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労福協 活動レポート

2021年5月10日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第191号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

新型コロナの感染猛威、ゴールデンウイークをどう乗り切れるのか

新型コロナウイルスの猛威は収まることを知らないまま、ゴールデンウィークへと突入した。1都2府1県へと緊急事態宣言が発せられてはいるが、どれだけ感染者数が減少していくのか、先が読めない。なんと北海道は2日には300人を超す感染者を数え、過去最大となってしまった。果たして11日までに宣言を終えるステージに到達できるのかどうか、何が何でもオリンピックの開催へと突き進む菅政権の姿勢には、国民の大きな支持が広がっていないようだ。さすがに、経済活動優先のGOTO事業への執着は今のところ沈静化しているが、先ずは国民の生活・命が第一なのであり、ワクチン接種の迅速化を最優先にしてほしいものだ。

バイデン大統領のアメリカ、予想以上に順調に過ぎた100日間

最近の経済の状況を伝える報道が相次いでいる。おなじみのGDP統計ではあるが、今年1~3月期の対前期比の年率換算での伸びは、アメリカ6.4%に対して、ユーロ圏はマイナス2.5%で2期連続、日本は専門家たちの予想の平均値で3期連続のマイナス4.5%となっている。アメリカはワクチンの供給が予想以上に順調に進んだことや、1.9兆ドル(日本円に換算して約200兆円)のコロナ対策を中心にした財政支出の効果も出始めているのだろうか、予想以上に回復していることが目につく。バイデン政権100日に対するアメリカ国民の評価が、過半数を大きく超えているのも頷けるところである。バイデン大統領は、ワクチン接種の成果に自信を持ち始めたようで、就任100日目にして初めて上下両院での所信表明演説にも迫力が出ていたようだ。演説するバイデン大統領の背後に、ハリス副大統領とペロシ下院議長という二人の女性リーダーが見守っている写真が、新聞の一面に掲載されていたのがやけに印象的であった。

吉川洋・山口広秀論文「消費回復へ賃金デフレ脱却」を読んで

こうした直近の出来事にも関心はあるのだが、日本経済の現実をみたとき、看過し得ない経済的事実を知り、憂鬱な気分となっている。4月26日の日本経済新聞の「経済教室」欄で、吉川洋立正大学長と山口広秀日興リサーチセンター理事長連名で書かれた「消費回復へ賃金デフレ脱却」(『コロナ後のあるべき政策・上』)という論文だ。

この中で、今回の不況がコロナ禍による消費の急落が主因であり、これまで経験したことがない新型不況と捉えている。だが、日本経済とアメリカ・ユーロ圏経済の消費の動きをコロナ禍の前の’13~19年の結果を比較すると、年平均の個人消費の伸びはアメリカ2.4%、ユーロ圏1.4%であるのに、日本は0.0%なのだ。日本経済のGDPの約60%占める消費の低迷が、日本経済の「通奏低音」となっている中でコロナ禍に直面している。未曽有の不況に直面した日本でも、巨額の財政支出は不可避であり、雇用調整助成金の効果もあり失業率も何とか落ち着いていた。しかし、コロナ対策としての個人消費の増加にはつながっていないと分析。

「消費性向」の落ち込みは、あまりにも激しすぎるのではないか

実は、私自身が看過し得ないと思ったのは、近年の「消費性向の低下」という事実である。消費性向とは可処分所得に対する消費支出の割合のことであり、’14年には75%だったものが’20年には61%にまで低下しているのだ。一般的に高齢者は預貯金の取り崩しもあり消費性向は高いと言われているが、’11年の94%から’20年には72%へと大きく低下しているのだ。なぜ消費性向がこんなに落ち込んでいるのか、もちろんコロナ禍での消費減退も一部には影響しているだろうが、内閣府の『国民生活に関する世論調査』から「人々が現在より将来への備えを重視する割合は、この20年間調査のたびに上昇している」とのことだ。その要因は老後の生活不安にあるようで、家計の貯蓄が増え続けているのだ。背景には、政府の財政問題で社会保障の持続性への懸念が強いことと、もう一つは、消費者の所得上昇期待が低下していることを挙げておられる。

社会保障の将来不安と賃金の落ち込みが続く中での貯蓄の増加

社会保障の持続可能性の問題は、一般会計に占める社会保障費の割合が高まり続けているにもかかわらず、基礎的財政収支の黒字化の展望が望めなくなっているわけで、将来の生活防衛のために生活を切り詰めながら貯蓄を増やさざるを得なくなっている。

賃金の引き上げについても、2020年6月以降名目賃金は対前年比でマイナス幅が増加しており、足元ではマイナス1.5%にまで落ち込んでいる。この日本の賃金デフレはアメリカやドイツなどと比較しても異常であり、賃金・所得の低迷こそが総需要の低迷の要因であることは間違いない。なぜ経済成長の足を引っ張っているのは人口減少もあるが、主要には生産性の低下であり、情報通信技術(ICT)関連の資本装備率の低さが指摘され、企業のイノベーションの源泉とも言われている研究開発投資の対GDP比も、アメリカ2.8%、ドイツ3.0%に対して、日本は桁が一桁も違う0.4%でしかない。

かくして、コロナ禍が浮き彫りにした3つの深刻な問題、個人消費の構造的な低迷、社会保障を中心とする財政の持続可能性への懸念の高まり、日本経済の成長力の弱さをどう克服していけるのか、課題を摘出されている。

コロナ禍終息後も、深刻なデフレ経済持続をどう阻止するするのか

一番の驚きは、消費性向の落ち込みの継続と賃金水準の低下が続けば、コロナ禍が終焉したとしても、総需要の落ち込みが継続していくわけで、再び消費者物価の落ち込みと経済の低成長が併存するデフレ経済に落ち込んでいくことは必至であろう。既に、1年前に比較して消費者物価指数はマイナス圏に突入し続けている。何よりも、国民の消費回復に向けて、賃金の引き上げこそが必要であることは間違いないわけで、政府が直接進めることができる分野として、最低賃金の引き上げはもちろん、イノベーションを進めていくためにも教育・技術・職業訓練の充実を進めていく必要があろう。もちろん、医療・介護・子育てなど貧弱な社会保障制度の充実やインフラの整備も不可欠なことは言うまでもない。

政府が必要な財源をどのように確保していくのか、バイデンに学べ

問題は、コロナ禍が一段落した後のそうした改革課題に向けて、どのような財源の確保を進めていくべきなのか、バイデン政権で進めようとしている所得税の累進性の回復や株式売却益など資産性所得の増税や法人税率の引き上げ、さらには法人の内部留保課税なども考えられてよいだろう。もちろん、消費税の引き上げという手段も当然ありだと思うが、安倍政権を継承した菅政権には期待することができない。何時までも、財政が放漫することを放置することはできないわけで、アメリカのバイデン政権に見習うべき時ではないか。次の総選挙での争点として取り上げる政党が見当たらないのが日本の悲しい現実なのだ。

社会民主主義政党は何故こんなに凋落してしまったのか

コロナ禍とはいえ、今年の秋までには日本では総選挙が必ずある。ちょうど4年前にドイツでも総選挙が実施され、同じく今年の秋には総選挙が実施されることになる。ドイツでは、メルケル率いるキリスト教民主同盟が支持率を大きく低下させ、「緑の党」がもしかすると第1党になる可能性が指摘されている。前回選挙で大きく議席を減らした社会民主党の存在感が低下しており、ヨーロッパの社会民主主義政党の凋落はドイツだけではなくイギリス労働党やフランス社会党、更にはイタリア社会党にまで及んでおり、かつての政権を担っていたことが信じられないほどの凋落ぶりである。

ピケティ教授「欧米の左派政党は庶民ではなく、もはや高学歴のための政党になった」という厳しい指摘

なぜ、社会民主主義政党が凋落しているのだろうか、疑問を持ち続けてきたわけだが、トマ・ピケティ氏のクーリエジャポン誌最新号に掲載されたインタビュー記事によれば、「欧米の左派政党は庶民ではなく、もはや高学歴者のための政党になった」との表題に、その原因を指摘している。ピケティ氏は50人ほどの国際的な研究チームを率いて、有権者の投票行動が所得、資産、学歴、民族的出自、宗教によってどう変化するか、1948年から2020年という長い期間について、50カ国の民主主義国についての調査を実施している。
結論的に、1950~80年までは、庶民は左派支持でブルジョワは右派支持という時代があったが、80年代以降は左派が掲げる再分配政策は規模が非常に小さく弱められ、90年代以降、金融緩和が進み資本の移動が自由になった事を指摘する(後出「資料」を参照して欲しい)。それに対する規制や税制の調整をしないで自由化を推進したのが、中道左派の政党だったと批判する。アメリカのクリントン政権時代の民主党、英国のブレア政権時代の労働党、ドイツはシュレーダー政権時代の社会民主党、フランスはミッテラン政権時代の社会党を名指し、結果として格差の拡大に道を開いてしまった責任を指摘する。

学歴に関する能力主義イデオロギーが生まれた左派政党の変質

背景として、ソ連崩壊という共産圏の崩壊があったことも指摘しているが、主因として「学歴は個人の努力を反映し、低学歴は自己責任である」という能力主義イデオロギーが左派政党内に生まれたことだと指摘する。庶民階層にとって学歴の取得は簡単ではなく、庶民階層の有権者は見捨てられたと感じ、反エリートの政党を支持するようになったと指摘している。それが、ポピュリズムの台頭を招き民主党のクリントン候補を破ってトランプ政権実現にまで至ったことは記憶に新しい。

今、バイデン政権誕生によって、格差縮小に向けて再分配政策が再び重視され始めているが、議会での抵抗をはねのけて実現できるかどうか、予断を許さない状況にあることは間違いない。ドイツにおいても、どのような選挙結果になるのか、比例代表を基本としているドイツの選挙制度では単独政権はほぼ不可能であるだけに、どんな連立政権が出来上がるのかも注目していきたい。

日本の総選挙、野党が選挙協力で統一した力の結集は可能か

問題は日本の総選挙だが、コロナ対策の行方にかかっていることは間違いないが、菅政権の支持率40%程度で横ばいとなっていて、政党支持率での自民党支持も30%台を維持して野党側を大きく引き離し、野党側がよほど選挙協力による統一候補実現にまで持ち込まない限り、与野党逆転は難しそうである。日本においても、かつての社会党の継承政党として自負する社会民主党は分裂し、その政治的存在感は無くなっている。社会党のかなりの勢力も合流した中道左派政党であった民主党も、総選挙での勝利によって政権交代を実現はしたものの、政権担当能力を喪失して分党化し、今では立憲民主党や国民民主党といった中道(左派)政党として存在している。社会民主主義政党としての存在感を問えるような現実にはないわけで、欧米の社会民主主義政党とは比較すること自体が難しくなっていると思う。

自民党と立憲民主党の支持者の投票分析、価値軸はいずれも分散へ

最近の三浦瑠麗著『日本の分断』(文春新書2021年刊)によれば、自民党と立憲民主党の支持者の分布(2019年参議院選挙比例代表投票者の経済と社会の保守対リベラル軸にプロット)を見ると、両党の支持者の分布にはほとんどの違いはない。アメリカのように経済リベラルに大きく振り切れた有権者の塊がいるわけでもないし、立憲民主党支持者は自民党よりも僅かに中道リベラル寄りの傾向を示しているに過ぎないし、社会的な軸で見てもリベラルから保守まで幅広い。つまり、自民党投票者も立憲民主党投票者も価値観がばらけているのだと分析している。ただし、原発問題では自民党と立憲民主党では、支持者の見解はかなりの差が出ている。

三浦瑠麗著『日本の分断』で、外交・安保軸の違いに固執は無理筋

こうした対立軸に大きな違いがない理由は、外交・安全保障の軸が大きく異なっているからなのであり、日本が抱えている国際的な環境についての認識では、国民の多くはリベラルな立場を支持しておらず、この対立軸を野党側が固執している限り政権交代を実現することは困難だと三浦氏はみている。

いずれにせよ、日本の社会民主主義の立場に立つ政党の存在はなかなか見えてきていないわけで、政権政党である自民党内にも経済的にリベラルから保守的な層までいるし、立憲民主党内でも同様な実態にあるようだ。今後、どのように政党が対立軸を構築していけるのか、なかなかむつかしいことに違いはない。マスコミの報道によれば、枝野幸男立憲民主党代表が、近日中に次の総選挙に向けて政権構想を提起するとのことだ。どんな対抗軸になるのか、注目してみていきたい。

 
(資料)この資料はクーリエジャポン編『新しい世界』(講談社現代新書160ページ)から転載したもので、トマ・ピケティ作成


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