ホーム > 労福協 活動レポート

労福協 活動レポート

2021年5月10日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第192号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

新型コロナの猛威、全国的に感染の拡大と死者・重症患者増大へ

5月11日までとされた新型コロナ対策法に基づく緊急事態宣言は、7日に愛知県と福岡県を追加して5月末まで延期することに決定した。最近の新規感染者数は連休明けの8日時点で、東京都は1121人へと千人台に再突入し、大阪府は1021人と大台を継続し、全国的な感染者数は8日に7244名とこれまでの最高値となり、14道県では一日としては過去最高の新規感染者を記録し、日本列島全体に感染の拡大が進みつつある。その中身をよく見てみると、重症者数は増えているし、亡くなられた人の数も増え続けている。背景には、ウイルスの変異株拡大があるとされ、その感染力の強さや速さ、また若者への感染力も目立ち始めている。

何故、大阪府・市は感染拡大による医療崩壊を招いてしまったのか

そうした中で、東京都も8日に新規感染者数で大阪を上回ったが、第4次感染拡大で何よりも目立ったのは大阪府であり、兵庫県や京都府を巻き込んだ関西ブロックの2府1県の増加の動きが特に目につく。毎日新聞5月2日朝刊で「『医療崩壊』大阪の誤算」「兆候見抜けず病床縮小/変異株猛威」という見出しで、特に大阪府の実態について触れている。その中では、2回目の緊急事態宣言が解除された今年3月初め、それに伴い重症病床のベッド数を210から150床まで引き下げたが感染者数の増大、とりわけ重症患者数が増え重症病床数(実運用数)を超えてしまってしまい、今では家庭で感染者が14,000人を超すなど事実上医療崩壊となっているのが現実である。医療従事者が厳しい状況に置かれており、危機的な状況にあることは間違いない。

二木立日本福祉大学名誉教授の的確な資料を読んで感じたこと

こうした実態を見るにつけ、なぜこのような状況になってしまったのか、つくづく考えさせられる。中には、病床数がOECDの中でも人口当たり最高でありながら、コロナ患者が受けられなくなっているのは、病院の側に問題があるのではないか、といった報道(当初は読売や朝日など主要全国紙に掲載されていたが、今では日本経済新聞ぐらい)に接することがある。こうしたコロナ危機について的確な分析(批判)と今後の展望について、二木立日本福祉大学名誉教授から送られてきた資料(今年2月19日に神奈川県保険医会で講演された『コロナ危機が日本社会と医療・社会保障に与える影響と選択』で、長文なため別途添付しておいた)を読んで、そのような批判の背後にある問題点をよく理解することができた。

橋下徹氏のツイッター発言、大阪府知事・市長時代の自己批判へ

それを読みながら、ふと次の一文が目に入ってきた。病院経営について「もっと『余裕』もたす診療報酬改革は不可欠」という小見出しの中で述べておられる次の指摘である。

「漫画的なのが、元大阪府知事の橋本徹氏です。去年の4月3日のツイートで、こう謝罪しているのです。『僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に、徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府市立病院など、そこはお手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします』。大阪の人は随分素直ですね。日本の自治体の首長の中で一番強引に、医療を含めた行政合理化をした人が反省しているのです」

維新の新自由主義による政治の齎した人災の側面もあったのでは

今の大阪の抱える異常な感染の広がりが厳しい現実は、新自由主義に基づく小さい政府による徹底的な行政合理化が大きく影響しているのではないかと思えてならない。この橋下徹氏こそが、政党として「維新の会」を大阪から立ち上げ、今や全国政党として安倍・菅政権の準与党という立場を取り続けていることは周知のことだろう。菅総理との関係も、官房長官時代(第一次安倍政権時代には菅総務大臣だった)から深いものがあるとのことだ。橋下市長・府知事時代の合理化は、凄まじいものがあったことを大阪の自治体関係者から聞いてはいたが、本人から反省の弁を聞くとは、私自身やや驚きではある。

大阪都構想という「行政改革ごっこ」に狂奔した維新の罪は重い

それにしては、もう少しその反省を生かして現役の吉村知事や松井市長に提言を強く主張して欲しいものだ。その大阪府の吉村知事や松井大阪市長ら維新の政治家たちは、大阪市を解体して市民にとって何の意味があるのかよくわからない「大阪都構想」実現に、二度も挑戦し連敗してきたわけで、コロナ禍の下での大阪府や大阪市の「行政改革ごっこ」に狂奔した責任もまた重いものがある。これまでの吉村知事や松井市長らの政治的パフォーマンス優先の言動を見る限り、大阪の維新による政治がいかに大きな問題をもたらしているのか、総選挙を前に、国民は良く理解して欲しいと思う。今や、維新は全国政党にまで進出してきているのだ。

二木名誉教授、今後の医療政策は中期的に「緩やかな追い風」が吹く

私自身ツイッターをやらないので、橋下氏のこの発言を、二木先生の資料で初めて知ったわけだが、二度とこのような感染症拡大の深刻化を許さないためにも、政府が進めようとしていたさらなる医療分野の削減方針を転換し、何時パンデミックが再び起きても対応できるような病院経営ができるよう政策転換してもらいたいものである。二木先生は、これから医療政策は中期的には緩やかな改革の風が吹くと予想されている。できれば、しっかりとした改革にしてほしいが、そのためには財源確保が重要になることを指摘されている。大変優れた講演記録であり、是非とも一読を進めたい論文である。

日経新聞、八代尚宏氏『非正規公務員のリアル』の書評を読んで

そんな思いを持っている時、日本経済新聞8日付の書評欄で、「この一冊」『非正規公務員のリアル 上林陽治著』「【小さな政府】の究極の矛盾」と題して、八代尚宏昭和女子大学副学長の書評が掲載されている。八代氏の立場を知っているだけに、気になったのが副題となっている「【小さな政府】の究極の矛盾」という点であり、おや、八代氏が「小さな政府」を批判しているのかと錯覚してしまいそうになり、中身を読んでみた。

八代氏は、正規公務員の雇用や賃金保障が民間より強い?と指摘する

要は、公務員の非正規労働者が酷い労働実態にあるとともにその人数も増大していることは指摘するものの、次のような指摘となっていることには、なんとも理解できなかったのだ。

「これらは正規公務員を削減する『小さな政府』政策の帰結との見方もある。しかし、正規公務員の雇用や賃金保障の度合いが民間よりも強い分だけ、本来のエッセンシャル労働である、非正規公務員への雇用コスト削減のしわ寄せが大きくなる。それなのに、民間労働者並みの保護法制すら、公務員に適用されないのは究極の矛盾だ」

正規の公務員労働者の権利は、団結権と一部現業には交渉権はあるが、争議権ははく奪され続けている。そして、賃金や労働条件は民間準拠で決まった国家公務員の賃金に準じて地方公務員も決定されることになっている。

公務員の労働基本権代償措置としての正規公務員の賃金・権利保障、
非正規公務員は、正規公務員の権利の犠牲者という見方は疑問??

民間労働者よりも公務員が雇用や賃金保障の度合いが強いと判断されているのは、公務員の労働基本権が制限されていることの代償でしかない。そうした法体系になっていることの是正を公務員労働組合は要求し続けているが、解決の道は未だついていない。非正規公務員の低い労働条件・権利が、正規労働者の「恵まれた」度合いが強い分しわ寄せがいっているのだ、という指摘には理解できない。問題は、八代氏が否定しているのだが、この間の新自由主義路線に基づく「小さい政府」の立場から、国や自治体の税財源の充実を図るどころかできる限り削減し、そのしわ寄せを公務員労働者、とりわけ非正規公務員労働者に押し付けざるを得なくしてきたことにあると思う。上林氏の著書の中でも指摘されているように補助的な仕事だけでなく、専門的な仕事や資格が必要な職務に従事していることが多いのは、財源や定数の制限が大きく左右しているとみて間違いない。

ジョブ型に対応できる「職務職階給」制度が公務員賃金決定の基本

ここで、今世間で問題にされている日本の雇用の在り方の論議、ジョブ型とメンバーシップ型でいえば、公務員はジョブ型の雇用に一番適用しやすいのであり、同一労働・同一賃金による賃金決定にしていける分野だと思う。もともと公務員賃金は「職務職階給」からスタートしているわけで、ジョブディスクリプションを進め、同一の職務には、同一の賃金水準が設定されるべきだろう。要は、どんどん拡大する公務員職場の需要に予算の範囲内での定数が足りなくなっているわけで、それを非正規公務員による仕事として物件費の枠で財源ぎりぎりの水準で「賃金」等を支払わざるを得なくなっているのだ

非正規公務員、人件費ではなく物件費の扱い、人間性喪失した扱い

かくして非正規公務員の人件費は、「物件費」として会計上はモノ扱いで、人間としてまともに生きていけるような扱いを受けていない。まさに大問題である。
最後に、八代氏は次のように述べている。

「本書では自治労等、強力な公務員の労働組合については一切触れられていないが、これも筆者の隠れた批判と言えよう」

著者上林陽治さん、労働組合に触れないのは「隠れた批判」からか?

本当に「隠れた批判」として労働組合について触れておられないのだろうか。上林さんとは知り合って40年以上経過するが、こういう考え方に与しているとは到底思えないわけで、八代氏の一方的な思い込みではないかとしか思えない。もっとも、私自身ここ10年近くは、上林さんとお会いしていないだけに、一度私の方からも確かめてみたいとは思う。

5月7日付の『現代の理論』(ウエブ版で無料)第26号の中で、この新著についてのインタビューに上林さんが登場している(実は聞き手も自分で「自作自演」だと最後に書かれている)。今までばらばらだった非正規労働者について、ようやく2020年度から会計年度任用職員制度が新設されたものの、コロナ禍の下その実態がいかに問題あるのか、克明に述べておられる。八代さんが「小さい政府」政策の帰結ではない、と強弁されているが、上林さん本人は、いかに政府・自治体現場が「小さい政府」の下でとんでもないほどの苦難を強いられていることを書かれていると私はみるべきだと思う。

21世紀のこれからの時代、医療や介護、教育を始め「社会的共通資本」分野の重要性が高まろうとしているわけで、それだけに国民に一定の負担を求めながら、こうした公的分野を担える人材をしっかりと確保していけるよう、公務員制度の改革にも努力していく必要がある。


活動レポート一覧»

ろうふくエール基金



連合北海道 (日本労働組合総連合会 北海道連合会)
北海道ろうきん
全労済
北海道住宅生協
北海道医療生活協同組合
中央労福協
中央労福協
北海道労働資料センター(雇用労政課)
北海道労働者福祉協議会道南ブロック