2021年12月27日
独言居士の戯言(第224号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
「毎日新聞」・社会調査研究センター実施の最新世論調査に注目!!
岸田政権の支持率が上昇し、54%と過半数へ
最新の毎日新聞に掲載された政党支持率に驚かされた。岸田内閣の支持率が、初めての予算委員会質疑答弁が終わった12月18日の調査で、11月の48%から54%へと6ポイント増えていたのだ。一般に、総理就任後の初めての予算委員会では、野党側からの前政権時代から継続した厳しい質問を浴び、たいていは支持率を落とすものと言われていたのだが、何と6%という少なくない上昇で過半数を大きく上回るに至っているのだ。それほど内閣支持率に直結するめぼしいやり取りがあったとは思えないものの、安倍・菅政権時代とは打って変わって「聞く耳を持った」比較的丁寧な答弁も一つの要因なのかもしれない。
それよりもおそらく最大の要因は、安倍・菅政権時代に政権を失う要因となったコロナの感染拡大が、よく理由が解明できないうちに「スーッと」終息しかかってしまったからだろう。岸田氏はは、実にタイミングが良かったわけで、それを逃さなかったことが、その後総理への道を獲得できたわけだ。同じ時期の朝日新聞の調査でも、支持率の上昇が見て取れる。ただし、NHKの調査(10~12日)では53%から50%へと3ポイント下がっているが、調査時期や調査方法の違いもあるのだろう。
私が毎日新聞と社会調査研究センターが一緒に実施している調査に注目するのは、調査を主導されている松本正生埼玉大学名誉教授が進めている「新しい調査方法」を取り入れている事であり、その調査は、今回の総選挙の予測においても朝日新聞と共にほぼ正確に結果を捉えていたからである。
維新の支持率が22%と急上昇へ、自民と立憲の支持率が低下
内閣支持率以上に注目したのが、政党支持率である。岸田政権の支持率のアップと反比例するかのように自民党支持率は32%から27%へと5ポイント低下、また代表選挙を終えたばかりの立憲民主党も12%から11%へとわずか1ポイントの低下だったが、維新が16%から22%へと6ポイントも上昇していたのだ(ちなみに、維新は10月8%)。この自民・立民・維新三党の11月分と12月分の比較を年代別に見た結果が次の図である。この図に対する社会調査研究センターのコメントは次のように書かれている。
「自民、立民、維新の3政党の支持構造を比較した〔図〕を参照してください。11月には離れていた自民と維新の支持率ですが、12月にはかなり接近したことがわかります。わけても、30代から60代までの実年層において、支持率が拮抗していることが注目されます。互いに重なり合う自民党と日本維新の会の支持者たち、そして、その合計が有権者の約5割を占めるというこの状況は、日本政治の今後の展開にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか」
図表 自民、立民、維新3政党の年代別支持率の比較(11月から12月へ)
このままの推移からすれば、来年の参議院選挙の行方がどうなるのか、野党第1党の立民にとっては、なかなか厳しいものがある。なぜ維新支持が増加しているのか、大阪を拠点にしてきた維新の政治的立ち位置は、新自由主義では自民の上を行くだけに、自民支持に飽き足らない層の維新支持への転換が起き始めていないか、などと妄想する。
維新の指摘した「文書交通立法滞在費」問題や、細田衆院議長の党利党略ともいえる選挙区割り問題の暴言を鋭く指摘
もっとも、今回の12月の調査では、国会議員の「文書・交通・立法調査・滞在費」月額100万円支出に最初の問題提起をしたのが維新だったわけで、国民からすれば、そんな領収書も要らないで年間1200万円が、歳費以外にわれわれの税金から支出されていることを初めて知ったことのインパクトが相当に大きかったのかもしれない。
さらに、私が注目しているのは、国勢調査の結果が出て衆議院の選挙区の区割りの変更が、今までのやり方であるアダムス方式では「10増10減」となることに対して、何と細田衆議院議長が「3増3減」にするよう自民党関係者に伝えたという報道が出たことだろう。さっそく維新の馬場共同代表が「こんな党利党略があってはならない」と厳しい批判の論陣を真っ先に発言したことであろう。
細田議長発言は「不信任に値する」暴言、玉木国民代表も低レベル
周知のように、衆参の議長・副議長は原則として衆参国会議院の総意で選出されており、不偏不党を貫くこととされている。それだけに、自民党の、しかも身内中の身内である安倍元総理の選挙区にも直結する区割り問題に対して、有利になるような発言をすることは、議長不信任に値する暴挙なのだ。それだけに、維新の発言は的確であり、国民の立場からしても正論である。野党第1党の立憲民主党から細田衆議院議長発言に対する批判のコメントは、長妻氏がやや遅れて批判をした記事を日経紙で見たが、遅きに失していると言えよう。なんと、国民民主党の玉木代表は、一応は批判的だが、大都市部が有利になって地方の声が反映しにくくなる、といった細田議長と同程度の擁護論をぶつなど、何を考えているのか、と言いたくなる。
こうして、日本の政治は来年7月に実施される参議院選挙へと進んでいくわけで、これからの各政党支持率の動きに注目が集まる。果たして、日本維新の会の支持率の急上昇がこのまま進み、野党第1党の座を立憲民主党から支持率だけでなく議席数でも奪うことになるのか、来年前半の政局動向に注目が集まる。
この野党側の変動がどうなるのか、ということと並行しているのが、自民党内の動きだろう。マスコミ出身で帝京大学教授の軽部謙介氏が1月8日号の『週刊東洋経済』の定期コラム「フォーカス政治」欄で「マクロ政策にみる『政治の逆襲』」と題して自民党内の興味深い動きを伝えてくれている。このコラム自身は、かつては利用され、軽くあしらわれていた政治家たちが、官僚や日銀への逆襲を始めていることに主眼があり、それがうまく行くかどうか疑問を提起されている。
自民党内で進む亀裂、「財政拡大論」VS「財政再建論」の行方
私が注目したのは、自民党内にできた2つの財政問題に対する異なった視点の会議体で、一つは「財政政策検討本部」で、現代貨幣理論(MMT)に親和的な西田昌司参議員議員が本部長に就き、政調会長高市早苗氏や安倍元首相らが参加する。財政拡大論者が、ここまでまとまって声を大きくなったことはないとのことだ。他方で財政再建派は、岸田総裁直属の「財政健全化推進本部」を立ち上げ、本部長に額賀福志郎元財務相、最高顧問には麻生太郎前財務相が就任してスタートしている。この二つの財政政策に対する立ち位置の違いは明確であるが、これが今後の政局の展開にどう影響していくのか、実に重要なことに思えてならない。
維新は自民党内の亀裂にどう割り込もうとするのだろうか、改憲か
この自民党内の分断線に維新が加わる時、どちらの陣営に維新は与するのだろうか。維新の立ち位置である、行政改革による「小さい政府」といった路線とMMTに親和的な財政支出拡大路線がうまくかみ合うとも思えないのだが、憲法観などでは安倍・高市陣営と維新が親和的に見えてならない。経済・財政政策と安全保障・防衛政策における「ねじれ状態」がどのように政局として絡み合っていくのか、2022年の政局をしっかりと見つめていく必要がありそうだ。
『生活経済研究所』の所報『生活経済政策』300号の山本論文に注目
こんなことを書き綴っていたら、一般社団法人「生活経済政策研究所」発刊の月刊誌『生活経済政策』の記念すべき第300号が送られてきた。何と特集として「2021年衆議院総選挙の総括と課題」とある。さっそく読んでみると、山本明宏神戸市外国語大学准教授の書かれた「明確な対立軸と争点の活性化が求められている」という論文が実に面白い。山本准教授は、私にとって初めて読む論文だ。
立憲民主党と日本維新の会についての、面白い問題指摘と課題提起
立民(立憲民主党の略語)の選挙共闘路線がうまく行かなかったのは、立民側が協力の不徹底にあったことと、選挙の争点がについて「ただ整然と並んでいるだけで、有権者の最大公約数的に届く争点にはならなかった」ことを指摘。経済政策として「アベノミクス」批判を仕掛けるものの、「新しい資本主義」を示唆して争点化を避けられ、いわゆる「モリカケ」「桜を見る会」問題は、自民党の「時間軸作戦」に押し切られてしまったと指摘。11月の代表選挙は「人材不足を露呈するだけの話題にかけるもの」でしかなかったと手厳しい。中道路線に軸足を置いたとしても、自民党の中道路線との違いが見えなくなって埋没しかねないことを指摘されていて、その指摘にほぼ同感する。
維新の今回の躍進「2000年代小泉改革ブームの関西版」の再現か!?
それよりも、維新との野党同士の論戦を通じて争点を作り上げ、それを与党側との争点にすることを提唱しているが、ちょっと抽象的でわかりにくい。一番興味深かったのは「維新」の躍進についての指摘である。「一言でいえば、2000年代の小泉改革ブームの関西版」と捉えている。「わかりやすい争点を作って有権者の耳目を集めるというスタイル」「毀誉褒貶のある解りやすい対立軸を作ることに成功し続けている」ことは、先ほどの「文書通信交通滞在費」問題などが典型例だろう。山本准教授は、維新と並んで「れいわ新選組」にも注目する。私自身は。左右のポピュリズムというとらえ方をしているが、それは「生産的とは思えない」とのことだ。この辺りは、今後どんな展開になるのか、注目点なのだろう。
野党は、もっと「争点提示能力」の向上を、現状は維新がリード
最後に、今の若者たちの意識も含めた多くの無党派層について触れ、現代日本社会において「批判という営みが否定されている」ことを指摘し、「『批判の否認』は、保守層のみならず、「現状のこのやり方でやるしかないのだ、だから批判(否定)するな」という切迫感として若年層をも取り込んでいるように思える。政治家も言論人も、有効な相互批判を公共空間で提示できていない」、つまり「争点提示能力」を向上させることが必要なのであり、野党第一党の「立憲民主党」よりも「維新」の方がその点で一枚も二枚も上であるという指摘は、立憲民主党が受け止めるべき点なのだろう。
今年の初夢はどんな夢を見るのだろうか、よいお年をお迎え下さい
もっとも、自民党内の「リベラル」に近い政治勢力と「野党におけるリベラルを志す勢力」が、大きな政局の転換時における「大連立」「大連合」を目指すことも視野に入るのかもしれない。先ほどの財政に対する二つの分断線の存在は、今後の政権政党のアキレス腱になりつつあるからだ。おそらく、それは「新年の夢」なのかもしれない。「正夢」なのか「消えてしまう夢」なのか、私だけの「儚い夢」なのだろうか。