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労福協 活動レポート

2022年3月14日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第235号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

ロシアのウクライナ軍事侵攻について、その意味するものは何か

ロシアのウクライナ侵攻から早くも3週間近く経過している。首都キエフが包囲され始めたとはいえ、ウクライナの抵抗も粘り強く続いており、プーチン大統領の思惑通りに展開しているとは言えないようだ。先週末には、中東のシリアからの兵力を投入することを決めたようだが、ロシア国内での厭戦気分や反戦意識の高まりが西側の経済制裁措置による経済的な混乱によって進んでいるのかもしれない。特に、オルガルヒと言われる特権富裕層の間で、ウクライナ侵攻への批判が出ているとのことだ。西側の企業がロシアからの撤退を決めると、その撤退した企業資産の没収を決めるなど、西側諸国との対立を決定的なものにし始めている。これからの展開がどう推移するのか、世界は固唾を飲んで見守っているのが現実だろう。もちろん、一刻も早い侵攻中止を実現することが必要なのだが・・・。

『週刊エコノミスト』(3月15日号)特集、福富一橋大教授論文に注目

このロシアによるウクライナへの侵攻を受けてどんな問題がこれから起きてくるのか、様々な分野で検討され議論されている。毎日新聞社の週刊『エコノミスト』3月15日号で、緊急特集として「ロシア暴走が招く世界大動乱」が組まれ、それぞれの専門家の分析が提示されている。特に冒頭の二人の論文は大変力の入った労作で、今後の日本が直面する大きな問題点を示唆しているようだ。

一人は福富満久一橋大学教授の「ユーラシア2大国と『欧米』の新冷戦時代」であり、もう一人は水野和夫法政大学教授の「『共感』なき米国資本主義に挑んだ暴君プーチン」である。ここでは、福富論文によって今後の日本政治が直面するであろう問題を引き出してみたい。

福富教授は、問題を次のように整理されていると見た。

第一に、今回の侵攻は、ソ連崩壊後「リベラル自由主義」が主導してきた30年間の「平和」が終わりを告げ、国際社会が新しい時代(「新冷戦」)に入ったこと。もしこのままウクライナがロシアの手に落ちてしまえば、西側諸国、とりわけアメリカの威信は一層低下し、『自由や民主主義』に対する疑問が渦巻く。

第二に、核保有する大国が他国に軍事侵攻した場合、それを止める手立てがなく、国連安保理の役割や責務は完全に崩壊することとなる。この侵攻がデファクト・スタンダードとなり、大国の小国支配が許される「秩序無き弱肉強食の時代」へと進み、世界覇権を目指していた中国は、虎視眈々と影響力の拡大を狙うのではないか、と指摘されている。

ロシアのウクライナ侵攻の日本政治に与える影響はどうなるのか

こうした中で、日本の政治に与えるだろう影響について考えてみてみたい。

今回のロシアのウクライナ侵攻によって、国民は我が国の安全保障において新たな時代に突入したことを自覚し、「新しい安全保障を早急に構築する必要がある」こと、とりわけ「核兵器」の脅威にも直面させられたことにどう対応していくべきか、考え始めているのではないだろうか。中国が台湾侵攻することを考えて外交を組み立てる必要性も、習近平主席が三期目の体制へと移行するなかで十分にありうることとして考え始めているに違いない。日米同盟の下で、アメリカの核の傘で十分なのかどうか、すでに安倍元総理は核の共同管理問題を提起してきている。

日米同盟は機能するのか、核兵器攻撃使用はありうるのか

まだ、国政レベルでの与野党間での本格的な論争が展開されていないが、来るべき参議院選挙において、これからの日本の安全保障をどうしていくべきなのか、国民の関心はウクライナ侵攻によるロシアの脅威という現実を、連日の報道によって目の前に見せつけられただけに、否応なく高まってくると考えるべきだろう。核兵器の問題についても、持っているだけで、実際には使えない究極の兵器だと思っていたのに、いざとなれば稼働中の原発を攻撃したりする現実を見せつけられただけに、何時でもこの究極の兵器を暴発させかねない恐怖を感じさせてくれた。唯一の被爆国である日本国民の意識に大きな影響を与えたに違いない。(13日付毎日新聞で軍事アナリストの小川和久氏が「生物兵器口実に核使用も」というインタビュー記事にも注目してほしい)

参議院選挙での争点、リベラル勢力の落ち込みで一気に右傾化か

国会での予算委員会の審議の目途が、例年以上早くつきそうな中で、参議院選挙に向けての準備が本格化し始めている。国民民主党の予算案への賛成の波紋は野党の結束を大きく乱し始め、32ある一人区の戦いでの野党側の苦戦は免れない。2人区以上の複数区はもちろん、政党の支持率が大きく左右する比例区でもなかなか厳しい状況が予想される。特に、衆議院選挙で大きく議席を伸ばした維新の支持率が、立憲民主党の支持率を上回ることが多くなっている。

株式会社社会調査センター(毎日新聞社の世論調査も共同で実施している)の松本正生埼玉大学名誉教授の分析によれば(最新のユーチューブより)、先の総選挙以降の維新支持者の年齢別の構造と「支持政党なし」層が、働き盛りの年齢層で多くなっている点など実に相似しており、今や維新の政治的ポジションは与党と他の野党の中間にあって、自民・公明の与党に対抗できる位置になりつつあるとのことだ。と同時に、立憲民主党と日本共産党の支持構造がきわめて類似しており、60代以上の高年齢層で最も高くなっていて、選挙協力での相乗効果が上がらなくなっているとみておられる。やはり、従来のリベラル層が著しく高齢化層に特化し始め、広がりに欠けていることは間違いないようだ。今のままでは、次の参議院選挙でのリベラル勢力の議席増は期待できそうにもない。

国民の意識をどう掴めるか、平和・安全保障の更なるバージョンアップを

問題は、国民の多くを占める「支持政党なし」層が、今回のロシアによるウクライナ侵攻をどのように捉え、日本の政党に対してどのように反応するだろうか、という点である。どう考えても、今までのリベラルな考え方(憲法第9条や「非核三原則」をより重視していく立場)には「それではロシアや中国といった核大国には対抗できないのではないか」と考える支持者が増えてくることが十分に予想される。それだけに、どのような外交・安全保障政策を選挙戦で打ち出して行くのか、しっかりと考えていかなければ、この点からも支持層を広げていくことができなくなるとみている。

もちろん、福富教授は第二次世界大戦以降の時間軸で見た時、かつての米ソの冷戦時代が最も兵士と民間人の死者数が少なかったことに言及、米国が好き放題に振る舞う時代より米欧日の「西側」と「ユーラシア2大国」勢力による新冷戦時代の到来を冷静に受け入れる必要があることを指摘しておられる。その際、福富教授が最後に指摘しておられる次の点は、世界の偽らざる現実であることを深く認識しておく必要があると思う。

「ユーラシア2大国勢力の台頭は、『西側』に好きなようにやられてきた中東、中南米、アフリカ、アジアの多くの国に歓迎されるだろう。自由や民主主義は、『彼ら』だけのものであって、それ以外の者たちには何の恩恵もなかったからだ」

民主主義と資本主義の在り方の改革も、同時に進めていかなければならない現実

西側先進国であるアメリカやEU、そして日本も含めて、われわれが国の基本に置いてきた自由と民主主義という価値が、多くの途上国から本当に輝いたものとして受け止められるよう、政治だけでなく資本主義の在り方の改革を本格的に進めていく必要がありそうだ。

と同時に、今回のロシアのウクライナへの侵攻が結果的に失敗に終わらせることが極めて重要になるということなのであり、中国やロシアの専制主義的な統治体制への支持を拡大させてはならないことこそが今一番に求められている。そのためにできることは何なのか、それが問われているのだろう。

【捕捉 『フォーリンアフェアーズ』4月号掲載予定の先読み論文にも注目】

アメリカの国際情報専門誌『フォーリンアフェアーズ』2022年4月号に掲載予定のウクライナ侵攻関連論文が、ウエブサイトで3本読むことができる。その中のリアナ、フィックスというドイツ人歴史学者が書いた、「激変する欧州安全保障構造―ロシアのウクライナ支配がヨーロッパを変える」という論文にも注目させられた。まだウェブでしか読むことができないが、福富教授と同様とくにアメリカ・ヨーロッパの政治経済社会に与える深刻な影響について分析されている。印象に残った問題指摘を引用して、あまり得意ではない国際政治分野の本通信を終えたい。

「アメリカとその同盟国は、ウクライナにおけるロシアによる軍事行動の結果、新たなヨーロッパの安全保障秩序を構築するという課題に十分な準備ができていないことに気づくことになるだろう。欧米はロシアを過小評価してはならない。希望的観測に基づくストーリーに依存すべきではない」

NATOに対する警鐘であるが、北東アジアにおける日本の問題でもある。


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