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労福協 活動レポート

2021年10月4日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第212号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

自民党総裁選挙、岸田文雄氏の完勝、河野太郎氏はブーム起こせず

自民党総裁選挙の結果が判明し、1回目の投票で岸田文雄候補が256票で第1位、僅か1票差の255票で河野太郎候補が続き、高市早苗候補が議員票だけでは岸田候補に続く第2位と健闘し、もう一人の野田聖子候補も予想以上(失礼!)の63票を獲得したもののやや離されて4位となり、上位2名の決選投票では、岸田候補が257票で河野候補170票と、85票の大差をつけて圧勝した。

当初は、河野候補が党員票で大きく伸びて第一位になると予想されていただけに、第1回目から岸田候補が僅かに1票ではあったもののトップに躍り出た瞬間、岸田候補が勝利することは確定的となった。とりわけ1回目の議員票での河野候補の得票が、岸田氏だけでなく高市候補にも大きく離され、第3位でしかなかったことが決定的だったし、党員投票でも期待されたブームは起きず過半数の確保も出来なかった。

安倍・麻生・甘利氏らによる、岸田候補勝利に向けた万全の体制

河野候補がなぜ伸び悩んだのか、年金問題で見たように政策の提起内容のあまりにも粗雑さが目立ったことなど、いろいろと論評されているが、背後で総裁選挙全体を差配していた安倍元総理らの思惑通りに事が運んだことは間違いない。総裁選挙が始まる過程で、岸田陣営には安倍総理時代の総理秘書官を務めた元通産官僚今井尚哉氏が送り込まれ、麻生派の甘利税制調査会長も選対幹部として岸田陣営を取り仕切っていたわけで、安倍・麻生・甘利の3Aラインが岸田政権樹立に向けて、緊密に連携しながら運動してきたことはマスコミ報道の通りだろう。安倍氏は高市支持を前面に出しつつも岸田氏との連携を進めるという、実に巧妙かつ狡猾的なやり方が功を奏したことも指摘しておくべきだろう。

岸田文雄候補の安倍元総理への露骨な擦り寄り、宏池会の汚点では

岸田候補は立候補宣言(8月26日)後、菅総理の退陣表明や河野氏らの参戦で選挙の構図が変わる中で、森友学園の公文書改ざん問題では安倍・菅政権への配慮が目立つようになり、国民が納得するまで再調査に努力することは大事だと述べていたのに、後日再調査は考えていないとトーンダウンしたりしている。

経済政策においても、新自由主義からの転換を打ち出し、「成長と分配の好循環による日本型の資本主義を構築すべきだ」と唱え、格差是正や分配も重視する姿勢を示すが、具体的にはコロナ対策中心に「数十兆円規模の経済対策」のほかには特段語っておらず、アベノミクスをどう引き継ぎ、どこを転換するのかも不明なままである。さらに、これまで推進の立場だった選択的夫婦別姓は慎重姿勢に転じ、女系天皇は明快に否定し、敵基地攻撃能力の保有も「選択肢」と肯定的な姿勢を示している。宏池会は「軽武装で経済優先」という伝統的にリベラルでハト派と言われてきたが、今度の総裁選挙では安倍氏を筆頭とする自民党右派(保守派)への政策面での配慮が余りにも目立つ。

岸田総理・総裁の人事は、あまりにも露骨な3Aへの配慮が目立つ

こうした配慮は人事の面でますます明確に出てきており、安倍元総理や麻生副総理と密接に協議してきた甘利氏(麻生派)が党運営の要である幹事長に、保守派の政治家として名乗りを上げた高市氏(無派閥だが、安倍元総理が全面的な支援)が政調会長に早々と確定へ。更には、内閣の要となる官房長官も安倍氏の属する派閥「清和会」事務総長の岩下元文科大臣が就任するなど、新閣僚の全貌は未定だが、結果として安倍・麻生両氏らにここまで配慮するのかと思わざるを得ない処遇ぶりである。これまでの党人事や官房長官などの主要ポスト人事を見る限り、岸田派からは誰も選ばれておらず、これからの党や内閣をどう展開していけるのか、まことに前途多難を予想させてくれる。対立候補として敗れた河野氏は、広報宣伝局長という党三役とは言えない閑職に追いやられたことは象徴的な事と言えよう。二階前幹事長や菅総理は3Aの前に完敗したと見ていいのだろう。

見逃してはならない島田隆筆頭総理秘書官、前経産省事務次官だ

もう一つ見逃すことができないのが、総理大臣秘書官であり、筆頭秘書官として島田元経産省事務次官が就任する。安倍政権同様、岸田政権も経済産業省主導の経済政策、すなわち財界本位の経済政策が展開されるとみて間違いあるまい。

かくして、自民党総裁選挙が終わり、政局は解散・総選挙へと移る。既に、4日に内閣総理大臣の指名が行われ、直ちに組閣を終え8日に新総理の所信表明演説、翌週11日から衆参の代表質問へと移り、14日に解散・総選挙へと展開していくとのこと。新内閣に対する国民のご祝儀相場が続いている中で、その記憶がまだ残っている方が選挙に有利だということで、10月26日公示、11月7日投開票日が設定されるとのことだ。野党側が要求する、衆参の予算委員会での質疑は受け入れず、国会を開催して重要課題を審議しなければならない課題が山積しているにもかかわらず、まさに党利党略が罷り通ってしまうのだろう。

対抗する野党にとって、あまりにも与党側に有利になってしまう現在の議会制度の欠陥を、無念な思いで受け入れざるを得なくなっている現実に、憤懣やるかたない思いを感ずるのは自分だけではあるまい。

ドイツにおける総選挙、社民党第1党へ、長い連立政権協議の開始

話は変わるが、ドイツの総選挙が9月26日に終わり、ドイツ社会民主党SPDが25.7%の得票で第1党となり、メルケル率いるキリスト教民主・社会同盟CDU・CSUは僅差の24.1%に終わり、第1党の座から転落させられてしまった。果たしてどちらの政党が、緑の党や自由党との連立政権を形成できるのか、はたまた再びSPDとCDU・CSUが大連立を継続するのか混沌としている。政権をどの党が中心になって担うのかの問題は、政策の面でもそのすり合わせが必要になり、場合によっては、年内はおろか半年かかる長丁場の連立協議が続くとのことだ。

そんなに長く国政が停滞して大丈夫なのか、と思うのだが、新首相誕生まではメルケル氏が暫定的に首相を務めるようで、この間の連立協議もまた重要な政治過程となって国民の前で展開されるわけだ。日本において、自民党と公明党の連立政権協定がどう展開されたのか、あまり関心を持ってみられていないが、ドイツの場合は長丁場の協議が続くことで、政策面で透明度を持った政権選択が展開されていくようだ。

ドイツの首相不信任には「建設的不信任」制度があり、政治は安定

特に、連邦議会には首相に対する不信任ができることになっているが、「建設的不信任」制度があり、後任の首相を事前に選んでおかなければならず、それが成立しなければ不信任されないことになっている。かくして不信任が成立することは稀で、連邦国会議員(下院)の方も、4年間の任期を全うすることが前提になって議会での活動に邁進することになる。ナチスドイツの台頭を招いた反省から、よく考えられた議会制度を構築していることは間違いない。

日本でも「憲法51条」による解散だけを原則とすべきではないか

日本でも、現行憲法は本来的には第51条で内閣不信任案が通った場合、あるいは内閣信任決議が否決された場合に対抗要件として内閣総辞職、もしくは衆議院の解散・総選挙ができることが明記されている。新憲法制定後の最初の衆議院の解散・総選挙では、わざわざ野党側に不信任案を提出させて解散にもっていったことを忘れるべきではあるまい。もう一度、総理大臣の解散権について、憲法にのっとったルールを確立すべきだろう。

任期満了の総選挙を前に、今回の様に総理大臣の交代・党内での総理大臣候補の選挙を長々と実施することは、民主主義のルールとして問題があり是正していくべきだろう。その点で、参議院の選挙は6年に1回、半数ずつの改選なので3年に一度の選挙時期が確定している。参議院選挙だけは自らの有利な時期に設定することはできないわけで、衆議院においても、原則として4年間の任期を全うすべきと考えるがどうだろう。現行憲法下においても、解散権を規定している第51条だけを素直に適用すれば、そのことは可能である。

コロナ新規感染者数の激減と総裁選イベント効果で総選挙自民有利

こうした自民党の総裁選挙というイベントを利用して政党支持率が一気に10%以上も上昇したとの報道に接する。それに加えて、今まで菅内閣の支持率の低下をもたらしていたのは、新型コロナウイルス感染者の拡大とそれに対する医療体制の不備などに大きく起因していたわけで、菅前総理が総裁選挙の出馬を断念したころから、新規感染者数が大きく減少し始めてきた。10月1日から19都道府県に適用されていた緊急事態宣言は、一気に解消され徐々に平常へと戻り始めている。それだけに、自民党への支持率の低下の大きな要因となっていた新型コロナ感染問題が沈静化すれば、総裁選挙のイベント効果と相まって直近に迫った総選挙での勝敗の帰趨は自民党に有利に進むことが予想される。

野党は「政策」「人材」「ガバナンス力」を向上させ、国民の支持を

問題は野党側の動きであり、菅政権の下で自民党支持率の低下が続く中で、有利に総選挙を戦う前提が狂ってしまい、一転して「逆風下の選挙」となってしまったわけだ。野党側の選挙に向けての候補者調整も進み始めているようだが、国民の中の圧倒的多数派である「支持政党なし」層にまで野党側への支持を高めて行けるのかどうか、大きなカギを握っている。これから1か月、どう政局が展開していくのか、注目し続けていきたい。


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