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労福協 活動レポート

2022年1月31日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第229号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

「連合」機関誌『月刊連合』1.2月合併号の座談会には失望した

最近、何かと話題を呼んでいる「連合」には、月刊「連合」という月刊誌があり、つい先日、2022年1月2月合併号が自宅に送られてきた。その冒頭に「新春座談会」として、芳野友子会長(JAM)、松浦昭彦会長代行(UAゼンセン)、川本淳会長代行(自治労)、清水秀行事務局長(日教組)という昨年10月に選出された新三役揃い踏みで登場し「労働組合による未来づくり」について語っておられる。それぞれの役員が労働組合を志した原点や職場のジェンダー問題、更には職場での雇用や権利を守る取り組み、そしてオール連合としての取り組みの課題などについて6ページに亘って語っておられる。結論から言えば、4人の懇談を読んでも連合の未来はあまり展望が持てず、新しい時代に向けたワクワク感が感ぜられなかった。

連合新三役は、ポスト高度成長型で成熟期の労働運動をめざすべき

芳野新会長は、すでに各紙でインタビューの際に語っておられる「原点」、女性たちが職場(ジューキミシン)で「すぐ傷んで困るよね」と語っていた制服とリボンとベルトの貸与問題や育児休業制度の導入など、成果を上げたことをとりあげている。その他の3名のリーダーたちも、それぞれ組合運動に取り組んだ原点に触れておられるのだが、この4名中3名までが製造業ではないし、芳野会長も製造業とはいえ大企業出身とは言えないだろう。

それだけに、今までの連合労働運動(高度成長残影型)とは異なった新しい運動路線(ポスト高度成長・成熟型)が期待されていることは言うまでもない。IMFJC(国際金属労連日本協議会)に結集する自動車・鉄鋼・電機・造船重機といった高度成長をけん引してきた民間労組から、広義のサービス業労働者が7割近く占める時代へと労働組合も転換してきた。既に、民間大企業労組には賃上げを牽引していける力を喪失したことが、新しい連合役員体制にも反映しているわけで、これからの労働条件決定におけるサービス産業の結束こそが求められていると言えよう。サービス産業に占める人件費のウエイトは高く、サービス価格の引き上げ無くして賃金水準の上昇はない時代へと向かうべきなのだ。

ジェンダー問題や格差問題など、労働者の抱える課題解決の先頭に

少しわき道にそれたが、再び座談会に目を移したい。芳野会長が女性初の会長だけに、ジェンダーについての問題意識が前面に出ているのは当然と言えば当然のこととはいえ重要な点だろう。職場における男女の様々な格差の問題をどう解決していけるのか、労働組合リーダーの問題意識の果たす役割は大きい。さらに、組織の拡大をどう進めていくのか、非正規労働者をはじめ、同一労働同一賃金を目指すことにも触れていて、問題はどう実践に移していけるのかにかかっている。とくに、メンバーシップ型雇用という日本の雇用形態の特質の下で、どのように働き方の改革を進めていくのか、産業別(職種別)の連帯が企業別の利害によって抑圧されていることの是正がどのように進めていけるのか、最大の問題が抜け落ちているように思えてならない。

連合が直面している深刻な課題を避けた座談会になっているのでは

率直に言って、この連合の新三役の方達の議論を読んでいて、連合の直面している深刻な課題を取り上げ、どうしたら労働組合としての戦いを前進させていけるのか、心にすとんと落ちるものがないのだ。4人のトップリーダーたちが、今連合が置かれている課題、特に組織力の低下、賃上げの停滞、総じて労働組合の社会的影響力の落ち込みなどについて、どうしたらこれらの問題を解決していけるのかどうか、大いに議論を展開して欲しかったのだ。

なぜ、30年間も日本の労働者の賃金水準が停滞したままなのか

いよいよ「春闘」(もう死語となっているのかも)が始まったわけだが、バブル崩壊後30年以上にわたって日本の労働者の賃金水準は停滞したままであり、企業側の利益の増加と配当や自社株買いによる株主への還元、内部留保の増加がすすみ、労働分配率は落ち込んだままとなっている。なぜ、このような結果になっているのだろうか。労働者の賃上げは、当然のことながら経済の景気変動によって大きな影響を受けることは間違いない。インフレが高じてくれば、実質賃金を維持していくために賃上げは不可避だし、不況下での賃上げもなかなか厳しいことも確かだろう。

新自由主義の下、労使の力関係が転換し、労働側の力の低下が進む

ただ、30年間も続いている賃金水準の停滞は、単なる経済変動によってもたらされたものではないはずだ。最終的には、労使の力関係によって大きく左右されるはずであり、労働者側にとって今の日本経済は圧倒的に不利な状況に置かれてきているのだ。変動相場制へ移行して以降、グローバリゼーション一つとってみても、企業側から国内工場を廃止して海外に進出するという方針が、自分たちの雇用・生活にどんな影響をもたらすのか、企業別労働組合を基本としている日本の民間労働組合にとって明らかであろう。この30年間、いや、戦後の労働組合の歴史を考えてみた時、労働組合側は多くの場合敗北させられ続けてきたわけで、どのように労使の力関係を変えていけるのか、ことは日本経済をどんな経済政策で牽引していくべきなのか、にかかっていると思う。

アメリカやイギリスなど、1970年代後半からそれまでのケインズ政策による総需要拡大政策から、新自由主義へと経済政策思想が転換し、産業資本主義から金融資本主義へとヘゲモニーが転換し、労使の力関係でいえば労働側の力を減衰させて今日の状況に至っていることをきちんと見ておく必要があろう。ことは、日本だけではないのだ。

労働者の賃上げ無くして日本経済の安定なし、力関係の転換を

こうした背景を持つ労働組合の弱体化をどう克服し、労使の力関係を労働側の有利な体制に持っていけるのか、単に春の段階に一時的に賃上げができるかどうかというレベルの問題ではないはずだ。企業は誰のものか、というコーポレートガバナンスの在り方の問題であり、さらには新自由主義によって国家による働く者に有利に展開されていた資本側の規制(税制も含む)が緩和され続けてきたことによる労使の力関係の大転換こそがこれから改革すべき大問題となってくるわけだ。労働者の賃金水準が停滞していくことは、人口減少も相まって総需要の停滞となって経済の停滞を招いているわけで、労働側の賃金水準の引き上げ無くして経済の安定的な発展はないと言ってよいだろう。

世界的な新自由主義からの脱却、岸田政権「新しい資本主義」は??

果たして、今の連合幹部の方達の頭の中には、こうした世界的な新自由主義に対する批判から、国家が資本側に対する規制を再び強化していく時代を迎えつつあることへの思いがあるのだろうか。今連合に求められているのは、労使の力関係をどう変えていけるのか、新自由主義からの脱却を求める専門家の英知を集め、これからの日本の労働運動が勝ち取らなければならない政策・制度の具体化を全面展開していくべき時ではないかと思えてならない。バイデン政権は、すでにその道を歩み始めているのかもしれない。岸田政権は、バイデン政権に引き続いて「新しい資本主義」の道を提起しているのかもしれない。新自由主義からどんな「新しい資本主義」に向けて進んでいくべきなのか、労働側に求められているのはそんな道ではなかったのではないだろうか

「連合」は「新しい資本主義」に向けて、自分たちの政策を創る時だ

おそらく、連合の政治闘争は今後どうするのか、という問題が指摘されるに違いない。かつての、総評と社会党、同盟と民社党、さらには連合と民主党という形で一つのブロックを形成してきたわけだ。今、新しい芳野会長に至って、民主党の流れを汲む立憲民主党と国民民主党との間の支持協力関係が打ち出されないままに至っている。もし、これからの連合の求める新自由主義からの「新しい資本主義」への大転換が進み、労使の力関係を大きく労働側に有利に展開してくれる政治勢力を求めているのであれば、それは実に大きな歴史的な決断と考えていいのではないだろうか。

「第2臨調」の丸山康雄委員を支えた労働界、その経験に学べ

岸田政権の進める「新しい資本主義」の中身は曖昧なままでありその中身に魂を入れていけるかどうか、芳野会長は「新しい資本主義を実現する会議」の正式なメンバーであり、どんな内容を会議で打ち出して行けるのか、それこそ労働界が持てるすべての英知を持ち寄り、労使の力関係を変えていける総合的な力を発揮すべき時ではないだろうか。思い出すのは、かつて「第二臨調」が設置され、労働側(総評)から丸山康雄自治労委員長が委員として参加した時、当時の労働界は総力を挙げて丸山委員を支え続けてきた。是非とも、芳野会長を全面的に支えて日本のオピニオンを変えていけるだけの「新しい資本主義」の姿を描いて欲しいと思う。

新しい資本主義の下、労使の力関係を変える政策こそ政治の方向だ

その政策に照らして、支持していく政党・政治勢力を定めていく時に来ているのかもしれない。報道によれば、立憲民主党の参議院選挙に向けた公約づくりもスタートしたようだ。その中身は、岸田首相の「新しい資本主義」への対抗できる政策になるという。どんなものになるのか、並行して注目していきたい。


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