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2021年7月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第201号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

G20財務相・中銀総裁会合、法人税改革合意、10月の首脳会議へ

かねてより注目してきた法人税の国際的な合意が、ようやく実現に向けた最終的場面にさしかかり始めてきた。そのきっかけとなったのはバイデン政権の誕生により、イエレン財務長官のリーダーシップの下、法人税の引き下げ競争にストップをかけようとの提案と、EUにおいてGAFAMをはじめとしたグローバルIT巨大企業の国際的課税問題について、今月9~10日にかけてイタリアのベネツィアで開催されているG20財務大臣・中央銀行総裁会議でほぼ合意し「共同声明」を発表するに至ったのだ。これまでG20の場やOECDで論議されてきた税制改革案を支持するとともに、合意の詳細を詰める作業を10月30~31日にローマで開催されるG20首脳会議までに完了する見通しとのことだ。

最低法人税率15%、巨大IT企業の利益を税収分配で合意へ

その税制改革案の内容は、国際的な法人税最低税率を15%とし、米国の巨大ハイテク企業など世界的な巨大IT企業からの税収を、一定程度各国における売り上げなどによって分け合おうとするものである。この内容についての大枠は、今年7月1日にOECDの仲介で世界131カ国・地域が合意したものである。もっとも、OECD加盟138カ国すべてが賛成したわけではなく、EU内ではアイルランドやハンガリーなどは支持表明に参加していないし、肝心のアメリカの議会での承認が得られるかどうか、なかなか厳しい政治的な壁が存在していることは間違いない。

国際的な税制の在り方の抜本的な改革、歴史的な合意こそ重要

ただ、世界の税制の流れを注視してきたものの一人として、イエレン財務長官が述べているように「経済外交にとって歴史的な日」が近づいていることは間違いない。バイデン大統領は声明で「条件を公平にし米国の競争力を高めるものだ」と述べ、議会に税制案を承認するよう呼びかけた。また、多国籍企業が「米国などで得た利益を税率がより低い国々に隠すことで応分の負担を回避することはできなくなる」ことを大統領は強調している。

日本政府は麻生財務大臣が、既に賛成の意思を明らかにしている。振り返ってみるに、2010年6月韓国のプサンで開催されたG20の財務大臣・中央銀行総裁会議の場で、菅直人財務大臣の代理で出席した小生が「先進国の法人税率の引き下げ競争を辞めるべきではないか」という提言をして11年、ようやくその実現に向けた最後の第1歩を踏み始めたことを率直に喜びたい。歴史は、やはり確実に前に動き始めていることを痛感する。誰からの働きかけがあったわけでもなく、自分の頭で考えてきたことを勇気をもって発言していてよかったと思う。

乗り越えるべき難問はまだあるが、国際的な政治的英知で克服を

もちろん、まだまだ乗り越えなければならない難関が待ち受けていることは間違いない。先ほど指摘したEU加盟国であるアイルランドとハンガリーが、1国でも反対すればEUの方針とはならなくなるわけで、ここはEU内における合意の調達をどう進めるべきなのか、政治的な力量が試されている。特に、アイルランドはこれまで進められてきた世界の法人税率引き下げをけん引してきたトップランナーであり、15%という最低税率よりも低い12.5%という法人税率となっている。15%という税率で本当にその効果が出てくるのか、いろいろと議論されていることも間違いない。

フィナンシャルタイムス紙のサンブー氏、的確な評価と問題指摘

この点について、日本経済新聞7月9日付に掲載されている『フィナンシャルタイムス』紙のマーティン・サンブー(ヨーロピアン・エコノミックス・コメンテーター)氏は、「課税合意 多国籍企業へ網」と題して、今回の合意がOECD中心に国際社会全体で進められたことは大変喜ばしいと同時に問題となる点について述べておられる。

主として物を生産して付加価値を付けてきた時代から、サービスや知的財産が大きな価値をもたらすようになってきた時代に転換したことにより、国際的な課税制度が追いつかなかったわけで、税率の最低を定めることによって課税の回避を防ぐという意味では評価されるべきだと述べている。15%が妥当なのかどうか、とりあえずの合意から出発するほかはないだろう。

EUデジタル課税は、投資や雇用、売上高に応じた方程式にすべき!

もう一つの、EU中心にデジタル課税と言われてきた課題に対しては、企業の利益の一部に対する課税権を所在地国から、売り上げが生じる市場国へと移すものだが、こうした改革案の適用する企業が限定されており、それほど多くの税収が関係国に配分されることにはならないようだ。さらに、今回の対象外とされた業界の中に、銀行が含まれており税収減の大きな要因になっていると指摘する。サンブー氏は「投資額や雇用規模、売上高をそれぞれどう重視し、それらを基に多国籍企業が各国でどれだけ納税すべきかをはじき出す方程式のようなものを編み出しても良かったはずだ」と問題提起している。

いずれにせよ、法人税改革の見直しが、これで終わってはならないわけで、よりよい改革に向けた最初の一歩にしなければならないと要望している。けだし、その通りだろう。グローバル化した経済の下で、各国の利害がうまくガバナンス出来る仕組みをどう作り上げていけるのか、極めて大きな課題と言えよう。

呉軍華日本総研上席理事のコラム記事に感じた中国問題の違和感

このマーティン・サンブー氏のコメントと同じ紙面(Opinion)で「エコノミスト360゜視点」という定期コラム欄に、呉軍華日本総合研究所上席理事が「米リベラル知識人の幻想と傲慢さ」というコラム記事を掲載されていた。中国出身で文化大革命を経験されて日本を中心に活躍されているエコノミストだけに、このコラムだけでなく、最近書かれたものにまで目を通してみた。ちょうど、前回の中国の問題について柯隆東京財団主席研究員が、比較的オーソドックスな観点から今の中国が、西洋的な自由と民主主義に問題があるだけに、経済の発展について悲観的な指摘をされていた。同じ中国出身で文化大革命を共に体験されていても、捉え方が大きく異なっていることにやや驚いたのが実感だ。

米国リベラル知識人の抱く中国共産党認識の幻想が問題の根源か?

呉軍華理事は、イデオロギー的に対立する中国にアメリカが寛容であることに驚かれ、その主たる要因として「米国知識人が西洋本位の発想で中国共産党を理解しようとしていること」にあるとみている。それは、1930年代から続いていた「中国共産党に対する改革政党という幻想」が、近年までの対中国関与政策を支えていたとみて、天安門事件がありながらも、中国経済の成長を支援すれば中国が民主化するという見立ても傲慢さの表れと厳しい。コラムの最後で次のように語っておられる。

「中国の台頭は、西洋本位の発想で世界は動いていないことを改めて示した。米国のリベラル知識人が自らの発想の限界を認識し、対中戦略の再構築を通して新たな米中関係を作り出せるのか、注意深く見守りたい。」

どうやら、呉軍華上席理事の立脚されている立場は「小さい政府」論であり、アメリカでは共和党サイドに近く、トランプ元大統領のSNSでの情報発信拒否やリベラル系のメディアに対する厳しい見方にも言及されている(「バイデン大統領の挑戦」『月刊資本市場』No426号2021.2cf)。

呉理事の4月のコラム、バイデン改革への批判は妥当なのか?!

日本経済新聞の同じコラム欄に今年4月30日、呉軍華上席理事は「米国の『大きな政府』への懸念」と題して寄稿されている。この中でバイデン政権が打ち出している総額2兆ドル規模の財政投資を盛り込んだ「インフラ投資法案」に関して、中国に打ち勝つことがその主たるポイントのようだが、この計画を進めれば「中国との競争において、米国優位がむしろ低下する」と発言している。それは、財源を法人税増税に求めているからで、米国からの企業離れを進め、中国との経済力の格差が一段と縮小しかねないからだと主張されている。

G20の法人税改革は、うまく行かないという見通しは間違いでは?!

その際、こうしたリスクに対抗すべく、イエレン長官がG20において法人税の最低税率設定に取り組むべきだ、と主張し始めたことを取り上げ、「この呼びかけに一部の先進国が呼応したとしても、G20の合意につながることは少なくとも当面は見込めない。中国が経済のグローバル化の波に乗って、台頭を成し遂げたのはこの『底辺への競争』をてこにしたからだ」と述べている。

呉軍華上席理事は、中国も参加しているG20の場でつい先ほど合意され、OECD中心に世界130カ国・地域にまで合意ができつつあることにどう評価されているのだろうか。前回書かれたコラム(今年4月30日)以降の世界の大きな転換は、まだ完全には終わっていないものの、呉軍華上席理事の見通しとは逆に、前進し始めているのではないだろうか。歴史の進歩が1歩1歩着実に進展しつつあるように思えるのだが、そういうリベラルな立場からの歴史認識には立てないのだろうか。

中国問題、加茂具樹慶大教授の「経済教室」論文が参考になった

最後に、中国の問題について大変参考になったのが、加茂具樹慶應義塾大学教授の書かれた日経新聞「経済教室」(6月28日)の「中国共産党100年(中)対外強硬、背後に『国内不安定』」という論文だった。

特に、「中国共産党の一党支配を読み解くキーワード」の中で、「総体国家安全観」が「2014年に周総書記が提起した国家の安全や国家の革新的利益にかかわる考え方。主権や領土の保全を意味する国土安全や軍事安全保障を意味する軍事安全よりも、共産党一党支配の護持を意味する政治安全を重視する」という点で、まさに共産党支配こそが全ての中国の制度の上に君臨する独裁体制であることを表した言葉であり、統治の正当性としての経済成長と、支配の正統性を社会主義イデオロギーから愛国主義重視に切り替え、今日までの一党支配を維持してきた背景を整理されている。

ここでもう一つの「キーワード」である「全過程民主」が出てくる。重要な課題に関わる立法や政策でも公聴会などを通じてパブリックコメントを実施する必要性を訴えているとのことだ。しかし、政策決定権は共産党が独占したままであり、それが社会の安定にどう結びつくのか、矛盾は残り続けると指摘する。

「成功した一党支配」という物語を内外にアッピールへ、背景には「自信」ではなく「警戒」があるのでは

これからの正当性と正統性をどう維持していくのか、高度経済成長と社会の長期的安定の同時実現という「2つの奇跡」と、コロナ対策の成果などの「成功した一党支配」という「物語(ナラティブ)」を、国内外にアッピールしていく自己主張の強くなった中国と向き合わなければならなくなっている現実がある。その自己主張の強さの背景は「自信」というよりも「警戒」にあるとみて、「一党支配の下で、この警戒を解くことは可能だろうか」と問題指摘で終わっている。実に、興味深い分析だったように思える。


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