講談社からアニメ作品として出版されていたようで作者は海野つなみさん、4年前の2016年にヒットしたTBS系の連続テレビドラマだったものを、今年の新春版バージョンとして一挙にテレビ放映されたというわけだ。スペシャル版は、脚本家の野木亜紀子さんという方が、かなり独自に脚色したものとなったようだ。土台悲しいかな、私はアニメも4年前の連続テレビドラマも見たことがなく、このあたりの人たちには評価の基準を何も持たないものである。ただ、主演を演じた新垣結衣さんと星野源さんのうち星野源さんは、安倍総理が評判を悪くしたコロナ禍での宣伝動画、自宅で犬とくつろいでいる時に流れた曲の歌手だったことぐらいしか知らなかった。ウイキペディアでこの題名の由来を読んだら、ハンガリーの諺で「恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことが大切」ということのようだ。なんだか、政治家が問題を起こし「恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことが大切」と居直ることだけは勘弁してほしいと思うのだが、どうなのだろうか。

ミレニアル世代以降の若者たちが直面する職場や家庭の軋轢・現実

コラムニストの佐藤さんが指摘した「30の名言」のすべてを記載することはしないが、冒頭で指摘しているように「スペシャル版は、これでもかというくらいの”社会課題てんこ盛り”でした」というものだったわけだ。少子化問題、男性の育児参加問題、LGBTにルッキズム、セクハラなどなど30もの現代社会の問題を指摘している。後期高齢者となった私には、なんとも理解しにくい言葉が出てくるのだが、このドラマを見ながら依然として男性中心に考えている旧来型の労働者と、ミレニアル世代以降の若い労働者のすれ違いや軋轢の数々がドラマで現出されている。こうしたリアルな実態が提起する問題をどう解決していけるのか、そこに一つの現代社会が抱える大きな難問が隠されていることを痛感させられた。

働き方の問題は労働組合や政治にとって最大の課題なのではないか

残念ながら、このドラマでは労働組合は登場してきていない。働いている人たちの抱える問題を解決してこそその存在意義があるわけで、こうしたドラマの中にその片鱗すら出てきていないことには”ないものねだり”なのかもしれないが、現代の労働運動が取り組むべき課題ではないか、と思ったりしてしまった。先週の当通信で述べたフェイスブックやアマゾンなどでの巨大なテック企業では、労働組合の組織化が進み始めているとの報道もあり、日本の「連合」にも期待したいと思うのだが、企業別労働組合の中にどっぷりとつかってしまった組織が、再び雄叫びを上げていけるのはいつのことになるのだろうか。

労働組合の取り組むべき課題であると同時に、今の政治にとっても実に大きな問題を提起していると言えないだろうか。

出口治明・上野千鶴子対談が指摘する問題と共鳴する『逃げ恥』

そのように考えたのは、これまた『東洋経済オンライン』誌上で12月25日、1月1日、1月8日の3回の連続対談議事録が掲載されている。対談しておられるのは出口治明立命館アジア太平洋大学学長と上野千鶴子東京大学名誉教授のお二人である。出口学長は日本の働き方は依然として工業化社会に適合していた時代のもので、象徴的な言葉として「飯、風呂、寝る」をあげておられ、今や世界の先端的な企業から引き離され続けている事に批判の目を向け、ラグビーワールドカップでの日本の躍進にみられるように、海外からの優秀な人材を取り込んだり、女性の力をもっと活用していく必要性に言及されている。上野名誉教授も日本型の経営について、女性の犠牲のもとに成り立っていたことを指摘し、労働組合について「フェミニズムの敵」とまで断定しておられて厳しい。

特にジェンダー問題での日本社会の酷さは目に余るのではないか

こうした問題を考えたとき、日本の政治の現実から目を逸らすわけにはいくまい。男女共同参画社会の実現が目指されたり、LGBTや選択的夫婦別姓問題など『逃げ恥』の中で問題になった課題が、政治の場で本格的に改革が進んでいるようには見えない。コロナ禍の下で、安倍政権を継承した菅政権であるが、GOTOキャンペーンに固執して東京都をはじめ全国的な感染拡大の勢いが止まる気配が見えてこない。それどころか、政治家の夜の飲食を伴った会食が堂々と進められ、4人以下なら問題はないだろうと公言したりして日本医師会会長から批判されたりする体たらくだ。

今年中にはある総選挙、政策の問題とそれを進める政治家の質こそ

今求められているのは、『逃げ恥』のなかで指摘されている社会的な問題をどう解決していけるのか、労働組合だけでなく、政治の現場において真剣に考えていく必要があると思えてならない。今年10月までには解散・総選挙が確実にある。場合によっては4月25日の補欠選挙に前倒しされることもありうる。その時までに、今の日本の社会が抱える働き方に関連した様々な問題にどう対処していけるのか、政策面の充実も確かに必要だが、問題は政治家の質の問題にもつながってくる。女性やマイノリティの方達の候補者としての登用など、今の時代に若者たちが直面している課題にしっかりと答えられる政治が求められているのではないだろうか。


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