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労福協 活動レポート

2021年3月8日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第183号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

中国「全人代」が始まり、共産党結党100周年に向けた動き強まる

中国の国会に当たる「全人代」(全国人民代表大会の略)が先週から開催中である。コロナウイルスの発生源とみられたものの、国を挙げての徹底した対策によって予想以上の速さでウイルスの鎮静化に成功したようだ。今や、ワクチン開発などコロナ対策を支援しながら、国際社会での中国の影響力を拡大し始めている。今年度の経済成長率も6%台を目指す(ただしそれ以降の中期目標はまだ出ていないようだ)とのことで、経済大国(軍事大国)の道をひたすら走り続けている。特に、今年は中国共産党結成100周年の節目の記念すべき年にあたっており、2049年の中華人民共和国樹立100周年に向けて、アメリカに追いつき追い越す大国としての地位を目指そうとしている。

中国共産党に忠実なジャック・マー氏、経済の力でも国主導を誇示

その中国で、保有資産が500億ドルを超えるアリババ集団の馬雲(ジャックマー)氏が、昨年10月以来1度しか公式の場に姿を見せておらず、中国政府として、経済の発展はすれども政治の独裁体制は維持していくことを示したものとして、いろいろと取り上げられている。私自身中国問題には疎いわけだが、馬氏の動静はなんとなく気になって仕方がなかった。

そうした時、日本経済新聞電子版(3月5日付)に掲載された「FINANCIAL TIMES」の「馬氏、共産党の矛盾を象徴 経済成長と党勢の両立は困難」というアンダーリニー氏の記事のなかで、「億万長者で自身が共産党員である馬氏は、中国が国家を挙げて追及するイデオロギーに内在する矛盾をいわば体現している。昨年後半までの馬氏のキャリアは、中国共産党以外の権力や権威といったものには徹底的に排除する『市場レーニン主義』、つまり国家資本主義の下で企業家として生き残るべく最も巧みに立ち回った成功例の一つといえる。プーチン大統領が支配するロシアと同じく、中国の新興財閥(オリガルヒ)も国家に奴隷のように忠実でないという兆しを少しでも見せれば、すぐに容赦のない罰が下される」と分析している。

中国経済をリードした民間部門、国主導で発展させられるのか??

馬氏が昨年11月に予定していたアリババ集団の新規株式公開(IPO)を、当局が差し止めたことがきっかけになったとみている。中国共産党員である馬氏は「東西南北およびその中心も一切を党が支配する」が好きなスローガンで、伝統的マルクス主義や「中国の特色ある社会主義」を常に強調してきたという。だが、中国経済の発展が馬氏を先頭とした民間企業によって雇用では8割近く担われたわけで、習近平国家主席にとって企業人を「中国共産党と政治的、思想的、感情的に一心同体」になるよう教育しなければならないという方針の下、あまりにも大きくなりすぎた馬氏を制裁することで、今後とも共産党の政治支配を強めていこうとしたものではないかとみている。

ハイテク企業50社の国営化を提起、海外の投資家はどうするのか

この点について、7日付の日本経済新聞で「国有企業重視 中国一段と」と題する現地からの報道が出ていて、全人代の中で「国営企業を発展させて民営企業を導く」方針を提起していることに符節が合う。特に、ハイテク企業50社の経営権を獲得し、国営化していく方針を打ち出している。もっとも、この中で、アメリカ企業からも投資資金が中国に投入されているわけで、そうした投資家にとってどう対処すべきなのか、大きく問題になるのかもしれない。

ブランコ・ミラノビッチ氏『フォーリン・アフェアーズ』論文に注目

そうした時、最新の月刊誌『フォーリン・アフェアーズ』2021年3月号にタイミングよく米中関係中心に論文が多く掲載されている。その中の「新エリート階級と中国の格差 オリガークか独裁か」というニューヨーク市立大学のブランコ・ミラノビッチ氏の書かれた論文に目を通すことができた。ミラノビッチ氏の「オリガ―ク」とは「オリガルヒ」のことで、先ほどのフィナンシャルタイムズと同じような問題に焦点を当てている。それだけ、米中問題が国際的にも注目すべき問題として浮かび上がっていることを示しているのだろう。周知のように、ミラノビッチ氏は経済成長と格差問題などの世界的な専門家であり、中国が経済大国になり格差が拡大する中で、中国共産党の一党支配がどのようになるのか、注目しているわけだ。

アメリカ以上に経済格差が拡大している中国、政治的腐敗も助長

ミラノビッチ氏は、中国経済は2010年ごろまでに成長を遂げ続けた結果、所得格差が拡大し続け、ジニ係数は0.47とアメリカの0.41を超えるに至ったという。都市と農村の格差も拡大しており、都市と農村では別の国ではないかと錯覚するにまで至っているとみている。

こうした経済的な格差を助長するものとして、政治的要因を挙げている。それは政治腐敗の存在であり、中国においても政治・経済パワーが融合することでハイブリッドな政治経済エリート層が作り出されていて、この集団が社会的に定着すれば、それを解体することは困難になるとみている。このようなエリートをどう管理していけるのか、ミラノビッチ氏は最終的な実権(パワー)をめぐって共産党と政府官僚の一握りのトップが握ることになり、その実態がどうなるのか、「中国に残される選択は、オリガーキー(寡頭支配)か独裁ということになる」しかないと結論付けている。

とはいえ、批判するアメリカの格差問題や民主主義の現状を見るとき、中国はアメリカに対して「自分のところの政治や経済の現実を踏まえて物を言え」と習近平指導部は思っているのではないだろうか。日本にとっても、米中関係だけでなく日中関係をどう展開していくのか、ここはしっかりとみておく必要がある。

リフレ派議員連盟での本田悦郎氏「給付付き税額控除」提案に想う

すっかり忘れていた自民党内の「リフレ派」議員連盟が、約3か月ぶりの2月中旬、国会内で会合を開いたとTV朝日の報道に接した。会長は安倍晋三元総理で、安倍氏が次期総理に推薦したかったと言われる岸田前政調会長ら、約50名の議員が参加したとのこと。講師はアベノミクスをけん引してきた本田悦郎前スイス大使で、財政の健全化に向けた基礎的財政収支の黒字化は当面必要ないとし、去年実施した「10万円給付金」のように国民一律ではなく、所得によって差がつく「給付付き税額控除」に変えて給付するべきだ、と主張したとのことだ。財政再建のための増税は禁じ手だとも述べたとのこと、財務省出身でありながら財政の健全性には無頓着なことが、安倍氏らに取り入れられたのかもしれない。

国民民主党の岸本周平議員らは、同じ問題を正確に展開している

同じ財務省出身で政治家に転出した政治家は野党側にも多い。国民民主党の玉木代表も財務省出身だし、副代表の古川元久元国家戦略担当大臣や経産省やトヨタ自動車などにも籍を置いた経験を持つ岸本周平代議士など、多士済々のメンバーがいる。岸本氏も、もちろん古川氏もだが、本田氏が主張した「給付付き税額控除」制度を導入することによって、課税最低限以下の低所得層に対して「給付」する考え方を全面展開している。格差社会における所得格差解消策なのだが、問題は所得をどう正確に捕捉できるのかどうか、にかかっている。私と古川元久代議士は、民主党政権獲得以前から所得税の改革を実現するうえで、所得をどう正確に捕捉するのか、そのためには納税者番号を全国民に付番し、先ずは所得について、ゆくゆくは資産についても正しく掴めるようにしていきたいと思い、政権交代とともにマイナンバー制度の導入に向けて舵を切ってきたわけである。

マイナンバーの金融所得紐付けが、格差社会是正のインフラになる

岸本周平代議士は、ウエブ『論座』(2月22日付)の論文「コロナで財政支出は必要だけど、そのツケを若者に押しつけないために必要なこと」を寄稿している。その中で、「全員一律10万円」という総額13兆円にも喃々とする財政支出の9割が貯蓄に回って、あまり効果を上げていないとみている。それよりも、「困窮者に現金を支給できる給付付き税額控除」を「マイナンバー制度」を前提にして進めるべきことを強調している。既に海外において、アメリカやイギリスの勤労税額控除、ドイツやフランスのような児童税額控除、カナダやシンガポールのような消費税逆進性対策の税額控除などが紹介されている。

これらの国々ではいずれも正確な所得捕捉と申告所得制度が原則となっているわけで、こうした税制インフラをまず整備しなければ「絵にかいた餅」でしかないのだ。

自民党リフレ派議連の方達は、本気で格差社会是正に取り組むのか

はたして、先に「給付付き税額控除」の導入の必要性を述べた本田悦郎氏は、安倍晋三氏らリフレ派議員の方達を前に、マイナンバー制度がなければいつまでたっても「誰が貧困な所得層なのか」掴むことができず、「給付付き税額控除」ができないことを主張していたであろうか。残念ながら報道だけでは確かめることができないのが残念ではある。未だに、政府の側が銀行の預金通帳へのマイナンバーの附番を義務付けていないことを見ても、本気で政権側が考えているようには思えないのだ。本田氏には、考え方の違いは別にして、マイナンバー制度の重要性こそを自民党のリフレ派の方達にも強調して欲しかったと思う。

「瓢箪から駒」の「孤独・孤立担当相」、伊藤孝恵参議の質問から

国民民主党の主張は、一見すると対案対置型で地味だし迫力に欠けているように思えるのだが、実に安定感のある政策を主張していて頼もしい。じつは、私の購読している北海道新聞3月4日の名物コラム「各自核論」で、中北浩爾一橋大教授が「社会の病理 コロナが拍車」の中で、「瓢箪から駒」のように国会での質問から「孤独・孤立対策担当相の新設」を取り上げておられる。内閣の改造でもないのに「寝耳に水」のことだったと驚いておられる。

菅総理の「絆」に注目する中北一橋大教授、「孤独問題」に注目

中北教授は、この孤独の問題を国会で取り上げたのは国民民主党の参議院議員伊藤孝恵女史で、コロナウイルスの感染拡大で深刻化している孤独問題を担当する閣僚の設置を執拗の求め続けたからだという。菅総理は、思わず今の担当者は田村厚労大臣と答えたが、指名された田村大臣がきょとんとして驚いておられたのが印象的なシーンであった。結果として、坂本哲志1億総活躍担当相が孤独・孤立担当相に指名されるに至っている。中北教授は菅総理の「自助・共助・公助・そして絆」とわざわざ「絆」という言葉をつけ足していることに触れ、伊藤議員とのやり取りを通じて「孤独という問題に取り組む重要性を見抜いたようにも見える」とのべ、最後に「孤独という問題は巨大であり、文明史的な広がりを有している。菅首相には是非じっくり腰を据えて取り組んでもらいたいと思う」と結んでおられる。

国民民主党は小さい政党だが、地に足がついた政策論戦に注目

政府が本当に真剣にとりくむとすれば、一昨年の参議院選挙の公約で「孤独担当相の設置」を掲げてきた伊藤議員は、国会の質問を通じて公約を実現させることができたと言えよう。もっとも、その中身をどう充実させていけるのかが一番重要なのだが。同じ野党が立憲民主党と国民民主党とに分かれていることは実に残念なのだが、小さい政党としての限界はありつつも、国民民主党の政策主張には大いに注目し続けていきたいと思う。蛇足ではあるが、伊藤孝恵参議院議員は、未だ当選1回生、先日実施された国民民主党代表選挙で玉木代表と競い合ったことを見ても、なかなかの人材だと思われる。今後の活躍を期待したい。


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