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労福協 活動レポート

2021年9月13日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第209号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

岸田・高市・河野候補の出馬確定、自民党総裁選挙の行方は!?

菅総理の自民党総裁選挙不出馬宣言に伴い、皮肉なもので、新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し始めている。他方で、日本列島は自民党総裁選挙の情報で溢れ返っている。岸田前政調会長に引き続き、高市前総務大臣が安倍元総理の支援を受ける形で8日に名乗りを上げ、翌9日には河野行革担当大臣が立候補を正式発表するに至っている。その他、石破元幹事長や野田聖子氏らは出馬する(できる)かどうか、流動的なようだ。果たして、これからどんな論戦が繰り広げられていくのか、総裁選に向けた政策が出そろい始めており、注目していきたいと思う。

「新自由主義からの転換」VS「和製サッチャー」の論戦はどうなる

私が関心を持った経済の分野でいえば、岸田候補は「新自由主義からの転換」を訴えていること、高市候補は「日本のサッチャー」を目指し、アベノミクスを継承していきたいと述べている事などが印象に残っている。河野大臣については、経済政策として特に印象に残っていないが、4日間にわたって麻生派会長の麻生財務大臣との話し合いを経てようやく了解が取られたようで、打ち出された政策は原発廃止や女系天皇の問題では、かなり角が取れたものになっている。麻生会長と河野大臣との間でどのような話し合いが行われたのか、残念ながら透明感に乏しい。

岸田派の小野寺元防衛大臣、経済の話の分かりやすさに軽い驚き!!

そうした中で、9日の夜10時からBS日テレで放映された「深層NEWS」の「総裁選情報&安保戦略」というテーマで、小野寺五典元防衛大臣と片山善博早稲田大学教授を招いての討論番組を見る機会があった。小野寺氏は元防衛大臣を経験されていたので、その関係での出演かと思ったのだが、実際には総裁選挙で岸田候補の側の立場(岸田派に所属)での出演とのことだった。感心したのは岸田候補が政策として打ち出している「新自由主義からの転換」について、小野寺氏が実に的確でわかりやすく、資本主義経済を需要サイドから改革していくべきことを説明していたことである。オーソドックスなケインズ経済学に立脚し基本に沿ったものだったと私自身は理解できた。

「3S政治」の一つ「国民に対する説明できる政治家」の必要性

かつての小野寺氏は経済通というより軍事オタクに近い、やや傲慢な感じを抱かせる政治家という印象を持っていただけに、冒頭キャスターから岸田総理が実現すれば、小野寺さんは官房長官ではないか、と言われていますね、というくだりを聞いたとき、最初はまさか、と思ったのだが、番組終了後は「これだけ解りやすく丁寧に説明できる力を持っているのなら、官房長官もありうるのでは」と思った次第である。今政治に求められている3Sの内、説明する事が非常に重要であると思うからに他ならない。

もう何年も前の小野寺代議士しか知らなかった者にとって、大きく変わられたのだろう。新自由主義の問題が世界的に格差社会をもたらし、中間層がやせ細り始めているわけで、経済をよくするためには中低所得層の方達に消費を拡大させていくための所得分配や再分配政策の必要性を強調されていた。

岸田派は宏池会を継承、枝野代表も宏池会に親近感を持っていた

こうした小野寺氏の話を聞いていた日テレ側の女性コメンテーターが、紙に書かれたフリップで「再分配政策の強化」=「社会民主主義」なのか、と問いただす場面があったのだが、小野寺氏は「社会民主主義」という言葉には一切言及することはなかった。自由民主党に所属する政治家にとって「社会」という言葉のついた「社会民主主義」には抵抗感・拒否感があるのだろうか。

なぜこんなことを気にしたかと言えば、彼が所属する岸田派=「宏池会」なのであり、かつて枝野幸男立憲民主党代表が、自分は「真っ当な保守」であり「宏池会」に近い立場だと主張されたことを思い出したからである。もっとも、今回石破氏とともに立候補した河野氏の所属する麻生派も、源流は「宏池会」に連なるわけだが、今回の総裁選挙では「派閥による結束」は相当緩んでおり、当選3回以下の、選挙基盤の弱い候補者が半数近くを占め、実際の投票行動においては、選挙で勝利できる新総裁は誰なのかという点が大きくものをいうのだろう。

片山善博教授、日本の財政問題を忘れてはいけないと指摘へ

当日のもう一人の出演者である片山善博教授は、そうした主張に対して、今の日本の政治上の大問題は財源の問題について誰も十分な問題提起がないことだ、と指摘されていた。再分配政策を重視していくためには、財源の問題が重要なわけで、小野寺氏も残念ながらその点への言及はなかった。GDPの2倍を超える名目1200兆円をはるかに超す財政赤字をどうするのか、自民党総裁選挙でどのように取り上げられていくのか、一つの注目点だと思う。野党側が消費税の引き下げを打ち出してきているだけに、2か月以内に必ずある総選挙での争点にも取り上げられていくべき点だろう。

果たして、サッチャーを目指そうと主張している高市候補と、サッチャーが変えようとしたケインズ経済政策に戻って「新自由主義からの転換」を前面に打ち出した岸田候補がどんな論戦を繰り広げていくのか、もう一人の有力候補となった河野候補の経済政策がどう絡んでくるのか、注目したい。

河野候補や岸田候補はそれぞれ支持基盤を拡大するためなのだろう、自分たちが過去主張してきたことをやや翻してきているのだが、女性である高市候補は、比較的自分の政治信条に大きなブレのない政策を展開しているように見える。今後、有力な3人の候補が最初の選挙で過半数を確保できるのかどうか、出来ない時誰が1位2位となって決選投票に持ち込まれるのか、国民の注目するところであろう。

石破茂元幹事長、なぜ決断が遅れているのか、出馬見送りか?

実は、もう一人の総裁候補と目され、自民党内だけでなく国民世論においても支持率が絶えずトップを争う石破茂元幹事長の動向も気になるところである。石破茂氏は、自民党内というより、政界の中でも稀有な存在ではないかと思えてならない。一般的には、先ほどの小野寺代議士のように「うまく国民に説明する」政治家は多いのだが、石破氏はもう一つの「3S」である「国民を説得しようとする」政治家だと思う。時々、その説得の対象事項が拡散したり、説得にかかる時間が間延びしたりして、この人は本当に政治家のリーダーなのだろうか、と思う時がある。

自民党の体質改革に失望、GDPより国民の幸福重視、コモン重視へ

今週号の『週刊東洋経済』のスペシャルリポートとして、「総裁選挙のキーマンを直撃 石破茂元幹事長」-コロナ、アフガン、中国―新時代の「有事」を語る―が掲載されている。かなり長文のインタビュー記事であり、インタビューアーは西村豪太編集長と福田恵介解説部コラムニストである。石破氏が今何を思っているのか、よくわかるリポートになっている。昨年の総裁選挙で敗北したことへのこだわりが強く後を引いているようだ。石破氏は自民党の体質を変えようとしたが、敗北したことによってそれができるのかどうか、今でも悩み続けている。コロナ対策では、有事の際の医療体制を整備するべきで、巨額の投資が必要な時は税を投入すべきことを強調される。何よりも驚いたのは、GDPよりも国民の幸せ実現を重視すべきことを指摘した後で、

「最近はやりの斎藤幸平さんの『人新世の『資本論』』から多分に影響を受けた。資本主義自体が格差や環境破壊を生み、人間の生活の質を結果的に下げてしまっているのであれば、今までの経済成長の概念で一人ひとりの幸せを実現することはできない。『コモン』(公共財)に着目した変革を考えていきたい」

と述べておられる。『コモン』すなわち「公共財」とは、医療・介護・教育・環境といった「社会的共通資本」なのであり、国が責任を持って国民に安心して公共財・制度からの恩典を受けられるように進めていかなければならないわけで、新自由主義とは真逆の考え方である。ここまで勉強している政治家は誠に稀有な存在であり、石破氏が絶望しつつある自民党内だけでものを考えていくべきではないのかもしれない。

「説得する政治家」石破氏、もっと大きな舞台で勝負すべき存在へ

今のコロナ危機だけでなく、日本の人口減少問題や財政赤字問題を含めて、まさに国難ともいうべき課題が山積している。与野党の垣根を超えた「大連立」政権の必要性が必ずや高まってくる時が迫っているだけに、石破茂氏が求められる時代は案外遠くない時期なのかもしれない。おそらく、今週中には総裁選挙へは「不出馬」とされるとみているが、どれだけ多くの仲間を結集していけるのか、理論家としての石破茂から本物の政治家としての石破茂へと大きく飛躍して欲しい。

年金問題が総選挙の争点ではないが、厚労省の改革案は問題だ

自民党総裁選挙が終われば総選挙、これからの政権をどの政党・政治家に託すのか問われてくる。かつて選挙と言えば、必ず大きな争点になっていたのが年金問題だった。今年の選挙ではあまり争点にならないのではないかと思っていたら、2004年改正以降導入された「マクロ経済スライド」により、基礎年金の目減りが大きく進みすぎ、厚生年金から国民年金へと財源を移す検討に入ったと報じられている。

かねてから現行年金制度の大きな問題点として、基礎年金(=国民年金)部分のマクロ経済スライドが大きく効きすぎて、その水準が低くなりすぎることが指摘されていたが、厚生年金と国民年金の間での財源調整で糊塗するとは全く姑息なやり方でしかない。ここはオーソドックスに、中小企業に働く国民年金に加入せざるを得ない労働者を厚生年金に加入させることや、国民年金部分の加入期間を40年から45年へと延長していくべきだろう。

小手先だけの改革は、年金制度の安定化には寄与しない

中小企業に働く労働者の厚生年金への加入は、5年前に企業規模501人以上へと拡大したとはいえ、わずか40万人増えたに過ぎない。企業規模にかかわらず総ての働く労働者(パートタイマーなど含む)を厚生年金加入にすれば、1050万人もの労働者が救済され、国民年金財政にゆとりができ、国民年金も改善でき、結果として厚生年金受給者にも良い結果を生む。中小企業の経営者の反対が強かったため残念ながら大きな改革ができなかったのだが、従業員に厚生年金保険料の支払いができるような経営実現に向け頑張って欲しい。

菅直人著『民主党政権 未完の日本改革』は、民主党年金改革案の持つ大問題から目を逸らしている

実は、最近発刊された菅直人元総理の『民主党政権 未完の日本改革』(ちくま新書2021年刊)を一読した。全体として、民主党政権は安倍前総理が言うように「悪夢」だったのではなく、マニフェストの達成率も70%台に達しており、及第点だと述べておられる。総選挙を前にもっと野党側に自信を持たせるべく、民主党時代はもっと評価されるべき点が多かったことを挙げておられる。

そのように評価できるかどうか、ちょっと甘すぎるとは思うのだが、「6.暮らしと働く人を守る―年金・医療・雇用の改革」の項で、年金改革について述べておられる。年金記録問題は前進したものの、年金制度の抜本的な改革には着手しただけにとどまった、と述べておられる。三党合意に至った事には触れておられるが、政権前から主張していた民主党の年金改革案が、その試算を密かに厚労省に計算させていた。その結果は、実現可能性や持続可能性に欠ける代物で、公表しない方針だったものの、マスコミにリークされ国会で追及を受け、大問題になったことには何も触れておられない。

過去の発言に「責任を取らない政治」から一刻も早く脱却を

年金問題についての民主党案について本当の総括をきちんとしないまま、民主党は解散し立憲民主党や国民民主党へと分かれていく。果たして、この厚生労働省の年金改革案が、選挙戦の中でどの様に取り上げられていくのだろうか。菅直人元総理の愛弟子である枝野代表が、過去の自分の年金改革問題でどのような発言し、今どのように考えておられるのか、もう一度、正しい年金改革の道筋に立ち返って欲しいものだ。野党側は、年金問題といった国民の老後生活を左右する大問題の解決策などをしっかりと議論し、かつての民主党時代の実現可能性や持続可能性のない年改革案ではなく、安心して任せられる足が地についた政策作りに努力して欲しいものだ。


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