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労福協 活動レポート

2021年9月27日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第211号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

コロナ禍、理由不明の感染者数低下、自民総裁選はだらだらと続く

自民党総裁選挙はコロナ禍の下、ネットを使った選挙活動などを展開しつつ29日の投開票日に向けて最後の訴えを進めているようだ。それにしても、2週間(実質は菅総理不出馬発言後の3週間)近くにわたる自民党という一政党の代表選挙が、延々と繰り広げられる様をほとんどのマスコミが多くの時間を割いて取り上げている様は、果たしてこれが民主主義を支える公平な政治報道なのか、まことに疑わしい。

だが、現実は淡々と進んでいるわけで、その間、何が功を奏したのか良く判らないままに新型コロナの新規感染者数は大きく落ち込み始め、30日には緊急事態宣言を発している19都道府県の全面解除すら検討されているようだ。本来ならば、なぜこのような新規感染者数が急激に落ち込み始めたのか、ワクチンの接種の効果がどの程度影響しているのか、そしてその持続性はどの程度続くのか、といった科学的な分析をしなければならないわけだが、経済の落ち込みをいかに早く救済していけるのかという切迫感に駆られた自民党は、解散・総選挙での勝利を目指して何でもありの無責任な政策を取ってくるに違いない。

もちろん、国民にとっては、一刻も早くコロナ禍のもとでの閉塞した巣ごもり状態から脱却したい、という願望は大変強いものがあることは事実である。ただ、再び第6波が訪れる危険性が大きいだけに、選挙での勝利最優先の自民党のなりふり構わない無責任な政策の乱発には、大いなる警鐘を乱打しておきたい。

日本が直面する経済政策はどうあるべきなのか、2つの論文に注目

そうした中で、今回注目したいのが経済政策である。二つの論文に注目した。

一つは、原真人朝日新聞編集委員のやや時間が経過してはいるが9月11日付『論座』論文で、題して「ポスト菅も逃れられないアベノミクスの呪縛」~官製株価とマイナス金利による「異常な均衡」を破る政治家は登場するか~であり、もう一つは小西美術工芸社社長デービッド・アトキンソン氏の『東洋経済オンライン』9月22日掲載の「次期総理に伝えたい『世界標準の財政政策』の正解」~ケチにも浪費にもならない「賢い投資」が常識~である。

原朝日新聞編集委員、アベノミクスの呪縛が自民党総裁選を支配

まず、原氏の主張は、自民党総裁選挙の中で安倍・菅政権下で進められた「放漫な財政・金融政策」について、通称アベノミクスと呼ばれる経済政策に4人の候補者がきちんとした対抗策を持っていないことを指摘し、またまた安倍政権待望論が出てきかねない雰囲気があることすら指摘する。それは、安倍元総理が再びアベノミクスを総裁選挙戦のさ中においても、政府が発行する国債は日銀が買い取ってくれれば政府の債務にはならない、と9年前の政権奪取時と変わらないトーンで勢いよく強調しているとのこと。原氏の主張する通り、まさに「現代の錬金術」の開陳である。

米欧中央銀行はテーパリングへ、日本は「G7の落ちこぼれ」か?

既に、日銀は400兆円以上の国債を買い取っており、政府はさらにコロナ下での赤字国債を発行し、日銀に買い取らせ続けている。何時になったらこうした金融緩和路線から脱却できるのか、この出口論議(テーパリング)は、インフレ率2%を大きく上回ったアメリカでは次期FOMC(連邦公開市場委員会)で、さらにEUにおいても始まろうとしているのに、日本においては日銀が2年で実現すると約束した消費者物価上昇率2%の達成など到底実現できず、出口戦略とは無縁のままである。スタートして8年、アベノミクスが目指した2%のインフレは実現できていないしグロスで見た経済成長率も目に見えて上昇することはなく、G7の中で落ちこぼれたままである。

「国債発行の逆進性」を指摘する専門家は少ない、ボデーブローだ

今まで抱えた国の財政赤字分は1000兆円をはるかに超し、GDPの200%を軽く突破し続けている。この付けは、中・長期的に、どんな形であれ最後は国民の負担として戻ってくるし、短期的にも国債を多く保有する側の富裕階層には国債費として毎年利息付きで最優先で返却され続け、増税がなければ、それだけ社会保障や教育といった国民生活に不可欠な分野が絶えず削られ続けていく。ここ何年間も見続けてきた光景ではなかったか。こうした「国債発行が逆進性を持つ」ことを指摘する専門家は少ない。借金しているのだから金持ちも貧乏人もないだろう、等と甘く見てはならないのだ。ボデーブローのように私たちの生活を直撃し続けているのだ。

「アベノミクス」への正面からの批判が消えた総裁選4候補

こうした安倍氏の発言の背後で、かつての「リフレ派」から「MMT派」へとポジショニングを切り替えつつ、その主張にはますます無責任の度を強めていると原氏はみている。

この流れを忠実に受け継いでいるのが、高市候補であり、「サナエノミクス」などと嘯いている始末だ。河野太郎候補とこの時点ではまだ候補にノミネートされていた石破氏のアベノミクスについての発言に触れ、両氏は2017年当時「アベノミクス」に批判的だった事実を指摘する。当時、自民党内に「反アベノミクス」を標榜する勉強会が誕生し、石破氏や野田聖子候補も参加していたとのことだ。河野氏は、安倍・菅政権で閣僚を担当したこともあり、アベノミクス批判を口にしなくなっている。残る、岸田候補はリフレ派でもMMT派でもないようだが、安倍氏からの支持を期待しているのだろう、格差是正の再分配政策は主張するものの、正面からのアベノミクス批判を聞いたことがない。

かくして、4人の候補からは、アベノミクスからの脱却に向けた力強い経済・財政政策の展開は期待できそうにもないし、安倍氏の影響力に忖度する雰囲気すら漂うのが現実だろう。アメリカやEUにおけるゼロ金利政策や奔放な財政拡大政策の終焉(出口戦略)が進み始めようとしているだけに、日本の次期総理大臣を目指す人たちの現実には「先進国からおちこぼれ始めた者の悲哀」が漂い始めているようだ。

アトキンソン氏の経済政策、サプライサイド経済学立脚を明言

では、野党はどう考えているのだろうか。そこに移る前に、もう一人のアトキンソン氏の論文に触れておきたい。

アトキンソン氏は、バブル崩壊後の日本の金融危機についてゴールドマンサックスのアナリストとして勇名をはせ、その後日本の文化財の修復などを手掛ける企業の社長をやりながら、日本経済に対する分析・提言を続けている。退陣表明した菅総理とも昵懇な間柄となり、今年の最低賃金の引き上げ額が28円となった事など、自分の提言(?)が生かされたことを引き合いに出している。ちなみに、最低賃金の引き上げについての提言には、大いに共鳴するところがあるし、この論文でも一部の警戒論者たちを論破している。

単純な財政支出の増加は、持続的経済成長に繋がるわけではない

問題は、財政支出であるが、従来の積極財政はGDPの持続的な成長にはつながっていないことを指摘する。財政出動で需要と供給のギャップを埋め合わせてきたものの、一時的には景気の回復はするが、持続することなく再び景気が低迷する。アトキンソンは、日本経済が完全雇用状態にあることや労働参加率が史上最高を記録していることを挙げ、財政支出を単純に増やせば経済は必ず回復することへ強い違和感を指摘する。

需要サイドではなく、サプライサイドに立脚には唖然とさせられた

こうした需要サイド重視からの政策ではなく、供給サイド重視へと変えるべきだとも指摘する。すなわち、法人税を下げたり、規制緩和や構造改革をすれば供給も需要も増加するという立場である。アトキンソン氏のこうした新自由主義の経済政策が求められているという主張、私自身の記憶では、恐らく初めてその立場に立脚していることを明確にしたとみているがすべての論文著書を精読しておらず、確証があるわけではない。

少子高齢化と人口減少のもたらす日本経済への影響は深刻である

その立場から、日本のデフレは供給側の要因が大きいと主張する。特に、過当競争と過剰供給について、日本の陥っている人口の減少という需要ショック・過剰供給の問題を指摘する。つまり、日本経済が少子・高齢化社会であることを軽視してはならないわけで、高齢化は消費する物とサービスの中身が大きく変わるうえ、一人当たりの消費額が減る傾向が強くなる。さらに、人口減少が起こす供給過剰を無視することはできないわけで、2060年までに日本人の人口はピークから3000万人減少すると予想され、日本人一人当たりの年間消費支出300万円を掛け合わせると90兆円の需要減となって日本経済を襲う。経済への縮小均衡はマイナスの乗数効果もありもっと大きくなるものと想定され、到底この90兆を政府が穴埋めすることはできないと、述べている。

経済政策は「成長分野」への集中投資すべきだとは言うのだが

かくして、これまでの財政出動の結果、日本経済は成長することなく現状維持でしかなかったことの背景にある人口動態・少子高齢化を踏まえ、これからの経済政策は「経済成長分野」に集中して投資すべきことを主張する。では、成長すべき分野とは何なのか、

具体的に上げている分野として、デジタル、グリーン、付加価値のより高い商品開発、イノベーションなどを上げ、そうした分野への投資を誘導するためには財政出動は必要不可欠、と述べている。このような主張は、これまでも歴代政府の成長戦略で述べていた項目ではなかったのか。それがうまく行かなかったのに、同じような項目であっても経済産業省の提起する「生産的政府支出」(PGS)につながる財政支出であれば、うまく行くという保障はどこにあるのだろうか。

過去の政府の成長戦略、ほとんど成果がなかったのでは、今度は??

今まで、アトキンソン氏の主張には比較的好意的にとらえてきたのだが、結果として経済産業省の提起する「経済産業政策の新機軸」に依拠しながら、そこでの結論として「単なる量的な景気刺激策ではなく、成長を促す分野や気候変動対策などへの効果的な財政支出(ワイズスペンディング、生産的政府支出(PGS)による成長戦略が、新たな経済・財政運営のルール)」として採用すべきことを主張しているに過ぎない。どうしたらイノベーションを起こせるのか、そこは誰も未だ明らかにできたことはなく、経産省は、何時の時代にも「成長」を追い求めて様々な提言を切り返すばかりで、なぜ成長戦略がうまく行かなかったのか、その検証なく今日に至っている。あたかも、アベノミクスが、次々と目先を変えながら、結局経済成長を実現できることなくスローガンの羅列の連続で進められてきたことの二番煎じになるのではないだろうか。

野党第1党「立憲民主党」の経済政策、総選挙に向けて分析したい

さて、野党第1党の経済政策であるが、アベノミクスを全面的に批判していることは間違いないのだが、「分配」を軸に分厚い中間層を実現させていくことへの違和感はない。だが、財源の問題になると消費税の5%引き下げや1000万円以下の所得税は廃止するといった、およそ財政や税財源の問題についての基本的な常識を持った者には「そんなことは不可能だ」としか言いようがない政策が羅列され始めている。自民党総裁選挙が終われば、いよいよ解散・総選挙、野党側の政策が国民の前に開陳され、その評価が下されるわけで、字数の関係もあり、日を改めて政策の検討を行うことにしたい。


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