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労福協 活動レポート

2021年2月8日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第179号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

予算委員会の審議始まる、野党の出番なのだが、やや迫力不足では

国会は2月4日から衆議院の予算委員会が始まった。4日と5日、総理大臣とすべての閣僚が出席した総括審議はNHKTVで放映され、それぞれの党の論客や代表バッターが登場するだけに、論戦の注目の的となる。テレビ放映が入るだけに、与党側も論陣を張るのだが、やはりここは野党第1党が一番存在感を示すべき時なのだ。100人を超す立憲民主党になったわけで、質問時間も今までの倍近くになったように感ずる。2日間で確か9人質問に立ったのだが、少し細切れ過ぎるかなと感じてしまった。

実は、本予算の前に第三次補正予算の審議があり、参議院で蓮舫副代表が菅総理に対して実に厳しく「あなたには総理としての自覚や責任感、それを言葉として伝えようとするそういう思いはあるんですか」と批判したことに対して、菅総理が色をなして反論する場面があり、SNSで蓮舫氏に批判が向けられ、本人も少し気にしているとのことだ。詳しくはわからないのだが、トップバッター枝野代表の質問が、いつも舌鋒鋭く追及するのに、やや批判のトーンが下がっていたように感じてしまったが、気のせいなのかもしれない。対案対置型の質問は、聞く者にとって迫力に欠けることが多く、政権を目指す政党として政策や財源などをしっかりと磨き上げていくことは必要だが、政府に対峙していくにはやはり行政監視の観点から、政府の問題点を国民にもわかりやすく、きちんと追及していくことが最大の役割だと思う。

菅内閣、スキャンダルや問題発言の「てんこ盛り」、支持率の行方は

それにしても、新型コロナ問題とGoToキャンペーン再開によって感染が拡大した因果関係や責任問題だけでなく、河井克行・案里夫妻の選挙違反問題や政治家と金の問題、さらには自民党松本純国対委員長代理と公明党遠山清彦幹事長代理という与党幹部が、緊急事態宣言下の夜11時過ぎまで銀座クラブで飲み明かしていたことが発覚し、その後松本氏とともに2人の自民党議員も同席していたことが判明、自民党からは3人離党、公明党は議員辞職に至った。

そうした中で、新たに菅総理の長男が総務省の高級官僚と複数回の会食をし、この長男は放送関係の企業の幹部であり、総務省の政策に利害関係を持つ企業だっただけに、公務員倫理規程に触れる問題が予算委員会の場で取り上げられた。菅総理は、長男は別人格だ、しかるべき調査が進められているわけで、その結果に従いたいという趣旨の答弁で切り抜けようとしている。さらにコロナ禍の下、東京オリンピック・パラリンピック開催が危ぶまれる中で、組織委員会の長である森元総理の発言が国の内外で炎上しており、まさに菅政権は最悪の状態が継続し続けている。

こんな状態で自由民主党は選挙に勝てるのか、報道によれば、4月解散説は遠のいているとのことだが、それ以前に国民の信頼を失えば何らかの動きが出てくるとも限らないわけで、菅政権の先行きは暗雲が垂れこんできたようだ。

状況は2009年の政権交代期に似ているが、参議院の状況は真逆だ

私には今から12年前の2009年、政権交代に直結した麻生内閣の再来になるのではないかと思われて仕方がない。もっとも、あの時は2007年の参議院選挙で自民党が敗北し、参議院では与党が過半数を維持できなくなり、「衆参ねじれ」国会となった事を思い出す。今の参議院では自民公明両党で圧倒的な過半数を確保しており、しかも準与党的な日本維新も存在しているだけに、2009年当時とは大きく異なっている。それだけに、立憲民主党がこれからどのように政権を奪取していくのか、参議院制度の改革がほとんどできていないだけに、順調にいったとしても、2022年、2025年という2回の参議院選挙で自民・公明両党を過半数割れにまで追い込む必要がある。今年実施される衆議院選挙で、仮に第1党に押し上げられたとしても、安定政権にはならないわけで、政局がどう展開していくのか、まだまだよく見えないのが現実だろう。

西浦博京大教授、衝撃の問題指摘インタビュー記事(東洋経済オンライン「菅政権が『コロナ第三波』の対応に遅れたわけ」)に注目

衝撃的なインタビュー記事が東洋経済オンラインに掲載された。題して「菅政権が『コロナ第3波』の対応に遅れたワケ」で、「8割おじさん」こと西浦博京都大学教授が、政策決定過程に苦言(というより痛烈な批判)を呈した2月6日付の記事で、インタビューアーは野村明広解説部コラムニストである。少し引用が長くなるが重要な指摘なので容赦して欲しい。

この記事の中で、何が新型コロナウイルス拡大の要因になるのか、4つのことが世界的に実証されてきたとされ、それは気温、人口密度、人の移動率、そしてコンプライアンス(接触につながる行動の自粛で、マスク着用やソーシャルディスタンス等)だという。今回の第3波が拡大した要因は、冬の気温低下と政府対応の遅れにあると厳しく批判される。

官邸の意向を踏まえた忖度に左右されているコロナ対策の現実、研究者としての良心の叫び

野村コラムニストが、内閣府の『経済財政報告』の中で、「統計分析の結果、人の外出率の低下は新規感染者数に有意に影響を及ぼさなかった」としていることを、菅内閣は「GoToトラベルは感染拡大に影響していない」根拠にしている点について、西浦教授は「私は、それはまずいと思ってきた.・・・・・はたして統計学及び理論疫学の十分なバックアップの下で検討された結果だろうか」と疑問を投げかけておられる。

そして、《都合のいい分析結果が切り取られている》という小見出しをつけて、政府の科学的なエビデンスに対する姿勢の問題もあり、よりオープンなサイエンスの声が届く仕組みになっていないと批判する。さらに、次の指摘には唖然とせざるを得なかった次第だ。

「加えて、官邸の意向を踏まえた動きがあるため、現在進行中の政策に不都合な事実は切り捨てられる傾向がある。その一方で、都合がいいものであれば質が限定的でも積極的にそれが使われていく。私は、厚労省の会議において航空機を利用した人の移動率と2次感染者数の相関が限られているとする紙1枚だけの資料を内閣官房が出した時、勇気を出して『ここだけを切り取るような話ではない。もっと広くみんなで議論すべき研究課題だ』とコメントした。現に同じデータを使って再検討した結果、移動率は実行再生産数との間で時系列相関があった。

研究者としての良心から申し上げるが、これは科学との距離感にとどまらず、日本という国の政治を考えるうえで相当にシリアスな問題だと認識している。今の政権の在り方だと変わらないのだろう」

とまで言い切っておられる。誠に厳しい現政権批判であり、科学者としてここまで発言されることに率直に驚かされたことは言うまでもない。

専門家の作った厚労省通達が、政治家によって無視された酷い現実

それだけではなく、次の指摘にも西浦教授の心からの叫びであり、今の政治家がいかに無責任であるのか、厳しく糾弾されている。それは、厚労省として医療提供体制の構造問題への対応策を昨年6月19日に出し、西浦教授たちが属するクラスター対策班の専門家グループと協力して都道府県などに出した通知がある。その中では「新規感染者がこれくらいに増えた段階でアラートをしっかりと出して対策を打てば、この最大病床数内で持ちこたえられるとの説明を展開した」わけだ。その後の展開や如何、

「このような計画が機能するためには、都道府県知事や政府は設定された感染レベルのフェーズになった時にしっかりと対策を打つことが必須だった。

ところが、実際には第3波でフェーズを超えても実効性のある対策が打たれず、厚労省の通知は政治によって簡単に反故にされた。政治が責任を持って対策をしていれば、病床がオーバーフローすることはなかった。これは大都市を有する地方自治体の首長だけの責任ではない。政府はボールの投げ合いで時間を費やしたが、こと専門性が高い厚生労働行政については守ってもらわないといけない極めて重要なポイントだった。病床の不足について真に国を憂う気持ちを持ってともに徹夜を重ねた厚生労働官僚たちが、どんな思いで唇をかんで悔しさを滲ませたのか、憤りを覚える第3波であったことは、ここに通知の存在とともに明らかにしておきたい」と率直大胆に述べておられる。このインタビュー記事には、医療供給側の問題点などについても言及があるが、その点は直接インタビュー記事を読んでほしい。

新型コロナ対策の政策決定過程、国会は情報公開を進めるべきだ

こうした事実を知るにつけ、この間の新型コロナウイルスに関する政策決定過程の情報を公開することを求めるべきではないか、と思う。誰が、どのような決定に関与してきた他のか、しっかりと記録しておくべきであり、期限区切って公開していくべきだろう。国会の場で、こうした問題を西浦教授をはじめとする参考人を招致して問題点を掘り下げていくべきことも必要だと思う。

それにしても、厚生労働省で働いている人たちの中で、離職する人が増えていることの背景がよくわかるような気がしてきた。政治の責任がいかに重たいことか、新型コロナウイルスの問題を通じて赤裸々に浮かび上がってきているのだ。なんとかしていかなければ、この国はますます劣化し続けていく以外にない。

菅内閣の北方領土返還の基本方針、安倍政権を踏襲しているのか?

2月7日は北方領土の日である。安倍内閣時代に領土返還を前面に出し、プーチン大統領との会談などが精力的に進められたが、2島返還でもその道筋は依然として見えていない。

5日の予算委員会の審議の中で、北方領土問題についての安倍総理と岡田克也元外務大臣とのやり取りに注目した。というのは、2月6日号の『週刊東洋経済』誌の佐藤優氏のコラム「知の技法 出世の作法」が「北方領土交渉で流れる外務省OBらの雑音」に目を通していたからである。そのコラムの中で佐藤氏は、外務省OBには「いまだに冷戦型の思考をしている」者がいて、安倍政権時代の2018年11月にシンガポールでの日ロ首脳会談後によって、「(1956年の)日ソ共同宣言に基づき平和条約を加速させる」ことに合意をしたことの意義を正しくつかんでいないと指摘している。

シンガポール合意、「4島返還」から「2島返還」に変わったのだが

つまり、佐藤氏は「「日ソ共同宣言」では「平和条約を締結後にソ連が歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すこと」が約束されており、ロシアはソ連の継承国なのでこの義務を負うことになる。つまり、早く言えば、シンガポールの日ロ首脳会談では、これまで日本が主張してきた「4島返還」ではなく「2島返還」に立脚し、残る2島である国後、択捉はロシア領とし「日本人の国民感情に配慮して特別の法的枠組みを考える」ということになったわけだ。

ところが、外務省のOB等は理解していないし、現職官僚たちも正しく理解させようと努力していないと批判する。おそらく、官邸主導で進められた日ロの「北方領土交渉」について、外務省のロシアンスクールの中には快く思っていない者がいるとみて間違いあるまい。もっとも、肝心の2島返還の目途すらついていないわけだが、日ロ首脳で合意したことは事実であり、安倍政権の継承者としての菅総理もそのように理解されていたのではないか。

佐藤優氏、施政方針はロシア側に正しく受け止められたと見たが

そこで佐藤氏は、菅総理の1月18日の「施政方針演説」の中で北方領土問題について次のような重要な発言をしていると議事録から引用する。

「北方領土問題を次世代に先送りせず、終止符を打たねばなりません。2018年のシンガポールでの首脳会談のやり取りは引き継いでおり、これまでの両国間の諸合意を踏まえて交渉を進めます。平和条約締結を含む日ロ関係全体の発展を目指してまいります」

佐藤氏は、この施政方針演説の中身はロシア側が評価するものとして受け入れられたとの独自情報を披歴している。

この点について、岡田氏は「シンガポールの首脳会談のやり取りは引き継いでおり」までで、「これまでの両国間の諸合意を踏まえて」というのは「イルクーツク声明」や「東京宣言など、4島返還を名指しにしてきた合意も含まれるのではないか、と詰め寄ったのだ。

菅総理は本当に「シンガポール合意」を理解しているのだろうか

この岡田克也元外務大臣に対する菅総理の答弁は、先ほどの答弁内容を読み上げるだけで、「2島返還」に転換したことを明言することなく論戦が終わってしまった。問題が大きすぎて、2島返還に変わったのだと言えなかったのか、それとも、この問題をしっかりと理解していなかったのか、これで本当にロシア側に評価されるものとして受け入れられたのであろうか。改めて、佐藤氏の見方を知りたい気がする。

もし、菅首相が経過について理解しないでプーチン氏と会談したとすれば、ほとんど相手にされなくなるだろうし、もし2島返還を前提に論議が進められれば、「これまでの両国間の諸合意を踏まえて」いないではないか、と「4島返還論者」から厳しく論難されるに違いない。どちらにしても、菅総理の曖昧模糊とした答弁内容では、国益を害することになるのではないだろうか。菅総理の下での今後の北方領土に限らず、外交全般が心配だ。


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