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労福協 活動レポート

2021年5月31日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第195号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

5か月を切った衆議院選挙、ワクチン接種に狂奔する菅総理

コロナウイルスの猛威は、幾多の変異株に転移しながら日本社会全体に拡散し続けており、緊急事態宣言も1都1道2府6県は6月20日まで延長されることになった。私の住んでいる北海道も、人口一人当たりでの新規感染者数は全国トップクラスで推移している。こうした中で、7月末から始まる予定の東京オリンピックの開催がどうなるのか、IOCの責任者たちの強硬実施発言に戸惑いを感ずる今日この頃である。

もう一つの大きな政治課題は、言うまでもないが今年10月21日までには必ず実施しなければならない衆議院議員の総選挙である。オリンピック・パラリンピックが終了後に、解散・総選挙になるのではないかと想定はされてはいるものの、何時どうなるかは誰もわかってはいない。新型コロナウイルスの感染状況と菅内閣の支持率が連動しており、今の時点では内閣の生命線と言われている30%前後の支持率で低迷し、政権の行方を左右する重大事と位置づけるワクチン接種の拡大に全力を挙げてはいるが、7月末までに高齢者3600万人の接種が無事完了できるかどうかが鍵を握っている。

各種世論調査を見る限り国民の不満は高まっているようで、どんな選挙結果になるのか予断を許さないように思える。そういえば、都議会議員選挙が7月4日投票日、どんな結果となるのか先行指標となるのだろう。注目してみていきたい。

枝野幸男著『枝野ビジョン 支え合う日本』を読んで(その1)

こうした中で、次の総選挙に向けて野党第1党「立憲民主党」代表の枝野幸男氏が『枝野ビジョン 支え合う日本』(文春新書5月20日刊)を出版し、「政治理念や政治哲学、ビジョン」を打ち出している。枝野代表自身、政権獲得への準備・覚悟も完了したことを宣言し、総理大臣になる責任を自覚して、2014年頃から書き出したとのこと、先入観なく読んでほしいと「はじめに」で述べている。

「先入観」なく読めるかどうか、民主党菅政権時代の幹事長・官房長官の要職にあったわけで、その時直面した東日本大震災と東電福島第一原発の大事故の記憶は、今でも多くの国民からは完全には消えてなくなってはいない。民主党政権の挫折と混乱、その後の希望の党との合流騒動のなかで「毅然として」新党「立憲民主党」を立ち上げたことにより、今では野党第1党代表として衆参150名余のメンバーを擁し、政権交代を狙える位置につけてきた。それだけに枝野代表がどのような「理念・哲学・ビジョン」を打ち出すのか、大いに注目すべきことは言うまでもない。解散・総選挙直前の今、こうして新書として取りまとめられたことには大いに敬意を表したいと思うが、その内容については民主党政権時代の政権幹部としての総括がどのように生かされているのか、しっかりとみていきたいと思う。それというのも、かつて民主党に所属した私自身の総括でもあるが、これから日本の政治がどのように舵を切っていくべきなのか、過去の政権を担ってきた野党第一党リーダーの責任もまた重たいものがあると考えるからに他ならない。

以下、枝野氏が打ち出している立憲民主党のスタンスの問題を最初に取り上げ、続いて「支え合い」を中心にした社会保障や経済政策の問題を取り上げてみたい。本来であれば、最後の章で触れている安全保障や外交問題にも触れるべきであろうが、専門でもないし紙数に限りもあるので、触れないこととする。

枝野氏の政治的ポジション、「真っ当な保守」で「リベラル」とは

最初は、「はじめに」の中でも触れている政治的な立ち位置の問題である。「右でも左でもなく前へ」、さらに「左右の対立軸は55年体制」時代の見方と捉え、今は「保守対リベラル」の時代へ、つまるところ枝野氏自身は「保守」であり「リベラル」でもあるという立ち位置だと述べている。ここらあたりは、「第1章『リベラル』な日本を『保守』する」で全面展開されており、より詳細には本文を読んでほしい。

保守本流をぶち壊した小泉政権と「昭和初期体制」復帰の安倍政権

要するに枝野氏は、自分こそ「保守本流」であり、「リベラル」を「保守」し続けていくのだと明言され、自身の政治的ポジションは「まっとうな保守」とも表現される。自民党イクオール「保守」ではなく、小泉総理は「自民党をぶっ壊す」と絶叫して新自由主義路線を持ち込み、「保守本流」がつくり上げてきた「一億総中流社会」を壊してきたし、それを継承した安倍政権では更に「日本を取り戻す」と述べて「立憲主義」を放棄して「昭和初期の体制」を目指そうとしていると批判する。

これらは「保守」の立場というより「政治手法」としては目指すべき自分たちの「理想」に向けて突っ走るという、かつての「革新=左翼勢力」のやり方に近いものだとみている。ちなみに、「左翼」について、「自己絶対主義」「排他主義」「遠い未来を観念的に語る」「ピラミッド型組織論」など、枝野氏が抱いている「保守」主義とは相いれない体質を持っていると批判している。この辺りは新しい世代の感覚なのかもしれない。

リベラルで保守を目指す枝野氏、どんな政治戦略を考えているのか

このようにみてくると、枝野氏は一体何を言いたいのだろうかと疑問が湧いてくる。枝野氏は自民党に対抗して、野党第一党になった立憲民主党を率いて選挙戦に臨むわけだが、自民党の本来持っていたとみている「リベラルな保守」を目指しており、それを大きく変えてきた今の自民党を打破していくことになるわけだ。もし、今の自民党が小泉・竹中路線(新自由主義)や安倍・菅路線(昭和初期体制への回帰)から、再び転換して「リベラルな保守本流」に立ち戻るならば、立憲民主党は合流していくのだろうか。

あるいは、日本の政党政治の中で、リベラルな保守と戦前回帰型の国権主義的保守の「保守2党論」の立場に立とうとされているのだろうか。少なくとも、この著書の中ではそれらの点について曖昧である。今の時代に、それらを前面に出すことが躊躇される何かがあるのかどうか、政治家としての戦略的な配慮が秘められている点なのかもしれない。

「保守本流」とは何か、それは「社会民主主義」とどう違うのか

そもそも枝野氏の言う「保守本流」とは何なのだろうか。どうやら戦後の吉田茂を源流とした池田・佐藤、田中・大平、宮沢と続く「宏池会」の流れを指しているようだ。今の憲法体制の下で、「1億総中流」社会を中心になって作り上げてきた政治勢力で、高度成長の下で社会保障を充実させ格差の拡大を防止し、「分厚い中間層」を作り上げてきたとみて、「戦後の『保守政治』のこうした側面を、私は高く評価しています」(39ページ)とまで述べている。もともと欧米では「リベラル」や「社会民主主義」政党が掲げているものなのだ、との指摘もされている。

立憲民主党は本当に「保守本流」を目指す政党になるのか

「保守政党」でありながら、「社会民主主義政党」の掲げるべき政策を取り込んできた「自由民主党」こそ、保守本流であり、それが枝野氏の立場だという。かつて、私が2009年の国会で、与謝野馨大臣が自民党には社会民主主義の政党でもあると明言されたことを思い出し、その与謝野氏が民主党菅内閣で国家戦略担当の大臣として枝野官房長官と同じ閣僚として活躍されていたことを思い出す。枝野氏にとっては、かつての社会党よりも自民党のこうした人たちの方に親近感を持っておられたのかもしれない。

ただ、ちょっと気になるのは、日本の社会保障の中で国民年金保険制度の成立の際、1959年の岸内閣の時代にできてきた経過などもあり、官僚側や労働組合、経営者団体など、どんな政治的な力学が働いていたのか、吉田茂以下の「保守本流」だけではなかったのではないかと思われるのだが、枝野氏はそのあたりには触れていない。後で述べたいのだが、日本における「1億総中流」社会が出来上がるのは何故なのか、もう少しきちんとした分析・整理がなされるべきだと思えてならない。

何とも解りにくい「枝野ビジョン」、この国の将来政治は不透明

これでは、国民にとっては何ともわかりにくい。それでは枝野氏は、なぜ自民党の内部に入り込んでリベラルな保守政党に戻ることに努力していかないのか、という疑問が出されたらどのように答えていくのだろうか。「右と左」「保守と革新」「保守とリベラル」といった政治ポジションをどのように選択し、将来社会を位置付けていくべきなのか、この本を読んでもなかなか理解しにくいのではなかろうか。小選挙区比例代表併用制という選挙制度を採用しているだけに、小選挙区で戦うことになる与党側と野党側の対立軸があいまいであることは、有権者にとって選択肢が限られてしまうのではないか。

野党第1党のリーダーが、政治的なポジションでこのようなあいまいなままでは、「この国のかたち」はますます解りにくくなってしまうのではないか、と思えてならない。と同時に、総選挙で戦う野党側の選挙協力が本当にうまく行くのか、心配になってくる。

具体的な「支え合う日本」の政策論は、次号で触れていきたい

次に検討したいのは、枝野氏の「支え合う日本」の具体的な政策であり、特に民主党政権時代の問題として指摘された財源の問題や、社会保障や教育といったこれまでは経済政策として取り上げられてこなかった再分配政策を経済政策として位置づけるという考え方を提起していることなどであるが、その点は紙数の関係で次の号に譲りたい。


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