ホーム > 労福協 活動レポート

労福協 活動レポート

2022年2月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第232号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

先進国は軒並み「高圧経済政策」へ、インフレに懸念しなければならない段階へ、
日本だけは蚊帳の外とは?!!

経済の基調が変化し始めている。先進国ではインフレという言葉が久しく効かれなくなっていたのに、アメリカやヨーロッパではインフレに対する警戒感が一気に高まり始めている。ちょうど1年前の2月、サマーズ元財務長官がバイデン政権の経済財政政策に対して、その規模がデフレギャップの解消レベルを大きく上回り、インフレの危険性を指摘したことが現実になってきたわけだ。バイデン政権の財務長官であるイエレン財務長官の持論である「高圧経済政策」が全面展開され、リーマンショックからコロナショックを経て、各国は金融緩和とともに財政政策を思い切って拡大させてきたことが大きく作用し始めている。結果として、デフレへの懸念が広がっていたのがウソのように、インフレが全面展開されてきたわけだ。

コストプッシュだけでなく、ディマンドプルも加わったインフレのようだ

物価上昇の背景には、供給サイドで石油や食料品など海外からの輸入価格高騰や、コロナ下での人手不足を背景にした賃金水準の引き上げに伴うコストプッシュ、さらにトランプ時代も含めたコロナ禍での生活支援や経済対策に伴う巨額の財政支出も加わり、今年に入って7%台の消費者物価の上昇が続いている。どうやらこのインフレは一時的なものではなく、長期化・構造化するのではないかと危惧され始めている。

アメリカ中間選挙に向けインフレ退治が急務、ECB・BOEも利上げへ

バイデン政権にとって、今年秋に控えた中間選挙を前にインフレをどう制御していけるのか、再任用されたFRBパウエル議長にとって、デフレ対策重視からインフレファイターとしての慌ただしい転換の動きが3月の金融政策決定会合から開始されるわけだ。もちろん、金利の上昇や株価の下落などすでにその影響が経済指標面に出始めている。市場の予測では、今年1年間の金融決定会合で2%近いFF金利の引き上げされるものと専門家は予想している。ECBにおいて、ラガルド総裁は政策金利の引き上げへと舵を切り始めており、イギリスBOEも昨年12月と今年2月、既に金利の引き上げを2回にわたって進めている。世界経済の大きな転換が進み始めたわけで、どんな背景があるのかしっかりと検討しておく必要があることは言うまでもあるまい。

日本だけ、何故インフレが進まないのか、金利上昇への不安が高まる

さて、日本はどうなのだろうか。物価については今年の政府見通しでも1%台そこそこだが、昨年4月の携帯電話料金の大幅値下げが物価引き下げに大きく影響(マイナス1.5%)しているため、今のところは数字としては高く出ていないが、ガソリン価格や食料品の値上げなど、国民生活に大きな影響を与えつつあることは間違いない。インフレとともに問題視され始めたのが金利の上昇であり、日銀もイールドカーブコントロールの要となる10年物国債の金利上昇を警戒し始めている。そうなると、問題は日本の抱えている1300兆円にも及ぶ国の借金に与える影響であり、内閣府の試算によれば金利が1%上昇で2030年には約5~6兆円を超す利払い費増になるとのことだ。果たして世界的に金利上昇が進む中で日本が何時まで蚊帳の外でいられるのか、警戒心は高まる。

MMT派の政治家台頭による日本の財政放漫化が危険すぎる現実

ここで、MMTという考え方が政治家の中に広がってきており、特に自民党内には安倍元総理や高市政調会長らが参加している「財政政策検討本部」なるものができている。一方で岸田総理も設立の会合にわざわざ駆け付けた「財政健全化推進本部」と、自民党内には二つの財政問題に対する検討会が併存している。MMTを信奉しているのは「財政検討本部」であり、自国通貨を発行している国では財政赤字を拡大しても、インフレを招かない限りいくらでも発行でき、デフォルトは起きない、という主張を繰り広げている。会長をしている西田昌司参議院議員などはNHKTV入り予算委員会で堂々と自説を繰り広げているので、お聞きになられた方も多いのではないだろうか。

早川英男東京財団研究員、MMT派の会合で正論を展開されている

この「財政政策検討本部」の会合に今年1月18日講師として呼ばれ、信用創造の仕組みについて報告されたのが早川英男氏であり、その報告内容が「東京財団」のレポート「MMT派の信用創造理解:その貢献と限界」で明らかにされている。早川氏は日本銀行出身の東京財団の主席研究員であり、この金融分野におけるエキスパートである。

詳しい解説はこの論文を読んでいただくことが一番なのだが、銀行による与信は「当座預金勘定」に書き込むことで実現でき、あらかじめ預金がなければ貸出ができないと考えるのは正しくない,とMMT派の主張をその限りでは支持され、金融(銀行)の信用創造の仕組みに言及。その点は企業への与信とともに、国の国債発行でも同じ仕組みであることを解りやすくバランスシートを使って説明されている。ただし、インフレが起きない限りいくらでも与信が可能ではなく、金利による量的な制約がある事にも言及されている。政治家が「国の財政もいくら借金を増やしても、自国建ての通貨を発行している限りデフォルトにならない」と主張している点にも、間違いであり無責任であることを指摘されている。

国の財政赤字と日銀の資産を相殺すれば、何の問題もないという暴論

早川氏はMMT派の問題提起に関連して、国の財政は日銀のバランスシートと一体として捉えれば、負債と資産が相殺され財政赤字の問題はなくなる、という主張についての誤りにも言及されている。常識的に考えて国の借金をいくら出しても日銀が買い取れば問題がなくなるという「魔法のような話」が成り立つわけがないことを指摘。つまり日銀に設置された金融機関の当座預金勘定に、日銀が国債を買い入れた金額が増えるだけで、リーマンショック以降にアメリカのFRBが開始した「買い上げた当座預金の大半には短期金利がつけられている」わけで、金利上昇に対して脆弱な構造を持つに至っているとのこと。日本が抱える時限爆弾として、何時金利上昇に火がつくのか、固唾を飲んで見守っているのが冷厳な実態だ。日本の政治家には、この早川論文を是非とも一読して欲しいものだ。

20日の朝日新聞朝刊のコラム欄「社説 余滴」でも大日向寛文記者がこの問題について的確な批判を加えており、日本の政治家が一刻も早く間違った「妄想」から脱却して欲しいと思う。

なぜ日本は財政赤字累積がインフレや金利の上昇へと進まないのか

それにしても、世界がインフレとともに金利上昇が進んでいるのに、先進国の中で一番国債を抱えている日本でなぜインフレが起きないのか、疑問を持つのが当然のことだろう。その点について、最近読んだ櫻川昌哉慶応大学教授の書かれた『バブルの経済理論』(2021年日本経済新聞出版刊)が真正面から分析されているようだ。ちなみに、この櫻川教授の本は昨年の日経・経済図書文化賞と週刊東洋経済「ベスト経済書・経営書2021」のいずれも第1位を獲得しておられ、400ページを超す大著である。日本の1980年代末から始まったバブル経済を分析され、東アジア、アメリカ、そして今では中国へと伝播していったダイナミックな動きと、バブル崩壊後の経済がデフレと流動性の罠に陥り、拡大化する財政と低い国債利回りが続いてきたことの分析を試みられている。

櫻川慶應大学教授の「低金利の経済学」は、ピケティ説と違うのでは?

特に、この中で印象的なのは、経済成長率(g)と長期金利(r)の関係で、有名なピケティ教授のgrと逆転していることが日本をはじめバブルを経験した先進国で共通にみられることを指摘されている。櫻川教授は「低金利の経済学」と位置づけ、その内実について詳細に分析されている。ピケティのg


活動レポート一覧»

ろうふくエール基金



連合北海道 (日本労働組合総連合会 北海道連合会)
北海道ろうきん
全労済
北海道住宅生協
北海道医療生活協同組合
中央労福協
中央労福協
北海道労働資料センター(雇用労政課)
北海道労働者福祉協議会道南ブロック