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労福協 活動レポート

2022年2月7日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第230号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

盛り上がりを欠く国会論戦、岸田内閣支持に陰りが出始めてきた

本格的な国会論戦が始まって3週間。型通りの衆参代表質問を経て衆議院予算委員会が始まり、全大臣出席の基本的質疑に引き続き、時々はNHKTV入りの集中審議が続く。特に国民の関心の集中するオミクロン株の感染拡大について、各党ともに参議院選挙を強く意識しながら質疑を進めている。安全運転に徹しているのか、岸田総理のメリハリの利かない答弁もあり、あまり論戦が深まっているようには思えない。

一番直近の内閣支持率(日経新聞1月28-30日調査)は、12月に比べて6%も低下(65%→59%)しているようだが、同時に問うた「政府の新型コロナ対策」に対して「評価する」比率が12月に比べて6%下落(61%→55%)したことと符節があっている。間違いなく、今後の政権の帰趨を左右するのも、安倍・菅政権同様「コロナ対策」如何にかかっていることは間違いない。何はともあれ人間の健康や命の問題こそ、いつも国民の最大の関心事項なのであり、自らの生活が脅かされない限り、普通の国民にとって政治問題への関心は弱くなる一方なのだ。それが「合理的無知」と言われる所以なのだろう。それを大きく揺さぶるような政治的争点にまで高めて行く力こそ、今野党側に必要なのだろう。

アメリカと対比した時、元気のない「新しい資本主義」の日本

私が一番注目したのは岸田総理の看板政策「新しい資本主義」とは何なのか、という点だが、「デジタル」「気候変動」「格差」「経済安全保障」「人への投資」など課題を次々と挙げ、それらを通じて「成長と分配の好循環」にもっていきたいと、これまで同様の基本的な考えを繰り返すばかりで中身に入らない。確かに、安倍・菅総理とは打って変わって「低姿勢」ではあるものの、質問者がイライラさせられることが多く、総じて答弁ぶりには及第点はつけられない。今春にも「新しい資本主義」のグランドデザインと実行計画をまとめる方針とのことだが、雇用や所得格差など新自由主義の弊害が露呈しているだけに、もっと突っ込んだ本格的な論戦が期待されるところではある。

とはいえ、攻め込んでいかなければならない野党側が、もう一つ自分たちの経済政策の理念と具体化を前面に展開すべきなのだろう。「答弁力」と「質問力」が十分にかみ合っていないとみている。アメリカバイデン政権の「高圧経済」=「大きな政府」による「ニューディール」を思い起こさせるようなダイナミックな動きを見るにつけ、日本の元気のなさが目について仕方がない。十倉経団連会長が、宇沢弘文名誉教授の「社会的共通資本」支持者である絶好のチャンスを、リベラル派は経済政策転換に向けて大いに頑張るべき時ではないだろうか。

清水真人日経新聞編集委員の記事、『与謝野組の残党』結集に注目

そうした中で、注目すべきは今後の社会保障改革(=再分配政策)の動きではないか、と思わせる記事に出会った。日経新聞の清水真人編集委員が、「官邸に社会保障改革の伏流 結集する『与謝野組の残党』」という『日経ヴェリタス』(1月30日付)の記事である。清水真人編集委員の記事には、社会保障・税一体改革の動きなど、実に丁寧に取材がされていて読み応えのある記事が多い。私にとっても思い出すことの多い分野を担当されているからかもしれない。

ここで登場するのは岸田官邸の影の司令塔である島田隆主席首相秘書官であり、経産省出身でありながら社会保障分野で取り上げられるのもなかなか興味深い。その島田秘書官を軸に山崎史郎内閣官房参与(厚労省出身で全世代型社会保障構築本部の総括事務局長に就任)、香取照幸上智大教授(厚労省出身で政府の社会保障有識者会議委員)、もう一人は宇波弘貴首相秘書官(財務省出身で厚労行政に精通)の4名について言及。

民主党政権時代に与謝野氏の入閣、社会保障・税一体改革の継続へ

民主党菅直人政権時代、まさかと思う仰天人事が断行されたことを記憶されているだろうか。元自民党の与謝野馨氏を内閣府特命担当大臣に引き抜いたとき、与謝野大臣から政務秘書官に任命されたのが島田首相秘書官だった。島田秘書官は、与謝野大臣の下で社会保障・税一体改革のとりまとめに当たった精鋭を、今度は岸田内閣の下で再結集させていることを取り上げている。与謝野氏は4回の入閣に当たって4回とも島田隆氏を秘書官に指名していたとのこと。それだけ信頼の厚い人材だったことがうかがわれる。

岸田内閣の影のキーマン、島田隆首席秘書官の進めた人事に注目

実は岸田政権が発足した際、島田首席秘書官が経産省事務次官から抜擢されたことを知り、安倍第2次政権時代の今井尚哉主席秘書官に引き続きまたしても経産省主導になるのかと内心嘆いたのは事実だ。ところが、その島田氏が『与謝野組の残党』を結集させ、岸田政権の社会保障改革においても与謝野大臣の社会保障・税一体改革の引いた道を継承させようとしている事には正直予想していなかっただけに、今後の展開に大いに期待していきたい。

というのも、総理大臣の秘書官を誰にするのか(特に首席秘書官)こそは、その政権が何をしたいのかということを表す鏡でもあり、岸田政権は社会保障を担当する厚生労働省からの秘書官は安倍政権同様ゼロであった。今や厚生労働行政は、国の財政に占める割合は最大で、税と社会保険料を合わせた社会保障支出額(赤字国債も含む)は優に100兆円を超し、所得再分配政策の要の役割を果たす極めて重要な分野であることは当然のことである。その直接な現業官庁たる厚生労働省から、総理秘書官が官邸に誰もいないことは極めて不自然なことは言うまでもあるまい。

厚労省出身の秘書官不在だが、OBの山崎史郎、香取照幸氏の抜擢へ、宇波秘書官は「付則104条」づくりの責任者

そう思っていた時、今年に入った1月5日、山崎史郎氏に内閣官房参与に任命し「全世代型社会保障構築本部」の総括事務局長という要職に据えたわけで、秘書官人事ではなかったものの厚労省OBのなかでもエース級の山崎氏や香取氏の存在が浮かび上がってくる。それと同時に、今回の総理秘書官人事では財務省から宇波氏と並んで中山光輝氏も登用されているが、宇波氏が厚労行政に精通している事だけでなく、2009年の与謝野財務大臣時代に、その後の消費税増税への引き上げを明記した「社会保障・税一体改革」の源流となる「所得税法等の一部を改正する法律」の「付則104条」を法律に書き込んだときの担当者であったという事実も指摘されている。

与謝野大臣との論戦で、自民党内に社会民主主義の潮流を明言

思えば、2009年の政権交代の直前、与謝野大臣と「付則104条」に明記されている社会保障のための財源としての消費増税論議を、参議院の財政金融委員会で行ったことを思い出す。その「付則104条」こそが、自民党政権(麻生政権)から民主党政権(菅、野田政権)、そして民主・自民・公明の三党合意となって消費税の10%への引き上げとなって結実する。その論戦の中で、自民党内には「社会民主主義の考え方をする勢力が存在する」ことを与謝野大臣との論戦の中で明言されたことが忘れられない。その考え方こそが、与謝野氏が厳しくその財源問題の無責任性を批判され続けてきた民主党政権時代に、まさかの経済財政政策担当大臣として入閣され、この問題を直接担当されたわけだ。

与謝野大臣実現の背景、山崎史郎主席秘書官の存在があったのでは

翻って、与謝野氏が菅直人総理の下で担当大臣に就任した時、当時の総理首席補佐官こそが山崎史郎氏だったわけで、ここから先は私の思い込みだが、この与謝野氏を大臣に抜擢する際には山崎史郎氏の強い推薦があったのではないかと想定している。

今、与謝野氏が亡くなられて数年が経とうとしているわけだが、再び「社会保障と税の一体改革」チームが始動し始めているわけで、『与謝野組の残党』によって、どのような花が開くのか大いに期待したいと思う。と同時に、『与謝野組の残党』は、官僚だけではなく、学者・専門家の中にもしっかりと生き残っていることを知るべきだろう。

日本における社会民主主義の底流は、こうした人たちの手によって生き永らえていることを知る今日この頃である。


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