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労福協 活動レポート

2021年8月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第206号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

日本列島の災害列島化へ、新型コロナ蔓延拡大は菅政権の責任だ

オリンピックも終わり、お盆休みも終わった日本列島は、連日の集中豪雨と新型コロナウイルスの爆発的感染拡大に見舞われ、災害列島化しつつある。集中豪雨が政治家による災厄とは直接的には言えないものの、コロナ感染の爆発的拡大は、どう考えてもこの間のお粗末な政治による災害だったと言えないだろうか。オリンピックによる感染拡大は、大部分の競技会場での無観客開催やバブル方式による選手の隔離策といった便宜的な措置が取られたが、一番大事な点は開催することによる国民の間での「解放感」「高揚感」が齎したゆるみは無視することはできないと思う。

さらに、何度も何度も緊急事態宣言や蔓延防止策を繰り広げ、国民の間には厭戦気分すら漂い始めているように思えてならない。デルタ株という新しい種類は、猛烈な感染力を持つと同時に若い人たちにも容赦なく直撃するようで、ワクチン接種の効果もどの程度対応できるのか、多くの専門家から警鐘が鳴らされているようだ。

専門家委員会への自民党政治家による介入は目に余るものがある

そうしたなかで、毎日新聞(8月19日)によれば、6月初旬、ある自民党議員から厚生労働省の新型コロナ対策を助言する「アドバイザリーボード」の専門家メンバーの一人に「先生、提言に名前を連ねるのは、やめた方がいいですよ」「五輪の開催はもう決まっている。波風を立てないで欲しい」という電話があったことをスクープしている。時期は6月9日の党首討論の直前で、その直前にアドバイザリーボードがオリンピック開催に否定的な見解が打ち出せば野党側に攻撃材料を与えかねないわけで、提言を「影響が少ない時期に出して欲しい」とも述べたとのことだ。結果的に6月18日に提言がまとめられ、尾身会長らは「五輪開催の是非を判断する立場にはないが、感染拡大と医療への負荷のリスクを客観的に述べることが責務だ」という立場だった。こうした政治によるコロナ感染対策への政治介入は、氷山の一角だろうが、怒りと同時になんともやりきれなさを感じてしまう。

菅政権の支持率低下は続く、「説明しない」「説得しない」「責任を取らない」政治への批判が渦巻く

こうした専門家の直言を正しく受け止めていく政治の責任は、今度の選挙でも厳しく問われるべきことは言うまでもあるまい。菅政権の支持率がオリンピックを終えて以降も下がり続けている。朝日新聞の調査によれば、30%という生命線ともいえる大台を、政権発足以来初めて8月調査で割り込んだと報じている。いろいろなことがその要因として論じられているが、私が一番要領よく纏めておられるのが元外交官の田中均氏で、「3S」ということに尽きるのではないだろうか。3Sとは、「説明しない」「説得しない」「責任を取らない」の頭文字のローマ字からとったものである。田中氏も指摘している通り、こうした「3S」政治は、安倍政権以来継続されているわけで、日本の政治を劣化させ続けている。次の総選挙では、こうした政治が本当に国民から信頼されているのかどうか、と同時に逆に国民のレベルも試されているのだろう。諦めては絶対にダメだと思うのだが…。

注目した横浜市長選挙、山中氏の当選確実で政局は大きく転換か

自民党内では、次の総裁選挙に向けて高市早苗氏や下村博文氏らが、総裁選挙に名乗りを上げ始めていることは確かであるが、菅政権を変えようとする大きな潮流にまでは今のところ至っていない。高市氏などは安倍前総理に出馬の意思を事前に報告していたようで、もし容認という事なら、菅総理支持の安倍氏の立場とは矛盾しかねない不可解な動きでしかない。結果的には、22日に投開票された横浜市長選挙の結果が大きな転換のきっかけになるように思えてならない。現職の大臣の座をなげうった小此木八郎候補だが、現職林市長の立候補もあり保守側は分裂し、立憲民主党主導で野党が推薦した山中候補が当選確実となったとのことだ。菅総理が強力に推した小此木氏が敗れたわけで、横浜市政を事実上牛耳ってきた菅総理の責任は、厳しく問われることは間違いない。4月の国政補欠3選挙や東京都議会議員選挙の敗北に続く横浜市長選挙の結果、次の総選挙の前に「自民党内の菅おろし」に弾みがつくにちがいない。

政党支持率に大きな変化なし、総選挙後に「大連立」の声が出始める

問題は、政党支持率があまり変化していないことだし、自民党が30%台を維持し続けているほかは立憲民主党1ケタ台で、野党側が束になっても自民党支持率を上回れておらず、政権交代を実現するには程遠い。問題は、支持政党なしという半数近い有権者層がどう動くのかにかかっている。どう大きな支持政党なしの有権者を選挙行動へと駆り立てていけるのかどうか、政党の力が試されているのだろう。いろいろな政治評論が展開されている中で、「大連立」を呼びかける声が出始めているが、事はそう簡単なことではなく、はてさてどうなることやら。最新の共同通信の報道によれば、日本維新の会の馬場幹事長が民間のテレビ番組で与党入りの意向を持っていると語ったとのことだが、総選挙の結果がどうなるのかが鍵を握るのだろう。横浜市長選挙の結果が判明したわけで、先ずは今後の自民党内の動きに注目したい。

敦賀原発2号機の再稼働審査、規制委、再び書き替え等あり中断へ

10年前の東電福島第一原子力発電所の巨大事故以来、一度すべての原発を休止し再稼働を認めるかどうか、原子力規制委員会は新たな基準に基づく審査を進めてきた。8月18日の日本経済新聞の記事によれば、日本原子力発電による敦賀原子力発電所2号機(福井県)の地質データ書き換え問題を巡り、再稼働の前提となる安全審査を一時中断すると決めたと報じられている。書き替え問題だけでなく他の提出された資料にも問題があると判断し、資料の信頼性が確認され再発防止の目途が立つまでは審査しないとのことだ。

敦賀原発再稼働の問題は1年前にもデータの書き換え問題が露呈し、再度提出された資料が出されたことを受けて再審査していたものだったわけで、企業側の管理体制の不備も含めて更田委員長は「話にならない」と判断し審査の中断を決定している。

なぜこうした問題が繰り返されるのか、人材の劣化だと深刻だ

とんでもないスキャンダルがどうして頻繁に起きてくるのか、新井紀子国立情報学研究所教授のこの事件についての「別の視点」という電子版での投稿記事では、「東海村臨界事故、福島原発事故を経験した電力会社は、この20年間で就職偏差値が最も下がった業種の一つだろう。そもそも工学部で原子力を学ぶ学生が激減した。日本原電のデータ改ざんが、『特定の意図』に基づくものなのか、社員の読解力が下がっているせいなのか、見極めることは難しい。後者が原因であれば、国民にとっては、実は前者よりもずっと危険なことだろう」と指摘している。

ことは、原子力発電の安全性の是非を巡る大問題であり、電力業界はもちろん、主管官庁である経済産業省としても深刻な問題としてその原因究明に当たるべきことは当然のことだろう。もちろん、原発の継続の是非こそが本当の大問題であることは言うまでもない。

原子力行政所管の経産省、「東芝」問題に介入せざるを得ない現実

その肝心の経済産業省であるが、実は「東芝」問題にも直面しており、日本の原子力行政の在り方との関連で、大問題を抱えていることも見逃すことはできない。「東芝」の問題は、一民間大企業の問題にとどまるわけではなく、日立と並んで日本のエネルギー政策の根幹と考えている原子力発電所問題や、軍事産業にも関連した日本の将来問題に直結する主力部隊になっている。それゆえ、経済産業省として、どうしても東芝のガバナンスに介入せざるを得なくなっているとみる必要があるわけだ。

以下、私の旧知の友人である元公認会計士の細野祐二氏が主宰している最新の「第38回複式簿記研究会セミナー」において、「経済産業省はなぜ東芝にちょっかいを出すのか」と題する2時間余のユーチューブから、私なりに知りえた中身の一端と最新の『週刊東洋経済』(8月28日号)の「ニュース最前線」を読んでの感想である。

東芝は物言う株主に蹂躙され始め、経営基盤が再び深刻化の危機へ

歴代の経団連会長を生んできた産業界の名門「東芝」問題は、2015年に発覚した不正経理問題やアメリカの原発企業ウェスティング・ハウス社の買収と倒産による巨額の赤字を抱えるなど、一時債務超過になるまで悪化する。その際、立て直しに向けた増資に村上ファンドの流れをくむエフィッシモ・パートナーズをはじめとするアクティビストらが大量に株式を引き受けたわけで、こうした株主の意向で今年6月の株主総会では永山取締役会議長らの再任案が否決され、再び議長や新社長の人事などを決める臨時株主総会を年内にも開催する方向を打ち出そうとしている。綱川社長の思い通りの人事や経営方針などが決められるかどうか、エフィッシモなどのアクティビストとの間での厳しい対応にならざるを得なくなっているようだ。

エフィッシモ主導の調査委員会報告書、経産省・菅氏の暗躍を暴露

実は、それ以上に問題として指摘されているのが、昨年の株主総会の議決手続きの公正さを巡るエフィッシモらの主導による調査委員会の報告書が公表され、その中で経産省だけでなく当時の菅官房長官などが、エフィッシモ批判と受け取れる「密室での発言」も明記されていることだ。何しろ、エフィッシモらの選んだ調査に当たった弁護士たちは、東芝に関連したインターネット上のすべての記録をAI使ってとことん調べ上げたとのことだ。

東芝の経営を切り崩しかねないアクティビスト、原発死守を目指す経産省の危機感が高まる中での攻防激化

エフィッシモらのアクティビストたちは、東芝の利益を生み出している分野を切り売りして利益を出させようとしているのだが、そうなるとようやく経営が立て直りつつある東芝の経営基盤が再び崩れ、政府の進める原子力発電部門に依存する脱二酸化炭素に向けた国際公約であるグリーン戦略が成り立たなくなってしまうわけで、どうしても東芝のガバナンスに介入せざるを得なくなってきているのだろう。特に、新規原発の増設を進めなければ国の脱Co2戦略が成り立たないと同時に、技術者による原子力発電のノウハウが維持できなくなるという問題が生じてくる。経産省としてはどうしても東芝が原発事業を維持・継続して欲しいわけで、それこそなりふり構わずに介入せざるを得なくなっているのだ。もちろん、背景には原子力発電の新設も含めて不可欠であると経産省は考えているわけで、今はそれを前面に出さないだけのことなのだ。エフィッシモらのアクティビストたちと菅政権・経産省・東芝の抜き差しならない攻防の帰趨がどうなるのか、東芝問題から目が離せない。

原子力産業を目指す学生の質の劣化、経産官僚の腐敗の露呈、それこそが一番の問題では

それにしても、原子力分野を学ぼうとする学生の質の低下問題は、先ほどの敦賀原発の捏造問題で新井紀子教授が述べていたように、優秀な意欲のある学生が原子力産業に集まらなくなってきつつあるのではないかと思われるだけに、事態は深刻である。そういう経済産業省の若手の官僚が、今回のコロナによる国の補助金を詐取するなど、人材の劣化はかなり深刻なレベルにまで達している。日本社会の抱える深刻な問題を垣間見たような気がしてならない。政治家だけでなく、国の行政を担う高級官僚の劣化が進み始めていることに、どう改革していけるのか、しっかりと考えていくべき時ではないだろうか。


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