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労福協 活動レポート

2021年7月19日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第202号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

菅内閣支持率20%台に凋落、総選挙は菅総理で自民は戦えるのか

菅内閣にとって、ショッキングな数字が出てきた。時事通信社が今月7~9日にかけて実施した世論調査(全国の18歳以上の男女2000人を対象に個別面接方式で実施、有効回収率は62.9%)の結果、菅内閣支持率が29.3%と前月に比べ3.8%も低下して、デッドラインと言われている20%台に落ち込んでしまったのである。不支持率は、5.6%増えて49.8%となりこれまでの最高を記録している。(ちなみに毎日新聞の電話による調査でも菅内閣の支持率は30%にまで落ち込んでいる)

菅内閣になって20%台は初めてだが、安倍政権時代にはちょうど今から4年前(都議会議員選挙で惨敗した2017年7月)、「加計学園問題」で揺れ動いて以来の低支持率である。この間、あれだけ自治体や企業などに発破をかけ続けてきたワクチン接種が、実はワクチン不足でした、というお粗末な対応によってブレーキがかかり、そこへ来て感染者数の拡大によって8日には第4回目となる緊急事態宣言を8月22日まで東京都に発令(沖縄は延長へ)し、酒類提供店に対する「圧力」問題も起こすなど、日常生活に制約が続く不満や五輪開催への懸念が支持率に大きく影響したことは間違いない。これで菅総理の下で衆議院選挙が勝てるのか、という不安が強まるものの、菅総理自身は強気の姿勢を崩していない。

ワクチン接種拡大、オリンピック円満開催、総選挙勝利のシナリオが狂い始めてきた

個別の政策についてみてみると、コロナウイルス感染拡大を巡る政府対応を「評価しない」が59.1%と前月に比べて4.0%増え、菅総理が「切り札」と位置付けたワクチン接種の進捗に関しては「遅い」が71.5%にまで達しており、菅政権のワクチン接種の対応のあまりにもひどい実態へのいら立ちが出ているようだ。総理の政治戦略として、ワクチン接種の拡大とオリンピックの成功によって支持率を高め、自民党総裁選挙を経ることなく解散・総選挙になだれ込んでいくというものだったことは間違いない。その最初の関門であるワクチン接種につまずいてしまったことは、感染者数の拡大と相まって政権側を相当程度追い詰めていることは想像に難くない。

これから始まるオリンピックにおける水際対策の不十分さも出始め、変異したインド型と言われるコロナ株は増え始め、東京都や神奈川県など1都3県の感染者数が第4波の水準を大きく超え、大阪府や北海道でも感染者数が急増し、第5波が確実に広がり始めたことは間違いない。こうした状況の下で、国民はオリンピック開催へと強行したことへの不安を募らせている。果たして、無観客での開催にこぎつけたものの、これからどうなっていくのか、東京オリンピックは「コロナに打ち勝った証」ではなく、「コロナ感染を拡大した証」として、後世の歴史に長く刻まれ続けていくのかもしれない。そういえば、安倍前総理は「復興五輪」を「アンダーコントロール」の下で高らかに宣言していたことを忘れてはなるまい。

もっとも一度始まってしまえば、国民の関心は日本を代表して戦うアスリートたちに向けられ、ワクチン接種で失敗した菅総理の最後の切り札としてのオリンピックのテレビ観戦に関心が移り、それまでのコロナ対策やワクチン接種の不手際など、菅内閣への不満や不信が吹っ飛んでしまうことを期待しているのかもしれない。国民は、それほどお人よしではないわけで、都議会議員選挙で見たように自民党を取り巻く状況は相当深刻である。

自民党支持低下は野党への支持増ではなく「支持政党なし」急増へ

一方、政党支持率を見ると、自民党が21.4%と前月比マイナス1.4%、公明党が2.5%と前月比マイナス1.2%と落ち込んではいるものの、立憲民主党は1.6%増えても4.5%でしかない。後の野党の支持率はすべて2%以下でしかなく、圧倒的に「支持政党なし」層が増え63.9%となっている。4月の国政選挙補欠選挙の三連敗に続いて、今月の東京都議選での敗北と続き、今回の世論調査での落ち込みは、今年秋までに必ず実施される総選挙に大きく影響してくる。菅内閣は存亡の瀬戸際まで追い込まれ、その焦りから出てくる高圧的な取り組みが、先にも述べた禁酒の徹底策の混乱と撤回にみられるように、ますます国民の不信や不満を拡大するものになっているように思えてならない。まさに、政権末期の様相を強めているようだ。

都議会議員選挙結果が示した小池都知事の存在感、政局の目に

問題は、6割を超す支持政党なしの最大の有権者層の動向であり、その行方を左右できるだけのインパクトのある人材と政策を結集することにかかってくる。前回の2017年総選挙直前にも、都議選挙で都民ファーストの会率いる小池都知事が「希望の党」への結集を呼びかけ、民進党が一度は合流するものの「排除発言」で頓挫し、自民党の勝利と民進党の大分裂となって今の状況に至ったことが思い出される。

今回の都議選挙で、都民ファーストの会が減ったとはいえ31議席を確保して第2党にとどまった要因が、またしても小池知事の力だったと評価(?)され、支持率低下に直面する自民党の一部に再びその動向が注目され始めている。一説には小池知事が国政復帰を狙っており、自民党の二階幹事長との友好関係が進められているとの噂や、玉木代表率いる国民民主党や日本維新の会との提携なども云々され始めている。

6割を超す「支持政党なし」層が投票行動に参加するかどうかが鍵

要は、都議会議員選挙の結果にみられるように、野党第1党でありながら立憲民主党に大きな支持の広がりを欠いているわけで、都民ファーストの会や国民民主党といった中道・保守よりの中間層の動きに注目が集まっているわけだ。政治の世界は「一寸先は闇」なのであり、どのように展開していくのだろうか。支持政党なしの6割の有権者が、投票行動に参加していくことになるのかどうか、すべてはそこにかかっているようだ。

ちょっと気になる動きとして、二階派に所属する河村健夫元官房長官の山口3区から、岸田派に属する林芳正元農水大臣が立候補を表明し、分裂選挙が必至となった事だ。小選挙区制になって、こうした選挙になること自体が珍しいことなのだが、総理大臣を目指す林芳正参議院議員にとって、今回が衆議院への鞍替えのチャンスと見たのだろうが、菅総理の指導力や支持率の落ち込みが続く自民党内の様々な動きがある中での、あえて分裂選挙を選択する決断がどのように政局に影響していくのか、個人的によく存じているリベラル色の強い政策通の政治家だけに、注目していきたい。

日本の「保守」と「リベラル」、政策のねじれと共に国民の嫌がる政策を避け続けてきた無責任な現実

総選挙において問わるべきなのは政党の政策だが、与野党における経済政策のねじれの問題が指摘され始めている。ちょっと古い記事だが日本経済新聞7月2日付電子版の「政界Zoom」欄で、「『保守・リベラル』混在 与野党の経済政策の何故」と題して米欧ほど保守系、リベラル系という路線ごとの色分けが明確でない日本の政党の姿勢について、御厨貴東大名誉教授と加藤淳子東大教授が投稿(もしかするとインタビューしたものを根本記者がまとめたのかも?)されている。

このなかで、アメリカでいうリベラルな政党たる民主党は「大きな政府」で所得再分配・福祉重視、代表的な政策として増税や規制強化を打ち出すが、保守政党たる共和党は「小さな政府」で市場経済重視、減税や規制緩和という違いに整理する。これに対して日本の保守である自民党は、最低賃金の引き上げを打ち出し、リベラル系の立憲民主党は「消費税の時限的引き下げ」を打ち出すなど、日米でその政策スタンスが真逆であることをわかりやすく図示している。

安倍前政権、経済政策として「賃上げの重要性」を理解していたのか

でも、本当にそうなのだろうか。たしかに、安倍第二次政権になって比較的労働者に対する賃上げや最低賃金の引き上げなどが、どれほどの迫力があったかどうかの評価は別にして、進められてきたことは確かである。もちろん、立憲民主党の支持基盤の最大勢力は連合であり、労働者の賃上げや最低賃金の引き上げに当然賛成だ。問題なのは、両方の政党はともに国民に税の負担を求めることはせずに、選挙で勝利できそうな公約を並べ続けてきたわけで、自民党が労働者の賃上げや最低賃金の引き上げを掲げてはいるが、どこまで本気になって取り組んでいるのかは疑問なしとはしない。

特に、経営側との利害が衝突する時に、どれだけ労働側の立場に立って解決に向けて努力していくのか、疑問ではある。ちなみに、経済政策を議論する政府の経済財政諮問会議の場で、労働界の委員はゼロ、政労使の三者会合は重視されていない。そうはいっても、保守政党でありながら労働者の要求に対応してきたことも事実であり、そこは欧米の保守政党との違いを見るべきだろう。

減税を率先して進める日本のリベラル政党は、リベラルではないことの無自覚すらない

一番の疑問は、リベラルな政党と自認している立憲民主党の政策ポジションであり、少なくとも総選挙での選挙協力のための時限的な「減税」を打ち出していることは誠にナンセンスであり、格差の解消を進めていくためには、むしろ増税を進めて再分配政策としての社会保障や教育の充実を進めていく必要がある。労働政策研修研究機構の浜口桂一郎氏は自身のブログの中で『賃上げ与党に減税野党』という構図になっていることのおかしさを指摘されているが、けだしその通りであろう。そういうおかしさに対する党内の反応が見られないのが、この党の異常さなのかもしれない。

もう一度「All For All」という言葉を思い出すべき時ではないか

良く、金持ちから増税してその財源で社会保障や教育に支出していくことが再分配政策として必要という主張が見受けられるのだが、むしろすべての国民から能力に応じて負担を求め、それを医療や介護・子育てや教育といったサービスに支出することで、分厚い中産階級を育てていくことの重要性が指摘されるべきだろう。富裕層中心に増税し、それを社会保障や教育財源にして低所得層に分配するなら、そういう社会保障や教育に対する富裕層の反感を強め、やがては国民皆保険制度が崩壊したり、教育の階層化の進展が進められ、結果として格差の縮小ができなくなってしまうことの危険性に目を向けるべきである。分断社会を招いては、国民の連帯でもって成り立つ社会保険制度が崩壊してしまうわけで、何としてもそれを阻止していかなければならない。かつて。井手英策慶応大学教授の提起した「オールフォアオール(すべてはみんなのために、みんなはすべてのために)」を立憲民主党は思い起こすべき時ではないだろうか。

国民皆医療保険制度の持つ重要性、国民結束の基盤を崩してはならない

日本において、医療が皆保険制度であることが、国民の団結をもたらしていることの重要性を見失ってはなるまい。もちろん制度の抱える問題点に対しては、手入れが必要であることは言うまでもない。今回高齢者の医療費の支出に関して所得によってサービスの価格に差をつけることになったが、保険料負担面では能力に応じて負担し、サービス給付面では必要に応じて給付するのが社会保険の原則であり、給付面で所得の多寡による負担の強化を求めることは、とどのつまり高額所得層の国民皆保険からの離脱を招く危険性が増大する。高額医療費制度の存在が、全ての国民にとって保険制度加入の大きなメリットがあることが大きいのだろう。それだけに、国民皆医療保険制度の崩壊だけは許してはならないと思う今日この頃ではある。


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