2022年1月24日
独言居士の戯言(第228号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
国会論戦始まる、岸田総理は問題先送りし「安全運転モード」へ
17日から始まった通常国会は、岸田総理の施政方針演説に対する各党の代表質問が衆参本会議場で3日間実施された。一方的な質問とあらかじめ用意された答弁を繰り返すことばかりで、あまり論争が盛り上がることが少ないだけに、テレビ放映にもかかわらず出席する国会議員も、ついつい居眠りすることがあるほど低調なことが多い。特に、コロナ感染の下で各党の出席議員が、合意のうえで少なく制限されているだけに、与野党の番外での激しいヤジの応酬が見られず、論戦の盛り上がりに欠けてしまいがちだ。
特に、今回のトップバッターを務めた泉立憲民主党代表の質問が、政策提案型が多くを占めていたことと、答弁する岸田総理が問いただされている問題について「今後の検討課題」を連発し先送りを決め込んだため、論点が深まらなかったことが大きく作用したようだ。おそらく岸田政権側は、参議院選挙での勝利が政権安定にとって不可欠になっているだけに、安全運転に終始させたと見た。特に、岸田内閣の支持率が、マスコミ実施の世論調査で、政権発足後から上昇(最新の毎日は横ばい)し始めているだけに、コロナ感染がオミクロン株によって急速に拡大し始めたことも加わり、国会での野党側をあまり刺激しない安全運転モードに入ったのだろう。
小川政調会長質問、政権批判を前面に論戦、一時的に盛り上がりへ
果たして、今週24日から始まる衆議院の予算委員会での本格的な論戦の場で、コロナ感染病対策や統計不正問題といった当面する問題だけでなく、岸田総理が世界に先駆けて実現させたいと称している「新しい資本主義」の中身が何なのか、少子化や格差社会からの脱却に向けた政策の在り方も含めて厳しく問われていくことになるだろう。先送りに向け曖昧さに終始していれば、それが支持率低下の要因にもなるだけに、何時まで続けられるのか不透明だ。
すべての代表質問を見ていたわけではないが、一番盛り上がったのは小川淳也政調会長が「人口減や社会保障などの構造問題はほぼ手つかず、矛盾を先送りにしようとするのが、戦後この国をほとんど支配してきた自民党政治だ」と真っ向から批判を展開した時で、テレビの収音マイクからも自民党席からのヤジや野党側からの支援の音が高まっていた。聞いていて、小川淳也政調会長の方が力強さを感じさせ、やはり野党第1党には迫力ある政権批判が必要ではないか、と感じさせるのに十分なものであった。
今週から予算委員会質疑、「質問力」と「答弁力」の攻防に期待
これから総理出席のもと全大臣が揃う予算委員会が、NHKテレビ放映も入って展開されることになる。与野党攻防の下、激しい「質問力」と総理をはじめとする大臣の「答弁力」が試されることになる。いま日本が直面している深刻な問題に対して、是非とも根源に迫る政策の在り方を全面展開して欲しい。
大島理森前議長「10増10減」は予定通り実施を要望
政治周りの話として見逃せなかったのが、大島理森前衆議院議長の「10増10減予定通りに」という「毎日メトロポリタンアカデミー」での話だろう。21日に豊島区のホテルメトロポリタンで開催された中で、「選挙区や定数が変わり、立候補者もその地域もつらいかもしれない。しかし一度立法府が出した結論を変えようとするならば、もっと大きな大義が必要だ」と「10増10減」を予定通り実施するよう述べたと毎日新聞で報じられている。新議長である細田博之氏の、党利党略的とも受け止められかねない「3増3減」発言があっただけに、大島前議長の「いま変えるというのは国民の信頼を得られない」という指摘は実に重い。新旧議長の発言の中身を比較した時、政治家としての民主主義観におけるレベルの違いを感じさせてくれる。
井手英策慶応教授、立憲の公約づくりへの参加をどう考えるべきか
もう一つ、同じ毎日新聞掲載のベタ記事「立憲が参院選公約作成へ」が目に入ってきた。泉健太代表が21日の記者会見で夏の参議院選挙での公約づくりを進めるため、有識者を入れた「持続可能な社会ビジョン創造委員会」を発足させると発表したとある。首相の「成長と分配の好循環」に対抗して独自の分配策を提示する見通しで、28日に第1回の会合を開き、4月をめどに参議院選挙の公約の柱となる主要政策も示すとのことだ。
ここまでの記事であれば、それほど注目しなかったのだが、「有識者は、井手英策慶応大教授ら研究者やNPO関係者などを予定している」と書かれていたことが目にとまった。かつて、井手教授は前原民進党時代にかなり政策面でのアドバイザーとして深くコミットされていた時代があり、その時これ以上政治の現場との関係は終わりにしたいと述べておられたことを思い出す。今の野党側の政策の不十分性は言うまでもないわけで、もう一度立憲民主党の政策作りでの支援活動自体は重要なことで、決して非難されるべきことではない。ただ、もう一度政治の現場に近い場面への復帰がなされるとすれば、過去の発言との関係でどういう変化があったのか、是非とも聞いてみたい気がする。
「連合」の参議院選挙方針提示、立憲や国民との支持明記せず
連合の参議院選挙に向けた方針が提起され、波紋を投げかけている。1月5日に開催された連合の新春恒例の会合において、自民党の総理大臣として久しぶりに出席した岸田首相には挨拶をさせても、友党であると思われた泉立憲民主党代表や玉木国民民主党代表には、会場に出席していながら挨拶もさせず紹介だけにとどめられるという、連合関係者にしてみれば考えられないような出来事があった。背景には、昨年の総選挙において、立憲民主党が共産党を含む選挙協力を実施したことに芳野新会長が激しく批判してきたわけで、その関係での不満がなせる業なのだろうと思っていた。ただ、今年の参議院選挙に向けて組織内候補が立憲と国民からそれぞれ党公認で9名立候補を予定しているだけに、連合がいろいろと政策面での折り合いをつけても最終的には支持し、協力していく方針になるのだろうと想定していた。
このままいけば参院選32の1人区での苦戦は免れないのだが・・・
ところが、報道によれば、支持政党が明記されず「人物本位・候補者本位で臨む」方針とのこと、野党関係者とりわけ立憲民主党関係者にとって唖然とさせられたのではないだろうか。この方針でいけば、参議院選挙32ある1人区をどう野党結集していけるのか、なかなか勝利への展望を切り開くことが困難になってくる。ただでさえ、野党第1党の立憲民主党支持率が低下し、最近では維新の後塵を拝している(最新の毎日新聞調査では、維新18%、立憲9%)わけで、野党側が候補を一人に絞らなければとても勝利の展望は開けない。それを事実上困難にしてしまいかねない連合方針が提起されたことは、連合傘下組合の幹部にとって本当にそれで行くのかどうか、2月に予定された機関決定する会議までに悩ましい論議が展開されていくことだろう。
連合傘下の組織内候補を擁立している産別、どう戦いを進めるのか
なによりも、維新より支持率低下が進む立憲民主党にとって、こうした動きにどう対処していくのか、深刻な問題として受け止められているに違いない。このままでは、連合としての結集ではなく、産別ごとに昔の旧総評系・同盟系に分かれた政治闘争が展開され、分裂の危機に近づいてしまうのではないかと思えてならない。民間はもちろんのこと、かつての旧総評系労組の主力をなしていた官公労でも、組織人数の落ち込みと共に結束力の低下が進んでおり、どう戦いを進めて行けば良いのか、困難な局面に直面している。
連合は、団結が進むのか、それとも分裂が進むのか、重大な岐路だ
労働組合が労働者の賃金や権利の引き上げに向かって一致結束していかなければならない時、どうしてこんな展開になってしまうのか。連合としては組織が立憲と国民に「分裂することを防ごうとしての苦肉の策」なのかもしれないが、逆に分裂を固定化させてしまうことになり、自民党側に「塩を送る」事になるのではないかと思えてならない。この間の芳野会長と自民党幹部との公然たる会合が、断続的に続いていることの意味をどう読み取って行けば良いのか、今後の政局に与える大きな出来事と思われ、よくよく考えてみるべき時ではないだろうか。ある情報によれば、芳野会長出身の安河内JAM会長は、自らのツイッターで、連合の参院選挙方針は誤報だと述べているとのことだ。いったいどうなっているのか、今後の状況の展開に注目したい。