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労福協 活動レポート

2021年1月18日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第176号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

今週は、日本とアメリカの新しい政治が大きく動き始める兆しが

今週は、日本の通常国会が18日から始まり、アメリカでは20日に大統領の就任式が開催され、日米両国でコロナ禍の下、2021年の政治が展開され始めようとしている。それぞれ両国の抱える難問に、どう対応しようとしているのか、注目していきたい。

アメリカ下院での2回目のトランプ弾劾可決、史上初めての汚点だ

アメリカにおいて、6日上下両院で大統領選挙結果の確定作業中に起きたトランプ支持者の乱入事件は、トランプ大統領に対する弾劾に進展し、ペロシ議長の下院では民主党議員全員に10名の共和党議員も加わった過半数の支持で、アメリカ大統領史上初めてとなる2度目の弾劾を可決した。問題は上院の3分の2が賛成しなければ弾劾そのものは成立しないわけで、20日には大統領就任式が控えており、上院での審議はそれ以降となりそうだ。はたして、共和党の上院議員から17名以上の造反者が出て弾劾が成立するまで至るのかどうか、まったく見通せていないようだ。カギを握る共和党のマコーネル上院院内総務は、態度を明らかにしないで個々の上院議員の良心に委ねるということのようだが、最終的な態度を明確にしていない。弾劾成立となれば、公職追放となるだけにこれからのアメリカの政界に大きな影響を与えることになりそうだ。

トランプが扇動した議会乱入事件、岩盤支持層も批判へ

問題は世論の動きだが、これまでトランプ大統領の支持率は、どんなに低くても38%を下回ったことはなく、岩盤支持層と言われてきた。ところが、今回の議会への乱入事件直後、ピューリサーチセンターが8~12日に実施した5360人対象の世論調査によれば、トランプ支持率は29%と岩盤支持率の下限より10%近く落ち込んでいる。それだけ、国民は厳しい批判的な見方をしていることがわかる。事件直後の調査だっただけに、時間の経過とともにどのように推移していくのか、4年後の大統領選挙を見据えた行動をとると思われるトランプ氏だけに、今後の行方が気になるところである。議会下院では依然として100名以上の下院議員がバイデン勝利に異を唱えたと言われているわけで、共和党がトランプ氏の影響力から完全に抜け出ることができるのかどうか、行方は未知数と言えようか。

イマニュエル・トッド氏、「トランプ政策」には歴史的と高い評価

トランプ大統領に対する評価が高いのがフランスの人口社会学者のイマニュエル・トッド氏で、トランプ氏が大統領から離れたとしても、トランプが進めてきた政策は継続されていくものとみている。『文芸春秋』1月号の論文「それでもトランプは歴史的大統領だった」において、人物評価では「下品で馬鹿げた人物」ではあるが、彼が4年間で実施した”政策転換”について「おそらく”今後30年間の米国の在り方”を方向づける」とまで評価している。その中身は、「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」というトランプが引いた路線だという。トッド氏は、この『文芸春秋』の論文の中でいろいろと指摘しつつ、ロシアやイランと和解してまで、中国に対する包囲網の形成を呼びかけている。ちょうど1930代の世界と同様、ナチスやソ連の全体主義が併存し、自由主義体制は脆弱なのに、全体主義体制の方が強靭で効率も良いと言われていたが、対コロナに対しても同じような状況が現出していると見る。しかし、トッド氏は次のようにこれからの中国について厳しく捉えている。

中国が全体主義体制で世界の覇権国家たりえない、トッド氏の見方

「そもそも”全体主義体制”の国が最終的に世界の覇権を握ることはあり得ない。一時的に効率よく機能したとしても、必ずある時点で立ち行かなくなる。やはり、人類の歴史は”人間の自由”を重んじる社会や国の方が最終的には優位に立つ、と私は考えます」(110ページ)はたして、バイデン政権がどのような国際的な連携を取ろうとしているのか、これからの展開を見ていく以外にない。トッド氏は中国14億人の人口規模のもたらす影響に着目し、経済学でいう「比較優位」の貿易理論は中国には適合しないというフランスの経済学者の考えを紹介し、その中国包囲網を呼びかけているわけだ。これをどう考えて行けば良いのか、日本にとって中国との関係をどう構築していくべきなのか、日米関係を基軸にしつつ対中関係をどう説得力を持って絵解きできるのか、菅政権には荷が重い課題と思えてならない。いや、それは今の日本の政治家にとって一番の難問となって迫ってくる外交課題ではないだろうか。

バイデン政権、グリーンニューディールとコロナ禍で苦しむ生活支援と経済復興対策に重点支援へ

アメリカバイデン政権の政策に戻りたい。20日以降、政府高官人事やコロナ禍の下での経済対策など、次々と政策を打ち出していくに違いない。人事の面では、女性やマイノリティの登用など、実に大胆な転換が進められ、日本の現状からすれば眩いばかりの人事が進められようとしている。経済の面では脱炭素に向けたグリーンニューディールを進める方向とともに、14日地元での演説の中で1.9兆ドルのパンデミックと経済悪化という2つの危機に対応するべく予算を組み、1.9兆ドルの内1兆ドルを家計支援に充て、国民一人当たり1400ドルの現金給付を実施することを述べている。昨年3月に1200ドル、10月に600ドルに続く第3弾の家計支援であり、当然のことながら高額所得層には支給されないわけで、所得捕捉ができていない日本との違いが明らかである。

さらに、ワクチン対策など4.000億ドル、州・地方支援に3.500億ドルなどが打ち出す方針という。議会での論議はこれからなのだが、上院での議席が民主50共和50となり、賛否同数の場合は副大統領が決定するわけで、何とかねじれは防げたものの、フィリバスターを防ぐことが難しくなり議会運営は綱渡りになるのであろう。バイデン大統領は、半世紀近くアメリカ議会にいたわけで、それこそ議会運営のテクニックでは抜きんでていたといわれるだけに、こうした難局を乗り越えていくことは可能だろう。だが、民主党内左派グループとの軋轢をどう乗り越えていけるのか、未知数ではある。

菅総理、内閣支持率の低落が進む中での国会論戦に耐えられるのか

菅内閣への支持が急速に落ち込み続けている中で、いよいよ18日から150日間の通常国会が始まる。総理となって初めての施政方針演説となるわけだが、すでにその内容の一部がマスコミに漏れているようで、中身の乏しい「経文」のようなものになると報じられている。それにしても、菅内閣発足して4か月近く経つわけだが、内閣支持率は急落し続けている。時事通信社が実施した1月の世論調査によれば、菅内閣の支持率は34.2%と8.9%落ち込み、不支持率は39.7%と13.1%も増え、初めて支持率を不支持率が上回っている。政府の新型コロナ対策について、「評価せず」が61.4%と過半数を超えている。

後手後手を踏むコロナ禍対応、菅総理の答弁能力に国民の不安増大

その新型コロナ対策をめぐる東京都知事らとの確執が新年早々報じられ、神奈川・千葉・埼玉3県の知事を含めた申し入れによって、当初はその予定はないと言っていた「緊急事態宣言」に追い込まれ、更にその6日後には大阪や愛知など7府県の追加の指定が続くなど迷走し、後手後手に対応が迫られてきた。特に13日に実施した記者会見とそれに先立つ政府のコロナ対策本部で、手元にあるメモを棒読みするだけなのに県名を言い間違えたり、記者から医療法や感染症法の改正の必要性を質されたことに対しても、突然国民皆保険の見直しを検討するともとられかねない「意味不明の発言」を繰り出すなど、国民の不安を煽りかねないものでしかなかった。これで本当に2月7日までに感染が下火にすることができるのか、国民の不安と不信を拡大させている。

4月補欠選挙、候補者擁立すら早々と放棄する自民党は政権政党か

これから、国会での予算委員会を中心にした本格論戦が待ち受けているわけで、これまで同様メモの棒読みを続けて行くだけの気力のない姿勢がテレビに映し出されれば、菅政権に対する国民の信頼のさらなる低下につながることは必至と言えよう。既に、養鶏産業に対する汚職疑惑で起訴された吉川元農水大臣の議員辞職に伴う4月の補欠選挙で、自民党は現地の意向を無視して3か月前なのに早々と候補者擁立を断念するなど、政権与党とは思えないような混迷状況に追い込まれ始めている。

菅政権迷走の要因は「自民型」政治主導とみる牧原教授、では立憲民主党主導ならうまく行くのか

このような迷走状態を招いた原因はどこにあるのか。もちろん、菅総理の宰相としての器の問題もあるだろうが、構造的な問題として周りのスタッフ(官僚)が総理にきちんとアドバイスできる状況にないこと、そうなるのは「政治主導」の仕組みに埋め込まれた欠陥があると、牧原東大教授は最新号の『週刊東洋経済』連載のコラム「フォーカス政治」で指摘する。つまり、内閣人事局により幹部人事を官邸が掌握したことで、官邸スタッフによる各省への指示が強力に効き、結果として各省は官邸の事務局と化してしまい、言われたままに作業するという意味での「忖度」しか働かなくなったとみている。

そのため、首相と官邸スタッフの視野が狭く、経済活動優先と東京五輪開催に固執し続ける場合、感染対策を強化する選択肢を官僚が用意するのは官邸に刃向かう事でもあり、現状ではまず無理である。GOTOトラベルなど経済活動優先の政策を転換せざるを得なくなって、突然の指示にあわてて各省が対策を用意するようでは、首相は到底説明責任を果たすことができなかったと分析されている。さらに牧原教授は次のように結論付けている。

「現在の危機に対して、安倍政権以降の『自民党型』の政治主導はもはや失敗しか生まないであろう。官僚主導とバランスの取れた専門知を生かす謙虚さなしには、国民のいら立ちを鎮め、感染拡大を抑えることはできない。これまでの政治主導をどう諦めるか。それが危機に対応できる自公政権の課題なのである」

民主党時代の枝野氏、年金財源の大言壮語を思い出すだけに心配

はたして、「政治主導」という官僚に対する人事権という「魔力」を諦めることができるのかどうか、菅総理はその人事権の行使によってここまでのし上がってきただけに無理というものだろう。この点については、どの政権であろうと手放すことは至難の業に違いない。牧原教授は、民主党政権時代の首相なら辻立ちで鍛えた雄弁で対応できたと述べておられるが、果たしてそうだろうか。民主党時代に政治主導を進めてきた今の立憲民主党の幹部は、どのように考えているのか一度尋ねてみたい気がする。枝野代表は、自信たっぷりに「私たちならうまくやって見せます。まかしてください」と答えるのではないかと想像したりする。というのも、かつて民主党がまだ野党の時代に、基礎年金を全額税方式に切り替える時の財源問題を自民党から問われた枝野氏が、「心配はいりません。一度政権を任せていただければ実現させて見せます」という類の答弁だったと記憶するからだ。

菅内閣の支持率低下は、立憲民主党の支持率上昇どころか低下へ

残念なことに、当時の民主党は政権を取ったが実現はおろか改正案すら国会に提出することなく今日に至っているのだ。これから政権を狙おうとする対抗政党として、実現可能性と持続可能性を備えた責任ある政党として脱皮して欲しいと思うからに他ならない。自民党菅政権への国民の支持率の低下が、残念ながら立憲民主党の支持拡大にはなっていないことの現実にしっかりと目を向けていくべきだろう。先に指摘した時事通信の世論調査では、立憲民主党の政党支持率は3.1%へと低下し公明党3.9%よりも下になっているのが現実だ。事態は深刻である。


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