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労福協 活動レポート

2022年2月14日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第231号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

自公連立政権の軋み、野党共闘の混迷、政局の行方は混沌へ

安倍・菅政権から岸田政権へと移行して早くも4か月近くを経過し、国会での安定過半数を維持しての順調なスタートを切ったと思われたのだが、オミクロン株の急速な感染拡大が収まらず、3回目のワクチン接種の遅れなども相まって内閣支持率にも陰りが出始めている。また、盤石と思われていた自公連立政権も、来るべき参議院選挙での選挙協力に軋みが出始めており、今後の政局の動きは夏の参議院選挙の攻防を軸にして激しく繰り広げられていくに違いない。

一方の野党側は、立憲民主党がまさかの衆議院選挙での敗北や、支持勢力の中核をなしている連合新会長の共産党との連携に対する批判もあり、野党共闘がどう展開していくのか、まったく展望が見いだせなくなりつつある。

『現代の理論』対談、山口二郎VS中北浩爾にみる野党政治の現実

そうした中で、最新の『現代の理論』(第29巻)誌上において、野党共闘の取りまとめ役として市民運動のリーダーの一人だった山口二郎法政大学教授と中北浩爾一橋大学教授の対談が繰り広げられている。題して「野党はポスト安倍・菅の新しい政治サイクルにどのように立ち向かうべきか」で、「深堀り対談―2021年秋総選挙の帰結と展望」が掲載されている。司会は「現代の理論」代表編集委員の住沢博紀氏である。(対談は後出WEBを参照して欲しい)

どんな総選挙の総括をし、来るべき参議院選挙をどのように展望していたのか、結論的な感想でいえば、山口教授の発言にはこれからの野党、とりわけ野党第1党の座が危うくなりかけている立憲民主党には悲観的であり、これまで進めてきたことに対する「自虐的(?)」な思いすら抱いておられるようだ。山口教授とは30年以上も前に、北大に赴任されて以降のお付き合いで、かつての社会党、民主党に対する思い入れが人一倍強い「社会民主主義に近いリベラルな政治学者」である。もしかすると「55年体制」時代の『戦後革新勢力』に近い立場を堅持し続けてこられた数少ない有力メンバーの一人かもしれない。

民主党政権の失敗に学ばないで次の政権交代はできるのか

私が一番この対談で問題だと感じたことは、2009年の民主党が総選挙で勝利して政権交代を実現させたことを、次の政権交代に向けてもう一度同じ政治ブロックで進める以外にないという結論を、中北教授に同意する形で支持されていることだ。なぜ民主党政権が失敗したのか、それが十分に生かされていないと思えてならない。私が問題にしてきた財源論(社会民主主義の根幹は「大きな政府」のはずだ)で、『政権を取ったらなんぼでも財源は出てくる』という主張をしていた小沢一郎氏の評価は依然として甘い。

経済が停滞し格差拡大が深刻化している日本において、社会民主主義政党として「大きい政府」による所得再分配政策を軸に据えなければならないわけで、山口教授だけでなく多くの野党政治家や支持者の中ではこうした観点が恐ろしく弱い。というのも、社会保障(教育も)の充実を図るための所得再分配を進めるためには、何よりも「実現可能性」と「持続可能性」を持った本格的な税財政改革が必要である。消費税という一見すると逆進性を持つために貧困層には相対的に厳しい税に見えるわけだが、その財源を社会保障に使うことを限定することにより貧困層の受けるメリットが高められるわけで、民主党の菅・野田政権時代にその引き上げを進めてきたことを無視して、今の野党勢力は政党の数合わせのために消費税減税を提起していることを座視するわけにはいかない。

日本における本物の社会民主主義政党はどこに存在していたのか

つまり、本物の社会民主主義が立憲民主党(かつての民主党内にも同様)の背骨に座っていないのだ。この点は、民主党時代においても、更には社会党時代(社会主義インターへ加盟していた)おいても、外交・安全保障においては「護憲」「非武装中立」といった自民党とは異なる立場を取ってきたわけだが、西欧社民政党と違って「社会保障の充実」にはそれほど政党のアイデンティティとして確立できていなかったのだ。前号で指摘したように、むしろ自民党内での故与謝野馨氏のように「社会民主主義」の流れを汲みながら、それを民主党政権においても継承させ、あの歴史的な三党合意の「社会保障税一体改革」の道に導いてきた事実の重さをかみしめるべきだと思う。

30年以上に及ぶ山口教授の思い、『戦後革新の墓碑銘』とは

その山口教授が、最後に次のように発言していることがすべてを物語っている。

「山口:私は過去30年間政治改革を追及してきたんですけども、その経験がこれから生きてくるかどうか少し疑問に思っています。今までの経験が生きてくるという気がしないのです。情報化社会にしても経済にしても非常に変わってきているのでこれから先は新しい世代によって問題を提起していくことになるのではないかという気もします」

この対談は、衆議院選挙の総括だけでなく今後の野党側の戦線の組み立て方など幅広く論じられていて、中北教授の的確な分析や問題提起などにも触れるべきなのだろうが、これまでの野党戦線を率いてこられた山口二郎教授に焦点を当ててみてきた。山口教授は、この対談相手の中北教授が取りまとめられた高木郁郎著『戦後革新の墓碑銘』(旬報社2021)を取り上げ、この言葉が「選挙後の自分の心境を考えると、今の私にも当てはまる気がします」と述べておられる。

もしかすると昨年10月総選挙は、新しい時代の幕開け選挙だったか

昨年10月の総選挙は、もしかすると戦後政治の大きな転換を齎したのではないかと思うだけに、『戦後革新の墓碑銘』が出版された事との偶然の一致に私自身やや驚いている。もちろん、『戦後革新』の担い手は、政党だけでなく労働組合でもあったわけで、総選挙直前の連合大会で、新会長に芳野友子氏が初の女性会長として就任し、それまでの連合・野党ブロックの在り方を大きく転換させていこうとする時期に当たっているのかもしれない。労働組合のナショナルセンターである連合が、日本の基幹産業である自動車や鉄鋼など、日本の高度成長を支えてきた民間大企業労組の影響力が大きく低下し始めたことをどう捉え、働く者の生活と権利の向上に向けた戦線をどう組み立てていくのか、こんごの注目点である。

労働組合と政治の新しい関係をどう構築できるのか、新時代へ

と同時に、立憲民主党の泉執行部にとって、当面する参議院選挙に向けてどのような政治的ポジション取りを取りうるのか、はたまた中長期的な政治展望を持つことが許されるのか、政治の大転換期に当たっていると思うだけに、なかなかしんどい作業が待ち受けているようだ。もちろん、労働組合は政党ではないわけで、労働者の労働条件や権利の拡充に向けて必要な戦いを進めていくのだろう。政党は、民主主義の下での政治闘争を通じて国民の多数の支持を得ながら、自らの公約を実現していくために全力を挙げていくことは言うまでもない。

引き続き、日本の政党政治の大きな転換をリードしていく気構えで、頑張ってほしいものだ。

『現代の理論』の対談記事は以下の通り
http://gendainoriron.jp/vol.29/feature/fukabori.php


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